表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/38

二段 キーワードは和HOO!㊂

 さくやは鳥居を潜って境内の外に出た。

 その時、突然、強風が吹いた。さくやは咄嗟にミニスカートを押さえる。


 「きゃっ。……この風!?」


 春なのに嵐を呼ぶような冷たい風。おサキも異変を感じ、水晶から飛び出してきた。


 「くっ、この気配! もう次の悪霊が来るというのか!? やはり結界が弱まっているのは間違いない……!」


 「おサキ、どうする!?」


 「さくや。すまんが、またそなたの力に頼る事になりそうじゃ!」


 「わかったよ。私、頑張って戦う……!」



 「―きみの胸焦がす恋の花♪ 燃えてー萌えてー悶えてー求めてー♪ 太鼓叩いて応援します♪」


 風が吹いてきたので、千代は広げた御守りを社務所に仕舞った。気の合う友人が出来て、ご機嫌な様子だ。


 「あれ?」


 その時、砂利の上に艶やかな物が落ちているのに気付いた。御守りかと思ったが、家では扱っていない物だ。

 花の絵が描かれている、とても綺麗な貝殻。


 「もしかして、さくやちゃんの?」



 「この風は恐らく、異界との境界に裂け目ができて空気が乱れるのが原因じゃろう! 悪霊が現れる予兆じゃ!」


 さくやとおサキは、吹き荒れる強風の中心部を目指し、鳥居の脇に広がる森の中を急いだ。こんな所に悪霊が現れれば、火の宮(ひのみや)神社に危険が及び兼ねない。


 「あれじゃ!」


 草や葉っぱだらけの地面に稲妻が走り、おサキが言った。現世(うつしよ)と異界との境界に亀裂が入ると、そこから黒い煙と共に悪霊が這い出てきた。


 「グモオオオオオオオオオォ!!」


 今度の悪霊は巨大な蜘蛛の姿だった。

 毒々しい黒い身体。細かな毛がびっしりと生えた八本の長い脚をカサカサ動かす姿に、さくやは鳥肌が立った。


 「さくや! 悪霊とて意図して現世(うつしよ)に来ている訳ではないのかもしれん! 封印の弱い部分に入り込むのじゃろう! 混乱しているうちに始末すんじゃ!」


 「わかった!」

 

 さくやはカバンを置き、天貝紅(あまのかいべに)を取り出した。


 「行くよ―」



 千代はさくやを追って石階段を急ぎ下る。

 さくやの姿はもうなく、忘れ物を渡せるか千代は心配になったが、その姿は思わぬ場所で見付かった。


 「!」


 石階段の左右は木々の生い茂る森だが、その中でセーラー服の紺色と赤いスカーフが目に付いた。


 「さくやちゃん? どうしてあんな所にー」

 

 その時、森からさくやの声が届く。


 「巫、舞初(まいぞ)め―春うらら!!」


 さくやが変身する。

 光の世界で裸になり、髪型が変わり、鮮やかな振袖を纏うが、傍目からは、光に包まれると裸のシルエットが浮かび、輝きが消えると、巫の姿に一瞬で変わっている。


 「色めく桜花! ナデシコ。参ります!!」


 ナデシコは二度目の変身を遂げた。しかし、やっぱり派手で露出が多いこの格好は小っ恥ずかしく、家でこっそり変身して、慣らしておけば良かったと後悔した。


 「す、すごいー! さくやちゃん! なにその姿!?」


 「!!? 千代ちゃん!? うそっ、見てたの!?」


 ナデシコは千代に見られていた事を知り、フリーズした。


 「今のどうやったの!? 可愛い♡! 和HOO(わふー)四十七士みたい!!」

 

