五段 見せられないモノ㊄
三人の巫は天狗悪霊を三方向から包囲した。
「行くよ!」
ナデシコの合図で一斉に仕掛ける。
「ググッ!」
正面から来たナデシコのパンチを、天狗悪霊は団扇で防御したが、その隙に背後からクノイチが攻撃する。
「ンッ!」
「わっ!」
天狗悪霊の長い鼻は意外にも頑強で、振り向き様に蹴りを弾いてみせた。
しかし、カグラの側面からのアタックは防げない。
「えいっ! 巫女パーンチ!」
「ンググッ!」
倒れ掛けた天狗悪霊だが、一本歯の下駄で華麗にバランスを取り、高速回転を始めた。すると、身体の周囲に竜巻が発生する。
「わっ!! きゃああああああああああああ!!」
飲み込まれたカグラの小柄な体が、あっという間に舞い上がる。
「カグラっ!!」
竜巻に巻き込まれ、ミキサーの中身のように高速回転するカグラは、衣装をぐちゃぐちゃにされながら、彼方へと飛んで行く。
「ぁああああああああれぇええええええええ!!」
竜巻が収束すると、カグラは竹蜻蛉のようにくるくる回りながら地面に下り、フラフラになって倒れた。帯が緩んでミニ袴がずり上がり、あられもない格好でダウンしてしまう。
「だめ……お目目がぐるぐる〜」
「ああっ、何という様じゃ! しっかりするのじゃー!」
墜落現場に駆け付けたおサキが、尾っぽで頬をペチペチしたが、カグラは股下0センチを突破したミニスカートを直す余力もなかった。
「迂闊な接近も危険じゃ! こうなってしまうぞ!」
「じゃあ、どうすればっ!?」
おサキが叫ぶが、まごまごしているナデシコを再び天狗風が襲う。
「きゃあああああああああああっ!!」
宙を舞うナデシコ。
飛ばされる先には、偶然、尊の姿があった。
「ナデシコっ!?」
「尊さんっ! 退いて下さっ、あああああっ!!」
尊は、どうにか受け止めようとしたのだろうが、ナデシコに覆い被さられる格好で下敷きになった。
「み、尊さん……っ大丈夫ですか!?」
ナデシコが起き上がる。
「あっ……」
ナデシコは尊の顔面を胸で押し潰していた。
尊はその所為……衝撃で鼻血が出ていた。
「ご、ごめんなさい……」
ナデシコは尊から離れる。
着物の胸元が乱れていて、谷間がバッチリ出ていた。尊もつい、そこへ視線がいく。
ナデシコは申し訳なさそうに隠した。
お互い変に意識してしまう。
気まずい空気が流れた。
「ナデシコ……」
尊は、カラダの事を気にしているナデシコを見て、正直に言った。
「君は……大人になったんだね」
ナデシコがハッとする。
尊を見ると、優しい瞳でナデシコを見ていた。
羞恥を感じる事は、おかしな事ではない。
カラダの性が顕著になっていくのは、当たり前の事だ。
心も同じ。
ナデシコが、何か悪い事をした訳ではない。
「はい……!」
ナデシコは自分を受け入れる。
受け入れて立ち上がる。
「尊さん。私……私を見ていて下さい!」
ナデシコはめげずに天狗悪霊に立ち向かった。
相対した悪霊は再び、天狗風を起こすが、ナデシコはクノイチに倣って身を屈め、それを堪えた。
「うぅ……うっ……!」
この体制では、尊のいる位置からお尻に食い込む褌が丸見えになるが、これも止むを得ない事である。
突風を凌ぎ切ると、ナデシコはクラウチングスタートでダッシュした。
「はああ!!」
「ンンッ!!」
天狗悪霊が竜巻で応戦する。
ナデシコは背筋を伸ばして胸を張り、相手に負けず高速回転した。勢いでミニスカートが完全に捲れ上がる。
「ナデシコっ! まさか!?」
「逆回転で打ち消す気じゃ!」
尊とおサキが固唾を呑む中、竜巻がナデシコを飲み込む。しかし、巫の脚力と舞踊で鍛えたバランス感覚で、ナデシコは安定したスピンを続け、竜巻を相殺した。
「ナンダトっ!?」
天狗悪霊は竜巻を掻き消され驚いている。
「隙あり!」
その隙にクノイチが素早く接近し、天狗の下駄に足払いを入れ、今度こそ転倒させた。
「ンガァっ!」
「今です、先輩!」
クノイチが叫んだ。
あれだけ回転しても、ナデシコは目を回していない。
