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王空騎士団と救国の少女~世界最速の飛翔能力者アイリス~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
第三章 特別な巨大鳥、特別な能力者

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82 空賊討伐団

 日の出と共にアオリ村の漁港に数十の漁船が姿を現した。

 小さな漁村と農村しかない地区の周辺には、国境空域警備隊が存在しない。漁団は止められることもなく、悠々と港に入ってきた。

 集落の人々は見慣れない船団が入港してくるのに驚いた。


「今は渡りの最中だというのに、どこから来た?」

「見慣れぬ船だな。夜の間も航行してきたのか?」


 王都からかなり距離があるとはいえ、アオリ村でも渡りの期間は日中の外出を極力控えている。村の人々は驚き怪しんだ。恐る恐る家から出て男たちが船団を見ていると、全ての船が港に入ったところでドラの音が打ち鳴らされた。

 そのとたん、蜂の巣から蜂が出てくるように、全ての船からフェザーに乗った飛翔能力者が飛び出してきた。

 初めて王空騎士団以外の飛翔能力者を見た人々は呆気にとられ、対応が遅れた。


「あれは……どういうことだ?」

「フェザーの形がまちまちな上に制服も着ていない」

「なんだか柄が悪くないか?」


 漁村の人々が理解できないでいるうちに飛翔能力者たちは村に到着し、あっという間に女性と子供を捕まえ始めた。剣を振り回しながら飛ぶ男たちに、村の男たちは全く歯向かうことができない。


「きゃああああっ!」

「助けてっ!」

「お母さんっ!」

「やめてええっ!」


 村は女性と子供たちの悲鳴、男たちの怒号が飛び交い大混乱となった。

 村長のラベークは妻と息子を非常時に使う床下の抜け穴に入れ、十四歳の息子に役目を与えた。


「どうやらあれは他国の飛翔能力者のようだ。顔つきも言葉も違う。いいか、ギーウ、隣村まで走れ。なるべく空から見えないように木があるところを走るんだ。そして隣村にこのことを知らせろ」

「わかりました。父さん、母さん、どうか無事で!」


 ギーウは穴の中を四つん這いで進み、家の周囲に生えている松林の出口から出た。


(空を飛ぶ敵に見つかれば殺される)


 恐怖と使命感に心を乱しながら、ギーウ少年は林の中を走り続けた。

 やがて松林が途切れた街道に出ると、上に敵がいないかを見る時間も惜しんで走り続ける。

 隣村の村長は、汗だくで飛び込んできたギーウの報告に驚き、信じていいものかと悩んだ。


「ギーウ、本当だな? 冗談でしたなど後から申し立てても、何年も牢屋に入れられてしまう話だぞ?」

「嘘じゃありません! 漁船の中から大勢の飛翔能力者が飛んできて村を攻めたんです! みんな剣を持ってました! どうかうちの村を助けてください!」


(これは本当だな)と判断した村長は、狼煙のろしを上げ、自ら早鐘を打った。一番近い国境空域警備隊の支部にも早馬を送る。

『見知らぬ漁船が数十、アオリ村の港に入り、そこから飛翔能力者が百人以上も現れ、村人を襲っている』


 知らせを受け取った国境空域警備隊の南西支部は、アオリ村に向けて総勢十名のうち九人を出動させた。支部から遠い王空騎士団と王国軍にも連絡の使者を一名送り出した。

 

