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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いつかは

作者: よーこ

声優業界というのは、実力だけでは基本生き残れない。

実際実力は凄いのに消えていった子を何人も見てきた。それじゃあ、声優業界には何が必要なのか。

それは愛嬌と、体力と、歌の上手さと、実力と、……顔だ。

最近の声優業界はどこかアイドル化していて、正直二流の実力でも生き残れるレベルになってしまっている。


でも私はそれが悪い事だとは思わない。確かに夢見た声優では無いけれど、時代は進む。

それに合わせて私達も進まなきゃいけない。

どういう立ち振る舞いをして、どんな演技をして、どんな歌い方をすれば売れるか、時代のニーズに合わせた"声優"をしてたらそれでいい。

私はそれをわかっている。


理想の"声優"に囚われて、売れない声優とは違う。

だから私は人気になれた。理想を捨てて、努力をして、挫折して、何もかも経験したからこそ色んな作品に呼んでもらえるようになった。

なったはずなのに、どうして、どうしてこの子はそんな私を嘲笑うかのように、実力だけでこの場を取り込むの……?

                △▼△▼△▼△

声優業は変わっていった。

どんどんどんどん私の憧れから離れていって、次第には実力のある子ですら干される世界になっていった。

でも諦めなかった。だからこそ誓った。私は干されないって。私の憧れた声優を取り戻すって。


そうしてやっと掴み取った有名な原作の準レギュラーの役。

正直、メインを張るメジャーの声優陣は全員私よりも演技が下手だった。生で聞いたら変わるのかなって思ってたけど、むしろ生の方が変に聞こえた。


さぁ、私の番。

下がりに下がったハードルなんて乗り越えるとすら言わない。ただ道に引いてある白線を跨ぐように、ちょっと足をあげるだけで良い。


「それは本当に正しいの?」


一声発した瞬間に場が凍る。

そりゃそうだ。超実力派、なんて建前で売ってるアイドル声優の1000倍は演技上手いんだから。私


そのまま場を凍りつかせるだけ凍りつかして私のセリフは終わり。

今回の話ではちょい役だったし、私の演技もこれで終わりかな。


めんどくさいのが、自分の演技の番が終わっても帰れないとこだ。

さっさと帰りたい。

うわー、なんか私のせいで演技のハードル上がったのか知らんけど、監督あの子の演技聞いてめっちゃ微妙そうな顔してんじゃん。


そりゃそうだよ。声優ってのは本来こういうものなんだよ。

演技が上手ければ上手いほど評価され、顔採用は淘汰されていく。


「おつかれさまでした!」

やっと終わった。苦痛。なんであれから1時間も2時間も座りっぱなしで下手な演技聞かされにゃならんのだ。

はやーく帰って練習しなきゃなのにさ。


「……ね」

「……い」

「……ま」

陰口は全部聞こえてるって。

実力を認めてる裏付けにしかならないってどうして気付かないんだろ。


気分悪いから、さっさと帰ろって元々速く動いてた足を更に加速させていく。

ようやくスタジオの玄関。やっと解放。

「ちょっと待ってよ」

って思ったらこれ。実力派は困るなぁ……


「……なに?」

「へぇ無視して帰っちゃうかと思ってた」

「貴方がとめたんでしょ?それでその言い様?」

実際、無視して帰ることも出来た。自分でもなんで止まったか分からない。

実は結構イライラしてたんだろうか。もうどうでもいいけど


「私、先輩なんだけど」

「だから何?私の方が上手いんだけど」

「関係ある?先輩には敬語使いなさいって習わなかったの?」

「いちいちそういうのいいから。んで、なに?」

「はぁ……あんた、多分売れないよ」

「は?」

意味分かんない。何?急に止めて来てそれ?そっちの方が失礼じゃない?


「あんたには実力しかない。それじゃ売れない。分かってんでしょ?」

「そんな事、分かった上なんだけど。だから実力で全部解決するつもりで来たんだけど」

「だから、それじゃ無理なんだって。理想に固執して、誰とも絡まないで一匹狼ぶって。古いの。価値観が」

「……それだけ?なら帰るけど。そういうの、言われ飽きてきた」

「そ、止めて悪かったわね。それだけ。それじゃまたね」

今まで素の面だったのに急に外面の笑顔?気持ち悪いって思ったら周りにスタッフ来てたんだ。


プロだねぇ。ほんと、気持ち悪い


結局お節介焼きに来ただけ。しかもくそつまらないタイプの

時代に流されて、夢を諦めて、ただ名前だけの声優になった先輩もどきに言われても、なんも響かないって。

気分悪い。帰ろ

                △▼△▼△▼△

ただ一言、「あんたが羨ましい」って言いたかっただけだった。

私とは違って自分を貫いて、実際馬鹿みたいに演技上手くて。そんなの、私の夢見た声優じゃん。諦めた理想じゃん。


それをただ伝えたかっただけなのに、声掛けて、顔見た瞬間私は嫉妬に飲まれて、私に突き刺さるだけの言葉をあの子に投げかけた。

それをあの子は涼しい顔して全部受け止めて、「聞き飽きた」なんて言って。


馬鹿らしい。本当に私が馬鹿らしい。

「……はぁ」

捨て去ったはずなのに湧いてくる。


本気でやりたいって。あの子みたいに上手くなりたいって気持ちが。


こんなの手のひら返しだってわかってる

1人の演技を聞いただけで今までの努力を全部水の泡にするのがどれだけの愚行かなんて分かりきってる。


でもしょうがないじゃん。導火線に付いた火は、簡単には消えないんだから


私の夢は"売れる事"じゃなくて"声優になること"

