1話 1日で2回も追放されるとかあり得ないでしょ。
声援がありましたら、更新いたします。
「ついに魔王城だな」
チームのリーダーにして、勇者であるカズヨシが……焚火を囲いながら、重々しく口を開いた。
私はこくりと頷いて、彼の目を見つめる。
「そうですね……まぁ正確には、このダンジョンを二つ超えねばなりませんけれども」
「いや、今そーいうのいーじゃないッスかー。イザベルさーん」
くすくすと笑うアリアがそう言って、パーティーメンバーが全員ドッと笑い出す。
彼女は冤罪をかけられて処刑されそうになっていた所、カズヨシが冤罪をかけていた領主を断罪して助け出した、ダークエルフの少女。
私も頼りにしている、このパーティーのシーフだ。
「でもでも、感慨深いです! わたし……カズヨシ様に拾っていただけなければ、きっと一生奴隷のままでしたから!」
獣人族の剣士、アリシアが涙ながらに頷く。
彼女は生まれながら奴隷として売られていたが、その素質をカズヨシが『鑑定』で見抜き、最初の仲間とした女の子。
カズヨシとツートップで前衛を務める、このパーティーの頼れるタンク職だ。
「それでもねぇ……私なんて研究してただけなのに、まさか歴史に名を刻むことになるなんてねぇ。……気が早かったかしらぁ?」
「いや、そんなこと無いさ。俺達はきっと、魔王を打ち倒せる」
とんがり帽子のアーシャが気だるげに言うと、カズヨシが笑顔でその言葉を肯定する。
彼女はこのパーティーの魔術師だが……とある事情でこの世に対して一切の興味を失っていたところを、カズヨシが『面白い物を見せてやる』と言って外に連れ出したのだ。
当初は実力に裏打ちされた傲慢さによってパーティー内に軋轢を生みだしていたが、今では決して欠かせない頼れるお姉さん魔導士だ。
「異世界から来たばかりで……右も左も分からなかった俺が、ここまで成長できたのは皆のおかげだ。ありがとう」
「リーダー……」
「カズヨシ様……」
「カズくん……」
カズヨシ、アリア、アリシア、アーシャは……通じ合ったように目を見合わせる。ちょっと決戦前で浮かれているのかな? と思った私は、コホンと咳払いしてから釘を刺す。
「カズヨシさん、でもちゃんと油断大敵ですよ? もし私がやられたら回復は出来ないんですから、ちゃんと今までのような無謀な突撃を繰り返さずですね……」
「あー……その件なんだが」
私のお説教の途中、カズヨシが手を挙げて話を打ち切ってきた。
そしてじろっと鋭い目で私を見ると、指をさしてくる。
「イザベル。確かに今まで、俺達はお前に助けてもらっていた。でもだな……いつもピンチになるのは、お前が敵にやられかけるからじゃないか?」
「へ?」
何を言っているのか分からず、キョトンとする。
しかしカズヨシはややイライラしたかのように、私に突きつけた指をさらに近づけてきた。
「俺達は回復に関しては、お前に頼りっきりだったのは否めない。それは間違いない。でもだな……お前に戦闘力が一切ない! それを庇わなければならないから、俺達がピンチに陥るんじゃないか!?」
「はっ!?」
いやちょっと待って欲しい。
私は修道服を翻しながら立ち上がり、胸に手を当てる。
「いやちょっ……あのっ!? カズヨシさん、貴方何言っているんですか!? 私が弱い!?」
「ああそうじゃないか! お前が弱くて、俺達が庇わなくちゃいけないから! 俺達が無用に怪我をして、お前の回復に頼る事になるんだ!」
「そんな! し、仕方ないじゃないですか! 私の回復魔術を全員にかけていては……そ、それに!」
「それにも何もあるか! ……それでもお前の回復魔術は貴重だし、特別な事情もあるから置いておいた! でも……でも! もう我慢の限界だ! いつもいつも、俺達が盛り上がっている時に水を差して」
えっ、なにそれ。
「どういう意味で……?」
「どういう意味も何もあるか! 俺達が良い雰囲気になった時に限って水を差すようなことを言ったり! 一線を越えようとした時に限って邪魔をしてきて!」
うんうん、と頷くほか三名。
……もしかして。
「私が、カズヨシさん達がイチャイチャする邪魔になっていると……?」
「ああそうだ! ……だがそれでも、俺のハニー達を危険に合わせるよりは良いと思って我慢してきた! でも、もうお前もいらないんだよ!」
そう言いながら、カズヨシは自分の剣で指を斬り落とした。
吹き出す鮮血。私は咄嗟に回復魔術を使おうとしたが――カズヨシはそれを手で制し、呪文を唱えた。
すると次の瞬間、ボコボコボコ! と断面が泡立ち、指が再生する。
「……何それ」
「ふん! この通り俺も回復魔術を覚えた! さぁ、出ていけイザベル! 俺はもう、お前に我慢する気はない! ちょっとくらい良い雰囲気になるかなと思っても、お前は一切俺になびかないし!」
「ええ……」
ちょっと待って欲しい。
いや確かに、水を差すようなことを言ったのは申し訳ないと思う。情事の邪魔をしたのもごめんなさいね、タイミングが悪かったみたいで。
そしてアンタになびかなかったのはごめんなさい。何度か口説いてくれてたものね。でも私、女の子が好きなのよ。男でも可愛ければ良いんだけど……男らしい顔をしているから。
でも、でも、でも……!
