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王空騎士団と救国の少女~世界最速の飛翔能力者アイリス~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
第二章 王国の秘密

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77 裏切り

 広場の上空は、誰も見たことのない光景が繰り広げられている。

 空には辺りが暗く感じるほどの巨大鳥ダリオンの群れ。おそらく全ての個体がここに集結している。彼らの鳴き声は恐怖を感じさせるほどの音量となり、今も途絶えることなく続いている。


 巨大鳥ダリオンは興奮し、ギャアギャアと叫びながら広場の上空で乱舞している。

 彼らを見慣れている騎士団員たちも、こんな景色を見るのは初めてだ。誰もが言葉を失って群れの動きを見上げている。


 矢が刺さった巨大鳥ダリオンは、仲間が駆け付けてからは叫ぶのをやめている。仲間に合流しようとして何度も飛び立とうとするが、地面を蹴る力が足りないからか、バランスを崩して転がるばかりで飛び立てないでいる。


 一方、最初の叫びで落下した者のうち、石畳に叩きつけられるように落下したファイターは、ベンチであおむけに横たわり、脂汗をかいている。顔色が青い。彼には訓練生の指導係のエリックが付き添っている。


 飛翔能力者が百二十人以上詰め込まれているにもかかわらず、誰一人として声を出す者はいない。その中でウィルの声が響いた。外の猛烈な騒ぎに負けないよう、ウィルは大きな声を出した。


「エリック! ジミーの怪我の状態は?」

「左脛骨と左上腕骨、左鎖骨、左の肋骨複数本、骨折しています。脛骨と上腕骨は複数個所、骨折していると思われます」

「引き続き注意して見ていてくれ。容体が悪化したらすぐに知らせるように」

「はい!」


 ウィルは全員の視線が自分に集まるのを待って、話を始めた。


「この騒乱がいつまで続くか不明だ。今ここから出るのはあまりに危険すぎる。巨大鳥ダリオンの群れが森に帰るまで、または興奮が収まるまで、全員ここで待機する。時間がある今、訓練生に伝えるべきことがある。各小隊の囮役デコイは話を聞きながら外を見張れ。訓練生はしっかり聞きなさい。君たちに今回の状況を説明する」


 一度だけ深呼吸をして、ウィルが話し始めた。


「我々は弓を放った部屋に突入すべく向かった。最初に到着したのはトップファイターたちだ。トップファイターの対人戦闘力は高い。さらに、室内にいた人間は少なかった。弓兵の八人の他には十名しかいなかった。弓兵は接近戦が苦手だ。よって、トップファイター八人がフェザーに乗って戦えば、彼らを制圧するのに時間はかからない。今、トップファイターはここに戻ってきていないが、彼らのことは心配無用だ」


 ウィルが険しい表情で話を続ける。


「トップファイターたちが窓から室内に突入したところで、あの巨大鳥ダリオンの叫びが始まった。広場上空に残っていた仲間が落下するのを確認し、我々はトップファイターを残して引き返した。問題は……室内にジェイデン第一王子がいたことだ」


 ウィルが小さくため息をついた。


「王子は謹慎中のはずだった。陛下のご命令でドアは外から施錠され、警備が付き、部屋からは出られない状態だった。カミーユ、君はジェイデン王子がどこから出たと思う?」

「窓からでしょうね。夜間に窓の鎧戸を開け、フェザーに乗って脱出したのだと思います」


 訓練生たちが互いに顔を見合わせた。カミーユが放った言葉の意味が理解できないでいる。少しして、一斉にざわざわと小声で話し始めた。ウィルは口を閉じてそんな彼らを見ていたが、カミーユへと視線を動かした。


「カミーユ、今朝、王空騎士団は全員揃っていたな?」

「はい、団長」


 ウィルはそこで訓練生の監督係であるエリックに目を向けた。


「エリック、今ここにいない訓練生は?」

「マリオが欠席しています、団長。酷い腹痛で今日は休ませてほしいと報告がきました」

「エリックに報告したのは誰だ?」

「僕です」


 最年少の十歳の少年が怯えた顔で手を挙げた。


「ボブか。マリオと同室か?」

「は、はい」

「ボブ、マリオは君が部屋を出るとき、ベッドにいたか?」

「い、いいえ。マリオさんは深夜に部屋を出て行きました。僕はマリオさんに『腹痛で休むと伝えろ』と言われました。それと……出かけたことを誰かに話したら……ただじゃおかないとも……」


