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88 島にあふれていたのは

「これは……。カミーユ、巨大鳥ダリオン島がこのような土地だったとは」

「私も想像もしませんでした、父上」


 島中にあふれているのは命。

 上空から見てもわかるほどの命の奔流だ。

 濃い緑の多種多様な木々が川を中心に広がっている。互いに太陽の光を求めて上に伸び、グラスフィールドではなかなか見ないような背の高い木がぎっしり生えている。


 樹木には大小さまざまの鳥たちが巣を作り雛を育てているのだろう。餌を求めて鳴き続ける雛の声が賑やかに聞こえてくる。

 空を移動するアイリスたちを見て、「キャアッキャッキャッ!」と警戒を促すサルたちの声が、鬱蒼とした森の中を伝わり広がっていく。

 深い森を抜けるまで飛び進むと、次は広大な草原が見えてきた。

 草原では鹿やひらツノうしの子連れの大集団が移動しながら草を食んでいた。

 ゆったり流れる川では産卵する魚たちがあちこちでバシャバシャと飛沫を跳ね上げている。


「おそらくネズミやウサギも繁殖行動中だろう。多種多様な動物たちが子供を生み育てているはずだ。この島では、巨大鳥ダリオンがいない間に大急ぎで繁殖する仕組みが出来上がっていると考える! 今はまだすべてが推測だけどね!」

「僕もそう思います! 巨大鳥ダリオンが君臨するこの地では、しゅを存続させるためにはそれが一番効率がいいはず!」


 動物学者のアルトがサイモンのフェザーの後部から声を張り上げ、オリバーはカミーユの前からアルトに返す。それを聞いたマイケルが苦笑しながら背後に乗っているクレイグ医師を振り返った。


「学者さんはせっかちですねえ。まずは地面に下りてからにすればいいのに」

「彼らは興味ある対象を目にすると我を忘れる生き物だから。仕方ないよ」


 マイケルとクレイグがそんな会話をしている脇を、山のような物資をフェザーにぶら下げながら、アイリスが高速で追い越していく。数百キロはありそうな大量の荷物が後ろになびいている。

 それを見送ってマイケルが「ぷっ。もう、本当にアイリスの飛翔力は化け物じみてる」と笑う。


「うわー! うわー! きれいな所ですねえ! もっとこう、殺伐としてる場所だと思っていましたよ!」

「アイリス待って! 君は先頭じゃないほうがいい! 万が一巨大鳥ダリオンが出てきたら、その状態じゃ危ないよ」

「あっ、そうだった。ごめんね、サイモン」

「それと、縄が切れたらシャレにならない」

「う、うん。そうね。そうだったわ」


 アイリスが最後尾に戻った。カミーユが上空で一時停止し、地上を見渡す。小高い丘を指さして背後を振り返った。


「拠点はあの丘の上にしよう!」

「了解!」


 三機のフェザーが丘の周囲を一周してから岩の多い地面に着地した。最後にアイリスが静かに荷物を地面に下して着地する。誰も何も指示を出さないが、全員が一斉に動いてテントを張り、木箱を開けて並べている。

