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王空騎士団と救国の少女~世界最速の飛翔能力者アイリス~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
第一章 能力の開花

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27 副団長カミーユの計画 

 訓練生の指導と監督が終わり、カミーユがヒロに声をかけた。

「ヒロ、このあと時間あるか?」

「あります。アイリスが枝で飛ぶ話なら、ケインも見ていますよ」

「それじゃケインも連れて来てくれ。俺の部屋だ」

「はい」


 返事をするヒロがなぜかニヤニヤ顔だ。

 カミーユは(木の枝って!)と心の中で繰り返しながら、訓練生たちの動きを見守っている。

 訓練は無事に終わり、カミーユが(アイリスの様子は?)と見ると、疲れた様子もなく笑顔で借り物のフェザーをラックに返却している。


 大丈夫そうだと判断して建物に入ろうとして、カミーユはそれが全く普通ではないことに気がついた。


 たった二ヶ月前に能力が開花したのなら、三時間以上休みなしに飛び続けられること自体、普通はあり得ない。さっき落下した少年は遅咲きで、六歳で開花した。今までは彼が訓練生の中で一番の遅咲きだった。


 なのにわずか二か月前に開花して、指導も受けずに一人で飛んでいたアイリスが、笑顔で訓練を終えている。それだけではない。器用にフェザーを回転させて落下する少年を空中で受け止め、落下の衝撃を相殺するだけの力をフェザーに流して自らの落下を防いでいた。考えて動いていたら間に合わない。一瞬でそれらをこなしていたということだ。


(たった二ヶ月で、なぜあんなにフェザーを扱い慣れているんだ?)

 考えてもわからない。鳥肌が立った腕をワシワシとさすった。

(あんな能力者が俺の現役中に誕生するとは)

 小さく首を振りながら副団長室に入り、椅子に座った。すぐにヒロとケインが入ってきた。


「早速だが、アイリスが枝に乗って飛んだとき、その枝の長さは?」

「このくらいですね」

 ヒロとケインが二人同時に肩幅より少し長いくらいに手を広げた。その先はヒロが質問に答えた。


「太さは?」

「直径十センチあるかないかでした」

「見たのは夜か?」

「夜ですけど、見間違えではありません。目の前でその辺に転がっている枝に乗って飛んで逃げて行きました。それもフェザーと変わらない猛スピードでしたよ。まるで箒委ほうきに立ち乗りしている聖女でした」


「聖女か。たしかにそんな感じだな。ううむ」とカミーユは妙な唸り声を出した。


「俺は子どもの頃に枝で飛ぶのを試したことがあるが、枝ではまともに飛べなかったぞ? ヒロ、お前はどうだ?」

「俺もだめでした。みんな一度は試しますよね」


 ケインもうなずきながら同意する、


「俺も試したことはありますが、枝みたいな小さな物では。安定して浮かぶこともむずかしかったです」

「だろう? そもそもフェザーの大きさは飛翔能力者たちが気の遠くなるような歳月をかけて試行錯誤した結果だ。今のフェザーの長さと幅が一番効率的に飛べるからああなったわけだよ。俺は生まれてこの方、木の枝でフェザー並みに飛べる能力者を見たことがない」

「自分用に作られたフェザーより大きくても小さくても、難しいし疲れますからね」

「なのに、木の枝? フェザーと同じ猛スピード?」


 カミーユは指先でトントントンと執務机を叩いている。

 ヒロとケインは黙ってそれを見ている。


「団長はアイリスには救助役の知識と技術をみっちり仕込もうとおっしゃっていた。俺もそれがいいと思っていた。武器を持たせても使えないだろうからな。だが、木の枝でも飛べるほどの飛翔能力があるのなら、攪乱かくらん役か囮役デコイを担当させたいな」

「おそらくこれからアイリスの技能はどんどん磨かれます。他の能力者の飛び方を見て学び、身に付けていくでしょう」

「なあ、ヒロ。我々が十代の少女に囮役デコイをやらせたら、軍人たちは王空騎士団を腰抜けと笑うんだろうな」


 ヒロは指先で顎をさわりながらニヤッと笑ってカミーユに答える。


「笑わせときゃいいじゃないですか。誰かが食われたりするよりよっぽどいい。おそらく一年後にはあの子は訓練生のトップに立っているんじゃないですか」

「だろうな。わかった、もういいぞ」


 副団長の部屋から出てきたヒロがケインに話しかける。


「なあ、ケイン。お前に頼みたいことがある」

「俺、ヒロさんが何を言いたいか当てられますよ」

「ほお? 当ててみろ」

「やっぱりアイリスに個人レッスンをして鍛えようってことじゃないですか?」

「当たりだ。特別な巨大鳥ダリオンが現れる前にアイリスを鍛えるべきだ。特別に頭のいい巨大鳥ダリオンや、特別に速く飛ぶ巨大鳥ダリオンが現れるかもしれないなら、アイリスを鍛えるのは早いに越したことはない。どれだけ鍛えても鍛えすぎることなんてないはずだ」

