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王空騎士団と救国の少女~世界最速の飛翔能力者アイリス~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
第三章 特別な巨大鳥、特別な能力者

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90 暗闇の中にいたのは

 自ら切ったオリバーの二つ目の傷は、一時間もしないうちにくっついた。その合間にもオリバーは何度も黒い塊を溶かした赤い水を傷口に塗る。

 カミーユがその様子を見ながら今後の計画について話を始めた。


「もしこれが一羽につき一個ずつ排出されるのなら、この島には七百個から八百個の同じ塊があるはずだ。若い個体や老いた個体は期待できないとしても三百や四百はあるはず。とんでもない宝の山だな」

「ですが副団長、この先長期間オリバーの様子をしっかり見ておかないと。思いがけない変化があるかもしれませんよ」

「そうだな。マイケルの言う通りだ。この先オリバーは体調の変化に気をつけてくれ。何かあったら、必ず報告してほしい」

「わかりました」


 オリバーはいつになく素直だ。動物学者のアルトは黒い塊を手にしげしげと眺めながらつぶやいた。


「この塊が溶けてできる赤い色は血液由来なんだろうか。胆汁ってこともありえるか? どういう機序でこの塊ができるんだろう。巨大鳥ダリオンの解剖ができればわかるかもしれないが、そんなことはできないからなあ」


 クレイグ医師は無言で考え込んでいる。サイモンがクレイグに話しかけた。


「クレイグ先生、なにか心配なことでもあるんですか?」

「心配というより不安だな。こんな強い回復作用があると知ったら、マウロワ王国が黙っていないだろう。この島を占領するんじゃないか? 戦場にこれがあれば、兵士は傷ついてもすぐに回復してまた戦える。兵士は人数の何倍もの戦闘ができる」


 焚火の周囲に集まっている全員口を閉じた。

 それでなくとも強大な軍を持っているマウロワが、この塊を手に入れたら……。


「世界はマウロワの手に落ちるだろうな」

「父上。それだけは避けたいです」

「この塊のことは当分極秘扱いにしよう。皆、約束してくれるかね?」


 全員がうなずいた。

 

「では今夜は交代で見張りをして、明日は巨大鳥ダリオンの食卓を探そう」


 二つのテントに分かれて入り、交代で見張りを務めた。アイリスはやらなくていいと言われたが、「私も数に入れてください」と粘って焚火を絶やさないよう枯れ枝をつぎ足しながら見張りを務めた。

 サイモンが心配して途中でやってきて、二人で焚火の前に並んで座る。


「サイモン、なんだか大変なことになったわね」

「そうだね。アイリスが巨大鳥ダリオン島に行きたいと言ったときは、島を見物して帰るだけだろうと思っていたけど」

「私も。美味しい果物がまだ見つからないのが残念だわ。ルルは今頃何をしているのかしらね」

「どうしてるかなあ。繁殖するのだろうか」

「ルルは体こそ大きいけれど、まだ生まれて一年足らず。人間で言ったら私と同じような年齢じゃないのかな。ルルにツガイはいるのかしら。そもそもあの子はオスかメスかもわからないけど」


 背後から声がした。


「メスだと思うよ。ワシはメスのほうが体が大きいんだ。おそらく巨大鳥ダリオンも同じじゃないかな」

「アルトさん!」

「白首が他より飛び抜けて大きいのなら、メスだと思うな」

「そうですか。女の子なんですね。いつも私に甘えて鳴くルルが、これから卵を産んで雛を育てるのかしら」


 アルトが興味のありそうな顔で聞いてきた。


「甘えて鳴くって、どんなふうに?」

「こんなふうにです『クルルルル』って」


 するとまた新たな声が。テントから出てきたマイケルだ。


「上手だね。そっくりだ」

「マイケルさん、眠れないんですか?」

「まだ早い時間だからね。僕は夜型なんだ。それにしてもアイリスは鳴き真似が上手い。僕も何度か聞いたけど、あのゴツイ体で可愛らしく鳴くから驚いたよ。さあ、ここから先は僕が見張りをする。朝になったら一日中あの黒い塊を探すことになるんだから、アイリスもサイモンも、もう眠ったほうがいい。アルトさんも眠ってください」


