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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第93話 抵抗の海賊

ドリアン商会の当主フッガーから、ミン国の陶磁器の技術の習得を志すマインツの焼物職人リベルトを、ミン国の工業都市ケイトクに送り届けるよう依頼されたエンリ王子。

イギリスを離れたエンリたちの船は。ポルタへ帰還する。

ポカホンタスは西方大陸へ渡る船に乗って帰郷。イザベラはスパニアに戻った。



しばらくポルタに滞在し、ひとごこちつくと、エンリは必要な政務を片付ける。

アーサーはロンドンで手に入れた短剣を、ポルタ大学魔法学部開講準備中のパラケルサスに見せる。

短剣をあれこれ調べたパラケルサスは「防御機能にロックがかけてあるようだな。解除方法を探してみよう」

「頼む」とアーサー。



書類の山を相手に判子を突きながら、エンリは宰相に愚痴る。

「何でこんなに仕事が溜まってるんだよ。父上はまだ国王だろ」

「それがあの人、すぐスローライフが懐かしいとか言って、別荘に籠るんですよ」

そう言う宰相に、エンリは「何やってるんだか」と言って溜息をついた。



仕事が一通り片付くと、冒険の旅に出ようという事になる。

お城のエンリの部屋で渡航のメンバーとあれこれ話す。

目指すはリベルトを送り届けるミン国だ。


「イザベラさんの所には行かないんですか?」

そう言うリラにエンリは「もう少しすればお腹が目立つようになる。その時、傍に居てやるさ」


「ところで、ミン国ってどんな所でしたっけ」とリラ。

ジロキチが「皇帝が居て役人が居て海賊が居て」

「ユーロと変わらん」とタルタ。


ニケが「紙を印刷したお金があるのよね」

「凄いですよね?」とリラ。

「そうだよな」とエンリ。

「金も銀も無くて紙を代わりに使ってる貧乏な国」とカルロ。

「そういう話じゃないんだが」とエンリは困り顔。


ジロキチが「それと、いろんな産物がある」

「絹織物は昔からユーロに輸出してるわ。物凄く儲かるのよ」とニケ。

「お料理がおいしいの」とファフ。

「お茶とかいう飲み物は風味があって癖になる」とアーサー。


ジロキチが「役人が威張ってて賄賂取りまくって泥棒が多くて塩がやたら高い」

「賄賂を要求する役人って最悪よね」とニケ。

「女教師ごっこの生徒に、賄賂で稼いで恩師に貢げとか言ってたよね?」とエンリ。

「記憶にありません」とニケがしれっと言う。

アーサーが「自分たちが世界の中心だとかって、あれは無いわなぁ」

「それと陶磁器ですよね」とリラが・・・。



「俺はマインツの焼物も嫌いじゃないが。リベルトはマインツの街で育ったんだよね?」

そう問うエンリにリベルトが言った。

「俺、実は孤児だったんです。子供の頃両親を失って、故郷を離れてマインツに居る親方に預けられまして」


「故郷で引き取る人は居なかったの?」とリラ。

「街の人が丸ごと消えちゃいましたから」とリベルト。

エンリが驚き顔で「街の人が丸ごと・・・って、リベルトの故郷って・・・」

リベルトは「ハーメルンですよ」

「あの笛吹き男事件の?」とアーサー。


リベルトは言った。

「あの夜、俺は病気でベットから起き上れなくて、それで一人だけ助かったんです」



準備が出来て、ポルタの港を出航する。

南方大陸を迂回し、アラビアの海からインド、ジャカルタ。そこから北上してミン国の沿岸へ。

