表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/38

八段 想いが募るほど㊀

 「花の蔭〜♪ 水に浮かれて、面白や〜♪」


 「ご機嫌じゃのう、さくや。何か良い事でもあったのか?」


 本日の日本舞踊の稽古が終わり、着替えているさくやに、おサキが問い掛けた。さくやは着物を脱ぎつつも、舞の動作が止まらない。


 「先生に褒めて貰えたの。また一段、上達しましたねって。今度、上級者の演目を習うことになったよ!」


 さくやはにっこりと答えた。


 「始めたばかりの頃は、ここまで踊れるとは思わなかったなぁ」


 「そなたは真面目じゃからのう」


 おサキが言った。


 「とても下心が全ての行動原理とは思えん」


 「うっ!」

 

 さくやの舞が乱れた。


 「そう言う言い方はないでしょ……。舞踊だって好きだし」


 「ほほほっ。その調子で恋の踊りも上達するとよいな」


 「もうっ。それは……っこれから精進するんだってば……!」


 「応援しとるぞー!」と言いながらも、どこか楽しげなおサキに、さくやは「余計なお世話!」と口を尖らせた。


 「おっ、噂をすれば尊が帰ってきたようじゃ。日曜のデートのお誘いは、もう済んだのか?」


 玄関からの音を鋭敏な耳で拾い、おサキが聞いた。


 「それもこれから。……ってデートじゃないってばっ!」


 「まったく、なぁにを意識しとるんじゃ! 急がねば先約が入ってしまうぞ! ……まぁ彼奴に限ってそれはないか」


 「い、意識してないってっ! みんなで出掛けるだけでしょ! 変なこと言わないでよ!」


 おサキの発言にウブなさくやは狼狽えた。

 お節介なおサキが、支度部屋の戸を開け「おーい、尊!」と呼ぶので、さくやは焦った。


 「ちょっとっ! まだ着替え中―」


 「どうしたんだい? おサ―」


 尊は丁度、部屋の直ぐ外の縁側まで来ていた。

 部屋の前に来ると、中にはおサキ、そして、純白のブラジャーとパンツ姿のさくやがいる。

 

 「さ、さくや……っ!」


 「み、み、み、尊さんっ!! お、お帰りなさいっ!」


 さくやは慌てて障子を閉めたが、四枚仕立ての障子をあべこべに動かしてしまい、下着姿まま右往左往する羽目になった。

 

 

 「まったくおサキってば、そういう姿は見せちゃいけない! っていう感覚がないんだから!」


 「悪かったのう! わしは何時でもすっぽんぽんじゃから分からんのじゃ! 大体、そなたはそっちの方も上級者なのであろう! 自信を持て自信を!」


 日曜日。さくやはおサキと口喧嘩をしながら、約束の集合場所に向かった。

 あの後、さくやはトラブルをなかった事にして、何とか尊をピクニックに誘った。


 「すまないさくや。着替え中って事くらい僕も―」


 「な、なんのことですかっ? 謝らないで下さいっ!」


 「いや、さっきの……。見てしまった以上は謝らないと……」


 「尊さんが見てはイケナイものなんて、なにもないですっ! 私、あれが普段着ですからっ!」


 ――なに言ってんの私……っ! ほ、本当、下着着けた後で良かった……っ!


 さくや達が集合場所に着くと、間も無く、尊、千代、楓がやって来てメンバーが揃った。

 ポロシャツ姿の尊が照れくさそうに言った。

 

 「今日は誘ってくれてありがとう。いいのかい、僕も一緒で?」


 「いいんです。私達、何時も全員集まるのは悪霊が出る時だなんて、寂しいじゃないですか。だから、たまには違う目的で集まろうって、三人で考えたんです」


 さくやが言った。


 「そなたも蔵に篭って陰陽道の修行ばかりしておらんで、気分転換も必要じゃよ」


 「引き籠りみたいに言うなよ」


 おサキにも気を遣われ、尊は頭を掻いた。

 お弁当の入ったリュックを背負ってやって来た千代と楓は、早速、コーディネートを褒め合っている。


 「楓ちゃんのリュック可愛いね! デニムのスカートも可愛い!」


 「千代先輩こそ……。麦わら帽子、どこで買ったんですか?」


 「二人共ミニスカート? ちょっと歩くんだよ?」


 「大丈夫だよ! ダンスで鍛えているからね!」


 さくやが心配したが、千代はその場でステップを踏んで健脚をアピールした。


 ――そう言うことじゃなくって……。


 早速、その動きだけでチラチラするので、さくやは呆れた。


 「さくや先輩だって……()()()()に短いじゃないですか」


 水泳部に入っている影響なのか、意外と露出できる楓は、へそ出しコーデだ。


 「ま、まぁね。短い方が、所作に気を付けるよう努められし、機動力があるからね!」


 言い訳するさくやのコーディネートは、明らかに(おとこ)を意識していた。

 


 「さぁ、出発ー!」


 一向は元気に出発した。

 ピクニックコースは初夏の澄んだ空気に包まれた、新緑豊かな散歩道。多少、マイクロミニスカートの裾に気を配る登り坂はあるものの、そんな服装でも問題ない気楽な場所が目的地だ。

 十分程歩き、森を抜ける。すると、爽やかな風がそよぐ小高い丘に出た。

 丘には色とりどりの花が一面に咲いていて、草木の翠と空の蒼とのコントラストが美しい。


 「わぁ……綺麗!」


 「お花畑だー!」


 「蝶々がいっぱい飛んでる!」


 「天国に来てしまったようじゃのー!」


 「おサキ、戻って来い! 皆で記念撮影しようか!」


 美しい花々の世界を堪能した後、一向はランチタイムにした。

 時期もあり、他にも大勢の人がピクニックにやって来ていて、原っぱでシートを広げている。おサキの事を考え、さくや達は少し森の中に入った場所で、お弁当にする事とした。


 「尊さん、どうぞ召し上がれ! おサキにもお稲荷さん用意したよ!」


 「ほう! どれどれ、味を見てやろう」


 「ず、随分、沢山作ったね……」


 さくやが持ってきたお弁当の豪華さに、尊が目を丸くした。お重には美味しそうなお惣菜がギッシリだ。


 「昨日、さくやちゃん()でメニューを考えたり練習したりしたんです☆ こっちがわたしの! ちょっとお兄ちゃんに食べられちゃったけど、味はバッチリだよ! バスケットのサンドイッチは楓ちゃん担当!」


 「あ、あたしのはあんまり……。挟んだだけですから……」


 ちょっと自身がなさそうな楓は、さくやと千代の料理の腕前に舌を巻いていた。

 さくやは驚く程、正確な三角形のおにぎりをテキパキと握り、だし巻き卵や竜田揚げ、きんぴらなど、和風に拘った。千代はお弁当箱やピックは勿論、海苔でおにぎりをサッカーボール模様にしたり、タコさんウインナー、うさぎりんごなど、可愛さに拘る。


 「二人共、女子力高過ぎ……!」


 正直、若干、退くレベルだった。


 「ほほう、この味! 中々やるではないか! さては婆さんに習ったな!」


 「もちろん、ご指導ご鞭撻いただいています!」


 「そなたは直ぐにでも嫁に来れるのう!」


 「どどどどこにっ!?」


 おサキに揶揄われたさくやは、思わず料理をひっくり返しそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