私、女神なんですけどぉ!?
アンタを転生させた、女神なんですけど!?
「わ、私を追放するなんて……!」
「とにかく! 俺はもう回復魔術も覚えた! これ以上、戦闘能力の低いお前を連れて行く理由はない! さぁ出て行ってくれ!」
とにかく強気のカズヨシ。
私が呆然としていると、アーシャ、アリア、アリシアも立ち上がってカズヨシの後ろへ行った。
まるで『出ていけ』と言わんばかりの視線に、私は少しだけ怯む。
「いやでも、私も使命が……」
「魔王なんか俺が倒すから別に良いだろう。――分かった、じゃあ俺達がここから離れよう。ついてくるなよ」
カズヨシはそう言うと、くるっと振り返ってその場を去って行ってしまった。
一人ぽつんと、敵地に取り残される私。私はわなわなと震えると……近くにあった木に思いっきり拳を打ち付けた。
「あ、あ、あのバカ転生者! なんでこうなるのよ……なんでこうなるのよ!?」
まるで意味が分からない。
カズヨシが転生してきた時、チートスキルを与えたのも、彼の旅路をずっと助けて来たのも私だ。
そして彼が「どうしても、ついてきて欲しい」と言うから……ワザワザ上司にお願いを出して、下界用のボディを自分で作って、それに乗り移って下界に降りて来たのだ。
だっていうのに、このタイミングで要らないですって……!?
「ああもう! あーもう、知らない! ったく、勝手に戦えばいいのよ! ……というか、こんなことだから神様なんかやりたくなかったのよ。死んでまでこの世界のために尽くせとか冗談じゃないわ」
生前は領地を立て直し、仲間と共に世界の危機を救ったこともある。不老不死に近い状態で国を見守っていたのだけれど、流石に世界の寿命には勝てず……そのまま天に召された。
本当ならそのまま消滅するはずだったのだけれど、神様からスカウトされて現在はこの世界担当の女神様の一人をやっている。
下っ端としていいように扱われる毎日だったが、なんだかんだ楽しくやっていた。
……カズヨシについてこいって言われるまでは。
「あー、仏心出してついてきてあげるんじゃなかった。……はぁ、魔王なんか倒せなくても知ったこっちゃないわよ。天界に帰るかしらね」
そう言いながら、私は天使の輪っかを取り出す。これを付けていれば、天界と通信がつながるのだ。
『プルルルル……プルルルル……』
コールするけれど、なかなかつながらない。
部下の天使が一人くらい出てくるかと思ったけれど、なかなかつながらない。
「おかしいわねぇ……まぁ待ってりゃそのうち……」
『あっ、イザベル様! すいません、ちょっと天界バタバタしちゃってて!』
やっと天界と繋がり、天使の声が聞こえてくる。
私の補佐天使の一人、カーリーだ。
「ああ、カーリー? ごめん、急で悪いんだけどそっち帰れるかしら。いやそれがね、私クビになっちゃったのよ」
『えっ、イザベル様もですか!?』
驚愕の声が聞こえてくる。
そりゃ驚くわよね。転生者の補佐に行った女神が、ラスダン二つ手前でクビになったんですもの。
「そーなのよ。あーごめん、ちょっと愚痴らせて。ほんともー、今回の転生者厄介にもほどがあったわ。こっちゃ向こうに請われてついて行ったのに、追い出されたのよ。つーか弱い弱いって……こっちゃ慣れない回復魔術でずーっとリジェネかけてたんだから、そりゃ機敏に動けないわよ。別にリジェネ解いても良いけど、そしたらたぶんアンタたち普通に二、三人死んでるからね? ホント、嫌になるわ」
『イザベル様までクビですか……なかなか世知辛いですねぇ』
「ほんっと、意味わかんないわ。というわけでそろそろ戻るための準備しておきたいんだけど……ん? あんた今私『まで』って言った? どういうこと?」
