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王空騎士団と救国の少女~世界最速の飛翔能力者アイリス~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
第二章 王国の秘密

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67 王空騎士団の帰還

 二月の半ばになると、グラスフィールドの輸出船は出港しなくなる。

 今からマウロワに向かって船を出しても、帰ってくる頃がちょうど巨大鳥ダリオンの渡りの季節となり、空賊から守ってくれる王空騎士団は巨大鳥ダリオン対策のために王都に引き揚げてしまうからだ。


「我々は本日をもって王都へと帰る。サイモンの怪我は残念だったが、一人も命を失うことなく任務を終えられたことは嬉しく思う。カミーユ、全員揃ったか?」

「はい。揃いました」

「では、王都に向かって、出発!」


 百名近い王空騎士団員が一斉に飛び立つ。

 港で働く者たちが全員、敬意と感謝を込めて彼らを見送る。手を振って見送る者も多い。


「ありがとうございましたぁ!」

「お気をつけてぇ!」

「またお願いしますよぉ!」


 地上から見送ってくれる人々に手を振り返し、王空騎士団は整然と並んで飛び立った。

 まずは上昇し、上空の気流を利用しながら王都を目指して飛ぶ。帰りの移動は比較的ゆっくり速度で飛ぶ。ひと仕事終えた充実感で、飛んでいる男たちの表情は明るい。


 数時間の飛翔を経て、一度地上に降りた。休憩している王空騎士団の一行は、海の上でいつ空賊が現れるのかと待ち構えているときとは顔が違う。緊張感から解放され、皆が笑顔でくつろいでいる。

 ギャズがモグモグと昼のパンを食べながらウィルに質問した。


「団長、渡りが早まるかもしれないって話、団長はどう思いますか?」

「あり得る話だとは思っている。巨大鳥ダリオンはエンドランドで繁殖する。エンドランドの餌の状況は、確かにこの冬の暖かさで変わっているだろう。餌の状況を捕食者が見逃すとは思えないんだ」

「なるほど。そう言われたら確かにそうですね。」


 今度はカミーユが質問した。


「白首はどうなってますかね」

「白首は来るだろうが、あいつは卵から孵ってまだ一年になっていない。群れに影響を及ぼすのは、まだ先だろうな」

「城に興味を持って近づくようなやつが群れのリーダーになったら厄介ですね」

「そうだな。白首は好奇心が旺盛なようだから、リーダーになるのはなるべく先になってほしいものだよ。さて、そろそろ出発するぞ」


 再び全員が空に浮かび上がり、王都を目指す。

 畑や牧場で働いている人々が騎士団の編隊に気づいて見上げている。手を振っている人も多い。

 王空騎士団はこの国の憧れの存在だ。


 その日の午後、王空騎士団は王都に帰還した。

 勢ぞろいして出迎えたのは訓練生たちとマヤたち事務方。杖をついたサイモンも整列している。


「本日は自由行動とする。明日朝の集合には遅れるな」

「はいっ!」


 団員が散らばって全員いなくなったのを見届けてからウィルがマヤに声をかけた。


「サイモンの具合はどうだ?」

「だいぶ歩けるようになりました。訓練生たちには『サイモンは侯爵家の用事で出かけているときに賊に襲われ、今まで治療に専念していた』と伝えてあります。あの傷ですから、誰も疑っていません」

「そうか。わかった」


 ウィルは団長室に入り、ソファーに座って「ふう」とため息をつく。

 王空騎士団は、春と秋の渡りの季節は休みなしで働き続け、それ以外は短期に集中して出向する輸出船を守るために働く。

 王都でのんびりできる期間はそれほどない。


(今から渡りまでの間だけは、団員たちがのんびりできるといいんだが。今回は渡り以外にも……)


 そこまで考えたところでドアがノックされた。


「入れ」

「失礼します。団長、お知らせがあります」

「カミーユ、戻ったばかりで悪いな」

「いえ。父からの連絡が入りました。やはりジェイデン王子は討伐派と頻繁に会合を開いているそうです。渡りが始まる直前に『巨大鳥ダリオン討伐』という王家の意向を打ち出すだろうとのことでした」

