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五段 見せられないモノ㊂

 「ううっ、まずい……肩凝った……」


 さくやは家に帰ると、何時ものようにお風呂に入った。しかし、マドンナ部に入部したという噂も、直ぐに校内に広まってしまい、一日中、視線を気にして丸まっていたツケが回っていた。


 「こんなこと初めて……」


 巨乳は肩凝りしやすいと聞くが、今まで無縁だった。意識して背筋を伸ばし、日頃から姿勢を正していた賜だった事に気付く。


 「舞踊の稽古でも注意されちゃったし……」


 「今日は動きが硬いわよ」と(みこと)の母には見抜かれていた。

 さくやは両頬を叩いて反省する。


 「なにやってるの私。人の目なんて気にしないで、自分らしく振る舞わないと!」


 さくやは自らの信条を思い出した。



 「お早うございます!」


 「お、お早う」


 「おはよう御座います」


 「マドンナ部だ。おはようござます」


 次の日の朝。昇降口でさくや達が明るく挨拶すると、皆、ちゃんと挨拶を返してくれた。

 マドンナ部の参加は、特に男子に効果的面の様子だった。


 ――まぁ、挨拶することはいいことだよね。


 深い事は考えず、さくやは得意分野をこなした。


 「木花さん。貴方、中々、様になるわね。立ち姿も凛としていますし、マドンナと言う言葉も似合っている気がしましてよ」


 隣りで挨拶するすいか先パイが、さくやを褒めた。


 「挨拶運動は小学生の頃もやりましたから。でも……」


 さくやは非常に疑問に思う部分があった。


 「なんで私達……ちょっと高い所にいるんですか?」


 風紀委員とは違い、マドンナ部にはちょっとしたお立ち台が用意され、その上で挨拶している。件のミニスカートで立つと、パンツが見え兼ねず、さくやは手を前に持ってきた、おすましポーズを崩せない。


 「勿論、挨拶運動してますわよ! と目立つようにですわ。その方が良いでしょう? あら、お早う御座います、教頭先生」


 残念ながら他の部員は、挨拶を促す為、色を売りにする事を厭わないようで、さくやはまた少数派だった。


 「うおっ、後ろやべぇ」


 「見える……見える……!」


 「ああんっ! 挨拶は前からお願いしますっ!」


 回り込んでいる男子を、さくやは厳重注意した。


 新入部員が入ったと知り、早速「是非、グラビアを撮させて下さい!」とやって来た写真部の依頼は、頑固拒否し、その日、さくやは早々に下校した。


 「うー、水着で撮影なんてあり得ないし! 大体、中学生には早いって……」


 「さくや」


 「こんな部に入ったなんて、もしも尊さんに知られたらっ」


 「さくや!?」


 さくやは妄想からくる幻聴だと思い、尊に話し掛けられたのに気付かなかった。ハッとして振り返ると、尊は校門付近にいた男子に絡まれていた。


 「テメェ、マドンナ部の()に馴れ馴れしく話し掛けてんじゃねぇーぞ!」


 「ちょっかい出そうと待ち構えてたんだろ!」


 「いや僕は、彼女の知り合いで……(いて)っ!」


 尊は勘違いで男子生徒に殴られていた。さくやが慌てて割って入る。


 「ちょっと、なにするのっ!! 尊さん、大丈夫ですか!?」


 「なんだよ、マジで知り合いかよ……」


 「お前彼氏? チッ、死ね!」


 男子生徒は不機嫌そうに去って行った。


 「……まさか、いきなり殴られるとは……」


 頬を摩りながら言う尊に、さくやは申し訳なさそうに言った。


 「すみません。(うち)の学校、変わった人が多いんです……」



 さくやは(みこと)に誘われ、安倍(あべの)家へ寄って帰る事になった。千代と楓も一緒だ。


 「祖母から稲荷寿司を沢山握った、って連絡があってね。君達も貰っていってくれよ」


 その為に尊は、わざわざ中学に寄ったらしい。女の子を誘うのは少し照れくさそうだ。


 「祖母と母には君達が(かんなぎ)である事を伝えてある。こんな事くらいしか出来ないが、支援させてやってくれ」


 「婆さんの稲荷寿司じゃと!? わ、わしは早く食べたいぞー!」


 おサキが水晶玉の中で大喜びしている。どうやら好物らしい。


 「君はそう言うと思ったよ」


 尊が水晶のおサキに笑い掛けた。カバンを肩から掛けている為、さくやの胸の高さに、尊の視線が来る。

 相手が尊の為、さくやはまた過剰に意識してしまい、背中が丸まった。


 安倍家の居間に上がると、早速、お茶菓子代わりに稲荷寿司が用意された。


 「今、たんとお重に詰めるから、お家の人に持っていってね」


 「ありがとうございます。お婆ちゃん」


 台所で、せっせと稲荷寿司を握る尊の祖母に、三人はお礼を言った。


 「ぬぉおお! これじゃ、これじゃ!」


 「おサキちゃん、ゆっくり食べてね!」


 おサキが、千代から箸で稲荷寿司を食べさせて貰う。がっつく狐の姿はちょっと面白く「なに、この絵面……」と楓が言った。

 使い魔のおサキは、食事を摂らなくとも平気だが、好物は別らしい。


 「これときつねうどんだけは止められん!」


 三人も稲荷寿司や漬物を頂いていると、尊が聞いてきた。


 「そう言えばさくや。部活を始めたのかい?」


 「うっ」  


 さくやはお茶で咽せてしまった。「大丈夫かい」と尊が気遣う。


 「ごほっごほっ……どこで、それを?」  


 「さっき、殴ってきた奴が言ってたんだ。どんな部の子に馴れ馴れしく話し掛けるなとか、何とか……」


 さくやはマドンナ部に入った事を、誰にも言っていなかった。


 「そう。さくやちゃん、昨日スカウトされて……なに部だったっけ? ねぇ、なにをする部なの? わたしは頼んでもいないのに、入部拒否されちゃったんだよ!」


 「あたしも噂で聞きました。さくや先輩が二年生で最初にその部に入ったって……。結構、話題になってます。一年でも……何故か男子の間でですけど……」   


 千代と楓も不思議な部活の正体を知りたがった。

 さくやは落ち着いて概要を説明する。


 「こ、広報を担当する部なのっ。学校の! 取材とかが来たら、代表で受けるんです」


 「でも今日、朝の挨拶してたよね?」

  

 「生徒会となにが違うんですか?」


 「なにって言うと……」


 さくやは、どうにか変な部だと思われないように言葉を選らぼうとしたが、どうしても「おっぱい大きい()の部!」と言うイメージが、頭から離れない。


 「どうも乳の大きい娘しか入れない集まりらしいぞ。確かマドンナとか言っておったのう」


 カバンにくっ付いていたので一部始終を知っているおサキが、お皿をペロペロしながらばらした。


 「ああ、マドンナ部ね……。高校にも、あるよ……」


 尊が言った。

 すいか先パイが一年から部に入っていたと言っていたので、尊とてマドンナ部の存在、果ては具体的な活動内容も知っている筈だ。その証拠に尊は少し顔を赤くした。


 「ふーん」


 千代は自分がお呼びでなかった理由に、納得したようだ。

 事実確認として止むを得ず、全員の視線がチラチラさくやの乳に注がれる。

 さくやの羞恥心が限界に達した。


 「あっ、お婆ちゃんっ! 一人で大丈夫!? 私、手伝います!」


 さくやは完成した稲荷寿司が詰められた重箱を受けると、居間には戻らず、そのままダッシュで帰ってしまった。

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