 アイリスは手際よく火をおこして焚火を燃え上がらせた。唯一仕事をしそびれているのはオリバー。


「サイモン。僕もなにか仕事をしたいんだけど、なにをしたらいいかわからないんだ」

「じゃあ、なたで茂みを払ってくれる? 我々や食べ物の匂いにつられて大型の獣が来たら困るから、周囲を見通せるようにしたい。鉈を使ったことあるかい?」

「ないけど、できると思う」


 オリバーは不器用に茂みを払い始めた。それを見たアイリスは心底驚いた。研究以外は全て使用人任せで生きてきたオリバーが、自ら雑用をこなしている。


「オリバーは変わったわね」


 アイリスがそうつぶやいてから枯れ枝を探しにその場を離れると、マイケルがサイモンを意味ありげな顔で見る。


「なんですか」


 少々ムッとしてサイモンが問いただすと、マイケルがニヤニヤしながら答える。


「よかったねえ、君の恋人が鈍感な人で。幼なじみなんて、ライバルとしては最強だからね。彼女、僕のアプローチにも全く気づかなかったっけ」

「なっ!」

「ああ、僕ならもうその気はないよ。サイモンは騎士団に入ったらトップファイター間違いなしだからな。仕事で組む相手に嫌われたくない。高い場所で何かされたくないよ」

「僕は仕事でそんな卑劣なことはしません!」

「だろうね。でも嫉妬は人を変えるものだ」

「そもそもアイリスはあなたになびいたりしません!」


 マイケルは「はいはい。それはよくわかってるよ」と笑いながらフェザーで飛びあがり、見張りを始めた。


 テントの設営が終わり、全員で出かけることになった。

 二人乗りでフェザーに乗った八人は、森の中をゆっくりと進む。アイリスは動物学者アルトを後ろに乗せて飛びながら話しかけた。


「全員で出かけてしまって、テントの食料を荒らされませんかね」

「僕が持参したオオカミの尿を周囲に撒いておいたから、大丈夫だと思う」

「へええええ! オオカミの尿にそんな使い方があるなんて」


 地上二メートルほどを保ちながら、四機のフェザーはゆっくり移動している。ゆっくりとはいえ、枝やツタを払いながら歩くのに比べたらはるかに速い。二人乗りのフェザーは互いに会話ができる距離で飛んでいる。

 二時間ほど飛び、いったん小休止になった。大木の枝の上に腰かけての休憩だ。


「命が豊かだという以外、これといって変わったところはない、かな」とガルソン伯爵。

「美味しそうな果物が見つかりませんでした」とアイリス。

「今まで誰もここに来たことがないというのが不思議です」とサイモン。

「みんな命は惜しいし、全部徒歩じゃ気が遠くなる広さだし」とマイケル。

「僕は歩いてみたいんですが、危険すぎますか?」とオリバー。


 アルトがそれに同意した。


「私も歩いてみたい。地表をじっくり見てみたいんだ」

「いいだろう。アイリス、君は少し上から周辺を見張りながら移動してくれるか? マイケルとサイモンは剣をいつでも使えるようにしておけ」


 こうして小休止のあとは徒歩移動になった。そして半日かけて周辺を調べながら歩いているときに、その場所が見つかった。見つけたのはアイリスだ。


「十時の方向に、白い物が積み重なっている場所があります!」


 すぐに全員がアイリスの見つけた場所へと進み、動物学者アルトとオリバーが積み重なっている物を見て興奮した。白い小山は全て動物の骨だった。


「ここは、巨大鳥ダリオンの食卓だ!」とオリバー。

「動物の骨の山と鳥類の糞と巨大鳥ダリオンの羽。間違いないな。この広い島に点在しているはずの巨大鳥ダリオンの食卓に出会えるなんて、運がいいぞ」とアルト。

「あの枝が重なり合っている場所で食べていたんだな」と上を見上げるカミーユ。


 オリバーとアルトは忙しく動き回り、あたりを調べている。

 ガルソン伯爵がおっとりと声をあげたのは、しばらくしてからだ。


巨大鳥ダリオンふんはいい肥料になるんだが、さすがにここまで採りに来るのでは採算が取れないな。王都の森に落ちる巨大鳥ダリオンの糞は高値で取引されるのに、もったいないことだ」


 巨大鳥ダリオンの糞と聞いてオリバーが駆け付ける。


「手つかずの巨大鳥ダリオンの糞! 幸運だ。王都の森では肥料業者がすぐに奪い合いをするから、僕は落ちている状態では見たこともないのに! ん? これは……なんだろう。ずっしり重い」

「なあに、オリバー。何を見つけたの?」


 アイリスが下りてオリバーの手元を覗き込む。

 手袋をしたオリバーが持っているのは、長さニ十センチ、横幅十五センチほどの、楕円形で黒い卵のような物体。卵ほど滑らかではなく、表面には多少の歪みがある。


「糞が少しついているから、巨大鳥ダリオンが排泄したものかな?」


 アルトが駆け寄ってきて、オリバーから黒い塊を受け取り、まじまじと眺める。コンコンと指の関節で黒い塊を叩いた


巨大鳥ダリオンの森では長年にわたって糞が採取されていているが、こんな塊の話は聞いたことがない。かなり硬いな。他にもあるかもしれない。探そう! みんな手伝ってくれ」


 アルトは興奮した様子。それから全員で周囲を探したが、落ちていたのはそれ一個のみだった。

 八人はその後も場所を移動しながら探索を続け、夕方になった。黒い塊以外はこれといった収穫がないままテントのある拠点へと引き返した。

 

 黒い塊の価値は、意外なことから判明する。



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