ナンパ 〜ショートコント風〜
A「なんだよあいつ、まだ来ねえのかよ」
B「いやあ、悪い悪い。お待たせ」
A「おい、遅えよ! 今何時だと思ってんだよ!」
B「いや、ほんとごめんて」
A「おまえ、もう20分も過ぎてんぞ! いったい何やってたんだよ」
B「実は、さっき、そこの駅前でナンパされちゃってさ」
A「はあ? おまえふざけんなよ、今日は大事な話があるって昨日から言っておいただろ⁈」
B「いや、俺も待ち合わせあるからって何回も断ったんだけど、なかなか解放してくれなくてさ。いや、ほんと参ったよ」
A「何、そんなしつこく付き纏われたの?」
B「ああ、そうなんだよ。ほんとしつこいのなんのって」
A「そっか。なら、まあ仕方ないけど」
B「ああ、ほんとに。ああいうのはマジで勘弁して欲しいよな」
A「うーん。まあ、でもナンパしてもらえるだけ有難いんじゃないか? 俺なんて、ナンパされたこと一度も無いし」
B「え、そうなの? 俺なんてほぼ毎日のようにされてるよ」
A「え、マジ! おまえ、そんな頻度でされてんの?」
B「まあ、控えめに言っても週二、三くらいはあるかな」
A「すげえな、おまえ。で、どんな感じの子だった?」
B「えーと、制服を着た二人組で」
A「え、二人組? 相手は二人いたの?」
B「そうだよ。でさ。そいつらが、なんか異常に俺のカバンの中身に興味があるらしくってさ。中のもの見せてっていうから、なんか変なやつらだなあって思ったんだけど、でも、見せないと解放されないだろう? だから仕方なく、カバンの中見せることになってさ」
A「え、カバンの中を見せてって言われたの?」
B「そうなんだよ。俺のカバンの中身なんか知ってもなんもないのにな」
A「……なあ、ちょっといいか?」
B「なに? どうかしたのか」
A「おまえ、それ警察官じゃないか?」
B「え、そうだけど」
A「はあ? え、ちょっと待って! おまえ、職務質問をナンパって言ってんの?」
B「職務質問? ああ、おまえの地元ではそういう言い方するんだ」
A「いや、普通は職務質問って言うだろ。え、じゃあ、女の子に声かけられたら、おまえの地元じゃなんて言うんだよ」
B「そりゃ、ナンパだろ」
A「あ、そこは一緒なんだ」
B「そりゃあ、当たり前だろ」
A「え、じゃあさ。あそこでティッシュ配りしてる人に声かけられたらどうなる?」
B「そりゃ、ナンパにきまってんだろ」
A「やっぱりナンパなんだ! え、じゃあ、じゃあ。あの街頭演説してる人に声をかけられてもナンパされたことになるのか?」
B「ああ、そうだよ」
A「へえー、そうなんだ。え、でもそれどんな基準でそうなってるわけ? ちょっと俺、よくわからねえんだけど」
B「そんな難しいことねえよ。他人からの誘いは基本的にナンパってだけ。だから、家族や友人からの誘いはナンパにはならない。な、簡単だろ?」
A「じゃあ、今日の俺の誘いはナンパにはならないってこと?」
B「うーん。まあ、どっちかと言えばナンパになるのかもな?」
A「は? おい、なんでそうなるんだよ!」
B「でさ、ちょっと急でごめんなんだけど、今日の予定キャンセルでいいかな」
A「は? おい、なんでだよ」
B「いやあ、ちょっとデートの約束入っちゃってさ」
A「は? デート? いや、俺との約束は?」
B「昨日ナンパした子から連絡入ってさ、今から会おうってなったからさ。悪い、ごめんな」
A「いや、おまえ、ナンパした子と俺とどっちが大事なんだよ」
B「まあ、おまえには悪いんだけど、やっぱりナンパした子の方になっちゃうかな」
A「いや、だから、なんでそうなるんだよ」
B「うーん。なあ、悪いんだけど、他をあたってよ。おまえの言ってた大事な話って、マルチ商法とかネズミ講だろ? 俺、マルチ商法とかそういうの全然興味ないからさ。まあ、おまえも早いとこ足洗った方がいいと思うぞ。じゃ、そういうことだから」
A「あ、おい……」
A「あいつもダメ……と。よし、次は、こいつだな。あー、もしもし、久しぶり。元気してた?」