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四段 絵巻のはじまり㊂

 さくやは千代達に、初めて(みこと)と出会った時の話をした。


 「それから私、お母さんが華道の日はいつも付いて行って、教室の時間の間、尊さんと遊んでいたの」


 小さなさくやは普段とは違う、浮世離れしたような和の世界に、ときめきを感じた。


 「二人で鯉に餌をあげたり、広いお屋敷で隠れん坊したり、鞠で遊んだり、おはじきしたり、あやとりしたり……。尊さんは、いつも私の相手をしてくれて。でも私、最初は遊ぶのが楽しくて一緒にいただけだと思う。……まぁ懐いてはいたんだけど……」


 さくやは気恥ずかしそうに言った。


 「でもね、私のお母さんが飽きっぽいって言うか移り気な人で、お花を二ヶ月で辞めちゃった。それで私、尊さんと遊べなくなるのが嫌だって、駄々をこねたの。そしたら、私が習い事をしないかって誘われて……」


 「確か、書道からだったね」


 千代が言った。


 「うん。書道は尊さんも習っていたからなの。そうなってからかな? 意識するようになったの……。でも大きくなってくると、お互い会う時間が減ってきちゃった……。四年生くらいになったら、一緒に遊ぼうって言うのも、なんだか恥ずかしくなっちゃって……私、尊さんのこと好きなんだなって、分かったのかな……」


 気持ちは段々と大きくなるものだと知った。今のさくやも思い出を話すに連れ、顔の赤みが増す。


 「もう、それからずっと片想いっ。それで沢山、お稽古初めて、会う機会増やして、(かんなぎ)も引き受けるの! お、おかしいでしょっ!?」


 さくやは恥ずかしさに耐え切れず、話を締めた。


 「……別に……いいと思います。笑うことじゃないと思います……。好きな人に会いたくて、頑張って……。す、素敵じゃないですか?」


 楓が言った。その表情には、ちょっとだけ憧れが垣間見える。


 「そうだよ、さくやちゃん! わたし達、その恋、応援します!」

 

 千代が結託するように楓の背中にくっ付く。馴れ馴れしさに楓がむず痒そうにした。


 「二人共……ありがとう……!」 


 さくやは、何だか心が軽くなったような気がして、素直にお礼を言った。打ち開けて良かったと思った。


 「おサキちゃんは? モチロン協力するよね?」


 千代がおサキも味方に引き入れようとする。


 「……ふんっ。そなたがどんな恋心を持とうとも、巫の素質がある事実は変わらん! 精々、尊にも認めてもらえるよう、頑張ることじゃ!」


 「は、はい!」


 さくやは実質、尊の身内に認めて貰え、心強く感じた。

 ただ、そんなさくやを見て、楓が悪戯っぽく笑った。


 「でも、さくや先輩。今のままじゃ、いつまで経っても先輩の気持ち、尊さんに伝わりませんよ?」


 「え?」


 「そうだよさくやちゃん! 好きってこと、ちゃんと伝えなきゃ!」


 千代はファイティングポーズを取る。

 

 「むー、無理っ! だって私、それを伝えられなくて何年も……っ! 言わなきゃだめなのかな……?」


 「もー、さくやちゃんってばー!」


 余りの奥手っぷりに、楓も「告白しなきゃ伝わりませんよ……」と言った。


 「―何の話をしているんだい?」


 そこへ、尊が戻って来たので、さくやは気を付けをして平常心を取り繕う。


 「いえ、尊さん。何の話もしていません!」


 「盛り上がっていたようだったけど?」


 「き、気の所為です!」


 さくやのこの態度には、千代と楓の方が身を焦がした。

 呆れたおサキが呟く。


 「この調子では、後何年、掛かるのじゃろう……」


 ――――――――――――――――――――――


 さくや達が鯉に餌をあげている。鯉が急に飛び跳ねると、女の子達は「きゃっ、きゃっ」と年相応の反応を見せた。

 尊は悪霊伝説などを描いた巻物など、巫に関係ありそうな品を、更に見せるべきか悩んでいた。


 ――こんなものを見せて脅かした所で……。それに、この辺は幾分、信憑性が低いしな……。


 そんな尊に、縁側で今度こそ微睡んでいたおサキが言った。


 「何を見せたとて、あの娘達は巫を引き受ける。何故だかは……尊にも分かるじゃろう」


 「……」


 尊は「仕方ない」と微笑して、少女達を見守る事にした。


 新たな悪霊が現れたのは、その後の事だった。さくや達は、おサキの案内に従い急行する。

 現場の道路の真ん中には、既に悪霊が現れる亀裂が入っていた。尊が叫ぶ。


 「周囲に結界を張る! そうすれば結界内は断絶され、中の物を壊しても、解除した時に修復される! 周りに気を配らず戦える筈だ!」


 尊が呪符を取り出して、半径五十メートル間に透き通った膜が張られる。これで、膜の内と外は隔絶され、行き来できない。

 同じタイミングで、黒い煙と共に悪霊が地から這い出てきた。


 「あれは……」


 「お地蔵さん……!?」


 現れた悪霊は巨大な地蔵といった見た目だった。しかし、目を赤く光らせていて、尊もさくやも邪悪な印象を受ける。


 「とても硬そう……!」


 打撃が効きそうにないその姿に、不安になった千代が言う。

 それでも三人は視線を交わして、天貝紅(あまのかいべに)を取り出した。


 「尊さん……。どんな危険があったとしても、私達は悪霊と戦います。だって私達はもう、巫なんです!」


 さくやは別人のように肝の座った態度で、意中の尊に告げた。


 「行くよ! 巫、舞初(まいぞ)め―春うらら!!」

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