『あー、イザベル様。その、ちょっと言いにくいんですけど……』
もにょもにょと、歯に何か詰まったような言い方をするカーリー。
「……ど、どうしたの?」
『いえその……あのですね、神様議長のガブリエーラ様がいたじゃないですか。あの人が下界で子供を作ったことが問題になってまして……』
「あのオッサン、またそんなことやったの?」
古今東西、私が人間だった頃も……『神の子』が頑張る英雄譚はごまんとあった。
でもそれって神様目線で見ると、神様が下界の女に惚れて無責任にやることやって、結果産まれちゃった子がとんでもない業を背負わされてる……って感じなのよね。
だから昨今は、下界の子に手を出すのは基本的に禁止。もし子どもが出来たことがわかったら、生まれる前に天使に召し上げる事……という風に規定されている。
「……ねぇ、まさか」
『は、はい……。イザベル様が担当してる『マハトマ』にその子が産み落とされておりまして……そのため、その世界は『監視対象外世界』に……」
「うっそぉ……」
『監視対象外世界』とは、読んで字のごとく神様が今後一切監視しないということ。普通ならば世界が滅びに向かった際は、神様が何らかの形で手を出してそれを回避する。
昔であれば、それこそ神の子を遣わせる、神様の知識を授ける、強制的に人類を進化させるなどの方法がメジャーだった。今は他の世界から転生者や転移者を遣わせ、チートを授けてそいつに救ってもらうなどをしている。
しかし……監視しないとなると、それはつまり神様が管理を放棄したということであり……。
「じゃあちょっ、ちょっと待って!? だとしたら……だとしたら私! どうすりゃいいのよ! どうやって帰ればいいのよ!」
『死んで魂になれば……ですが自殺者は天界に来れませんし、監視放棄された世界で殺された人もやはり天界に来られません。だから恐らく、信心を集めて祀られれば聖人に列せられるので、戻って来れます』
……つまり、なんらかの宗教の教祖になって、人から崇められるような存在になれと。
そんなん無理でしょ……殆どそれ、天界から追放されたと同義じゃない……!
『……あのー、イザベル様の生前の肉体を送りますので、そちらに入ってください。……あのー、老衰で転生してからって手もありますけど』
「ありがとう、カーリー」
グッと拳を握ると、力が戻ってきているのを感じる。
ちゃんと私が(嫌だったけど)英雄をやっていた頃の力を戻してもらえたみたいね。
私はその辺にある木をぶん殴り、吹き飛ばす。
「まさか一日で二度も追放されると思っちゃいなかったわよ……!」
『あ、あの……イザベル様……?』
「こうなったら好き放題やってやるわ。『自重しない勇者(笑)』とかずっと思ってたけど、人間こんだけキレると自重なんて考えられなくなるわね!」
『……じゃあまぁ、お帰りをお待ちしておりますね。一応言っておきますけど、子どもは作らないようにお願いします』
カーリーがそう言うと同時に、スーッと天使の輪っかが消えていく。
これで完全に、天界との連絡手段がなくなった。
私は大きく息を吐いてから、空を見上げる。
「じゃあ手始めに……魔王城乗っ取って、国を作りますかね」
そうすれば信心集めも簡単になる。
落ちていた石を手に持ち――ぐしゃっ! と握りつぶした。
「私を追放した連中、全員に目にもの見せてやるわ!」
イザベル・アザレア。
前々職、領主兼英雄。
前職、女神。
現在――無職。
異世界にて、第三の人生が始まった。
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