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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第98話 皇帝と民衆

シーノに占領された大陸からタカサゴ島に逃れたミン国の皇帝を助ける海賊たちと、彼等に味方するエンリ王子は、シーノの最終兵器「破滅の火矢」を迎撃すべく、「ギリシアの火」の準備を整える。


その日、鸚鵡の使い魔が飛来した。そして最終勧告と称して、街の広場で語った。

「三日後までに皇帝の首を差し出して降伏せよ。さもなくば破滅の火矢によって、この島は滅ぶであろう。天命は定まり、我等シーノ帝国のモータクサン皇帝は中華の柱となった。世界は一つ。それを従える中華もまた一つ。逆らう者には無慈悲なる死を与えん」


そんな鸚鵡を見上げて、街の人たちがひそひそ・・・。

「大丈夫だよね?」

「あのケンゴローさんが居るんだ」

「それに海の上では海賊の天下だ」



三日後、五百隻の海賊船団が港を出撃。

シーノの海軍がその前に立ち塞がる。

敵の艦隊を眺めて、鄭成功は「火矢迎撃を前に、損害を出したくない」

「沿岸には大砲もあるだろうな」とケンゴロー。

エンリは言った。

「ファフは大砲を潰してくれ。海上の敵にはセイレーンボイスだ」


味方は全員耳栓を装着し、リラの人魚の歌を歌った。

眠った敵の船を海賊たちが占拠。沿岸の砲台はファフが全て破壊した。



陸上の基地の結界の中では、火矢の準備が進んでいた。

エンリとアーサーがファフの背中に乗って上空から敵を監視する。

一基の火矢が準備を終える。アーサーの念話で鄭に連絡。

「そろそろ発射するぞ。照準用意」


最初の火矢に点火。結界の上部が空いて、巨大火矢は炎と煙を吐きながら上昇を開始。

それを見てエンリは号令した。

「照準放て!」


上昇してくる巨大な火矢に、海上の海賊船から反射光が向けられ、500の光条が次々に火矢の先端部に取り付く。

やがてそれは高熱を帯びて発火し、内部の火薬を誘爆させて空中で爆発した。

船の上で歓声が上がる。

「やったぞ」

「油断するな。次が来るぞ」とエンリは号令し、アーサーが念話で伝える。



次々と上昇する火矢を、海上からの光が捉え、撃墜していく。

それを見てシーノ側は慌てた。

「何だあれは」

そう言って動揺するシーノの将軍に、参謀が「海上の奴等が何かやっているんだ」

将軍は焦り顔で「どうにかしろ。もう残りが無いぞ」


望遠鏡で海上の海賊船を監視していた一人の魔導士が言った。

「解りました。あれは光です。海上の船から無数の光を当てているんです」

「そんなもので火矢を撃ち落としたというのか」と将軍。

「太陽の光でも収束すれば高熱を発します」と魔導士。

参謀も焦り顔で「どうする。あと一発だぞ」


「要はあれをかわせばいいんです」

そう言った魔導士が、最後の火矢に使い魔を憑依させた。

そして点火。



上昇していく最後の火矢を500の光条が追う。だが、火矢は飛ぶ方向を変えてこれをかわした。

慌てて照準を定め直す反射光魔道具の操作者たち。

火矢は再び方向を変えた。


「どうなってる」とファフの上で困惑顔で叫ぶエンリ王子。

アーサーは「きっと使い魔を憑依させて操ってるんです。これじゃ反射光で狙うのは無理です」

エンリは言った。

「解った。ファフ、あれに近付け。光の巨人剣で叩き落としてやる」


だが、ぐんぐん高度と速度を上げる火矢に光の巨人剣は届かない。



エンリは焦った。そして思考を巡らす。

(光の魔力が足りない。どうすればいい。みんなが使った反射光は太陽の光だ。それを収束する事で、あの威力が出せる)


「ファフ、太陽に向かって飛べ」とエンリ。

「どうするんですか?」とアーサー。

エンリは巨人剣を翳して「こいつを太陽の光と融合させるんだ」


エンリは太陽を突き刺すように、光の巨人剣の上空の太陽に向けて突き出した。

そして、頭に浮かんだ呪句を唱える。

「汝、光の精霊。万物を育むべく天空を満たすアポロンの子らよ。万物を守る正義の手を執りて、世界を守りし"ひとつながりの我が剣"となりたる、汝の名はアイアンビーム。収束あれ!」


