第92話 永遠のロンドン
モリアーティの策謀により建造された魔導戦艦。
これを阻止しようとする人たちの攻防戦。
その中で放たれた最終攻撃魔法「破滅の光」により、ロンドンの街は破壊された。
だがその直前、エンリ王子はこの攻撃魔法の光を、彼の光の巨人剣と融合させた。
破滅の光と融合したエンリの魔剣にかけられた不殺の呪文により、これによって殺された人々は全て生き返った。
騒ぎが落ち着くと、エンリはアーサーに、聖杯の居た空間の中での出来事を話し、そしてそこで預かった短剣をアーサーに渡した。
アーサーは困惑顔で「古代イギリス王の従者が私に?・・・じゃなくて、彼の子孫に、ですよね?」
「お前は彼の子孫だろーが」とエンリ。
「ペンドラゴン村の人はみんな彼の子孫ですよ」とアーサー。
「だったらまた、あそこに行って長老にでも渡すか?」とエンリ。
アーサーは「嫌ですよ。行ったらまたしごかれます」
エンリは「まあ、俺の友達に・・・って言ったんだから、お前が貰っておけ。で、それって・・・」
アーサーはしばらく短剣の魔力を観察し、そして言った。
「防御魔法アイテムの一種ですけど、魔力というより、その術がこちらを攻撃する意思そのものを打ち消すタイプのようですね」
ロンドンの街の再建は急速に進んだ。
そして事件の処理も進んだ。
首謀者のモリアーティは死亡。それを助けたバッキンガム公は遠島送りとなった。
宮殿は破壊され、仮の宮殿で政務をとるヘンリー王と、それを助けるエリザベス王女。
そんな中で、エリザベス王女に面会するドレイク海賊団。
「新入団員が入団したそうですわね」とエリザベス。
「こいつが新人のウォルターですよ」とドレイクは彼を紹介した。
エリザベスはその、見るからにオッサンといった体の新入団員を見て「あなた、ローリー長官と似てるって言われない?」
彼は言った。
「老け顔だってよく言われます。見かけはこんなだけど、エリザベス王女殿下にこの身を捧げます」
「私と、そして大英帝国に、ですわよね」とエリザベス。
「帝国ですか?」と怪訝顔の新入団員。
エリザベスは言った。
「これからは海の向こうを含めての世界よ。それを私たちが支配するの。狭いユーロの枠の中では利害が絡んで確実に敵が生まれる。だけど、例えば手のひらサイズの通話の魔道具で、どこに居ても世界のどこの人とでも対話できるとしたら、どうなるかしら。遠く離れた、利害関係なんて無い人達を味方に出来るのよ。味方は近場より遠くに求めて、近場の敵を包囲する。遠交近攻、これは女子会戦略の鉄則よ」
ウォルターは「必ず実現させます」
「期待しているわよ」
そう言って、ウォルータの手を執るエリザベス。そして彼は脳内で呟いた。
(我が人生に悔い無し!)