今の声優業を否定する気は無い。むしろ肯定的だ。時代は進む。求められるものは変わっていく。でもそれは私の憧れた"声優"ではない。

理想に囚われてるのは馬鹿ばっか。


なら、私はその馬鹿になろう。

                △▼△▼△▼△

「ねぇ」

うわ、昨日聞いた嫌な声。無視ろ。

「ねぇ」

……

「ねぇってば!」

「いった。そんな強く肩掴まないでよ」

「あ、ごめってあんたが無視するからじゃん」

「昨日あんなに言われてまともに話聞いてくれると思ってる方がやばくない?これ普通に事務所に訴えれるよね?」

「それ、は……ごめん、だけど」

なんかしおらしいな。なに?


「……昨日と随分態度違うね。ちょっと落ち着いたの?」

「そんなとこというかなんというか……元々ああいう事言いたくなかったって言うか……」

「ごにょごにょしてて聞き取りづらい。仮にも声優でしょ?」

なんか痛いとこ突かれた顔してる。流石に顔はいいだけあってその表情も似合うなぁ


「その、ごめんなさい」

……んな事だと思った

「許さないよ」

「えっ」

「許さない。深く傷付いたし」

「謝っといてなんだけど、性格悪くない?」

「ほんとに"謝っといてなんだけど"じゃん。何?許される為に謝ってたの?」

「それは」

「謝罪は自分の非を認める為にするものじゃないの?許される為にした謝罪なんて、謝罪ではないと思うけど」

「嫌な奴」

「知ってるよ。言われ慣れた。んで、要件はそれだけ?ならもう行くけど。せっかく時間に余裕もってスタジオ来たのに、練習の時間消える」

「ごめん。分かってる。でもちょっと待って。覚悟するから」

真剣なトーンで言葉を零して彼女は深呼吸をする。

どうしてか、その姿は少しカッコよく見えた。


「私に、演技指導してください」


言葉が音を通して私の耳へ届いた瞬間、はてなマークが私の頭を埋めつくす。

なに?どういうつもり?昨日あんな事言っといて?え?手のひら返しすぎない?自己中すぎない?


「ふっつーに無理だけど……」

「え」

なに驚いた顔してんの……?


「よくよく考えてよ。あんなこと言われた翌日にそれ言われても意味わかんないから」

「それは!ほんとは、あんな事言いたかったんじゃなくて、その、自分に向けてというか」

「いやいやいや無理があるよそれは流石に」

「ほんとに悪いと思ってるの。だから!」


あ、これめんどくさいやつだ。

多分この人は私と同じでありたかったけど、時代の流れに適応するしかできなくて、私になれなかった人なんだとは思う。

でも別にそれを可哀想だとは思わない。だってそれも自分で選んだ道じゃん。

私は道を曲げるのも曲げる人も嫌いなんだ。

だから、

「何言われても無理。貴方がそう生きるって1回決断したなら、そう生きた方がいい」

「でも!」

「うるさい。お涙頂戴なんて要らないし、そんなんで動きたくない」

「それじゃ、私のこの着火した火はどこに向かうの……?」

呆れる。なにそのクサイ表現。

「知らないよ。ほっとけば勝手に消えるんじゃないの?てか、そもそも声優に限らず仕事は競争なんだよ。同業の誰かに教えてもらおうって時点で詰めが甘い。どうしても夢を捨てきれないなら今の貴方のまま、今以上の実力を付ければいいだけの話」

「そんなの、無理……今までどれだけそれで挫折したか」

「挫折なら、貴方より経験した。この役1つ取るのだって何年かかったか分からない」

「あ……」

「いいよ。どうしてもって言うなら、貴方より努力して、挫折した私が壁になったげる。私が貴方の前にいる限り、貴方は挫折を理由に辞めれないでしょ?」

「それ……は」

「これすら飲めないならもう終わり。時間も無いし行くね。じゃ、また現場で」


話としては良い感じの落とし所でしょ。

あの子は勝手に私を目標にすればいいし、私は今まで通りやるだけでいい。


「あ、そういえば後、ちゃんと調べたら私の方が先輩だったみたい。身長と知名度で判断は良くないよ」

                △▼△▼△▼△

そんなどうでもいいようで良くない捨て台詞を吐いて彼女は楽屋へ消えてった。

振られた。しかもあんなに正論で。

正直、ただただ私がアホだったとしか思えない。

そりゃどんな想いあっても私があんなこと言ったの事実だし、態度なんてクソ最悪だったじゃん?

まぁでも、そんな私にも彼女は目標くれたし、折れずに頑張って見ようかなとは思う。熱は高まったままだし


私の進む道はきっと茨だ。茨で、逃げ道なんてない最悪の道だ。

けれど進もう。果てしない壁を超えるために

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