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王空騎士団と救国の少女~世界最速の飛翔能力者アイリス~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
第三章 特別な巨大鳥、特別な能力者

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99 オリバーの意見

 オリバーの家に着くと、伯父と伯母がテラスでお茶を楽しんでいた。


「伯父様、伯母様、こんにちは。オリバーに招集がかけられました。これから私のフェザーで東海岸まで向かいます」


 アイリスがそう告げると、オリバーの父親であるスレーター伯爵は「フェザーで行くのかい?」と心配そうな顔をしたが、母親は何度もうなずきながら喜んだ。


「オリバーが国のお役に立てるのは光栄な事だわ。よろしく頼むわね、アイリス。あ、来たわ。オリバー、お国の仕事ですってよ。よかったわねぇ」


 オリバーはいつもの通り無表情だ。


「アイリス、東海岸でなにが起きたんだい?」

「超大型のバッタが海岸に打ち上げられたの。しかも生きている個体が飛んで逃げたそうよ」


 オリバーの目が輝いた。「わかった」とだけ言うと部屋に走って行く。オリバーの母が「あの子が走るなんて珍しいわね、あなた」と言い、スレーター伯爵は「初めて見たような気がするぞ」と驚いている。

 オリバーがまた走って戻ってきた。背中には小ぶりなリュックを背負っていた。地面に置かれたアイリスのフェザーを見て、言われる前にそこに乗るオリバー。


「アイリス、僕はいつでも出発できるよ」

「伯父様、伯母様、ではオリバーをお借りします」

「頼むわねアイリス。行ってらっしゃいオリバー、頑張るのよ」

「言われなくても……あっ、アイリス、ちょっと待って。これを巻くから」


 オリバーはそう言うと首に巻いていたスカーフで顔をすっぽりと覆うように巻き直した。


「それじゃ何も見えないでしょ? 余計に怖くなるんじゃないの?」

「上空からの景色が見えても恐怖心が増すだけで僕には利点がないし、万が一フェザーから落下しても、僕には対処する手立てがない。全てをアイリスに任せるしかないなら、視界を遮りつつ目や鼻を守れるこの方法がいい、と最近気がついて…」

「あー、うん、わかった。じゃ、出発するわね」


 アイリスは苦笑しながらオリバーをフェザーの後ろに乗せた状態で浮上した。いったん屋敷の屋根の高さで停止してから、一気に加速する。

 急加速されてガクンと頭をのけぞらしたオリバーは、(次にアイリスのフェザーに乗るときは、首を保護するものも用意しておくべきだな)と考えつつアイリスにしがみついている。

 飛び続けて十分ほど。アイリスが話しかけた。


「そろそろ王空騎士団のみんなが見つかるはずよ」

「わかった」


 アイリスが飛んでいる高さは高度百メートル。だいたいの見当だが、毎日「百で移動」「五十で移動」と言われながら飛び続けていると、見える景色でおよその高度がわかる。


 やがて前方に飛んでいる男たちの集団を見つけた。


「いた! オリバー、加速するからしっかりつかまっていてね」

「僕はいつだってしっかりつかまっているよ」

「うふふ」


 ギュンッ! と速度を上げたアイリスが仲間に合流し、王空騎士団は東海岸を目指して飛び続ける。風圧を軽減して飛ぶため、集団は矢の形で飛んでいる。先頭の団員が疲れて下がり始めると近くの団員がスッと前に出て、そこからまた矢印の形になる。言葉でも仕草でもやり取りは一切ない。全て阿吽の呼吸だ。


 高速で飛び続けること数時間。集団は速度を落とし、やがて上空百メートルで停止した。ギャズが皆を見回して大きな声を出した。


「ここから三人一組になって散開する。全ての集落に『王命により、超大型バッタを見つけ次第処分せよ』と周知すること。アルト、オリバー、なにか言っておくべきことはあるか?」


 オリバーがアイリスにしがみついたまま「あります!」と声を張り上げた。それから顔を覆っていたスカーフを急いで顎まで引っ張り下ろした。


「バッタの産卵は夏の終わりから秋の初めです。まさに今です! 卵を産みつけられたら、春には何十倍にも増えてしまいます。とにかく今! 今、始末しなければなりません。植物の生えているところを重点的に探してください!」

「アルト、君の意見は?」

「オリバーの言う通り、チャンスがあるとすれば今です!」


 ギャズが剣を高く掲げる。


「聞いたな? 全員、集落の農民たちに周知するだけでなく、見つけ次第バッタを始末しろ! 散開!」


 王空騎士団員たちが視線だけで素早く三人ずつチームを組み、散っていく。アイリスはオリバー、サイモン、ヒロの四人でチームを作った。ヒロがオリバーに尋ねる。


「オリバー、まずどこを目指す?」

「そうですね……あの集落から行きましょう。近くに小麦畑があります。そっちも確認すべきです」

「よぉし、行くぞ!」


 サイモンを先頭にしてアイリス、ヒロの順に急降下する。オリバーは再びマスクを引っ張り上げようとしたが間に合わず、目を閉じたままアイリスにしがみついた。

 一番近い集落で農民に声をかけて回ったが、全員首を振る。


「超大型のバッタですか? いや、俺は見ていない。見つけたらすぐに殺せばいいんですね?」

「そうだ。卵を産みつけられたら、このあたりの作物は食べ尽くされてしまう。餓死者が出かねない」


 きょとんとしていた農民たちも、やっと事態の深刻さに気がついた。


「わかりました。村長にも知らせてきます。陛下のお触れなら、子供らも使って探させますんで」

「頼んだ。俺たちはあっちの草原を探しているから、もしバッタを見つけたら狼煙のろしで知らせてくれ」

「承知いたしました」


 その日、団員たちは草むらや畑に入り込んで超大型バッタを探しまくった。しばらくすれば軍隊もやって来るが、たとえ一匹でも見逃せばどんどん増えると思うと、村人も団員たちも必死だった。

 日が暮れて「本日はここまで」とされた時点で、地面にいるのを見つけられ始末されたのは五匹。飛んで逃げたのをフェザーで追いかけて斬り伏せられたのが三匹。合計わずか八匹である。

 

 夜、王空騎士団は分散して近隣の集落に宿泊した。たいていは村長の家で、なかなか会うことも会話することもできない飛翔能力者の集団は歓迎され、宴会が開かれた。

 まだ十五歳のアイリスとサイモン、十四歳のオリバーは食事だけ済ませて宴会には参加せず、村長の家の庭の石垣に座って話をしていた。


「どうしたの、オリバー。沈んでいるじゃない?」

「さっき、始末されたバッタを全部確認したんだけど、手遅れだった」

「なにがだい? 僕にもわかるように教えてくれるか?」


 オリバーは月明かりの中で、落ちている木の枝を拾い上げると地面に絵を描いた。


「後ろから見てこっちがメスの尻、こっちがオスの尻だ。産卵孔の線が縦に入っているのがメス。今日見つかった八匹の内、五匹がメスだった。腹が空っぽだった。この時期にからっぽってことは、もう卵は産み終わっていたってことだよ」


 アイリスが「うわ」とつぶやき、サイモンは無言のまま唇を噛んだ。


「産卵した穴を探すのはまず無理。春にバッタの形をした羽のない幼虫が地上に現れる。それが超大型バッタとなって僕たちが目にするのは、来年の夏以降だ」

「オリバー、僕たちができることは?」

「ないよ。見つけ次第始末するくらいだけど、人間が特定の虫を殲滅させることなんて、僕はできないと思う」



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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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