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六段 神様の言う通り㊃

 「(かんなぎ)舞初(まいぞ)め―夏まつり!! 焦がれる勢炎! カグラ。ご覧あれ!!」 

 千代は変身して、ナデシコとクノイチの元へ急いだ。

 おしゃれは下着から。巫の衣装は何時も新品のように艶やかで、長く伸びた黒髪もサラサラと靡く。

 アイドルの衣装を着た時のように、この姿になると否応なくテンションが上がる。

 心が満たされる。

 

 ――やっぱりわたし、巫なんだ……!!

 

 「待ってて、ナデシコ、クノイチ! 今、カグラが舞台(ステージ)に上がります!!」


 

 「あっ!! ぁああああああああああああっ!!」


 「んんっ!! ぁああっ!! あああああっ!!」


 ナデシコとクノイチは悪霊の根に締め上げられ、悲鳴を上げた。


 「フム……頑丈ダナ。普通ノ人間ナラバ、コレデ絞メ殺セル」


 植物悪霊が二人の異常な耐久力に舌を巻いている。


 「興味深イ……更ニ調ベサセテ貰オウカ?」 


 「!!」


 悪霊は巫のカラダを調査するように、更に根を絡ませてきた。クネクネする根の感触に、二人が身悶えする。


 「きゃああっ! やめてっ!!」


 「ちょっとっ! 変態っ!!」


 根が全身を嫌らしく這い回る。クノイチが罵倒すると、その両胸にシュルリと輪を描くように巻き付いてきた。

 

 「きゃあああああああああああああああっ!!!」


  次いで、暴れるナデシコのDカップには、シュルシュルっと螺旋を描くように巻き付く。


 「やぁあああああああああああああああっ!!!」


 「ハハハハッ! ドウヤラ効キ目ガナイ訳デハナイヨウダナァ?」


 植物悪霊が巫の弱点を見抜いた。


 「ナラバ、何処マデ耐エラレルカ、確カメテヤロウ!!」


 根の先で、頬や首筋を撫でられ弄ばれる二人は、歯を食い縛って陵辱に耐えるが、堪え切れず悲鳴を上げた。


 「っぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


 「そこまでだよ!!」


 大きな声が割って入り、悪霊の動きが止まった。息が絶え絶えとなった二人の目に、駆け付けたカグラの姿が映る。


 「カ、カグラ………」


 「……先輩、助けに……?」


 「うん! 当然でしょ! わたし達は、三人のチームなんだから!!」


 カグラは自信満々に言った。

 しかし、地面から生える無数の根と、それに囚われたナデシコとクノイチの姿を見て、徐々に状況を理解していく。


 「って、ええーっ!! だ、だ、だ、大ピンチじゃんっ!!?」


 仰天するカグラ。確かに二人を助けに来たのだが、ここまでのピンチは想定していなかった。一緒にやって来たおサキも同様だ。


 「な、なんとーっ!! そなたら、負けてしまったのかぁーっ!!?」


 「ご、ごめん……」


 「この悪霊……強くて……っ」


 ナデシコとクノイチは最早、身動き一つ取れず、脱出しようと捥がき続けた結果、体力も尽きていた。こんな事態になってしまっては、尊が来ても戦況を打開するのは不可能だ。


 ――つ、つ、つ、つ、つ、つまり……っ! わたしがどうにかしなくちゃいけないってことぉー!? 二人がやられちゃった相手に!? 一人でっ!? や、やっぱり今日は、最悪な日だぁあああっ!!!


 「ナンダ、他ニモ仲間ガイタノカ……? ハハハッ! オマエモ捕マエテ、カラダノヒミツヲ隅カラ隅マデ調ベテヤロウ!」


 植物悪霊がカグラに牙を剥く。捕らえられた二人を根で囲み、助け出せないようにしていた。


 「ど、どうしようっ!? うわあっ!!」


 カグラは恐怖と緊張で、ウネウネする根を前にオロオロしていたが、伸びてきた最初の一本は、逃げ腰が功を奏し回避できた。


 「絶対に捕まってはならんぞっ! 全身をクネクネされてしまう!」


 「想像しちゃうからっ、そう言うこと言わないでよぉーっ!」


 おサキの言葉で、カグラは尚更パニックになりそうになった。触れられるのを嫌がり、咄嗟に近くにあった木の棒を拾う。


 「えいっ! えいっ!」


 カグラは襲い掛かる根を木の棒で叩き返す。案外、有効な手段に思えた。


 「カグラ、頑張ってっ!」


 「足元にも気を付けて下さいっ!」


 最後の希望であるカグラに、クノイチとナデシコも必死に声援を送る。


 「ムダダ!」 


 しかし、植物悪霊は先に木の棒に根を絡らませ、カグラから没収した。


 「わぁっ!」


 丸腰になったカグラを、此処ぞとばかりに根が襲った。カグラは回避し切れず、その胸に根が巻き付く。


 「うそっ!?」


 「カグラっ!!」


 「ああっ!! これまでじゃ……っ!!」


 ナデシコ、クノイチ、おサキの表情が絶望に染まった。カグラ自身も「きゃああああっ!!」とやられた声を上げる。


 「!!?」

 

