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六段 神様の言う通り㊂

 本日は厄日。

 千代に試練の如く与えられた一日は、まだ終わっていない。


 「あ、悪霊っ!?」


 さくや達が帰った十三分後、千代は楓から悪霊出現の連絡を受けた。折角、二人が遊びに来てくれてハッピーになったのに、台無しにされたかのようだった。


 「おサキが気配を感じ取って、今、向かっています! 場所は風波(かざなみ)公園の辺りです!」


 「楓ちゃん……わたし……」


 「大丈夫です、あたしとさくや先輩でなんとかします! 千代先輩は危ないから家にいて下さい!」


 「で、でも……」


 千代は流石に心配した。「自分がいない間に、ナデシコとクノイチが負けてしまったら……」と、しかし同時に、駆けつけた所で「自分は活躍できない」という考えが浮かぶ。


 「ご、ごめんね。さくやちゃんをよろしくね……!」


 千代はそう言ってスマホの通話を切った。



 「な、なんじゃとっ!? 千代は来ぬというのか!?」

 

 「う、うん。だって今日は運が悪いって、あれだけ見せ付けられたし……」


 悪霊の気配を辿りながら走るおサキが、楓に振り返る。


 「そんな気概で、(かんなぎ)が務まると思っとるのか!?」


 おサキが厳しく言ったが、楓は以前から思っていた事を聞いた。


 「でも、これから先もあたし達、いつも全員揃って戦えるとは限らないんじゃないかな?」


 自分やさくや、千代にも、部活や習い事がある。そもそも、昼間は学校があり、夜は寝ている。悪霊が現れた時、集まれない可能性はあった。


 「ええい! どうしようもない時は、いずれ訪れるじゃろう……! じゃが、今回はそうとは言い切れない筈じゃ!」


 おサキが言った。


 「そなた達は、まだまだ巫としての自覚が足らんのう! 巫は仲良しアイドルグループではないのじゃ! 悪霊と戦う戦士! これは異界との(いくさ)なのじゃ!」


 おサキは(みこと)に連絡を入れたさくやに振り返る。


 「尊に連絡は付いたな? 悪霊はこの先じゃ! これまで連戦連勝とはいえ、くれぐれも油断は禁物じゃぞ! わしがその間に千代を、カグラを連れて来るからな!」


 おサキはそう言い、火の宮神社へ引き返して行った。


 「おサキ……」


 さくやも自分の考えの甘さを反省しつつ、楓と共に、何時ものH(えっち)な風(千代命名)の中央を目指す。


 「行こう、楓ちゃん!」


 「はい!」


 「巫、舞初め―春うらら!!」


 「巫、舞初め―秋もみじ!!」



 変身したナデシコとクノイチが強風を抜けた先で見たのは、地面の至る所から生えた無数の木の根だった。

 根は地中から空に張るように伸びている。生き物のようにウネウネと動いていて、二人は背筋がゾクッとした。


 「これも悪霊……!?」


 「地面のひびから生えてる……!?」


 敵の奇怪な見た目に二人は戸惑った。

 更に、今までの悪霊は地面のひび割れから這い出て来ると、そのひび割れが消え去るのだが、この植物悪霊は、そのひびから這い出ている格好のままだった。


 「身体の一部を出しているだけなのかな?」


 「詰まってるとかなら笑えますけど……?」


 おサキがいれば見解が聞けるのだが、生憎、今はいない。


 「オオ……! オマエ達……何者ダ?」


 くぐもった悪霊の声が地中から響いて来て、二人は身構えた。


 「俺ヲ見テモ驚カナイ。寧ロソチラカラ現レタ……! 興味深イ、興味深イ……!」


 根の群れが二人の方へ傾き、ゆっくりと近寄って来る。まるで、一本一本に気配を探られているかのようだった。


 「隅々マデ、調ベテヤロウジャナイカ……!!」



 ガラガラと鈴を鳴らし、千代は二礼二拍手一礼をした。


 ――二人が無事に悪霊を追い祓えますように!


