5話 奇妙な領域の研究組合
「お、おう……公私をわきまえてますね……それじゃあこの世界ってなんなんですか?なんか色んな世界から色々呼び寄せてるって聞きましたが」
業務への姿勢に面食らいつつも、ボクは気になっていることを質問する。
「はい、この世界の名は『ストレンジフィールド』、世界と言いましたが全貌は未だはっきりとしておらず、どこかの世界の一部が空間異常を起こして生まれた説や、世界と呼べるほど空間が発達しておらず、領域レベルの空間があるだけといった説が黎明期に唱えられた為、異世界というより異空間という認識で『奇妙な領域』という名がつけられました」
「はあ……」
意気揚々と説明するランプリさんに、ボクは適当な相槌を打つことしかできない。正直に言うなら、名前の由来より先にこの世界がどういう所かを説明して欲しい。
「あ、すみませんこんな話じゃないですよね、ハハ……この世界は元々、外でご覧になったように荒野と淀んだ空、そして謎の紋様が刻まれた岩しかありませんでした」
頭を掻きながら、ランプリさんは申し訳なさそうに説明をし直す。
「あ、それは晴楽さんから聞きました。あれほんとだったんだ……」
「ウソをつくわけないでしょ」
ボクの小さく言った言葉に晴楽さんが言葉を返す、その声色は明らかに怒っていた。
(すごく小さく言ったのに、なんで分かったんだ……)
「そうですか、晴楽さんもある程度説明したのですね。ならば話は早い、この世界は本来そんな何も無い空間だったのですが、様々な性質を持ったあらゆる世界から人、物、場所、物質、概念が入ってきます、我々はそれらを『流されモノ』と呼んで利用しているのですが、実は我々自身も流されモノなのです。ここまで晴楽さんから聞きましたか?」
「はい、なんかここにある物やいる人たちって他の世界から来たって……どうしてそんなことに……?」
「残念ですが、その質問には答えられませんね。その答えを見つける為に、我々リサーチャーズギルドがあるんですよ」
そう言って、ランプリさんが静かに微笑みかけてきた。
「リサーチャーズギルドというのは、簡単に言うとこの世界で友好種族がある程度不便なく暮らせるよう統治し、この世界がどういうものか解明する為の研究機関です。解明者登録とその者達が持って帰ってきたグロブスタや文献などの調査物の買取、貨幣の発行や区域分けとコロニーの設置なども我々リサーチャーズギルドが行っているんですよ」
「は、はぁ……そうですか……」
「つまり、このすごい技術を持ってる人達がこの世界で一番偉いから、平和に過ごしたいなら従っておいた方がいいよって話よ」
専門用語の多い説明に面食らって生返事を返したら、後ろから晴楽さんがぼくの気持ちを汲み取ったのか、すごく単純に要約してくれた。
「晴楽、ちょっと言い方に棘があるね……でもそういう事だ、どう生きるにしてもギルドで新規の流入者として登録しといた方が色々勝手はいいと、僕は思うな」
「なるほど……ボクも何をすればいいのかなんて分かりませんし、とりあえずその登録をしときます」
「分かりました、ではあちらにあるターミナルパネルに向かい、新規登録の項目から登録をお願いします」
「やり方は私が教えてあげてるわ、さあこっちに来て」
晴楽さんが率先して歩き出しボクもそれについて行く、行き先にはATMみたいな人とほぼ同じサイズの機械が置いてあり、あれがターミナルパネルとかいうものだって事は一目瞭然だった。
「あれ?そういえばランプリさんはついてこないんですか?」
そう言ってボクが振り返ると、ランプリさんは笑顔で手を振っていた。
「だって、ガイドが充実してるから基本的に一人でも大丈夫だし」
「じゃあなんでギルドの人を一旦通したんです……?」
「正直私もよくわからないわ、一応担当がついてないとトラブルが起きた時対応できないとかじゃない?」
「ええ……」
そこまでの会話でターミナルの目の前に到着し、晴楽さんが手慣れた手つきでパネルを操作する。
「さ、それよりちゃっちゃっと登録するわよ、こんなのに時間使ってちゃもったいないわ」
「わわ!ちょっと早いですって!」
晴楽さんのマイペースを許さない早さになんとかついていきながら、ボクはこの世界の住人となるべく登録を始めた。