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八段 想いが募るほど㊃

 「ときめけ!! (かんなぎ)、晴れ舞台!!!」


 決め台詞(セリフ)と共に三人が変身を遂げた。

 相手の鬼悪霊は筋骨隆々で、見るからに格闘能力が高そうだ。身構える巫達に対して、油断なくジリジリと距離を詰めて来る。


 「浄化技ニサエ注意ヲ払エバ、巫ナド恐ル恐ルニ足ラヌ。ソノ様ナメンコイ姿デ、我ノ相手ガ務マルカナ?」


 鬼悪霊の表情が益々、険しくなり、不動明王のように荒々しくなった。


 ――こいつ、こっちの事を良く知っているようだ。異界と身体を繋げたままだった不可解な悪霊も、巫の力を分析しているような発言をしていたが……。


 尊は一連の悪霊達が徒党を組み、情報共有していると推測した。


 「行クゾ、巫!!」


 鬼悪霊が動く。単純な飛び込みからのパンチだったが、巫達はまともには受けられないと見て、三方に散った。

 これまでの戦いで経験を積んだ巫達は、超人化された身体を、高いレベルで操れるようになっていた。ギリギリのミニスカートも、戦いに支障が出ない程度のさりげない動作で押さえたり、脚の角度で褌が見えないようにすらしてみせる。


 「えい!!!」


 地面を抉るパンチを躱すと、素早く接近し、各々、反撃の蹴りを華麗に入れて見せる。


 「ムオオオオっ!!」


 鬼悪霊は三人のハイキックを、両腕と片足を上げて容易に防いだが、チラリズムには、やたらと動揺していた。


 「マ、惑ワサレハシナイっ!!」


 ビリっとした感覚が走り、ナデシコが素早く身を引く。


 「離れて!!」


 堅物の鬼悪霊の身体に電流が流れ出す。バチバチと大きな音がすると、足元の草花が焼き焦げた。


 「で、電気!?」


 「これじゃ、触れられないっ!」


 距離を取ったカグラとクノイチに、雷様を思わせる様相に変わった鬼悪霊が指先を向けた。


 「怪シカラン!!」


 次の瞬間、二人の全身に激痛が走った。


 「きゃあああああああああああああああっ!!!」


 「ぁああああああああああああああああっ!!!」


 指先から雷が放たれたのだ。どんなに巫の身体能力が高くても、その速度は回避不可能だ。


 「ああ……カラダがっ……ああっ!!」


 「これくらいのダメージっ……ぁあっ!!」


 カグラとクノイチはビリビリ全身を流れる電気に痺れ、思わずカラダがビクンッとなる。


 「二人共っ、わっ!!」


 ナデシコが叫ぶが、鬼悪霊は彼女にも指先を向ける。雷が放たれる前にナデシコは木の陰に入り、事なきを得たが、その電撃で幹が割れた。


 「なんて奴だっ! これで一介の悪霊なのか!?」


 尊は鬼悪霊の強さに戦慄した。雷など、普通の人間が受ければ即死である。直ぐに魔法陣のバリアを形成し、自身とおサキの守りを堅めた。


 「みんな……頑張れ……!」


 一方、ナデシコは割れた幹の陰から姿を晒す。


 「! 耐エラレルト思ッテイルノカ?」


 「私、我慢強いのが取り得なの!」


 「ホウ……。デハ見セテ貰オウカ!」


 鬼悪霊は、凛として立ち向かうナデシコに、雷を放つ指先を向けた。

 

 「ナデシコ……参ります!!」


 ナデシコが振袖を払う。

 すると、浄化の花弁が舞踊る。


 「秘技、花筏(はないかだ)!!」


 直後、両者の間を稲妻が走った。

 しかし、雷はナデシコに当たると、有らぬ方向へ逸れた。まるで、反射板でもあったかのように綺麗に屈曲する。


 「ナニっ!?」


 鬼悪霊は今一度、雷を発射したが、これも弾かれる。


 「す、すごい……! 効いてない!!」


 「どうやっているの!?」


 カグラとクノイチも驚いている。見て回避するのが不可能な攻撃を、凌いでいるのだ。


 「雷を花弁で防御……いや、それだけじゃないっ! 電撃を受けた瞬間、威力に逆らわず体を回して受け流しているんだ!」


 尊が解説した。

 しかし、それでも雷が花弁に触れた事を瞬時に感じ取れる、優れた感覚神経と、威力に逆らわず体を回転、しならせる、体軸と柔軟性が求められ、他人にナデシコの能力を与えても、到底、真似出来ない芸当だった。