 その頃、アオリ村に入った空賊たちは、女子供を人質にして家の中に閉じ込め、男たちを村の広場に集めて縛り、くつろいでいた。


「大人しく言うことを聞けば、誰も殺さねえ! まずは水と食い物を出せ! 金目の物もだ!」


 妻子を人質にされた男たちは抵抗を諦め、全員が仕方なく大人しくしている。縛り上げた村の男たちを交代で見張りながら、空賊たちは「うまくいった」と笑っている。

 縛られたまま、村の男たちはひそひそと言葉を交わした。


「あいつら、何が目的だ? さっさと金目の物を奪って逃げるのが普通だろ?」

「何かを待っているような……でも何を?」

「女子共に暴力を振るうようなら、俺は暴れるぞ。こんな縄、協力し合えばどうにでもなるだろう」

「やめとけ。フェザーに乗って剣を振り回されたら、俺たちは誰も敵わねえよ」


 村の男たちがヒソヒソ話をしているのを見て、空賊の首領ギヨムが大きな声を出した。


『俺たちは女の飛翔能力者と金目の物を手に入れたらすぐに引き揚げる! それだけだ』


 しかし言葉が全く通じない。村人は困惑した。


「なんて言ったんだ?」

「わからん」


 言葉が通じない空賊たちは勝手に村の家から金目の物を略奪し、女性たちを使って食べ物を用意させて休憩している。


「久しぶりの陸地はいいなあ」

「揺れないってだけでありがてえ」


 はしゃいでいる部下たちを眺めながら、首領のギヨムは暗い眼差しでつぶやいた。


「さあ、王空騎士団でも軍隊でもやって来やがれ。俺たちを攻撃するなら、女子供は全員皆殺しだ。飛翔能力者の女一人と村人二百人、どっちを取るかは馬鹿でもわかる計算だ」


・・・・・

 

 国境空域警備隊からの一報を受けて、王空騎士団は殺気立った。 

 軍務大臣のダニエル、王空騎士団長のウィル、副団長のカミーユが話し合いをしていた。


巨大鳥ダリオンが来ている以上、我々王空騎士団は全員でアオリ村に向かうことはできない。伝えられた情報では、空賊の数は百名以上だそうだ。支部の国境空域警備隊はわずか十人。突入は我々が合流するまで待つはずです」

「団長、我が王国軍と王空騎士団が共闘すれば制圧できるでしょう」


 そこで副団長のカミーユが会話に参加した。


「日が落ちるのを待って出るにしても、王国軍は馬ですから、到着が遅れますね」


 ダニエルがうなずいた。


「そこは足並みを揃えてくれ。王国軍を八百名、日没と同時にアオリ村に出発させる。王空騎士団からは何人が?」

「五十名をアオリ村に行かせます」

「私はやつらを全滅させるつもりだが、万が一があるのが戦闘だ。通訳も連れていこう。空賊はほぼマウロワ語だ。軍のほうでマウロワ語ができる通訳を一人手配しよう」


 こうして王国軍八百名、王空騎士団五十名が夜を待って出発することになった。

 ここで軍が通訳者にあたりをつけて使者を出したが、貴族や学者は軒並みよい返事をしない。自ら応募してきたのは、父親に招集がかけられたオリバー・スレーターただ一人だった。

 軍務大臣のダニエルは、報告に来た部下に、怪訝そうな顔で尋ねる。


「オリバー・スレーター? スレーター家の令息か?」

「はい。まだ十四歳ながら問題なく通訳ができるそうです」

「十四? なんでまた……」

「渡りの最中の上、相手が剣を振り回す無法者の飛翔能力者集団と聞いて、学者たちは全員尻込みしておりまして」


 ダニエルはため息をついた。


「他国に飛翔能力者がいることさえ知らなかった上に空賊だからな。学者が怯えるのも仕方ないか。それにしても十四歳か……。まあいい、通訳ができるなら問題はない。学院に確認してくれ。連れて行って使えなかったら困る」

「それはもう調べてあります。フォード学院の入学試験で満点を取って入学したものの、学院に通っていない天才少年でした。マウロワ語に関しては学者である父親から『全く問題なく会話できる』と確認を取りました」

「天才少年か……。現場で怯えないといいが」


 一方、王空騎士団でウィルとカミーユがアオリ村での作戦を話し合っていると、ドアをノックする音。入ってきたのはアイリスとサイモンである。


「なんだ?」

「団長、僕とアイリスを空賊討伐に行かせてください。僕たちは空賊との戦闘経験があります。人手が足りない時に、役に立ちたいのです」

「私もサイモンと同じ理由です。空賊たちと戦わせてください。私がやつらを地面に叩き落とします。その後は王国軍が捕えてくれればいいかと思います」


 わずかな時間ウィルが考え込み、結論を出した。


「サイモンは同行せよ。アイリスはだめだ。白首がお前に懐いていることは、今後の巨大鳥ダリオン対策に大きな影響を与える。アイリスは残れ」


 サイモンは選ばれたことに目を輝かせたが、アイリスはがっかりした。だが団長の決断は絶対である。


 こうしてオリバーとサイモンが参加した空賊討伐団は、暗い中、アオリ村へと出発した。


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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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