「巫、演舞―桜吹雪の舞!!」
「グオオオオオオオオオオオオオォ!! ゴ……ゴクラク……ゴクラク…………」
悪霊を祓ったナデシコが、尊に振り返る。尊は成長したナデシコの頑張りを讃えていた。
ナデシコは、やっぱりちょっと恥ずかしかったが、ちゃんと胸を張ってみせた。
「しっかりして下さい、千代先輩!」
「えーんっ。まだ目が回ってるよぅ」
楓がフラフラしている千代を支える。
尊が結界を解除すると、荒れ果てた内部は元通りになった。どうやら、戦いに巻き込まれた人はいなかったようだ。
「家の方が近いから、少し休んで行ってくれ」
尊が千代を気遣った。
「尊さんも、お怪我の具合いは?」
「これは……大丈夫だ。毎度、怪我ばかりしてはいられないよ」
さくやも尊を気遣う。尊はナデシコに派手に激突された割には、当たりどころがよかったので、怪我らしい怪我はなかった。
「皆が頑張っているんだ。僕も体を鍛えないとね」
「さあ、帰るぞ! わしはまた婆さんの稲荷寿司を頂いて行くのじゃ!」
好物は別腹のおサキに、さくやは呆れた。
「もう、いくつ食べるのよ?」
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さくやはマドンナ部を辞めない事にした。しつこいグラビアの依頼も、試しに引き受ける。
「まぁ、木花さん。昨日はあんなに嫌がっていたのに。やはり、マドンナとしての自覚が芽生えてきましたわね」
感心するすいか先パイに、さくやは自分の気持ちを伝えた。
「私、本当の自分と向き合ってみたいんです。それで、もっと、自己表現できる人になりたいです」
さくやには、恥ずかしくて見せられない心の内がある。しかし、それは本当は見せたいモノで、少しずつでも、それを露にしていきたいと思った。
何時か、尊に本当の気持ちを伝えられるように。
「じゃ、コレに着替えて貰えます?」
「はい」
依頼を受けて貰えて嬉しそうな写真部から、さくやは水着を受け取った。
早速、着替え用のカーテンに入る。
「え!?」
しかし、渡された物をよく見たら、どう見ても紐の束だった。
「……あの、これは、これだけ? 紐しかないんですけど?」
「え?」
さくやは何かのミスじゃないかと確認するが、写真部は「何の事やら?」と言った顔だ。
「何を言っているんですか木花さん。それで全部。ビキニの撮影なのですから当然ですわ」
「は!? これがビキニっ!?」
すいか先パイに言われて紐の束を見直す。確かに小さな三角の布が付いていたが、流石に極小水着にも程がある。
さくやの許容範囲には、色々と収まらない。
「むー無理無理無理無理っ! こんなの着れませんよっ! 露出しすぎっ! 無理無理っ!!」
持っているのも耐えられないと、さくやはビキニを返そうとした。
「そ、そんな……」
写真部ががっくりした。
「まったく。やはりそうなりましたわね。新入部員にはよくあることでしてよ」
すいか先パイが呆れる。
「まぁ、良いですわ。代わりに私が水着になりましてよ!」
「えっ! でも今日は新人さんの撮影で……」
「何? 私がモデルではご不満ですの?」
「いえ、そんな事は……ありません!」
すいか先パイが選手交代し、写真部はやる気を取り戻した。
「あら、すいかちゃんばかりズルいわ。私も撮ってね」
負けじと、めろん先パイもモデルを買って出た。他の部員も次々と参加しようとする。
さくやは巨乳達の陰に追いやられた。
「やっぱり、ここの人達……オープンすぎる……!」
呆気に囚われる。しかし、内心「すごい」とも思いながら、さくやは先輩達のグラビア撮影を見学した。
さくやはもう一度、マイクロビキニに視線を落とす。
――いつか、尊さんの前で着れるかな……。
想像するだけでも気絶しそうになった。
さくやは戦いの後、尊に言われた言葉を思い出した。
「さくや。部活、頑張ってね。君が望んで取り組む事なら、僕はどんな事でも応援しているよ!」
さくやは姿勢を正した。
――し、精進しますっ!!