時計塔魔法学校も仮校舎で授業を再開した。
エルメロイ教授が生徒たちの前で言う。
「リラ君とポカホンタス君は学校を離れる事になった」
「残念だなぁ。二人ともいい子だったのに」と男子学生の一人。
「魔法少女もあれが見納めかぁ」と、もう一人の男子学生が・・・。
そしてエルメロイは「で、代わりにと言ってはあんまりだが、新入生を紹介する。入りなさい」
見るからにオッサンといった体の男子学生。
「確かに、あんまりだ」と、と男子学生の一人。
「けど、どこかで見たようなオジサン顔」と女子学生の一人。
「本当に十代後半かよ」と別の男子学生が・・・。
「君、クロウリー長官に似てるって言われない?」と、更に別の男子学生が・・・。
「老け顔だって、よく言われます」と新入生。
「とりあえず自己紹介を」と彼に促すエルメロイ。
新入生は自己紹介した。
「アーレスターです。宇宙の根源を極めようと、魔法を学んできました。けれども、ある人達が大切な事に気付かせてくれました。その知識は何かに使うためにあるのだと。古代の哲人は言った。"汝の欲するところを成せ"と。なので、これからは自分の欲望を叶えるための魔法を究めたいと思うんです」
「欲望を叶えるって、どんな?」と男子学生の一人。
アーレスターは「例えば、エロが生み出すパワーを魔術に応用する方法とか」
「いいじゃん、それ」
そう言って男子学生たちは盛り上がり、女子学生たちはドン引きした。
バッキンガム公はセントヘレナ島へ配流された。
孤島に上陸し、宛がわれた宿舎で、彼を迎えた女性が居た。
「お久しぶりね。バッキンガム公ヘンリー。私もこの島に流されたの。いわば流刑囚の先輩ね」
そう言う彼女を見てバッキンガム公唖然。そして「アン先王妃。私は・・・」
アンは言った。
「いいのよ。ここには奪い合うような王冠なんて無いんだから。それより、あなたが来ると聞いて、会いに来た人が居るの」
一人の女性が部屋に入り、バッキンガム公に言った。
「ヘンリー、会いたかった」
彼女を見てバッキンガム公唖然。そして「あなたは・・・リチャード。本当に女性だったんだ」
女性の姿のリチャードはバッキンガム公に言った。
「王冠の輪の中に楽園なんて無かった。そこにあるのは茨だけ。それを切り払ってここに来ました。ずっと傍に居てくれますか?」
バッキンガム公は涙目で「もちろんだ」と言って彼女の手を執った。
エンリ王子たちは帰国する事になった。
一緒に出国するリラとポカホンタスを見送りに来たホームズと探偵団。
「お世話になりました。ホームズさん、ワトソン先生」と言ってお辞儀するリラ。
ローラが「リラは魔法の勉強は続けるの?」
「ポルタ大学に魔法学部が出来る事になったの」とリラが答える。
「ってか、今まで何で無かったんだよ」とタルタが突っ込む。
「ポカホンタスは西方大陸に帰るんだね?」とホームズ。
「家族の所に戻るのかい?」とワトソン。
ポカホンタスは「いえ、現地でイベリアから来た人たちに虐待されてる大陸の仲間たちが居ると聞いたので、魔法少女として彼等を助けたいと思うんです」
「そうか。頑張ってね」と探偵団の仲間たち。
すると荷物から顔を出した黄金像が「男の子たちにちらほや・・・はもういいのか?」
ポカホンタスは顔を赤くして「そういうの、止めて下さい・・・っていうか、二人もお友達が出来て一緒に遊んで、十分かな・・・って」
遠坂と間桐は「俺たちと居て、楽しかった?」
「とっても」と言ってポカホンタスは笑顔を見せた。
ドリアン商会のフッガーが来る。
そして「あの、エンリ王太子」
エンリは「フッガーさんも見送りに来てくれたんですか?」
「いえ、私、商人ですんで、ささやかながら商談・・・というよりお願いを」とフッガー。
「ですよねー」とエンリは苦笑い。
「それで、お願いって?・・・」とアーサーが聞き返す。
フッガーは「王太子は世界を航海しておられるのですよね?」
「海賊団ですので」とエンリ。
「東のミン国に行く事も・・・」とフッガー。
「まあ、あそこにも秘宝の片割れはあるからなぁ」とエンリ。
「そこに彼を連れて行って欲しいのです」
そう言うフッガーの隣に、見るからに職人・・・といった体の若者が居た。
「ドイツ、マイセンの焼物職人でリベルトと言います」と彼は名乗る。
「もしかして・・・」