行く先を見ながらタルタが「もうすぐミンだね」

「北から侵略を受けてたけど、どうなったかな?」とエンリ。

リラが「ケンゴローさんたち、無事だといいですね」


その時、向うから来るジパング海賊の船とすれ違った。

向うの海賊船の人が呼びかける。

「あんたらアラビア商人か?」

「その西のユーロから来たんだが」とエンリ。


海賊は言った。

「ミンに向かうのは危ない。戦争に巻き込まれるぞ」

エンリは「戦争って、シーナとミンの?」

「大陸はシーナに占領された。ミンの皇帝はタカサゴ島に逃げて抵抗している」と海賊。


海賊船が去ると、仲間たちと相談する。

「どうする?」とエンリ。

「俺たち、戦争と無関係だよね?」とタルタが言い、他のみんなも頷く。



大陸の港に入港する。

港の役人から入国手続きを要求された。

「人民登録証をお願いします」と役人。


エンリは「俺たち、外国人なんだが」

役人は「全ての民は中華を崇める蛮夷であり、その支配を受ける立場にあります」

「蛮夷って何?」とリラが隣に居るアーサーに。

アーサーは「突っ込んだら駄目な代物だと思う」



役人が蛮夷登録を要求する。

彼は書類を出して「ではこの書類に、氏名住所職業生年月日趣味特技その他諸々の個人情報をご記入下さい」

エンリは溜息をつくと「仕方ない、手続きに従おう」と仲間たちに・・・。


だがアーサーはそっとエンリに耳打ちして「ですが王子、こうした情報は呪殺経路を構築する手掛かりになり兼ねませんよ」

「どうする?」と仲間たち、額を寄せて相談。

適当に名前その他をでっち上げて記載する事にして、各自書類を書く。



そんな彼等に役人は分厚い本を何冊も出して言った。

「それと、中華に従う民の義務として、一人一冊これを買って学習して下さい」

「何ですか?」と訝しむエンリ。

「モータクサン皇帝語録。一冊金貨百枚となります」と役人。

エンリ王子たち唖然。


ニケはエンリに「ドリアン商会は追加の必要経費を出してくれるのよね?」

そして役人は、更に何冊もの本を出して「それと、コウブサメン将軍とシュウチンビラ一等書記の語録も」

エンリは困り顔で「勘弁してくれ」



そんな中でリベルトは役人に「それよりケイトクの町は今、どうなってますか?」

「あそこは閉鎖中です」と役人は言った。

エンリたち唖然。そして「何ですとーーーー!」


役人は言った。

「陶磁器の職人たちは再教育キャンプで革命的製品を作る技術戦士として思想教育を受けています」

アーサーはエンリに「こりゃ駄目っぽいですね」

「俺たち、入国は中止します」

そう言ってエンリたち、窓口に背を向けて船に戻ろうと・・・。


すると役人は「待ちなさい。偉大な中華への御奉仕を拒むのですか?」

役人たちに取り囲まれ、彼等を蹴散らして船に戻り、急遽出航。



船が港を出て一息つくと、タルタが「あーびっくりした」

「あいつ等。頭ダイジョーブか?」とジロキチもあきれ顔。

エンリは「けど、どうする?」

「あの優れた器を作る技術者たちが・・・」とリベルトは頭を抱える。


アーサーが言った。

「皇帝がタカサゴ島に居るんだよね? もしかしたら、一緒に逃げた技術者も居るんじゃないのかな?」

「けどなぁ、そっちに居るのもあんなだったら、どーするよ」と心配顔のエンリ。

「そうとは限らないと思うけど」とジロキチ。


「偉大な中華とか言ってたよね? 自分たちが世界の中心で他は野蛮人だって。けど、シーノの人って元々は北方の異民族で、タカサゴ島に居る方が本家なんだよね?」とアーサー。

