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101 サイモンの入団

 渡りの期間だけの群れではあるが、白首は若くしてリーダーとなり、群れを統率している。

 王都の隣にある巨大鳥ダリオンの森から、巨大な鳥たちは朝になると家畜を食べにやってきては、獲物をつかんで引き揚げていく。

 渡りが始まって数日後、若い巨大鳥ダリオンたちが家畜の奪い合いを始めた。十分な数が差し出されている状況で、餌の奪い合いは珍しいことだ。


 二羽の若い個体が空中で絡まり合うようにして戦い始めた。すると上空を飛んでいた白首が急降下し、空中で激しく戦っている二羽の間に突っ込むように割り込んだ。

 大きな羽が飛び散り、三羽の争いは到底人間が手を出しようがないほど激しい。ファイターも囮役デコイも、巻き添えを食わないように距離を置いている。


(これ、どうしたら)


 三羽の巨大鳥ダリオンは「ギエエエエ!」「キイイイ!」と叫び声をあげて空中で蹴り合い、翼で叩き合いを繰り返している。

 アイリスが途方に暮れて下のほうに浮かんでいる先輩ファイターを見ると、ギャズがアイリスを見上げて首を振る。


(やめておけってことね)


 戦いの激しさにハラハラする。しかしすぐに白首は自分より若い二羽を蹴散らし、餌の奪い合いから発展した喧嘩をやめさせた。

 若い二羽はいったん上空に戻っていく。白首が見張るように若い個体の後方を飛んでいる。


 喧嘩を見ていた別の大人の巨大鳥ダリオンが悠々と家畜を捕まえて飛び去ってから、若い巨大鳥ダリオンたちが一羽ずつ下降し、自分の獲物をつかんで飛び去った。


 その日の終わり、騎士団員たちは建物に引き揚げながら「あんなことをする巨大鳥ダリオンを初めて見た。人間のリーダーみたいだった」と口々に言い合った。

 珍しく起きた餌の奪い合い事件以外、巨大鳥ダリオンの誘導は順調だ。人的被害はゼロという日々が続く。


 王空騎士団の活躍のおかげで、巨大鳥ダリオンたちは渡りを終えて南の巨大鳥ダリオン島へと帰っていった。

 巨大バッタの報告はちらほら出ていたが、いまだ大きな被害にはいたっていない。


『巨大バッタを見つけ次第、殺処分すること』という王家が出したお触れは周知され、農民たちはそれに従っている。


     ◇ ◇ ◇


 月日が流れ、渡りは繰り返された。

 ヒロは三十八歳になって退団し、王都で両親と共に飲食店で働いている。

 ケインもその後三十八歳になった年に退団し、故郷に戻った。今は自分が育った保護施設で働いている。ケインは同じ施設出身の女性と結婚した。

 ウィルは団長を退き、今は相談役だ。現在の騎士団長はカミーユ。


 王空騎士団の顔ぶれは変わったが、ファイターも囮役デコイもマスターたちも粛々と空を飛んで巨大鳥ダリオンを誘導している。


 アイリスとサイモンは共に十八歳になった。早春の今日、サイモンが王空騎士団に入団する。

 アイリスの同期は少ない。飛び級でアイリスが抜けていたし、マリオが国境空域警備隊の預かりとなり、そのまま警備隊員になっている。今年の新人はわずか四人。

 カミーユ騎士団長が能力者たちの前に立ち、入団式の挨拶を始めた。


「本日からこの四人が王空騎士団に参加する。私の望みはただひとつ。死ぬな。それに尽きる。死なずに生きて、飛んで、国民を守ってほしい。以上」


 入団式が終わり、隊員たちが散っていく。制服に身を包んだサイモンは騎士団のロビーでアイリスと会話していた。サイモンの表情が晴れ晴れとして明るい。傷は相変わらず顔に残っているが、もう赤みは消えて白い傷になっている。


「やっと今日から僕も王空騎士団だ」

「よろしくね、サイモン。一緒に働ける日が来て、嬉しいわ」

「同じ第三小隊になれなかったのは少し残念だけどね」

「私は一緒に飛べるだけで嬉しい」

「いいねえ、幸せそうで羨ましいよ」


 二人に近寄ってきて冷やかしているのはマイケルだ。


「そういえばマイケルさんは、まだ婚約もしていないんですよね」

「まあね。気楽な立場を楽しんでいるよ。親も僕がトップファイターとして飛んでいることに満足していることだし、慌てて結婚する理由は何もないよ」

「いやいや、結婚はいいものだぞ、マイケル」


 そこに参加したのは通りがかりのギャズ小隊長。


「よお、サイモン、騎士団の制服がよく似合うな」

「ありがとうございます。ギャズ小隊長、結婚はいいものですか?」

「ああ、いいぞ。すこぶるいい。アイリスとサイモンはまだ結婚しないのか?」

「そうだよ、マウロワ王国からの横やりがなくなったら、すぐにでも結婚するんだと思っていたのに」

 

 マイケルの疑問はもっともで、アイリスとサイモンの周囲は皆、「なんでまだ結婚しないんだ?」と不思議がっている。


「僕がお願いしたんです。訓練生の立場じゃなく、王空騎士団員になってから結婚したかったから」

「私たち、まだ若いから急がなくてもいいかなと、私も賛成したんです。でも今年中には結婚することになりました」


 ニコニコとマイケルに答えるアイリスはすっかり大人になり、美しい女性に成長している。少し日焼けしているのは、毎日空を飛んでいるからだ。


「おおい、そろそろ出発する時間だぞ」


 笑顔で声をかけて来たのは、副団長に昇進したファイターのアイザックだ。

 短く刈り上げた黒髪。日に焼けた肌。青い瞳。

 百九十近い高身長で細身のアイザックは三十四歳で、トップファイターではなかったにもかかわらず副団長に選ばれたという経歴の持ち主だ。

 アイザックを指名したのはウィル。人望が厚く、真面目で責任感が強いことから指名したと退団の挨拶で述べて、皆が納得したものだ。


「今行きます!」


 マイケルが返事をする。アイザックの言葉で三々五々集まってきていた団員たちはフェザーを抱えてぞろぞろと外へと出て行く。


「今回はマイケルさんもバッタ探しに行くんですね」

「気は進まないけどね。僕、虫が嫌いなんだよ。アイリスは平気なの?」

「好きではありませんけど、あそこまで大きいと、なんだか虫って感じがしないので逆に平気です」

「虫は虫だよ。僕は嫌いだ。大発生するかと思っていた超大型バッタ、全然話題にならないね」

「この国の気候が合わなかったのかもしれませんね」


 わいわいとしゃべりながらロビーから外に出た。

 団員たちが一斉にスウッと浮上する。


「よぉし! 東海岸に向かって、出発!」


 カミーユの掛け声で、王空騎士団が東海岸に向かって飛んだ。



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書籍『王空騎士団と救国の少女1・2巻』
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