周囲が急速に暗くなり、巨人剣は急速に光を増した。

そして長大となった剣身が、火矢を破壊した。

海上の海賊船団に歓声が上がった。



「終わりましたね」

そう言って安堵の表情を見せるアーサーに、エンリは言った。

「まだだ。あの基地を二度と使えなくしてやる。ファフ、あの基地に飛べ。あの結界を創る魔道具って、あるんだよな?」


アーサーは結界の内側四か所の結界魔道具を見つけ、エンリは閉じようとしている結界上部から、長大な光の剣を結界内に差し込んで、結界魔道具を破壊。

エンリは魔剣の融合を解いて、周囲は再び明るくなる。

結界は消滅し、それと融合していた玄武が実体化。


ファフのドラゴンが玄武と格闘している間、地上に降りたアーサーはファイヤーボールで基地を攻撃。

敵魔導士が召喚したキョンシーを、エンリは光の剣で切り伏せる。

その間に海上の海賊たちが一斉に上陸し、破滅火矢の基地を占拠した。



戦いを終えて破壊した基地跡に佇むエンリたちと海賊軍団。


「あの結界って・・・」と鄭が呟く。

ケンゴローは「龍脈が集中するこの場所だから、あんな強力なのが可能になるんだろうな」

エンリが「放っておくとまた同じ事をやるね」


「だったら・・・」

そう言うとアーサーは、転移魔法の座標を組み込んだ杭を作り、それは地中深くに埋められた。

そして「もしここでまた火矢の基地を作ったら、いつでも兵隊を転移して攻撃してやるといいよ」



破滅火矢の脅威は去った。

そしてタカサゴ国議会設立の準備が進む中、エンリたちは帰国の準備に入った。


そんな中でエンリは皇帝に呼ばれた。

「やはり禅譲を受けて貰う訳にはいきませんか?」

そう言う皇帝にエンリは「もう当面の心配は無いし、統治の苦労も無いですよね?」


「ですが・・・」

何やら異様にもじもじする皇帝。そんな様子を見てリラが言った。

「もしかして、皇帝のままだと好きな人と結婚できない・・・とか?」

「・・・」

「そうなの?」とエンリ。



皇帝は言った。

「皇帝として世継ぎを残すために、婿は必要です。けれどもその人は私を女と見てくれない」

「誰だよ」とタルタ。


「それは・・・」

そう言葉を濁す皇帝に、リラは「ケンゴローさんですよね?」

「・・・」

「そうなの?」とエンリ。


ケンゴローは慌てて「いや、俺は彼女と結ばれるなんて・・・」



皇帝は言った。

「私は浮浪児として育ちました。兄のように守ってくれる男の子が居て、辛うじて生きていました。そんな中でケンゴローと出会い、その助けを受ける中で自分の出生を知りました。ずっとあなたが好きでした。けれどもあなたは私を彼に託して私の前から去り、彼は私を守って死にました。私にはもうあなたしか・・・」


ケンゴローは後ずさりして言った。

「俺はそんな立場では・・・」

残念な空気が漂う。


「これは逃げられないよね?」とタルタ。

「ここまで言わせて男としてどうなの?」とジロキチ。

ケンゴローは冷や汗顔で「勘弁してくれ」

「彼女の気持ち、実は解ってたんじゃないのですか?」とリラ。


「俺はロリコンじゃない」とケンゴロー。

皇帝は「私はもう大人です」

「けど、俺にはあの頃のイメージが・・・」


困り顔でそう言うケンゴローにエンリは言った。

「あのさ、それが頭に焼き付いて離れないって、お前やっぱりロリコンだろ」

「そんな筈は・・・」とケンゴローは口ごもる。


彼の老師は言った。

「ケンゴローよ、お前がその技を学んだのは何のためか。皇帝を守るためではないのか? ならば、殺そうとする敵から守るのと、次の世代が生まれぬまま消えてゆく運命から守るのと、何の違いがある?」

「それは」とケンゴローは口ごもる。



皇帝はタカサゴ島の元首となった。そしてケンゴローを夫に迎えた。

エンリ王子たちは帰国の途についた。


離れ行くタカサゴ島を甲板で眺めながら、リラは言った。

「良かったね、ケンゴローさん」

「良かったのかなぁ」とアーサー。

「逃げ回ってたけどね」とカルロ。


タルタは言った。

「飾り物とはいえ、国家元首だものな。権力欲のある奴なら飛びつくだろうけど、あいつはそういうタイプじゃないから」

「だからいいのさ。王とかの立場の人が権力欲の塊みたいなのを配偶者に貰ったら、利用されて悲惨・・・」

そこまで言って、いきなり黙り込むエンリ王子。


ジロキチが怪訝顔で「どうした? 王子」

「いや、何でも無い何でも無いぞ。あは、あはははは」と言ってエンリは慌てて顔色を取り繕う。

するとアーサーが「あの・・・、王とかの立場の配偶者で権力欲の塊って、もしかしてイザベラさんの事じゃ・・・」

「あ・・・・・・・・・・・・」と全員絶句。


エンリは「ポルタに急ぐぞ」と言って冷や汗顔で気勢を上げる。

「イザベラさんが恋しいんですよね」とすっ呆けた事を言うリラに、エンリは言った。

「違うだろ!」



そんな中でタルタが思い出したように言った。

「ところで、あの火矢が結界を出た所を落とすって、ファフのドラゴンと王子の光の巨人剣だけでも出来たんじゃないの?」


エンリは「高速で飛ぶ火矢に追い付くのは無理っぽいだろ」

「けど、発射した直後はそんなに早くなかったんだよね。だから照準を合わせる事が出来た」とアーサー。

「まあ、あれだけデカくて重いと加速に時間がかかるからなぁ」とエンリ。

「・・・」


短い沈黙の後、エンリは「ギリシアの火とか要らなかったんじゃん」

「何であんなもん作ったんだっけ?」とアーサー。



甲板の向うではニケが楽しそうに、何かの機械をいじっていた。

それを見てエンリは「ニケさん、それってあのギリシアの火・・・」

「各国に売り込むサンプルに、一つ貰って来たの。港の要塞の城壁に並べて使えば、船なんて簡単に燃やせるのよ。新兵器としていろんな国に売り込んで、お金ガッポガッポ」と有頂天のニケ。


タルタは溜息をついて「そういう事かよ。みんなニケさんの金儲けに乗せられたんじゃん」

するとエンリは言った。

「けどニケさん。それ、晴れた昼間じゃないと、使えないよね?」

「あ・・・」とニケ、絶句。

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