 ボブの顔は真っ赤で、視線は床を見ている。


「全騎士団員に告ぐ。マリオを見たらその場で確保せよ。訓練生はマリオを見つけたら手を出さずに大人を呼べ。彼は追い詰められているから何をするかわからん。マリオは王空騎士団法により裁かれることになる。マリオは……巨大鳥ダリオン討伐派とつながっている」


(なんで! 巨大鳥ダリオンを討伐しようとすれば、騎士団員が全員連れ去られて食い殺されるかもしれないのに! 自分だって、そんな裏切りをすれば無事では済まないのに!)


 アイリスはなぜマリオがそんな愚かなことをしたのか理解できなかった。

 訓練生たちも初めて聞く話に驚いた顔をしているが、騎士団員たちは既にマリオの行動を知らされていたらしい。驚いている者はいない。だが、アイリスは初めて聞く話だった。


「アイリスは神殿に詰めていたからまだ知らなかったな。マリオは討伐派と接触していた。それを見つかり、私とカミーユが事情聴取をした。マリオは『二度と討伐派と接触しない』と誓い、書面にもサインした。マリオは現在、執行猶予中の状態だった。だがこれで……マリオが王子を抜け出させ、あの矢につながっていることがはっきりすれば、王空騎士団に入団する可能性は消える」


 ウィルがいったん言葉を切り、小さくため息をついた。


「訓練生はよく聞いておくように。男児の一万人に一人しか開花しない飛翔能力があっても、必ずしも王空騎士団員になれるとは限らない。重大な裏切り行為があれば、入団の道は閉ざされる。それだけではない。飛翔能力を悪用し、国家に害を為したと判断されれば……片足をひざ下から切断され、二度と飛べないようになる」


 訓練生たちは硬い表情で沈黙した。

 飛翔能力を有することは大変な名誉なだけではない。王空騎士団に在籍中は高額な報酬が支払われる。それは普通に働いていたら決して手に入らないような金額だ。さらに、引退しても生涯にわたって相当額の金額が支払われ続ける。

 その上、飛翔能力を持ちながら二度と空を飛べないという事態は、能力者にとっては完全に能力が消える老人になるまで、何十年も拷問され続けるような絶望的な状態だ。


「団長! 巨大鳥ダリオンの群れがばらけ始めました!」


 第一小隊の囮役デコイの報告に、全員が防鳥壕から空を見上げた。奥にいる者たちは、出入口に移動した。ウィルが話をしている十分ほどの間に、巨大鳥ダリオンたちは様々な方向に自由に飛んでいた。


 ニ十羽ほどが矢の放たれた建物の周辺をグルグルと飛んでいる。窓にはすでに鎧戸が閉められ、巨大鳥ダリオンは侵入できない。それでも巨大鳥ダリオンたちは建物のそばをを離れずに飛び回っている。


 また、七、八羽が広場の傷ついた巨大鳥ダリオンの近くに下りている。アイリスには傷ついた仲間を案じているように見えた。

 そのうちの一羽が仲間の脚に刺さっている矢を咥えて抜こうとした。それを見たファイター二人が話を始めた。


「まずいな。あのまま引っ張って抜くと、傷が大きくなる。矢じりには返しがついているんだ」

「傷を大きくしないで抜くにはどうすればいいんですか?」

「刺さっている場所にもよるが、太い血管を傷つけないようにしながら向こう側まで貫通させてから、シャフトを叩き切る、かな」

「それは……」

「まず無理だろう。そんなことをしているうちにこっちの身体が引き裂かれてしまう」


(なにかいい方法はないのかしら)


 ファイター二人の話を聞いていたアイリスが必死に矢を抜く手段を考えている最中に、一羽の巨大鳥ダリオンくちばしで矢を咥え、強引に引き抜いた。


「ああっ!」


 見ていた誰かが驚きの声を出すのと同時に、石畳の上に巨大鳥ダリオンの真っ赤な血が飛び散った。

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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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