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71 白首との再会

 巨大鳥ダリオンたちは生息地である巨大鳥ダリオン島から空腹な状態で飛んで来る。だからグラスフィールド島に来た日は全部の個体が餌を食べる。

 アイリスは二番目の群れを監視し、集団から外れた動きをする個体を誘導し続けた。

 三番目の群れが来た。その群れに白首がいることに、王空騎士団の全員がひと目で気づいた。


「白首が、すごく大きくなってる」


 驚いているアイリスの下からファイターがスッと上がってきて、小声で話しかけてきた。


「あれ、白首だよな?」

「そうですね」

巨大鳥ダリオンは二歳まで成長するってのに、もうあんなにでかいって、どういうことだ?」

「私もびっくりしているところです。いったいどこまで大きくなるんですかね」

「わからん。やっぱりあいつは特別な化け物だな」


 孵化から一年たっていないのに、白首はすでに他の成鳥より一回り大きい。だが群れのリーダーは普通の大きさの個体だ。


「体の大きさだけでリーダーが決まるわけではないんですね」

「そういうことだな。俺は白首がリーダーになったときが恐ろしいよ」


 なんと返事をすべきかわからず、アイリスは口を閉じたままうなずいた。

 ファイターはまた元の位置に戻り、監視を続けている。他の巨大鳥ダリオンが次々と家畜をつかんで去って行くのに、白首は低いところで回っているだけだ。

 その白首がスーッと上昇してきた。


(広場に下りるかと思ったら、上昇? 空腹のはずなのに、餌も食べずに何をするつもり?)


 いつでも飛び出せるよう準備しながら見張る。

 白首は上空五百メートルほどの位置まで上昇してから旋回し始めた。明らかに広場の家畜ではない獲物を探している。

 すぐに各小隊から一人ずつファイターが白首を追って昇ってきた。


囮役デコイは一人でいいはず。誰が行けばいい? 私? 先輩?)


 上昇してくる四人のファイターを見ていると、そのうちの一人がヒロだ。ヒロは左手でアイリスを指さし、その手を白首に向けた。『お前が行け』という指示。

 片手を上げ『了解』と伝えてから白首を追う。アイリスは白首の少し上を、つかず離れずの距離を保ちながら飛んだ。


 斜め上から見る白首は美しかった。キラキラと陽光を反射する艶のある羽、人間が何人も乗れそうな大きく力強い翼、肉を容易に引き裂く鋭い嘴。家畜を軽々と持ち上げて運ぶ太い脚。

 どこを見ても強者の迫力がある。


(空の王者ね。王空騎士団員の私が美しいなんて言ったら叱られるのかもしれないけど……巨大鳥ダリオンは美しい生き物だわ)


 以前は恐ろしいだけだった巨大鳥ダリオンが美しいことに気がつくだけの余裕ができたのか、と思う。白首は大きく旋回しながら地表を見ている。心の中で、白首に話しかけた。


(私とあなたの間には、どんな結びつきがあるのかな。それとも、結びつきなんて人間の思い込みだけで、そんなものはないのかな)


 白首は気流にのってゆったりと回りながら地表を見おろしている。


(思い通りにならないことばかりだけど、この国にあなたが来る限り、私はあなたの近くで飛ぶわ)


 白首もアイリスも風と共に飛んでいるから風の音はほとんど聞こえない。静かな空の上、マスクをしている自分の呼吸音と白首がたまに羽ばたく音だけが聞こえる。


 白首はしばらくすると気が済んだのか、それともこれと思う獲物が見つからなかったのか、再び広場上空に戻った。すんなり家畜を捕まえて巨大鳥ダリオンの森へと去っていく白首に、王空騎士団の全員がホッとした、


 全ての巨大鳥ダリオンが森に戻り、王都の空はとっぷりと暗くなった。

 各家の一階のドアや窓は住民たちの手により、厚い板で塞がれた。

 人々は大慌てで食料の買い出しや水の備蓄に走り回っている。これから二週間か三週間、夜しか動けない。塞がれた窓の内側で、全ての人がつかの間の平穏にひと息ついていることだろう。