 「ナデシコ……。そうじゃ、そなたは募る想いを糧にして、何事も精進してきたのじゃ……! 誰にもなれない巫に……そなたなっている!」


 おサキはナデシコの成長に目頭が熱くなった。

 

 「ナルホド! コレガ、ナデシコ(オマエ)ノ秘技ト言ウ訳カ!!」


 一方、鬼悪霊は、これがさくや自身の技量によるものとは到底、理解できず、初めて見る秘技を破ろうと、電圧を上げて雷を連射したが、結果は精々、舞い踊るナデシコのバストを、反動で、ぷるんぷるんさせただけだった。


 「ケ……怪シカラン……っ!」


 鬼悪霊は雷を打ちすぎたのか、身体の帯電が消えていた。


 「秘技! ねずみ花火!!」


 「秘技! 辻風手裏剣!!」


 そこへ、痺れの取れたカグラとクノイチが秘技を放った。


 「ウオッ!」


 鬼悪霊は手裏剣を回避したが、それにより、足元のねずみ花火を食らい膝を突く。


 「グアアっ!! オ、オノレ……!!」


 「今だ、ナデシコ!!」


 尊の指示にナデシコが素早く応える。


 「巫、演舞―桜吹雪の舞!!」


 出力を最大にしてナデシコが浄化技を放つ。

 膝を突いてた悪霊は回避できず、花弁の嵐に包まれた。


 「グオオオオオオオオオッ!! 馬鹿ナ!! コノライキリ……一生ノ不覚!!」


 桜吹雪と共に鬼悪霊は消えて行く。


 「グウゥ……申シ訳アリマセン……シュラ様……! オ先ニ……! ゴクラク……ゴクラク…………」


 「はぁ……はぁ……! 良かったぁ……上手くいった……」


 ふらりとなって倒れ掛けたナデシコを、走って来た尊が素早く支えた。


 「ナデシコ……! 良く頑張った……!」


 尊は何度もナデシコに感心させられてきたが、またまた驚かされた。

 ナデシコは疲れを感じさせない笑顔を見せる。


 「ありがとうございます。尊さん」


 雷の対処は未知への挑戦だった。しかし「自分ならできる!」と思えたのは、これまでの経験値あったからだ。

 ナデシコは自分の(たい)の傾きやブレに敏感だ。故に、乱されれば直ぐに反応できる。舞踊で身に付いた流しの動作もお手のもの。そこに、巫の身体能力が加われば、高レベルな対応が出来る。


 「二人は大丈夫?」


 「全然っ! なんともないよ!」


 「あー、あたし達のことは……どうぞ、お気に為さらずに……」


 尊に抱えられて嬉しそうなナデシコを見て、カグラとクノイチはニコニコしていた。

 ナデシコは急に真っ赤になり、尊の手を借りず一人で立つ。

 一方の尊は、再び険しい表情を浮かべていた。


 「尊さん……?」


 「……まだ近くに悪霊の気配を感じる……!」


 「三人共、変身を解いてはならんぞ!」

 

 尊とおサキが警告した。巫三人は身構える。


 ――もう一体、悪霊がいるの……っ!?


 ナデシコが辺りを見回したが、それらしい姿は見えない。

 しかし―

 

 「中々、良い舞だった。巫ナデシコ……! 余興には持って来いだな」


 男の声が聞こえた。


 「う、上じゃ!」


 おサキが叫ぶ。

 近くの木の枝に、男が一人座っていた。

 一見、普通の人間に見えたが、顔半分を面頬で覆い、刀を持った和装姿は、明らかに普通の出立ちではない。


 「それにしても、ライキリの阿呆め……。つくづく残念なヤツだ……」


 男は人間では到底、無事では済まない高さから飛び降り、平然と着地した。


 「お前……何者だ……!?」


 今度こそ一介の悪霊とは思えず、尊が聞いた。

 一方、巫達は戸惑った。今までの悪霊は皆、化け物、妖怪といった見た目をしていたのに対し、この男は、出立ちこそ変わっていたが、普通の人間と姿形は変わらない。

 

 「あの人も……悪霊なの……!?」


 「ああ……!」


 「何と凄まじい妖気じゃ……っ!」


 恐る恐る聞くナデシコに、尊とおサキは確信を持って答えていた。おサキの毛が、何時になく逆立っている。

 

