三段 三人の晴れ姿㊃
楓が天貝紅をキャッチすると、待っていたかのように、貝の口から強烈な光が放たれる。
楓は導かれるように天貝紅を開き唱えた。
「巫、舞初め―秋もみじ!!」
途端、楓は天貝紅からの眩ゆい光に包まれる。
制服が淡い光となって消え、裸になり「きゃあ!」とカラダを隠すが、柔らかな風が彼女に手足を広げさせる。
ショートだった髪が長く伸び、ポニーテールに結ばれ、綺麗なかんざしが刺さる。
アームカバーが二の腕までをピタッと覆い、足袋を履く。
光の衣を纏うと、それが袖のないミニ丈の緑色の着物に変化し、紺色の帯が締められる。
口紅を差すと天貝紅は帯に取り付けられた。
光の世界が消え、楓は新たな姿で地に舞い降りる。
「月夜の疾風! クノイチ。参上仕りました!!」
三人目の巫、クノイチが誕生した。
「……ちょっと……っなんですか!? この格好……っ」
クノイチは露出度の高い自分の衣装に狼狽した。
無理もない。着物はホルターネック風で、肩と背中が大きく見えている。裾に至ってはただでさえ短いのに、帯から下で前後に分かれ、下腹部のサイドが丸見えだ。
「い、一番破廉恥かも……っ」
「下着は……?」
ナデシコとカグラも思わず赤面した。
羞恥に耐えるクノイチだったが、悪霊がその衣装を更に破廉恥にする酸を、再び手の平に溜めているのに気づき、ハッとする。
「カッパァ!!」
「っ!」
クノイチは浴びせ掛けられた酸の雨を、猛スピードで右に左に動いて躱す。
巫の身体能力があれば可能な動きだが、水滴を見切る動体視力と、体幹が伴わなければ真似できない。
「すごい、クノイチ……!」
「一年生なのに!」
ナデシコとカグラが感心する。おサキですら「よ、漸くマトモな者が巫に……!」と言った。
「えいっ!」
「カアッ」
クノイチは足下にあった平たい石を拾うと、手裏剣投げの要領で投擲する。巫のパワーで高速を得た石は、河童の手を弾き、溜めた酸を溢させた。
「今じゃ! 浄化技を放てクノイチ!」
感激しているおサキの指示が飛ぶ。
クノイチが唱えた。
「巫、演舞―」
技による強風が吹き荒れ、クノイチのミニスカートをまくり上げる。スリットから覗かない彼女の褌の紐は、ハイレグパンツのように、腰の高い位置に掛かっていた。
「神風の舞!!」
片手でミニスカートを押さえ、クノイチが旋風を放つ。
「カッパアアアア!!」
竜巻に飲まれた河童悪霊が浄化される。
「ゴクラク……ゴクラク……」
河童悪霊は何かイイ事でもあったかのように、安らかに天に昇っていった。
「はぁっ、はぁっ……」
流石のクノイチも浄化技で体力を使い果した。
命拾いしたナデシコとカグラが、ボロ布を纏って駆け寄る。
「助かったよクノイチ……!」
「もうだめかと思ったぁー!」
カグラはそのままクノイチに抱き付く。
「ちょっとっ」
「そなた、見事であったぞ! わしが特別待遇で飯抱える!」
後ろ脚で立ったおサキが、前脚でクノイチをポンポン叩き褒め千切る。状況が状況だったのでスルーしていたクノイチが、改めて「あなた……なんなんですか!?」と聞いた。
「わしは悪霊から人々を守る巫を、ずっと探しておった者じゃ! これで漸く肩の荷が降りるぞー!」
ナデシコが「私達も頑張ったんだけどね……」と言ったが「そなたらは、まだまだ修行が足りん!」と叱責される。
「ありがとうクノイチ。色々と説明しないといけないね」
「あっ、わたし達、三人のグループだからね!」
ナデシコとカグラが、巫について話をしようとしたが、カグラがクノイチから離れると、衣装に問題が発生した。
「ちょっとっ、あたしの服も溶けてるんですけどっ!」
「わあっ! ご、ごめーんっ!」
三人は学校まで道を引き返した。どうやら授業には間に合いそうだ。
さくやはふと思った。
「そう言えばこっち、お家の方向と全然違うよね。楓ちゃん、どうしてあそこにいたの?」
「水泳部は朝練あるの? じゃあ、もう学校にいたんだよね?」
千代も聞く。楓は仕方なく答える。
「空き地に向かう先輩達を見掛けたんです……。なんだか……心配で……」
目を逸らす楓。さくやと千代は顔を見合わせた。
「お陰様で、また助けて頂きました!」
「優しいんだね。楓ちゃんは!」
二人は改めて楓の優しさを感じた。
「やめて下さい。普通です」
素直じゃない後輩に二人はクスリと笑った。
「じゃ、これから頼りにさせて貰ってもいいかな? 楓ちゃん」
「悪霊からわたしを助けてよ! わたしも頑張るけどっ」
楓は「まったく」という顔をした。
「いいですけど。これはあくまでも、先輩が力になりたい、っていう人の為にです」
そして照れ隠しに悪戯っぽく笑った。
「どうせ先輩達だけじゃ、直ぐに裸にされてやられちゃうでしょうし!」
これにはさくやも千代も、ぐうの音も出ない。
しかし、千代は直ぐに立ち直る。
「そうだ! 巫の衣装って、時間が経つと綺麗に治ってるの! そうなったら、三人で記念撮影しようね!」
「はぁ!?」
千代の提案に楓が反発した。
「あの格好で!? い、嫌ですよっ!」
「えー、いいじゃんか! ねぇ? さくやちゃん!」
恥ずかしがる楓の気持ちは、さくやも良く分かった。しかし、撮りたい千代の気持ちも、良く分かる。
「ふふっ。いいよ、三人なら!」
さくやが言った。
「撮ろうね。私達の晴れ姿!」
楓は「何考えてるんですかっ!」とまだ反発していたが、千代は嬉しそうに「やったー! どんな風に撮ろうかなー!」とウキウキだった。
当然、浮かれる彼女達におサキの雷が落ちた。