そう言いかけたエンリにフッガーは言った。
「かの国の技術を学んで異国の産物を自分たちで作れるように・・・と仰いましたよね? 彼は以前からミン国の陶磁器の製法を学びたいと言っていましてね。彼を助けて欲しいのです」
エンリ王子は「解りました。お任せ下さい」
「よろしくお願いします。王太子」とフッガーは頭を下げる。
その時、ニケが言った。
「ところで、商談というからには、実費や報酬は頂けるのよね?」
エンリは困り顔で「ニケさん、そういうのは止めようよ」
するとフッガーは「いえ、彼が技術を持ち帰って陶磁器を国産化出来れば、大きな利益となります。渡航費としては、これだけあれば足りるかと」
そう言ってフッガーは、金貨のたくさん入った袋をエンリに渡した。
ニケは「お任せ下さい・・・って王子、それ私のお金」
「タルタ海賊団の予算だろーが」とエンリはあきれ顔で言った。
それを脇で聞いていたポカホンタスは「あの・・・さっき、エンリ王太子って」
エンリは「俺、ポルタ王ジョアンの長男なんだが」
ポカホンタス唖然。
そして「えーっ!・・・。エンリさん、自称じゃなくて本当に王子だったんだ」
そこにヘンリー王とドレイク提督が見送りに来る。
「エンリ王子、行かれるのですか」とヘンリー王。
「タルタ、これから船出か」とドレイク提督。
大物と挨拶をかわすエンリ王子を見て、青くなるポカホンタス。
そして「私、すっごく失礼な事言っちゃったような」と、思いっきりの恐縮顔で・・・。
「失礼って?」とタルタ。
「自称王子の痛い人って奴?」とアーサー。
全員爆笑
エンリは困り顔で「いや、別にいいけどさ、外交辞令ってあるよね?」
「だってエンリ王子って全然王子っぽくない」と言ってタルタが笑う。
エンリは「王子っぽいって何だよ」と言って口を尖らす。
するとカルロが「アレだろ? 王子様キャラとか言って、前髪払ってハニーとか言って踊りながら会話するみたいな」
「そんな王子っぽさは要らないから」とエンリは憮然とした顔で言った。
「それに変態お魚フェチだし」とニケ。
ポカホンタスは興味津々顔で「お魚フェチって何ですか?」
「それはね」
そう言いかけたニケにエンリは「教えなくていいから」
エンリたちの船が岸壁を離れる
見送る人々が思い思いの声を投げかける。ホームズ、ワトソン、ドレイク提督、ヘンリー王とエリザベス王女、そして彼等の端のあたりで手を振るルパンの姿に、ポカホンタスは気付いた。
ルパンがポカホンタスに向けて叫んだ。
「頑張れよ、魔法少女」
ポカホンタスの脳裏に様々な思い出が交差する。
火矢で飛んだロンドンの夜空、渡された募集チラシでありついたアルバイトの仕事、目の前で強敵と闘った彼の姿。
そして彼女は彼に向って叫んだ。
「ルパンさーん」
「え?・・・・」
彼女の叫びで周囲の人がルパンの存在に気付く。
自分に集中する周囲の視線に、ルパンは慌てた。
「あ・・・あれ? あの有名なイケメン怪盗が? どこに居るのかなぁ」
手錠を持って「ルパン御用だ」と叫んで飛び出すガニマール警部。
ルパンは「ジェーン、逃げるぞ」
そう言って隣に居るジェーンの手を引き、近くに繋いていた馬に二人で飛び乗って逃げる怪盗ルパン。
警官たちが騎馬でおいかける。
彼等の先頭にガニマール警部
「とっつぁん、何でまだロンドンに居るんだよ」
逃げながらそう言うルパンに「俺は地獄の果てまでお前を追うぞ」と叫ぶガニマール。
「勘弁してくれ」と困り顔でルパンは呟いた。
そんな様子を見て、ポカホンタスは呟いた。
「あちゃー、不味かったかなぁ」
エンリ王子たちの船が去り、そして見送りの人たちも去った中、遠坂たち三人はテームズ河の河口を眺める。
「二人とも行っちゃったね」とローラは言った。
「いろいろあったね」と間桐。
「魔導戦艦とか」と遠坂。
ローラは「聖杯って本当にあったんだね」
「けど、沈んじゃった」と遠坂。
「探せば見つかるかな?」と間桐。
「何でも願いが叶う願望器だもんね」とローラ。
間桐が「本体は精霊世界にあるから、探すというより召喚かな?」
「けど、また怖い事になっちゃうかも」とローラ。
遠坂が「それは使う者次第だよ」
「そうだね」とローラ。
そして間桐は言った。
「あのさ、聖杯の召喚、俺たち三人の研究テーマにしない?」