 「フッ、俺が何者かか? 聞いてどうする? そもそも貴様らは貴様らで、此方の事をどれだけ知っているんだ? 我々、悪霊を何だと思っている?」


 人型の悪霊が逆に問うてきた。

 巫達は応えるべきか迷ったが、戸惑いながらも返答した。


 「あ、悪霊は……悪い霊だよ……。H(えっち)な……」


 「危険な怪物……。変態……!」


 「異界にいる生物でしょ? ちょっと破廉恥だけど……」


 沈黙が流れた。正直、巫達はそれくらいの事しか知らない。

 

 「フッ。まぁ、概ねその通りだな」


 「合っとるんかい!」


 認めた相手に、おサキが思わずつっこんだ。


 「悪霊は地獄に堕ちた人間だ。現世(うつしよ)で肉体を失った霊魂は、地獄で新たな肉体を与えられる。しかし、獄での生活は終わりなき苦行。大概、それにより精神が崩壊し、化け物、同然の阿呆へと変わる」

 

 人型悪霊が話す。

 

 「そんな中、自我を保ち、苦行を乗り越えた者には、特別な地位が与えられる。貴様らが二度と喧嘩を売る相手を間違えないよう、覚えて置くといい。俺の名はシュラ。下級の悪霊共を統括する、地獄の守護悪霊だ!」


 「……!!」


 悪霊には階級がある。皆、初めて知る事実だった。

 話を終えたシュラが、颯爽と近付いて来た。

 カグラとクノイチが、体力を消耗しているナデシコを庇う様に立ち塞がる。


 「巫クノイチ……巫カグラ―」


 シュラが刀の柄を握った。


 「成敗!!」


 「!!」


 次の瞬間、カグラとクノイチとの間合いをシュラが一瞬で詰めた。

 と同時に刀が振られている。恐るべき速さの居合い斬りだった。


 ――き、斬られた……っ!!


 カグラとクノイチは反射的にそう感じた。しかし、痛みはない。


 「俺は女は斬らない……!」


 シュラが刀をゆっくりと鞘に戻し、カチンと仕舞った。

 すると、カグラのミニスカートがストンと落ち、クノイチの帯がハラリと解けた。


 「き、きゃああああっ!!」


 「ち、ちょっとっ……!!」


 二人は咄嗟に露わになった部分を隠す。

 甲高い声を上げ、敵を目の前にそんな行動を取ってしまった時点で、勝敗は決した。


 「フッ……」


 自らが認めた悪霊の例に漏れず、イヤらしい目を向けるシュラだったが、直後、その瞳がギロリと鋭い眼光を放つ。


 「だが、男は容赦しない!」


 「っ!!」


 シュラは目にも留まらぬ勢いで、今度は尊に斬り掛かった。

 尊は咄嗟に魔法陣を張ったが、一太刀でバリアが破壊されてしまう。


 「うああっ!!」


 衝撃で尊が吹き飛ぶ。

 シュラが刀を返した。

 次は防げない。


 「尊さんっ!!!」


 「!!」


 その時、ナデシコが尊とシュラの間に割って入った。

 太刀は止まらず、そのままナデシコを袈裟斬りにする。


 「っぁあああああああああああああ!!! っ―」


 激痛で悲鳴を上げるナデシコ。しかし、その声は途中で途切れた。

 尊の前で、気絶したナデシコが崩れ墜ちるように地面に倒れた。


 「ナデシコっ!!!」


 「フン、余計な事を……。だが、その気概、誉めてやる。この女、気に入った!」


 シュラはそう言うと、気絶したナデシコを軽々と俵担ぎにした。


 「お前、何をっ!」


 負傷した尊だったが、ナデシコを取り戻そうと懸命に起き上がろうとした。

 シュラが言った。


 「現世(うつしよ)の阿呆共……! 我々は貴様らより遥かに修羅の世界を生き抜いて来た真の武士(もののふ)だ。楯突くな……」


 シュラが刀を地面に突き刺すと、空間に亀裂が入った。


 「この娘は戒めとして頂戴して行く。諦めるんだな。尚も逆らうと言うのなら……次は本当の地獄を見せてやる!」


 「ま、待て……!」


 尊が迫ろうとしたが、シュラはナデシコを担いだまま、足元の亀裂の中へと消えて行く。

 乱れた黒髪が顔に掛かったままのナデシコは、目を覚さない。

 尊は叫んだ。


 「ナデシコーっ!!!」

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