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バッティングセンターと女

作者: こみこみこ

君どこの球団が好き?

ああ、解った。

そのフォーム、ヤクルトの何やっけ、今年話題になった子のに似とるね。

けどね、この街に住んでるんやったら、とりあえず阪神ファンや言うといたほうがいいよ。

何?カッコいい子が少ない?

君わかっていないなあ、みんな実は脱いだら凄いねんで、知らんけど。


僕は今日もバットを構える彼女に話しかける。

バットを振る度、揺れる1つに結んだ長い髪。愛嬌のある丸い目。

彼女は目もくれないし、返事もしない。

当たり前だ。

全て僕の心の声だから。

バッティングセンターで偶然見つけて数週間。

僕は営業の道すがら、彼女が来ていると吸い込まれるようにそこへ入ってしまう。

今日もそうだ。

夕立ちのあと、世界中が重いため息を吐いたような湿度の中、彼女は今日もバットを構える。スレンダーな体が作る曲線が美しい。


リクルートスーツのままやったら動きにくくない?

僕がそう心の声を発した後、彼女はバットを傍らに置き、雑に上着を脱いだ。

意外とボリュームのある胸に白いシャツの裾が収納されたタイトスカートの腰が悩ましい。彼女はマシンに小銭を入れると、再びバットを構えた。


もう少し足を開いて。

そう。前のめりになりすぎないで。


聞こえていないはずなのに、彼女は僕の言う通りに動く。

たまたまとわかっていてもマスクの下で笑みを浮かべてしまう。

自販機で買った缶コーヒーを両手で握り、彼女に集中する。気分は監督だ。でっぷり出ている自分の腹を撫でる。貫禄だけはある。

フライ。

ファウル。

ファウルが続く。

彼女の額に汗が滲む。

湿気がきついのか、シャツのボタンを2つ外した。

薄桃色の肌が覗くとドキドキしてしまう。

会社からスマホに電話がかかってきたが、無視する。それどころやない。


彼女の服装が乱れていく。白いシャツは体をひねるたびにその形を崩し、そうしているうちに片方のすそがスカートから飛び出てしまった。

僕の指導のせいで、君をこんな姿にして申し訳ない。

責任を取りたい。

僕で良ければ。


「なあ、そろそろ時間やで」

彼女の背後に同じような姿の女の子が現れた。

「そろそろ行こ。ギャラ飲みのおじさんたち、遅れたらうるさいし」

彼女はバットを置いて、急いで上着を着込み、足元に置いたバッグを持ち、扉を開いた。

双子のような女の子が二人、髪を揺らしながら歩いていく。二人並んだらもう見分けがつかない。


ギャラ飲みおじさんにもなれない僕は、彼女がいたバッターボックスに立ち、バットを構えた。

彼女が残した球は、柵を超えた。


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