 「千代ちゃん……っ。これは……その……あの……」


 動揺するナデシコに反して、千代は憧れのアイドルを目の前にしたかのように喜び、ピョンピョンしている。


 「ナデシコ! 誤魔化すのは後じゃ! 今は悪霊を何とかするのじゃ!」


 「狐さんだ! あれー喋ってるっ!?」


 警告するおサキの存在に、興奮して森の中まで入って来た千代が驚いた。

 しかし「ここは何処だ?」と言った様子の悪霊にも気付き「きゃああああああっ、なにあの蜘蛛ーっ!!」と悲鳴を上げた。


 「グモモモモ!!」


 悪霊も明らかに目立っているナデシコを見て、蝶々を見付けた蜘蛛のように狩人の目に変わり、近付いて来た。


 「千代ちゃん! 危ないから逃げて! 後、私がこんな格好してるのは、な、内緒にしてね!!」


 体面を気にしつつ、ナデシコは悪霊に立ち向かう。

 巫の能力は三つ。浄化の力は悪霊を祓えるが、もの凄く体力を消耗してしまうので、失敗が許されない。加護の力は怪我をしないが、痛みは感じてしまう。

 やはり、この姿の強みは身体能力の強化だろう。


 「ごめんなさいっ!」


 「グモッ!」


 ナデシコの強烈なビンタが、蜘蛛悪霊を張り飛ばした。


 「ばかもん! ちゃんと拳を握らんかー!」

 

 「そんな暴力的なことっ、私には……」


 おサキに怒られナデシコが言ったが、中途半端な攻撃の所為で悪霊は直ぐに起き上がる。

 怒った悪霊は、ナデシコに向かって糸を吐き掛けた。


 「わっ!」


 ナデシコは咄嗟に躱す。木花さくやでは完全にアウトだったが、巫の脚力が彼女を助けた。


 「そ、そうだよ! 折角の力、上手く使わないとっ!」


 ナデシコは脚力を活かして、森の中を高速で動き回る。蜘蛛悪霊は次々と糸を吐いたが、捉えられない。


 「すごい、さくやちゃん! そんなに足速やかったんだ!」


 素の実力だと勘違いした千代が感激している。おサキも順応し始めたナデシコに檄を飛ばす。


 「いいぞ、ナデシコ! その調子で悪霊の注意を引くのじゃ! その間にわしが(みこと)を呼んで来る! それまで耐えるのじゃ!」


 「はい! その役、承りました!」


 ナデシコは「これならいける!」と自信を持った。

 ジョギングくらいのつもりで走っても、相当なスピードが出る。胸がふるふるして裾がめくれるのが欠点だったが、このまま悪霊を翻弄し続け、尊の魔法陣で動きを封じて貰えれば、浄化技を確実に決められる。


 「ああっ!」


 しかし、おサキが失敗った。


 「なんじゃ、この糸はっ!? し、しまった、絡まった!」


 おサキは、撒き散らされた蜘蛛の糸に突っ込んでいた。取ろうともがくが、糸が橙色の毛に次々と引っ付き、やがて空中で足をバタバタさせるだけになる。


 「おサキっ!」


 ナデシコは助けに行こうとしたが、痺れを切らした蜘蛛悪霊が飛び付いてきた。


 「わあっ!」


 咄嗟に飛び退いたが、こちらも空中で振袖に糸が引っ掛かる。何もないように見えたが、何時の間にか蜘蛛の糸が、木や枝の間に張り巡らされていた。

 

 「きゃっ! ああっ!!」


 ミニスカートにも糸が引っ付き、ナデシコが落下するとめくり上げられる。


 「ナデシコっ!!」


 「さくやちゃんっ!!」


 糸に支えられ途中で落下が止まると、ナデシコは両手を挙げた格好で、宙吊りになってしまった。


 「グモォオオオォオオオォ!!」


 獲物を捉えた悪霊が興奮している。


 「ちょっとっ、見ないで……っ!!」


 褌、丸見えのナデシコが、余りの恥ずかしさに悶える。なんとか振り解こうとジタバタしたが、胸がゆさゆさするだけで脱出できない。


 「グヘヘへ!」


 征服するように、悪霊が糸をナデシコの全身に浴びせる。


 「うっ……」


 糸が顔に掛かりナデシコは反射的に目を瞑った。


 「うそ……。やられちゃった…………っ」


 千代は衝撃の光景を前にして立ち竦んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