第09話 王都の防衛
かつて北方の海賊として活躍したノルマンの国を訪れたエンリ王子たちは、王都で教会に収容された多くの怪我人を見た。
医術の心得のあるニケが彼等を診察し、そして言った。
「これ、焼き印よ。この人たち、奴隷狩りに遭ったのよ」
エンリ王子唖然。
そして「誰がこんな事を・・・」
王子の脳裏を言葉が駆け巡る。教皇庁・ドイツ騎士・奴隷・・・。
「異教徒狩りか!。あんたら異教徒として村を襲われたのか?」と王子は怪我人に確認する。
怪我人は呻くように言った。
「ノルマンの古い神を祀っただけだ。先祖から受け継いだ大切な信仰だった」
その時、タルタとジロキチ帰還。
「蒸留酒持ってきたぞ」とタルタ。
「飲んだりしてないわよね?」とニケ。
「飲まないよ。消毒だろ。けど酒って凄いぞ。こんな事も」
そう言ってタルタは口元で火打石を鳴らしながら口に含んだ酒を吹く。酒の霧が炎となる。
「ドラゴンの炎でござい」とタルタ。
怪我人たちが思わず拍手。ニケは思い切りタルタの後頭部をハリセンで叩いて言った。
「遊んでるんじゃないわよ」
ニケが怪我人を処置し、場は落ち着きを取り戻した。
タルタはニケに言った。
「あんた、医術とか出来るのな」
「亡命賢者の先生にいろいろ教わったからね。薬物とか得意よ」とニケ。
「どんな?」とタルタ。
「痺れ薬とか、吹き矢に使うのよ」とニケ。
「飛び道具使いかよ」とタルタ。
「あと短銃とか投げナイフとかもね」とニケ。
一息ついた所でエンリが言った。
「王城に行こう。ノルマン王と話がしたい」
城門の前に出る。だが、守りが堅固とは言えない造りだ。石垣も低いし建物は木造。
「防衛向きじゃないな。火責めにでも会えばイチコロだ」とエンリは溜息をついた。
「それでどうする」とタルタ。
ニケは「あんなの許せないわよ。異教徒狩りなんて」
「滅ぼして領地を皇帝に献上するんじゃなかったのかよ」とジロキチ。
「だって・・・」とニケ。
するとエンリ王子は「いや、俺も同感だ。こっちに加勢しよう」
「けど、ジョアン王の依頼に反するんじゃ・・・」とアーサー。
エンリは意味深な顔で「俺は解決しろとしか言われてないぞ」
「けど、どうやって入る? 加勢に来たとでも言うか? そんなので信じる奴が居るかよ」とジロキチ。
その時、城門を守っていた守備兵がエンリ王子たちを見つけて、言った。
「お前達は?」
「加勢しに来た」とタルタ。
「助かる」と守備兵。
中に入れてもらうエンリたち。
「信じちゃったよ」とタルタはあきれ顔で言った。
「お人好しって王様だけじゃないのかも」とエンリも・・・。
ノルマン王に面会するエンリ王子たち。各地から招集された部族軍の長が並んでいる。
ノルマン王は言った。
「加勢して頂けると聞いたが、どちらから来られたのかな?」
「ポル・・・」と言おうとしたエンリの足をアーサーが思い切り踏む。
「何するんだよ」と王子はアーサーの耳元で・・・。
「簡単に身分を明かしちゃ駄目ですよ」とアーサー。
「そうか」とエンリ。
アーサーは王に「こちらは、さる高貴な出の方で」
「猿の高貴な?・・・」とノルマン王。
アーサーは「いえ、人間の・・・です。それで武者修行で世界を廻って」
「なるほど、冒険者という訳ですな。修行とはどのような」とノルマン王。
「千尋の谷に身を投げて這い上がってくるという」とエンリ王子。
ノルマン王は笑って「どこかで聞いたような話だな。だが、他国の方の助力は不要。我がノルマン騎士団は無敵。旅の方はゆっくりして行かれると良い。カール、案内してあげなさい」
「こちらへ」
そう言って、いかにもお人好しそうな青年が案内に立つ。
「あなたは?」とエンリ王子。
若者は「グスタフの一子、カールと申します」
「皇帝軍は大軍ですよ」とエンリ王子は言った。
カール王子は「我がノルマン騎士団は一騎当千。ご心配には及びません」
その時、伝令が駆け込んできた。そして言った。
「王様、港の守りが破られました」
タルタはあきれ顔で「言ってる傍からこれかよ」と呟く。
「我が先頭に立って敵を蹴散らしてくれるわ」と豪語するグスタフ王。
それを見てアーサーは「そういう精神主義が一番危ないんだが」と呟く。
王は立ち上がろうとしたが、上体をかがめて「こ・・・腰が」と辛そうになる。
「言わんこっちゃない」とエンリ王子は呟く。
そんな王にカール王子は「父上、私が指揮をとります」
「頼んだぞ」とグスタフ王。
エンリ王子は隣に居るアーサーに言った。
「アーサー、魔法で何とかならんか」
「やってみましょう」とアーサー。
港の周囲で戦闘が行われている。続々と上陸する皇帝兵。明らかに守備側が押されている。
アーサーはカール王子に言った。
「あいつら、下がらせて下さい」
「どうするんですか?」とカール王子。
アーサーは「広域魔法で一撃かけます。混乱した所を一気に押して追い落として下さい」
アーサーは呪文を詠唱する。
「汝、炎の精霊、天上を照らす太陽の子供等。彼らの頭上に集い灼熱の雲を成せ。汝の名はファイヤーレイン」
古代語の呪文を唱えながら敵陣の上空を杖で指して魔法陣を描く。いくつもの古代文字が魔法陣の円環に配置される。
そして「ファイヤーレイン。地上に降りて敵を焼け。炎あれ!」
炎の雨が敵陣を襲って大打撃を与え、ノルマン軍が突撃。皇帝軍は海に押し戻され、小舟に乗って沖の軍艦に撤退した。
「アーサーすげぇ」とタルタがはしゃぐ。
「けど呪文の詠唱に時間かかるのがなぁ」とジロキチ。
「ファイヤーアローみたいな簡単なのは一声で済むんですけどね」とアーサー。
ノルマン兵たちの歓声が上がる。
「見たか、ノルマンの力を」
「ドイツ皇帝恐れるに足りず」
ノルマン王も家来に担がせた輿の上で気勢を上げる。
「調子のいい爺さんだなぁ」とタルタは笑って言った。
アーサーは王に言った。
「ノルマン王、あれは先方隊です。本体が来たら支えきれないでしょう」
タルタは「また魔法でやっつけたらどうよ」
だがアーサーは「本体には魔導士隊が居ます。ドイツの魔導士は強敵です」