二段 キーワードは和HOO!㊀
木花家。さくやが巫ナデシコに変身した翌朝。
「これでよし」
さくやは学校のカバンに変身アイテム、天貝紅を入れ、外にテニスボール大の水晶玉を取り付ける。
「でも、本当に一緒に学校行くの?」
さくやは水晶に尋ねる。すると水晶からくぐもった声がした。
「当然じゃ! 未熟なそなたをしっかり監督せねば!」
水晶には小さくなったおサキが入っている。
おサキはただの狐ではない。陰陽師に仕える使い魔とのことで、不思議な力があり、このような変わった形にもなれる。
「それに……わしはさくやのような子供が巫になれるとは思っておらなんだ。もしかすれば、そなたと同い年の者の中には、より優れた素質を持つ者がいるやもしれん。それを付いて行って発掘するのじゃ」
「そんなに私、頼りにならないかなぁ……」
さくやは不満顔をした。
「当たり前じゃ! あんな雑魚悪霊一匹に苦戦しているようでは、安心できん!」
「ざ……あれで弱い悪霊なの?」
「そうじゃ。いざと言う時の為、残りの天貝紅を開ける者を探すのじゃ!」
おサキは張り切っている。
さくやも「他にも変身できる人がいた方が良い」という事は、思わないでもない。
「まぁ、仲間がいれば心強いよね……!」
――――――――――――――――――――――
ナデシコが悪霊を倒し「巫やります!」と宣言した直後、さくやは尊の家で悪霊、陰陽師、そして巫が何かを説明された。
「我が家に残された書物によると、悪霊は強い未練を持った霊が、異界の力を得た存在とされている」
尊が話す。外は何事もなかったかのように、穏やかさを取り戻している。月明かりが池にキラキラと反射していた。
「異界は僕達の世界の裏側にあって、遥か昔にその繋がりは封印されたんだけど、その封印を施したのが、陰陽師であった僕の先祖で、我が家は代々、その陰陽道の力と役割を受け継いでいる。という訳さ」
「……そうだったんですか。私、この家に毎日のように来ていたけど、全然知らなかった」
さくやは重責を担う尊の立場を慮る。
「家が陰陽師の家系である事は秘密にしているからね。それに悪霊の存在を信じている人は、今は殆どいない」
尊は続けた。
「情報が少ない中、近年、封印の結界が弱まってきている事が分かったんだ。再び悪霊が現世に現れた場合、天貝紅と契りを結べる女性を探せ、との教えがあって、僕らはそれに従い備える事になった」
「……」
「選ばれし女性は巫となり悪霊を祓う。そうやって大昔からこの世界は、異界からの脅威を退けてきたんだ」
おサキが首に巻いた風呂敷を外し、中から天貝紅を二つ取り出し机に並べた。さくやも天貝紅を取り出す。
残りの二つは形こそ一緒だが、花の絵が違い、それぞれ牡丹と百合が描かれている。
「天貝紅は後二つある。さくや。今後、悪霊がどれ程の頻度で現れ、どれ程の数現れるのか分からないが、あれを野放しにするのはとても危険だ。君が巫を引き受けてくれるのなら、その桜の貝を持って備えてほしい」
尊は、まだ心配そうな様子でさくやを見たが、さくやは、はっきりとした声で応えた。
「尊さん、大丈夫です! 私、謹んでお引き受けしますから!」
――――――――――――――――――――――
「どう? おサキ。巫になれそうな人はいた?」
午前の授業が終わり、さくやは屋上の人が少ない場所で、水晶の中のおサキに尋ねた。おサキは収穫がなく不満そうに答える。
「なんじゃこの学校の小娘共は! どいつもこいつもめんこい下着を穿きおって! 褌を締めんか褌を!」
「どこ見てるのよ……」
確かにその位置からでは、そういう景色になるのかもしれない。さくやは幾らおサキが女性でも使い魔でも、女子のプライバシーを配慮し、今後はカバンを肩に掛けようと思った。
「大体、そんな所から見て素質とか分かるの? そもそも巫の素質ってなんなの……?」
「そ、それが分かれば苦労はないわ! おのれ、褌の女子がいれば一発なのじゃが……っ」
「いないよそんな人……」
逆ギレするおサキに、さくやは呆れる。
「でも……和風っていう要素は大事なのかな?」
さくやは「どうして自分が巫になれたのかな?」と考えると、思い当たる節はそこしかなかった。
――ふ、褌は穿いてないけど……っ。
さくやが一人はにかんでいると、うめかとももの姿が屋上の入り口に見えた。
「さっくや♪ こんなトコにいた!」
「お弁当、一緒に食べようよ!」
「もしかして、一人でナニかしてたの?」
「こんな場所じゃ、風でパンツ見えちゃうよ」
「まさか男子にオカズ提供?」
「私にもオカズちょうだーい!」
さくやは「もー、直ぐそういう発想するんだからっ」と呆れながらも、ミニスカを閃かせる二人とお弁当にする事とした。
カバンを寄せた時、さくやは「どう? この二人」とおサキに目配せしたが、おサキは「全然、駄目じゃ」と首を振った。
「―ねぇ、二人共」
「なあに?」
さくやは折角なので、うめかとももに聞いてみた。
「この学校に和風な物が似合って……。そうだな……悪霊退散! とかできそうな人、い、いないかな……?」
「悪霊退散?」
歯切れの悪い質問になってしまったが、本当の事は言えないので仕方がない。
「それなら占い部とかにいるんじゃない?」
サンドイッチを食べながら、うめかが言った。おサキの水晶に手を翳す。
「見えるー見えるー、パンツが見えるーとか。サキュバス降臨! とかよく言ってるよ!」
「降臨じゃ、逆でしょ」
「そうだった! 正直、タロットとか雰囲気も洋風かぁ」
さくやがツッコミ、うめかは考え直す。今度は人のおかずを食べている、ももが言った。
「あっ、あの子がいるじゃん! 火宮さん!」
「火宮さん? C組の?」
さくやが顔を思い出す。
「うん。家が神社って聞いたよ」
ももがベストな人材に思い当たる。うめかも「それならザ和風だね」と言った。
「お祓いとかできるかも!」
「巫女さんだね!」
「巫女さんか……。ありがとう二人共」
二人の人脈は中々、広い。さくやはお礼を言った。
「でも、どうして謎の人探し? そもそも和風っていえばさくや、あんたでしょ?」
「あれよ! 恋愛成就の祈願をしてもらう気よ!」
「なるほどね。習い事といい、全ては恋の為かー」
「次いでに彼に相応しい大和撫子になる為、和の要素を勉強するのよ!」
二人が調子に乗り出す。
「もうっ、またそっちに話を持っていくんだから!」
さくやは釘を刺した。
放課後、さくやは隣りのC組を訪ねたが、火宮さんはもう帰ってしまっていた。
「茶道の時間までまだあるから、行ってみよっか火の宮神社」
さくやは落ち込んでるおサキに優しく言った。
実は火宮さんとは、お昼休みの最後に偶然、擦れ違った。
しかし、おサキは「あの娘、飛び切りフリフリしておる!」とがっかりしていた。
「じゃが神社か……。今後の為にお参りに行った方が良いのかもしれんのう……」