 しかし、根はツルッと外れてしまった。カグラは大きくジャンプして退避する。


 「あ……危なかった……っ!!」


 「なんと言う幸運じゃああ!!」


 「ち、小さくて助かりましたね……っ」


 危機一髪。

 しかし、全員が神様に感謝する中、カグラだけは「こんなラッキーいらないよぉっ!」と顔を真っ赤にして言った。

 九死に一生を得た巫達だったが、状況は何も好転していない。しかし、修羅場を一つ切り抜けたカグラは、少しだけ平常心を取り戻した。


 「小さく……? そうだ、浄化技……!」


 カグラは何度か実戦を経験した事で、浄化技に一つの可能性を見い出していた。


 「やってみるしかない!!」


 カグラは演舞を発動させる。熱気がカラダの周囲に迸った。


 「ヌヌ!? コレハ……!?」


 植物悪霊は熱気に触れないよう攻撃を止めた。


 「一か八かか!? 頼むぞカグラ!」


 おサキはカグラが博打に出たと思い、祈るように手を合わせた。しかし、カグラは今日の自分が、一か八かに賭けるのは無謀だと承知している。


 「打ち上げ花火じゃなくて、噴き出し花火……。ううん、もうちょっと弱く……! 線香花火……じゃ、弱すぎか……」


 カグラの両手に炎が燃え盛る。

 

 「ならっ、ぬずみ花火に決まり! 行っけー!!」


 カグラが袖を振って炎を飛ばした。しかし、それは普段の浄化の炎より、遥かに控えめの火力だった。

 悪霊に対しては些か頼りない炎が複数、くるくる輪っかになって飛んで行く。それは、地面に落ちると宣言通り、ねずみ花火の如く、くるくる地面を走り回る。


 「ナンダ、コレハっ!?」


 植物悪霊が警戒する。

 ねずみ花火同士がぶつかると、弾き合って思いがけない方向へ飛んだ。その内の一つが根に直撃する。


 「グアッチッ!! コノ!!」


 火傷した植物悪霊は、ねずみ花火を潰そうと叩いたが、炎は消えず逆に根が焼ける。


 「アツッ! アッツー!!」


 この悪霊の根には繊細な感覚があるようだが、それが災いした。熱さで無数の根が地面をのたうち、その度にねずみ花火に触れてしまう。


 「グァアアアアアアアアアアア!!」


 大火傷を負った植物悪霊は、溜まらずナデシコとクノイチを解放した。

 

 「浄化技の火力を抑え、小出しにしたのか!? 考えおったなカグラ!!」


 おサキが感心した。

 カグラは浄化の力を使っても体力を使い切らない、裏技を発明したのだ。


 「よしっ、次の曲行くよー! 巫、演舞! めらめらの舞ー!!」


 余力が残るカグラは、今度は火力を最大にして火炎を放つ。


 「グアアアアアアアアアアア!! アツイっ!! イヤ、アツクナイ!?」


 植物悪霊を焼く聖なる炎が全ての根に広がる。

 

 「ゴ……ゴクラク……ゴクラク………………」


 地面の下がどうなっているのかは不明のままだったが、植物悪霊は浄化された。


 「……やった……! カグラが勝った! 一人ですごいよ!!」


 感極まったナデシコが、窮地を救ったカグラに走って行って、そのまま抱き付いた。


 「もうっ、ナデシコったらー」 


 カグラは大人ぶって嗜めたが、自分でも、自分の成し遂げた事に驚いていた。


 「先輩……」


 クノイチも近くにやって来て、お礼を言おうとした。しかし、急に恥ずかしくなって、此方も真っ赤になった顔を隠すように抱き付いた。


 「二人を助けられて良かった……! 来るのが遅くなっちゃって……ごめんね!」


 カグラは正直な気持ちを伝えた。


 「よう頑張ったぞ、カグラ。ようやった……!」


 おサキが言った。


 「そなたが巫になってくれて、わしは心から良かったと思っておる」


 「ふふっ、おサキちゃん。初めて褒めてくれたね」


 カグラが笑う。


 「そうじゃったかの?」


 おサキが惚ける。

 カグラは自分を巫という舞台に上げてくれたおサキに、改めて感謝した。


 「ありがとう、おサキちゃん!」


 好きと言う気持ちを貫けば、どんな逆境にも立ち向かえる。そして、小さな努力、見えない努力を積み重ね、事を成し遂げる。

 カグラが青い空を見上げると、諦めなかった自分を、神様も褒めてくれているように感じた。


 ―――――――――――――――――――――――

 

 地下アイドル部のセカンドライブは、ファーストライブの好評もあり、前回を上回る熱気に包まれた。

 

 「みんなー、今日もノリノリで行くよー! 目指せ学園の顔! マドンナ部には負けません!」


 千代の音頭で観客は大いに盛り上がる。


 「なんか……ライバル視されてるのは何故……!?」


 「人が多くて全然、見えないんですけど……っ!」


 さくやと楓は最早、勢いに乗った千代の熱量には敵わない気がした。


 「さぁ、次の曲行くよー! 和HOO(わふー)四十七士から、本日超絶絶好調ー!!」

 お読み頂き、ありがとうございます。

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