 アイリスは王空騎士団の仲間たちと一緒にヒロが歩いているのを見つけて駆け寄り、話しかけた。


「ヒロさん、白首が大きくなっていましたね」

「そうだな。大きいだけでなく、白首は好奇心が強い。何に興味を持つかわからんところが厄介だよ。うん? あいつは確か……」


 騎士団の建物から片腕の男性が出てきた。国境空域警備隊のジェイコブだ。アイリスが駆け寄った。


「ジェイコブさん! いつ王都に?」

「昨夜のうちに王城に知らせを運んできたんだよ」

「ジェイコブ、お前が来たってことは他国が関係する話か?」

「ええ、ヒロさん。マウロワの王太子がここを目指して移動中です」


 ヒロが一気に険しい顔になった。


「馬鹿か! 巨大鳥ダリオンが来ているときにノコノコ王都を目指すなんて」

「我々もやんわりと断ったんですが、『聞く耳持たず』でしたよ。護衛を連れているから大丈夫だと、馬車と馬で移動しています」

「馬車? 馬? 動く大型動物なんて、真っ先に狙われるのに。俺たちの仕事が増えるじゃねえか」


 ◇ ◇ ◇


 話は夜明け前にさかのぼる。

 国境空域警備隊のジェイコブ他一名が、夜通し飛び続けて王城に到着した。

 ジェイコブたちの報告を聞いた城の警備兵は慌てて上官を叩き起こし、警備責任者は夜明け直前に国王に報告した。

 

「国王陛下に申し上げます。マウロワ王国王太子、フェリックス殿下が王都を目指して移動中でございます」

「……」


 国王のヴァランタン・グラスフィールド国王は、今聞いたことを理解するのに少々時間がかかった。


「なぜだ? なんの事前通告も受けてはいないぞ」

「我が国訪問の目的は不明でございます。国境空域警備隊は『巨大鳥ダリオンの渡りが始まっているので』と帰国を勧めましたが、受け入れなかったそうです」

「フェリックス殿下は今どこに?」

「馬車で移動中ですので、あと五日ほどで王都に到着なさるかと」

「なぜこんな時に。わけがわからん。殿下の護衛は同行しているのだろうな?」

「私的な訪問とのことで、護衛兵士が五十名のみでございます」

「全く迷惑な……。夜明けが近い。王空騎士団には夜になってから知らせよ。まずは巨大鳥ダリオンの監視が最優先だ」


 国王はそう警備の責任者に命じた。続けて侍従に命じる。


「軍務大臣のダニエルを呼べ」

「はっ」


 軍務大臣のダニエルが駆け付け、国王と二人で話し合いを始めた。フェリックスのことを知らされたダニエルが渋い顔になった。


「ダニエル、軍は現在どうしている?」

巨大鳥ダリオンが飛来するまでは民の誘導に全力を尽くしておりましたが、現在は待機しております」

「フェリックス殿下が巨大鳥ダリオンに食われたら大変なことになる。夜のうちに軍を動かし、フェリックス王太子と合流、そのままお帰りいただくように」

「大人しく言うことを聞いてくれるでしょうか」

「腹立たしいのは、そこだ」


 国王はペンを手に取り、サラサラと一文をしたためた。


「これをフェリックス王子に渡せ。それでも王都に来ると言うなら……我が国の軍が警護しつつ夜間のみの移動になるな」

「厄介でございますな」

「ああ。実に迷惑な話だ。どうせフェリックス王子は『たかが大きい鳥だろう?』ぐらいに思っているのだ。実物の巨大鳥ダリオンを見たら腰を抜かすだろうよ」


 軍務大臣のダニエルは額に指を当て、ため息をつきながら目を閉じた。

 

「骨のひとつもあれば見せて説得するのだが、巨大鳥ダリオンは死骸を残さぬから。フェリックス王子が我々の意見を聞き入れることを祈るばかりだな」



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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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