 三人は大人しくテントに入った。

 翌朝は朝食後すぐにフェザーで飛び立った。地面を歩く側の参加者は全員剣の腕がない。例外のガルソン伯爵は剣の心得はあるものの、もう六十歳近い。だから全員がフェザーに二人乗りだ。


「おそらく巨大鳥ダリオンの縄張りは広い。我々は横一列に広がりつつ、島の南を目指して進もう」


 カミーユの指示で四機のフェザーは南を目指した。グラスフィールド島よりおおよそ千キロ南に位置するこの島は、春とはいえすでに日差しが強い。ジリジリ照り付ける光の中を飛び続けた。もう一時間以上は飛んでいる。


「ねえサイモン、僕を乗せて飛んで、重くないかい?」

「大丈夫ですよ、クレイグ医師」

「私は今日はなんとしてもあの黒い塊をできるだけたくさん採取したい。あれがあれば多くの怪我人を救える」

「そうですね。まずは骨の山を探しましょう」


 アイリスはアルトを乗せている。アルトは無言で下を見ていたが「あ、アイリス、あそこを見て!」と声を上げた。アイリスがすぐに声を張り上げた。


「副団長! 骨の山を発見しました!」


 カミーユがピュウイッと指笛を鳴らし、四機がスッと集まった。マイケルがオリバーを乗せて先頭になり、ゆっくり旋回しながら周囲を確認してから着地した。

 次々と他のフェザーも着地したが、アイリスはアルトを下ろすと上空に戻った。見張り役だ。

 

「あったぞ!」


 カミーユの声に全員が集まり、その手元を覗き込んでいる。サイモンが手招きするのでアイリスも下りて手元を見ると、昨日見つけた物よりひと回り大きな黒い卵のような塊。


「やりましたね! 副団長」

「そうだな、マイケル。さあ、すぐに次を探そう」

「はい!」


 そしてその日、日没までに黒い塊は合計三個見つかった。拠点に戻ってきた全員の表情が明るい。カミーユの声も明るい。


「二日間で四個か。のこり八日間でできるだけ集めたいものだ」


 アイリスの隣からアルトが話しかけてきた。


巨大鳥ダリオンの縄張りは広い。飛翔能力者がいなかったら、一個だって見つかったかどうか」

「そうですね。徒歩で捜していたら、最初の一個にたどり着くまで、何か月もかかったかもしれませんね」


 焚火の周囲で簡単な野外食を食べながらそんな会話をしているとき、サイモンが「しっ!」と言いながら立ち上がり、剣に手をかけた。同時にマイケル、カミーユも立ち上がる。

 アイリスは四人の非能力者に声をかけた。


「私のフェザーに乗ってください。なるべくくっついて乗れば乗れます。高い場所に移動します」


 アイリスの前にオリバーとガルソン伯爵、背後にアルトとクレイグを乗せて、アイリスは急いで高い位置まで飛び上がった。

 大木の枝に近寄り、停止する。


「この枝に下りてください。落ちないよう、動かないで」

「アイリスはどうするつもり?」

「大丈夫よオリバー。私は剣の腕はないけれど、なにかしら役に立てる。じゃ!」


 アイリスは暗い森の中を見透かすようにしながら、ゆっくりと下降した。


「いた! 大型の猫みたいな獣がいます!」


 木々の間に溶け込むかのように、真っ黒で大型の猫のような動物。


「あれって……」


 子牛ほどもある黒ヒョウだった。


「二時の方向に黒ヒョウです! すごく大きい!」


 気づかれたことを理解したのか、黒ヒョウがサイモンたちに向かって走り出した。



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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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