7話 夜のイタズラ
……夜、体が温かい内に寝てしまおうと、ボクと晴楽さんは床についた。
どうやらこの世界は夜でも(昼ほどじゃないけど)明るいようで、遮光カーテンで部屋を暗くしてから眠ると言うちょっと変わったことをしていた。
それはそれとして……新しい環境、何故が性別の変わった身体、そして隣で寝てる可愛い少女、これだけの要素があって眠れるほどボクの神経は図太くなく、しっかり冴えている目を開けながらボクは毛布の中で時間が過ぎるのを待つしかなかった。
「うーん……本当になんでこんなことに……」
カーテンの隙間から差し込む淡い光をぼんやりと眺めながら、自分がなぜ今の状況になったのか考える。と言っても、ボクは自分のことを全く覚えていないし、この身体のことにも見当がつかない以上、なにを考えても意味をなさなかった。
ふと、寝返りをうつと晴楽さんの寝顔と向き合ってしまう。彼女の整った顔立ちは、目を閉じ寝息を立てている姿すら目を引く美しさがあった。
……気がついた時、ボクは彼女の前まで来てその顔をじっと見つめていた。
「……ハッ!?ボクはなにをしているんだ!?」
一人で動揺して騒ぐも、それに反応することもなく晴楽さんは眠ったままだ、そんな彼女の無防備な姿にボクはまた、思わず見惚れてしまう。
(そういえば、色々必要な知識は覚えているはずなのに、女性関係に関する知識だけはボクにない……多分元々の世界でもボクは女性との付き合いがなかったんだろうなぁ〜……)
トホホ……という声でもつけられそうなほど落ち込んでしまい、ボクは力無く天を仰ぐ。そしてその反動からか、頭の片隅にとんでもない発想が浮かんでしまった。
(で、でも、今なら触っても……いいよね……?だってもう女の子同士だって、晴楽さんも言ってたし……)
邪な考えと共に晴楽さんを再度眺める、ふと毛布の隙間から見える胸の谷間が視界に入り思わず喉を鳴らしてしまう。
「ちょ、ちょっとなら……だって先に手を出したのは晴楽さんだし……」
先ほど受けた辱めを思い出して自分を正当化しながらボクは手を伸ばす……幻嗅とでも言うのだろうか、体の距離が近づくにつれ、どこか甘い香りを彼女の体から感じる。
晴楽さんは「女の子からいい匂いって、そんなのちゃんとケアしてるからするだけよ、私達解明者はそんなのしてる余裕ないから、いい匂いなんてしないわよ」なんて言ってたけど、こんなに柔らかい肌を見てると、いい匂いがしてくるように感じる。
(あとちょっと、あとちょっとで……)
手を伸ばしもう少しで彼女の肌と触れ合える……そう思ってその時、突然彼女が小さく喘ぎながら体勢を変えて仰向けになる。
「ッ!!?!!」
ボクはびっくりしつつも声も出さずに飛び退き、そのまま大慌てで自分のベッドへと戻った。毛布に包まり自分の高鳴る心臓を抑え込むようにして体を丸める。
「…………いくじなし」
ふと、背中から声をかけられて恐る恐る振り返る。すると、晴楽さんがなんともいえない表情でオレンジの瞳をこちらへ向けていた。
「この程度で日和っちゃうような男なら、やっぱり警戒する必要ないみたいね」
「い、いつから起きていたんですか……」
「あなたが目の前に来た時から、私もある程度修羅場を経験してるから、気配が近づいてきたら目が覚めるの、あまりにも不用心に近づくからこれはあなただってすぐわかったけど」
「じゃあ、あの寝返りもボクをからかったんですね……」
「そうよ、だってこんなことでビビっちゃう童貞に、おいそれと触らせるほど私は安くないの、もっと堂々とできるようになってから触りにきなさい」
「むう……」
「さ、もう寝ましょ、明日はちょっとやってもらいたいことがあるからね」
晴楽さんに言われるまでもなく、ボクは不機嫌になりながら毛布にくるまって目を閉じた。すると、緊張が解けたからか、どっと疲れが押し寄せてきて睡魔がボクを深い眠りへと導いていった……。