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103 意味

 軍隊と超大型バッタとの戦いは苦戦を強いられていた。

 軍人たちは片っ端からバッタを斬り伏せるが、数が違いすぎた。軍人たちは軍服をあちこち噛みちぎられ、血の滲む姿で剣を振るっている。


 数百人の軍人たちはバッタの発生を交代で見回りに来た中隊だ。まさか自分たちの当番のときにこんなことになるとは思っていなかっただろう。全員が終わりのない戦いに疲弊している。


「西の穀倉地帯にこいつらが侵入する前に、ここで押さえろ!」

「おうっ!」


 声に力がない。少しでも気を抜けば、服越しに肉を噛まれるという状況で、朝から休みなしにずっと戦い続けているのだ。軍人の一人が空を見上げた。


「王空騎士団が来たぞ!」


 空を見上げた軍人たちの顔に安堵が滲む。

 王空騎士団全員がフェザーに乗ったまま剣を抜いて構え、一気に降下して軍人たちに合流した。アイリスもバッタが多そうな場所に突っ込んでいく。

 麦畑にも草原にも、大きなバッタがいる。全長三十センチもある大きなバッタは羽を広げるとぎょっとするほど大きい。まるで鳥並みの大きさだ。


「ひいいいい! 気持ち悪いよおおお!」


 悲鳴を上げながら猛烈な勢いでバッタを斬り伏せているのはマイケルだ。アイリスも(くっ! 大きい。飛ぶといっそう大きく見える!)と気持ち悪く思いながら剣を振るう。手のひらにできた剣ダコは伊達じゃない。そんなアイリスたちに軍人たちが声をかける。


「羽を斬れ! 落ちたところでとどめを刺すんだ!」

「卵を産ませるな!」


 飛翔能力者たちはフェザーに乗ったまま、斬って斬って斬りまくる。飛び立ったバッタを追いかけて叩き落す。あちこちに巨大なバッタの死骸が落ちる。だが動いて麦や野菜を食べているバッタは無数にいる。

 やがて日が落ちて暗くなった。


「撤収! 撤収だ! もう暗い。これ以上は危険だ!」


 軍も王空騎士団も、全員が肩で息をしながら休憩に入った。カミーユが軍人たちに声をかけた。


「農民たちは?」

「体力のある男たちが農具を持ってバッタ退治をしています。相打ちにならないよう、我々とは別行動で他の地区の畑にいます。合流しますか?」

「ああ。話し合う必要がある」


 合流した農民たちはバッタに噛まれてあちこちから流血しながらも意気は高い。


「明日も明後日も、俺たちは戦う。バッタに全てを食い尽くされたら、子供たちが飢えちまう」

「そうか。あまり無理をしないように。我々も全力でバッタを始末する」


 カミーユはそれだけを言うと黙り込んだ。農民たちがそれぞれの家に引き揚げてから、アイザックが声をかけた。アイリスとサイモンを含めた騎士団員たちは、携帯食の甘く硬いパンを齧りながら疲れた顔で二人の会話を聞いている。


「団長、どうお思いになりますか」

「恐らく、奴らは生き延びて卵を産む。一匹残らず殺すのは無理だ。西の穀倉地帯まで被害が広がる可能性は高い」


 薄々そうじゃないかと思っていたアイリスたちは黙り込んだ。


「だが、俺の中には希望がある。そもそも超大型バッタはどこから来た? 南の巨大鳥ダリオン島では一匹も見かけなかった。昆虫は普通の大きさだった。我が国でもなく、巨大鳥ダリオン島でもなく、嵐のあとに東海岸に吹き寄せられていた。ならば……」

終末島エンドランドから来たってことでしょうか?」


 サイモンがそう言うとカミーユがうなずいた。


「俺はそう思う。終末島エンドランド巨大鳥ダリオンの繁殖地だ。繁殖期は巨大鳥ダリオンもことさら気が立っているだろうから誰も終末島エンドランドには近寄らない。千キロの距離を超えて行く価値がないと思われてきた。バッタは終末島エンドランドから来たのではないか。アイリス、お前はどう思う?」

「もしかして、巨大鳥ダリオンはあのバッタを食べるために終末島エンドランドに行くのでは?」

「私もそんな気がするんだ。例えば鶏はバッタを喜んで食べる。野の鳥も好んで食べる。巨大鳥ダリオンたちは大きくて栄養たっぷりのバッタを食べて卵を産み、雛を育てているんじゃないだろうか。まあ、これは終末島エンドランドをこの目で見るまでは推測だが」


 アイリスが考え込む。

 自分はなぜ飛翔能力を開花できたのか。なぜ白首が自分に懐いたのか。なぜ聖アンジェリーナは巨大鳥ダリオンを殺せばこの国は滅ぶと言ったのか。全ての意味は、ひとつの答えにつながる気がした。

 考え込んでいるアイリスにサイモンが話しかけた。


「アイリス、どうかした?」

巨大鳥ダリオンが超大型バッタを好んで食べるかどうか、調べる価値はあるんじゃないかな。もしあのバッタを好んで食べるなら、巨大鳥ダリオンを我が国のバッタのいるところまで誘導すればいいんじゃないかな。私なら、白首を誘導して、群れ全体を連れて移動できる」


 皆が考え込んでいる。先輩たちに向かって、アイリスは静かに考えを説明した。


「それが簡単なことじゃないのはわかってます。巨大鳥ダリオンが分散すれば人間が狙われやすくなります。でも、小麦や野菜が食いつくされたら、確実に飢え死にする人がたくさん出てきます。どっちを取るか、になりますけど」


 カミーユが何度もうなずきながら同意する。


「もうすぐ巨大鳥ダリオンたちが若い仲間を連れてこの国に来る。そのときにバッタのいる地区まで誘導するのもひとつの考えだと思う。俺から会議にかけてみるよ。巨大鳥ダリオンを王都以外に誘導するとなれば、陛下のご判断を仰がねばならんからな」


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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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