「異民族だからこそ本家に対抗して、あんな風に凝り固まってるんじゃないの?」とカルロ。

「それに、この世界地図を見ると、タカサゴ島ってここよね? 秘宝の片割れがあるわよ」とニケが言った。



タカサゴ島の港に入ると、ジパング海賊らしき船がひしめいていた。

「俺たち、ジパングで信長さんの味方して、海賊と闘ったんだが」とカルロが心配そうに言う。

するとジロキチが「奴等にとっちゃ、あの時敵方だったとしても、戦争なんて敵味方入れ替わるとか、当たり前の話だ」

「それに、実はジパング海賊の八割はミン人だものな。毛利水軍はこんな所に居ないよ」とエンリも言った。


その時、一人の海賊がエンリたちを見つけて、言った。

「お前ら、織田の味方したバテレン人だろ。ここで会ったが百年目。覚悟しろ」

その仲間らしき海賊が、わらわらと出て来て、エンリたちを取り囲む。


タルタが困り顔で「毛利水軍、居たじゃん」

「どうする?」とジロキチ。

「蹴散らすしか無いか」

そうエンリが言い、海賊たちに向って仲間たちは武器を構えた。



その時「何の騒ぎだ」と言って、部下を連れて現場に乗り込んで来た海賊の首領らしき人物が居た。

その人物を見てエンリたち唖然。

そしてエンリは彼に「あんた、ミン国の港に居た」


「鄭成功だ」と彼は名乗る。

かつてジパング海賊の拠点に向かう中を壊血病に襲われたエンリたちを、ミン国の港まで案内した、あの海賊の鄭だ。



ミンに居た時の話題に花が咲く。

「あの時は世話になった。あの役人たちとやり合って大丈夫だったか?」と鄭成功。

タルタが「あんなの屁でもないさ」


鄭成功は「けど、あの中にケンゴローが居たんだよな?」

「まあな。そういえば、奴はどうしている?」とタルタ。

「来てるぞ。皇帝の側近としてな」


そう言う鄭にエンリは「そーいやお前は?」

「ここの海賊の顔役みたいになってる。今、亡命皇帝軍を支えているのは、実質俺たち海賊だからな」と鄭成功は言った。



防衛隊の拠点に案内されるエンリ王子たち。

高い木柵で囲まれた、海を見下ろす砦の中に、亡命皇帝庁舎がある。

海上の敵を見張る高い櫓が建っている。


海上で燃えて煙を上げている船がある。

「あの船は?」

そうエンリが訊ねると、鄭は「敵船だよ。偵察に来ていた奴等を追っ払ったんだよ」


港の方で何やら活気に湧いている。

「迎撃に出ていた奴等が戻って来たようだな」と鄭が言った。

門が開いて、数十人の海賊が、わいわいやりながら入ってきた。


その中に、長身短髪の眉の太いマッチョが居た。

彼を見てタルタが「ケンゴローじゃないか」

ケンゴローは「お前はあの鋼鉄男。あの時は済まなかった」

「いいさ。あの程度の修羅場は慣れてる」とタルタ。


ファフが「ねえねえ、病院食、また食べたい」

「お前なぁ」とエンリはファフに・・・。

「それより突き指は治ったのか」とタルタはケンゴローに・・・。

ケンゴローは「あの程度の怪我は秘孔を突けばすぐ回復する」

「秘孔って、"ひでぶ"と言わせて爆発させるものじゃ・・・」とタルタ。

「秘孔は人体のあらゆる機能をコントロールするもので、殺人拳として使うのはその応用に過ぎない」とケンゴローは言った。


「じゃ、逆に強くなる事も?」とジロキチ。

ケンゴローは「当然だ」と言って胸を張る。

「イケメンになって女にモテる秘孔は?」とカルロ。

「お金持ちになれる秘孔は?」とニケ。

ケンゴローは頭痛顔で「お前ら、西斗皇拳を何だと思ってる」



その時、建物から若い女性が出て来た。

「ケンゴローが戻ってきたのですか?」

そう言う彼女にケンゴローは「皇帝陛下」

ケンゴローの無事を喜ぶ皇帝。


彼女はそこにエンリが居る事に気付いた。

そして「あなたはエンリ殿。ようやく禅譲を受けてくれる気になったのですね?」

「それはありません。この地に用があって来ただけですので」とエンリは答える。


皇帝はエンリに言った。

「そうですか。けれども、ここで再会したのは天帝のお導きです。是非とも皇帝の地位を貰って頂きます」

「だからそれはお断りを・・・」

そう言うエンリに皇帝は「いいえ、ジパングから来た海賊の方に、男性を確実に説得する方法があると聞きました」

「いや、俺に色仕掛けは利きませんよ」とエンリ。

「何せ彼は特殊な性癖の変態お魚フェチ」とアーサー。

エンリは「だから変態言うな」


「何の話ですか?」

そう言いながら、皇帝は懐から剃刀を出した。

それを見てタルタは「実力行使で来たかよ」

そんな周囲の反応を他所に皇帝はエンリに「禅譲を受けて下さい・・・さもなくば」

「さもなくば?」とエンリ。


皇帝は言った。

「手首切って死にます」

残念な空気が漂う。


エンリは困り顔で「おい、ジロキチ。ジパングってこんなのが流行ってるのかよ」

ジロキチも困り顔で「誰だよ。そういう変な情報、皇帝に吹き込んだ海賊って」



そんな周囲の反応を他所に皇帝はエンリに「ところでさっき、この土地に用があると仰いましたよね?」

エンリは言った。

「ケイトクの陶磁器の技術を学びたいという人が居るんです。それで大陸に行ったのですが、職人は全員、再教育キャンプに送られたと」


するとケンゴローが「サティアンですね? 実はそこから逃げてきた職人が居るんです」

エンリが「焼物職人ですか?」

「仕立職人なんですが」とケンゴロー。

「とにかく話を聞いてみよう」とエンリは言った。

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