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七段 クノイチの目標㊁

 「よし! 折角だから練習相手になるよ! 私と全力で競争しよう!」


 さくやは楓の心意気に応えるように、勝負を挑んだ。


 「楓ちゃんの種目、背泳ぎでしょ? 私、クロールや平だと遅いけど、背泳ぎだけはクラスでも速い方で、自信あるの!」


 「ふーん。なんで、でしょうね……」


 楓はさくやのバストを見ながら、何となく原因が分かった。


 「まぁいいですよ。マケませんから……!」


 「じゃあ、わたしが審判やるね! 負けた人には恥ずかしい罰ゲームが待っています☆」


 ノリノリで千代が宣言した。


 「そ、それってどんなのっ!?」


 「うーんとねー……。ごにょごにょ……」


 おっぱいを隠して身構えるさくやに、千代が内容を告げる。


 「ま、負けらないっ!!」


 さくやと楓は本気になった。


 「じゃあ、位置について! よーい……どん☆!」


 空いたレーンを使った対決が、千代の合図と同時に開始された。

 背泳ぎはカラダの柔軟性とブレない体軸が重要。ストロークが長い方が有利だが、二年生が一年生に負ける訳にはいかない。


 「ゴール! 楓ちゃんの勝ちー!!」


 「ま……負けた…………」


 「先輩、まだまだですね!」


 ――――――――――――――――――――――


 大会が近付くと、流石に水泳部の練習もハードになってきた。プールでは、上位を目指す、タイムを縮めるなど、各々、目標に向かって努力する部員の姿があった。


 「あたし、辞めようかな。……水泳」


 お昼の席で突然、楓が打ち明け、さくやは驚いた。一口食べた唐揚げをお弁当に戻す。


 「……どうして?」

 

 「目標は泳げるようになることだったし、それはもう……達成できたから……」


 さくやは、もぐもぐしたままの千代と顔を見合わせた。

 楓が悩む訳は二人にも分かった。

 「風間中の水泳部は強豪」となると、入部する生徒は大体、初めから水泳が得意で、中には小学生の頃からスイミングスクールに通い、一年生で結果を出す生徒もいた。楓は、そんな部員達と出場種目の枠を競った結果、余り選手がいなかった、背泳ぎの長距離に出場する事になったのだ。


 「あーあ。やっぱり部長、あたしがばらしたと思ってるのかな」


 「仕方ないよ。楓ちゃんはまだ始めたばかりなんだから」


 悲観する楓を、さくやは慰めた。正直に言えば、本格的に水泳を始めて一カ月程度で、そこそこ出来てしまう楓は、充分、凄いのである。


 「でも、このまま練習し続けても、周りも同じように練習するし、あたしはいつまで経っても追い付けないと思う……」


 「でも、頑張ろう! 好きなことなら続けられる! って別に好きな訳じゃないんだっけ……」


 漸く食べ物を飲み込んだ千代が、励まそうとしたが、楓は「モチベーションの差を痛感しているに違いない」という事に気付いた。

 楓がさくやを見る。


 「先輩は習い事で上手くいかないことはないんですか? 辞めようと思ったこととか……?」


 「私? 勿論っていうか、そんなのしょっちゅうだよ。奥が深い世界に入っちゃたなぁ、ってよく思うもん。特にお琴とか全然だめで、上手な人の見たら自信なんてなくなっちゃう……。でも、私が習い事を続けられるのは……」


 さくやはどんなに下手っぴでも、モチベーションを失った事はない。

 その訳を想うと、つい「むふふん♡」といった表情になってしまうさくやだったが、楓の冷たい視線に気付き、慌てて取り繕った。


 「か、楓ちゃんはっ、水泳部に好きな人とか……い、いないの……?」


 「そういえば……先輩はそういう人でしたね。聞いたあたしがばかでしたっ!」


 楓はぷりぷりして、お弁当を仕舞い去ってしまった。

 あちゃーするさくやを見て、千代は思わず笑ってしまった。



 「楓は随分、悩んでおるようじゃったのう」


 放課後、心配したおサキが水晶から話し掛けてきた。


 「大丈夫。楓ちゃんは頑張れる。強い子だから」


 「頑張れるように、今からわたし達が秘策を準備するからね☆」


 さくやと千代が言った。

 二人は少しでも楓をサポートする為、マドンナ部へやって来た。


 「なんですって? 週末、応援に行く部を変えてほしい?」


 「はい。今度の日曜日、私を水泳部の大会に行かせてほしいんです」


 すいか先パイに、さくやは予定の変更をお願いした。


 「しかし、さくやさん。貴方は(わたくし)と一緒にテニス部の応援でしてよ。それに水泳部は元々、人気があるので、大勢の生徒が自主的に行きますのよ。だから、わざわざ派遣は不用ですわ。特に女子は」


 「そこをなんとかできませか? えーと……一応、テニス部の方は代理人を用意しました……」


 さくやは許しを得られるか不安だったが、代理人の二人は元気良く背後から飛び出した。


 「はーい、うめかでーす! Cでーす!」


 「ももでーす! Bでーす! 二人合わせるとHでーす!」


 二人は両手にポンポンを持ってアピールした。


 「……まぁ、代わりがいるのならよろしくてよ」


 すいか先パイは若干、計算に納得がいかなそうだったが、胸同様、大きな心で許可してくれた。


 「あのぅ、すいか先パイ。テニス部の大会って、伊達先輩が出場するんですよね!」


 「きゃー! わたし達、全力で応援します!」


 女子生徒に人気のある男子部員の応援に、二人は熱が入っていた。


 「貴方達。代理人である以上、立ち振る舞いは美しく、マドンナらしくお願い致しますわ。まぁ、そんな風に足を上げない!」


 「すいか先パイ! わたし達もマドンナ部に入れて下さいよぉ!」


 「極小ビキニでの撮影もOKでーす!」


 この機会にマドンナになりたいうめかとももに、すいか先パイは「マドンナというのは、なりたくてなれるのではなくってよ。何となくで決まるポジションなのですわ」と返していた。

  

 「これでさくやちゃんも楓ちゃんの応援に行けるね!」


 無事、許可を貰えたので千代がさくやに言った。此方もポンポンを持っている。


 「うん。何時も助けて貰っているんだから、今度は私達が力になってあげる番!」

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