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87 船旅

 打ち合わせから一週間後、グラスフィールド島南端の港に四人の飛翔能力者が降り立った。

 アイリス、サイモン、マイケル、カミーユである。

 港にはカミーユ・ガルソンの父エンデン・ガルソン伯爵所有の船が停泊していた。


「大きな船!」

「うちの領地は海辺だからね。物資の輸送に船は必需品だ。この船を見るのは俺も久々だ。懐かしいよ」


 船の大きさに驚いているアイリスに、カミーユが嬉しそうに説明してくれた。

 船から桟橋にタラップが渡され、水と食糧が次々と運び込まれている。全員がフェザーに乗って船に乗り込むと、甲板で非飛翔能力者の四人が待っていた。


 カミーユの父エンデン・ガルソン伯爵、オリバー、医者のクレイグ、動物学者アルトの四人だ。ガルソン伯爵が笑顔で出迎えてくれた。


「ようこそ我がガルソン号へ。ここからの船旅の間に、探検の打ち合わせをしよう」


 カミーユが中心になって探検のスケジュールやルールが説明され、それぞれが自分の役割を把握した。アイリスは物資の輸送、マイケル、サイモン、カミーユは護衛役だ。


 帆船は風に恵まれ、南南西に位置する巨大鳥ダリオン島へと快調に進む。

 飛翔能力者は誰も酔わなかったが、オリバーと医者と動物学者は船酔いに苦しんだ。三人ともなにも食べられないでいる。


 三十歳の医師クレイグは濃い茶色の髪を一本に縛っていて、黒い瞳が聡明そうな男性。顔は真っ青だ。

 動物学者のアルトは四十歳。金色の髪に青い瞳で、やはり顔色は悪い。そのアルトがハァハァと荒い呼吸をしながら食事中の飛翔能力者たちを眺めている。特にアイリスを。


「なんでしょう? アルトさん」

「アイリス、肉は美味しいかい?」

「はい! 上等な柔らかいお肉ですよ。ひと口だけでも召し上がればいいのに」


 それを聞いてアルトは食事を諦めて床に横になった。「うん、床に転がっているのが一番楽だ」とつぶやいている。それを見たクレイグが苦笑しながら話しかけた。


「アルト、飛翔能力者はこの程度では酔わないんですよ。幼いころから空中で姿勢を保って飛べる人たちですからね」

「ああ、僕たちとは年季が違うってやつか、ドクタークレイグ」

「陸に上がれば元気になります。あと三週間ほどの辛抱です」


 三週間と聞いてアルトは「長い」とつぶやいて目をつぶった。

 海は一日ごとに色を変えている。濃い青から鮮やかな青へ。そしてさらに明るい青に変わっていく。海面にはイルカの群れが頻繁に見られるようになった。


「暖かいわねサイモン。まだ二月だというのに、まるで初夏みたい」

「そうだね。巨大鳥ダリオン島はもっと気温が高いんだろうね」

「楽しみ。美味しい果物とか実っているかしら」

「う、うん。そうだね。僕は見たことがないような猛獣がいないことを祈ってるよ」

「あっ、そうね。まずは飛べない人たちを守らなきゃよね」


 二人の会話を聞いているマイケルが真面目な顔で参加してきた。


「まあ、なにかあったら上空に飛び上がればいいさ。僕は巨大鳥ダリオンが残っていないことを祈っているよ」

「マイケルさんがこの探検に参加したのはなぜですか?」


 アイリスはずっとそれを聞いてみたかった。マイケルは整った顔に笑みを浮かべて即答する。


「飛翔力があるうちに来てみたいからさ。年を取ったり怪我をして脚を片方失ったりすれば、僕たちは飛べなくなる。そうならないうちに巨大鳥ダリオン島を見たかった。サイモンは無事に飛べるまで回復したけれど、あのレベルの怪我で飛べなくなる人もいるらしいからね」

「僕は幸運でしたね」

「その傷が残っても幸運といえるサイモンはすごいよ。それでね、他の騎士団員は巨大鳥ダリオン島には行きたくなかったらしい。僕が聞く限りでは、『空賊退治のほうがよほどいい』とみんな言っていた」


 アイリスとサイモンは黙り込んだ。


(そうよね。みんな、仕事だから巨大鳥ダリオンの前に出るのよね。私は……広い世界を見てみたい。とにかく遠くまで飛んでみたい。それがなぜかは自分でもわからないけど)


 考え込むアイリスをマイケルが見ている。

 マイケルは自分が伝説的な飛翔能力者と同じ時代に生まれたことも、その当人と一緒に冒険の旅に出られることも幸運だと思っている。


(アイリスは間違いなく何百年先、千年先にも記録が残る飛翔能力者だ。本人にその自覚はないようだけど)


 三週間の船旅は順調に進み、やがて前方に巨大鳥ダリオン島が見えてきた。


巨大鳥ダリオン島が見えるぞ!」


 カミーユの大声を聞いて、三週間でげっそりやつれたクレイグとアルトも船室から甲板に飛び出してきた。


「やっとだ……」


 オリバーは青い顔で壁を伝いながら出てきた。

 ここで誰が誰のフェザーに乗るかをカミーユが指示したが、アイリスの名前がない。


「副団長、私は?」

「ああ、悪いがアイリスは食料と水を運んでくれるか?」

「はいっ! 了解です!」


 アイリスは躊躇なく引き受けるが、甲板に積み上げられた木箱は小山のようだ。


「まさか、あれをこの少女一人で運べと?」とクレイグ。

「王空騎士団は女性を酷使する組織なんだね」とアルト。

 二人が非難がましい目つきでカミーユを見るからカミーユが苦笑する。


「誤解があるようだが、王空騎士団は性別も年齢も関係ない。実力主義だ。このなかではアイリスが飛び抜けて飛翔力の量が多いんだ。では分担して出発するぞ」


 カミーユが父親を、マイケルがオリバーとクレイグを、サイモンがアルトを乗せて甲板から浮かび上がる。そしてアイリスは山のような荷物を網に入れ、ぶら下げながら浮かび上がった。


「島まで出発!」


 カミーユの号令で全員がふわりと浮かび上がる。アイリスも。アイリスがニコニコしながら浮かんでいるのを見て、アルトが「信じられない」と言いながら首を振った。

 島の沖に停泊している船から八人が島を目指して移動した。まずは拠点になりそうな場所を見つけることからだ。

 




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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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