 千代は家の神社に祈願した。

 「格好が好き!」という理由もあったが、千代は普段、誠心誠意、巫女として神様に仕えて来た。神様の存在は信じているし、神様の言う事は絶対だと思っている。

 だからこそ、お願いすれば、きっと叶えてくれる。


 「はあ、はあ……! この階段を一気に上るのは、流石にキツいのぅ」


 おサキが息を切らしながら石階段から現れ、千代は振り返った。


 「お、サキちゃんっ! 悪霊は!?」


 「今、二人が戦っておる! わしは、そなたを呼びに来たのじゃ! どんな時も、万全を尽くして挑まねば、いずれ足を掬われることになろう!」


 おサキの責任感ある発言に、千代は申し訳なさを感じたが、突っぱねた。


 「で、でも言ったでしょ? わたしは今日、運勢最悪だから、きっと役に立たないよ……」


 「そなたは運が悪いと、戦うことすらせんのか?」


 「だって……そうじゃなくても、そもそもわたし弱いし……」


 「はぁ、情けないのぅ……。そなたはナデシコを応援する為に、巫を引き受けたのではなかったのか?」


 「有能なクノイチがいれば、心配ないよ……」


 千代は巫が三人になってから、少し感じていた事を口にした。


 「まったく……誰もそなたが弱いなどと、言っとらんじゃろうに」


 「……そうだけど……」


 そう。誰もカグラが「いなくても問題ない」は言わない。だからこそ、千代は自分で自分の評価を下さなくてはならない。


 「千代よ。そなた、日日是好日という言葉を知っておるか?」


 「? なあに?」


 「毎日は良い事ばかり。運の善し悪しに関係なく、今日を大切にせよとの教えじゃよ。わしとて神様は信じとる。なんと言っても、この世に光あるのは女神アマテラスのお陰じゃからな」


 おサキが言った。


 「じゃが厄日と分かっても、その日をどう生きるかはその者の自由じゃろう? 同じように実力が乏しいと分かっても、引き下がるか否かはその者の自由じゃろうて?」


 おサキは千代の横に来て、拝殿を見つめた。


 「そなたを巫にしようとしたのはわしじゃ。じゃが、そなたはそれに応えてくれた。もしあの時、己の実力が乏しいと知っていたら、そなたは応えてくれなんだのか?」


 「……」


 「どんな困難があっても、人の心からの想いは変えることは出来ぬ。あの何処にでもいそうな娘が、恋焦がれる男の為に巫をするように……!」


 「…………わたしは……」


 千代は思った。

 これからも自分は、運が悪かったり、能力が及ばないと分かった時、保身に入ってしまうのだろうか? 

 巫だけではない。アイドル部も、今は好評だが、もし人気が出なかったら……。

 千代は首を振った。

 

 ――さくやちゃんなら、どんなに大変でも尊さんの為に頑張る筈……! わたしだって、わたしの好きなことを頑張りたい! その日がどんなにツイてなくても、敵わないものがあったとしても!


 千代はもう一度、拝殿に向き直り、手を合わせた。


 「神様っ!!」


 ――折角、厄日だって教えてくれたけど、わたし行きます! どんな危険が待ち受けていても、わたしは友達を応援したいんです! 神様が警告してくれたから、くれぐれも気を付けます! だから……どうか見守っていて下さい!


 千代はお祈りを終えると、境内の外へと駆け出した。


 「……ふぅ……。何とかその気にさせられたわ……」


 責任者とも言える立場のおサキは、肩の荷がおりホッと息を吐いた。


 ――――――――――――――――――――――


 伸びて来た木の根を、ナデシコは辛くも避ける。二人は此方を捕まえようと乱舞する根を、必死に躱し続けた。


 「コノ素早サ。ヤハリ、唯ノ人間デハナイナ……!」


 植物悪霊の声が再び地中から聞こえる。

 

 「どうしようっ、反撃しないと!」


 攻撃のチャンスはナデシコ達にも何度かあった。しかし、根に攻撃を入れても、全容が把握できないこの悪霊に、どれ程効果があるのか未知数な上、触れたら逆に捕まってしまいそうで、迂闊に手が出せずにいる。


 「あたしが浄化技を試します! だめだったら様子を見ましょう!」


 体力に自信があるクノイチが提案した。

 根に技を当てて浄化できるのかは分からなかったが、何かしなければ状況は好転しない。


 「巫、演舞―神風(かみかぜ)の―」


 しかし、技を放とうとした時、クノイチの足元に新たな亀裂が走り、そこからも根が這い出て来た。


 「きゃっ!!? ぁあああああああああっ!!!」


 根がクノイチの足首から脛、膝、ふとももへと巻き付いてくる。


 「クノイチっ!!」


 「後ろっ!!」


 「!!」


 救出に来ようとするナデシコにクノイチ叫んだ。お陰でナデシコは、背後から迫っていた根をギリギリで回避できたが、その間に、動きの止まったクノイチを更なる根が襲う。


 「うっ、ああぁっ!!」


 クノイチは脚に巻き付いた根を取ろうとしていたが、その両腕も別の根に絡め取られてしまう。

 一人になったナデシコは、全ての根を相手にしなくてはならなくなった。


 ――私まで、捕まったらっ!!


 ナデシコは必死に避け続けたが、プレッシャーがカラダの動きを硬くした。


 「きゃあっ!」


 避け損なった一本に文字通り足を掬わる。転倒したナデシコに、無数の根が一斉に襲い掛かる。

 

 「きゃあああああああああああああああっ!!!」


 手首に、二の腕に、脛に、ふとももに、ウエストにと、次々と悪霊の根が絡み付く。

 ナデシコとクノイチは完全に身動きを封じられてしまった。

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