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四段 絵巻のはじまり㊁

 「昔、昔、アマテラスという女神がいました。アマテラスが地上に降臨すると世界には光が齎され、生きとし生ける者の暮らしは豊かになりました。しかし、ある時、地の底の地獄から悪しき存在エンマが現れたのです。エンマは地上を離れるのを拒む者達を悪霊に変え、自らの下僕としました。アマテラスはエンマと戦い、その者を地獄の果てへと追い返しました。そして、共に戦った人間達と協力し、地獄を封印したのです。しかし、戦いで力尽きたアマテラスは地上に留まる事が出来なくなりました。アマテラスは再び地獄の門が開かれた時の為に、人間達に自らの力を託し、天へと還って行ったのでした。……以上じゃ」

 

 おサキが巻物を読み終えた。


 「めでたし、めでたし……って感じでもないね」


 さくやが言った。


 「おサキちゃん上手! よく難しい字が読めるね!」


 千代が誉めたが、おサキはムスッとした。


 「ふんっ、見くびるでない! わしはこう見えて、そなた達より三百歳は年上なのじゃ!」


 「えっ、うそ!?」


 「年季が違うわ! 年季が!」


 思わぬ事実に楓とさくやも、おサキを見る目が変った。


 「すっごい年上……」


 「おサキさんって呼ばないと……」


 巻物の内容をざっくり整理すると、女神様が地獄から現れた悪者を退治してくれたけど「後は任せた!」と帰ってしまったお話のようだ。


 「つまりアマテラスさんが託した力っていうのが、天貝紅(あまのかいべに)……(かんなぎ)の力……?」


 さくやは天貝紅を取り出す。尊が言った。


 「僕もそうだと考えている。悪霊の出自も他の伝承と一致する部分があるし、作り話だとは思えない。こっちの絵巻も見てくれ」


 尊が別の絵巻を広げた。こちらは先程のものより新しいのか、サラリと筆を走らせた文字は、さくやにも読めた。


 「これは江戸に百鬼夜行が現れ、それをアマテラスにも見紛う女性達が追い祓い、危機を救ったと言う物語で、ここに……」


 「!!」


 絵巻の真ん中辺りに、美しい女性達が描かれている段があった。女性達は髪がとっても長く、変わった着物を纏い、神々しい光を放っている。


 「巫……!」


 「わたし達……そっくりだ……!」


 楓が驚き千代がスマホを取り出して、先日撮った巫姿の写真と見比べる。

 複数いる女性の中には、三人と着物のデザインが似通った人物もいる。「これは巫!」と間違いなく思えるのは、この時代にはなさそうな丈が短い着物を絵巻の女性達も着ていて、美しい御御足を晒している事かもしれない。


 「ここには選ばれし女人、天貝紅を開き天女へと姿を変える……とある。そして女神の力を宿し、数多の悪霊を祓い人々を救う」


 おサキが解説した。


 「すごい! わたし達がやっていることが、絵巻に描いてある!」


 「大昔にも、巫になった人がいるんだ……」


 千代と楓が顔を見合わせて言った。


 「私達はアマテラスさんの代わりに世界を……。でも、全てが本当のことなら……」


 さくやは心配になった。


 「地獄もあるの……?」


 尊が小さく頷く。


 「悪霊が……この世界とは違う場所からやって来ているのは間違いない。恐らく、そこが地獄なんだと思う。そして、この物語が真実ならば、悪霊には親玉がいる事になる……」


 さくや達は最初の絵巻に描かれた、()()()()()に目を戻した。

 鬼のような姿をした真っ黒な影―


 「エンマ……」


 そんな閻魔大王のような存在が、本当に地獄と共に実在すると思うと、背筋が冷たくなる。

 尊が改めて三人を見ながら言った。


 「悪霊は勿論だが、君達は人智を超えた存在と戦っていかなければならない。自分の人生を、そんな危険な役割に捧げてもいいのか……。改めて考えてほしい。そして、その上で本当に巫を引き受けるのか、決断してほしい……!」


 ――――――――――――――――――――――


 さくや達は、巫の伝承を伝える絵巻に一通り目を通した後、ポカポカ日和の縁側に腰掛けた。


 「巫って、なんだか壮大なことみたい……」


 さくやが言った。尊は絵巻を再び蔵に戻しに行っている。


 「ごめんね。私、全然、想像が付いていなかった。もしかしたら、二人を巻き込んでいない? もし二人が、戦いなんて嫌だと思ったら……。いいよね? おサキ」


 おサキは日に当たる縁側で横になっている。聞いていないフリをしてるようだ。


 「わたしは巫、続けるよ。だって、どんなに大変だろうと、さくやちゃんは巫をやって行くんでしょう?」


 千代が聞いた。


 「うん」


 さくやは迷いなく頷く。


 「じゃあ、わたしも全力で頑張るよ。もしかしたら、わたしも絵巻に載れるかもしれないし!」


 千代はそう明るく言った。


 「楓ちゃんは?」


 「なにを言ってるんですか、水臭いですよ。それに言った筈です。先輩達だけじゃ、無理だろうって」


 楓はちょっと生意気に答えた。


 「ありがとう、二人とも。尊さんも喜ぶよ」


 さくやは尊に代わってお礼を言った。


 「その代わりって言うのはあれですけど……聞いてもいいですか?」


 今度は楓が聞いてきた。


 「さくや先輩が力になりたい人って、尊さんのことですよね?」


 「うん……」


 さくやは再び頷く。

 

 「いつから好きなんですか?」


 ――!?


 「え!? なにっ!? 好き!!?」

 

 さくやは思わず立ち上がる。


 「態度で、なんとなくわかりますよ。ねぇ、千代先輩」


 「えっ! あはは、そうかもしれないねぇ……」


 楓に続き千代もそう言った。

 思考停止するさくや。居眠りのフリをしていたおサキも、思わず振り向いた。


 「なに!? そなた、尊のことを……!? どういうことじゃ!?」


 「おサキちゃん知らなかったの? ニブイー。三百年も生きているのに」


 驚くおサキを千代が揶揄う。


 「なんじゃあー! わしはこれでも色恋の経験も豊富で……。ええいっ、通りで巫をやりたがる訳じゃ! へなちょこのくせに引き下がらない訳じゃ! そんな下心を持っとったとは!」


 「違うってばっ! 千代ちゃんまでなに言い出すの! 私と尊さんはっ……」

 

 さくやは両手を振って精一杯、誤魔化した。しかし、冷静でいられないさくやを見て、千代は微笑み、楓は目は確信に変わる。

 さくやは手遅れだと感じた。


 「わ……わかったよ。……そう、私、尊さんのことが……ずっと……す、す、す……。だから巫も……っ!」


 さくやは観念した。

 千代は「わかっていたよ」と優しく言った。楓は笑ったり、からかったりもせず、真剣な表情のままだ。


 「き、聞きたい? きっかけって言うか……その手の話……」


 「……はい」


 楓が女の子らしく興味がありそうに頷いた。

 さくやはサンダルを履き庭に出た。池の近くまで歩いて泳ぐ鯉を眺め、気持ちを落ち着かせてから振り返る。

 そして、親友にしか話さない、尊への想いを打ち明けた。

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