「ええ、俺もそう思います」


 二人は愛用のフェザーを抱えると、騎士団の建物を出た。リトラー商会へと向かうのだ。

 ヒロもケインも特別な巨大鳥ダリオンがどう特別なのか、畏れに似た好奇心がある。普通の巨大鳥ダリオンでも十分恐怖の対象なのに、その上をいく巨大鳥ダリオン。それが生まれるのなら、今からどれだけアイリスを鍛えても鍛えすぎることなどないと思う。


「ヒロさーん、ケインさーん」

 

 二人同時に振り返ると、追いかけてきたのはマイケルだ。


「なんだ? 俺たちは忙しいんだ。またにしろ」

「あ。そういうこと言うんだ? せっかくアイリスをいじめようとしているヤツの話を持ってきたのに」

「なんだと?」

「ヒロさん、そういう話があったら教えろって言ったじゃないですか」

「誰だ、その馬鹿は」

「僕も連れてってくださいよ。どこに行くんです?」

「マイケル、俺はアイリスをいじめようとしてるのが誰なのかって聞いてんだよ」

「僕も連れてってくれるなら教えます」


 ヒロとケインが同時に「仕方ない」とつぶやいた。


「じゃあお前もフェザーを持ってこい。大至急だ。アイリスの家に行く」

「あっ、絶対に僕も行きます! 待っていてくださいね!」


 マイケルは走って部屋に戻り、大急ぎで二人の先輩に合流した。三人は建物の外に出るとフェザーに乗る。

 空を飛び、あっという間にアイリスの家に到着した三人は、アイリスの家を上空から見下ろした。

 マイケルはアイリスの家の小ささに驚いた。


「ずいぶん小さな家だね、ヒロさん」

「俺の実家もあんなもんだよ」

「へえ」


 三人は玄関の前に降り、ヒロがドアをノックした。ドアが開き、アイリスによく似た少女が顔を出した。

「アイリスに用事があって来ました」


 ヒロがそう告げると、少女は慌てた様子で奥へと三人を案内してくれる。案内された居間で待っていると、パタパタと走る音がしてドアが開き、笑顔のアイリスが入って来た。


「ヒロさん、ケインさん、それと、ええと」

「僕はマイケル。トップファイターだよ」

「トップファイターが三人も。いったいどうしたんですか?」


 こういう時はヒロが代表を務めるのが常だ。


「アイリス、初めての訓練はどうだった?」

「ほんっとうに楽しかったです」

「だろうなあ。まだ元気は残ってるか?」

「はい! もっと飛びたいなと思っていたところです」

「うえっ?」


 変な声をだしたのはマイケル。飲んでいたお茶のカップを持ったまま驚いた顔でアイリスを見た。


「君、疲れなかったの? 初めての訓練だったんでしょ?」

「はい。私も、あんなに飛んだら疲れると思っていたんですけど、例えて言えば、おなかが空いているときにパンをひと口食べたら余計におなかが空く、みたいな感じでした。もっともっと飛びたい、全然飛び足りないと思いました」


 笑顔のアイリス。呆れるマイケル。微笑んでうなずくヒロとケイン。


「よし、じゃあこれから飛ぶか? 君が望むなら俺とケインが指導するが。そして今後は毎日、午後に養成所、そのあと俺たちと訓練。どうだ? あっという間にいろんなことを覚えられるぞ」

「はい。ぜひ! でも、どこで飛ぶんですか?」

巨大鳥ダリオンの森でどうだ? 障害物が多いところで飛んでみようか。空中での飛び方は養成所で覚えればいい」

「森の上じゃなくて、中を飛ぶんですか?」

「そうだ。森の木を避けながらできるだけ速く飛ぶ練習だ」

「楽しそう!」


 笑顔になるアイリスを見てマイケルは(それはとんでもなく疲れる訓練になりそうだ)と遠い目になった。

 その頃、王空騎士団の宿舎ではサイモンがマイケルを探していた。トップファイターの一人を見つけて駆け寄った。


「ギャズさん、マイケルさんを知りませんか?」

「おう、サイモン。マイケルならフェザーを持って出かけたな。ヒロとケインも一緒にフェザーを持って出ていくのを見たが」

「ヒロさんとケインさん……わかりました。ありがとうございます!」


 急いで自分の部屋に向かいながら、サイモンは彼らの行き先を察した。

(間違っていたら戻ってくればいい。三人はアイリスのところに向かったような気がする)

 サイモンはフェザーに乗ると、猛烈な勢いでアイリスの家を目指して飛んだ。


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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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