「三月に入ってから、ということか」

「はい」

「もし渡りが例年よりずっと早くなれば、我々は有利になる、か?」

「どうでしょう。渡りが始まってからでも、討伐作戦を強引に決行するかもしれません。我々抜きで動くなら、それもあり得ます」


 ウィルとカミーユは二人同時に互いの顔を見て、それからため息をついた。


「とりあえず今夜はゆっくり眠ろう。疲れていては巨大鳥ダリオンにも討伐派にも最善の対処ができない」

「そうですね。団長も顔に疲れが出てますよ」

「私はもうそろそろお前に団長の座を譲り渡して引退だよ。飛翔力に陰りを感じるんだ」


 カミーユがギョッとした顔になった。そんなカミーユを見てウィルが苦笑する。


「カミーユ、驚くことじゃない。四十を過ぎてもまだ君たちと一緒に行動できていること自体、かなり珍しいことなんだ。今回の渡りと討伐派対策を乗り越えたら、私は引退するつもりだ」

「そうですか……。それならなおのこと、討伐派は叩き潰さなければなりませんね」

「そうだな。巨大鳥ダリオンを傷つけて貴重な飛翔能力者を根こそぎ失うような事態は、絶対に避けなければならない」

「はい」


 そこまで言ってウィルは立ち上がり、窓辺に立った。

 ウィルの部屋からは訓練所が見える。将来の王空騎士団を担う十代の少年たちが訓練をしている様子を、ウィルは見つめる。

 

「ディラン第二王子は大陸の飛翔能力者に関しては、なんとおっしゃっている?」

「父からの伝聞ですが、ディラン王子は『大陸の飛翔能力者を我が国に取り込むことも視野に入れたい』とおっしゃっているそうです」

「そうか。だが、その考えには大きな問題がある」

「なんでしょうか」

「他国の生まれ育ちの人間が、この国の民のために巨大鳥ダリオンに立ち向かえるだろうか。輸出船の護衛だってそうだ。この国の船のために、命を懸けて空賊と戦えるだろうか」

「そうなんですよね……。我々も、大陸育ちの飛翔能力者をどこまで信用し、自分の命を預けて飛べるかと聞かれたら、うーん……」

「問題は山積みだな。だがとにかくカミーユ、今夜はゆっくり休め。続きは明日話し合おう」

「そうしましょう。では失礼します」

「おう」


 カミーユが出て行くのを見送って、ウィルは再び窓の外へと視線を戻す。


「彼らが安心して飛べるようにしてからじゃないと、引退はできないな」


 ・・・・・


 その頃グラスフィールド島の南の海岸を警備している国境空域警備隊の一人が、慌てていた。


「あれは……あれは……巨大鳥ダリオンの群れ、だよな? まだ二月半ばなのに? こりゃあ大変だ!」


 上空に浮かんで南の空と海を見張っていた当番の男は、全速力で警備隊詰め所へと下降した。国境空域警備隊詰め所の人間は、顔色を変えて飛び込んできた当番の男を見て驚いた。


「どうした!」

「渡りが始まった! もうすぐ巨大鳥ダリオンの群れがやってくる!」


 一人が無言で外に飛び出し、狼煙のろしを上げる準備を始めた。

 別のもう一人は鐘楼へとフェザーに乗って飛びあがる。

 すぐに真っ白な狼煙が大量に空へと昇り、カンカンカンカンと早鐘が鳴り響く。

 近隣の住民は狼煙の白い煙と早鐘の音に慌てた。


 鐘の音は次々と打ち鳴らされ、次の町へと巨大鳥ダリオンの飛来を伝えていく。

 夕暮れまでまだ三時間ほど。

 狼煙と早鐘の音は多くの民を驚かせ慌てさせながら、集落から集落へ街から街へと伝わり、王都に向かって進んでいく。


 

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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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