第88話 反乱の理由
モリアーティに乗っ取られた魔導戦艦計画の危険性を知ったヘンリー王の廃止命令に抗って造船所に立て籠もった海軍の反乱。
陸軍を動員して排除に当たる。
反乱側魔導士の魔法攻撃をかい潜って最初に突入を試みたのはドレイク海賊団だ。
魔法による爆弾転送でドック側の壁を爆破して突入に成功した。
ドレイク提督と海賊たちがドックに乗り込む。
「奥の壁を破れば魔導戦艦の隠しドッグだ」
そう叫んで突入するドレイクたちを待ち構えていたのは自律機械人形兵たち。その背後にローリー長官が居た。
海賊たちと、後から続く陸軍兵が排除に当たる。ドレイクの斧が人形たちをなぎ倒す。
そのドレイクの前にローリーが立ちはだかる。
「何故邪魔をする」
そう叫ぶドレイクにローリーは言った。
「その理由はあんたが一番良く知ってる筈だ。モリアーティが俺にこの計画を持ちかけた時、確信した。この船があれば英国は世界の海を支配できる」
「世界の海を支配するのは海賊だ。そして海賊は船ではなく人間なんだ。あんただって元々海賊だったろーが」とドレイク。
ローリーは「だがエリザベス殿下は海賊じゃない。将来の女王だ。あの子に世界を統べる王冠を渡す」
そんな彼を見て、ドレイクは「ローリー、お前、ロリコン・・・」
ローリーは「その呼び方は文学的じゃない。ニンフォラバーと呼べ。お前だってそうだろ」
「そうだな。可愛いは正義」とドレイクは彼に笑って言う。
「小さい女の子は世界の宝」とローリー。
ドレイクの部下たちも「エリザベスたん萌えーーーーー」
そして彼等は「長官」とローリーに・・・。
ローリーは「お前ら」とドレイクの部下たちに・・・。
ドレイクはローリーと部下たちに「俺たちは王女を守る仲間だ」
そしてローリーは言った。
「なのにドレイク、何なんだ。お前ばっかりおじ様おじ様と懐かれて、いつもいつもベタベタと」
「よーするに嫉妬かよ」とドレイクはあきれ顔でローリーに。
ローリーは大剣を構えて言った。
「俺だってなぁ、海賊時代はブイブイ言わせてたんだ。ドレイク、勝負だ」
ドレイクは「受けて立つ。お前ら、手を出すなよ」と部下たちに。
ドレイクの部下たちが見守る中、二人のマッチョの巨大な武器が火花を散らした。
陸軍の一隊とともに別ルートから突入した、ホームズと彼の探偵団、そして魔法学校の教授と生徒たち。
二階の窓から魔法攻撃をかける魔導局の魔導士隊を制圧するため、ゴーレムに足場を作らせて直接二階へ突入した。
先頭に立つ陸軍兵を背後から魔法で支援する生徒たち。
海軍兵を排除して二階フロアへ。魔導士たちが盛んに攻撃魔法を撃ってくる。
その背後に居るクローリー魔導長官が杖を向けて打ち出す強力な闇の波濤の呪文。
三人の教授が光の楯で防ぎ、三対一の魔法の力比べとなる。
その隙に、間桐が放った多数の式神虫が海軍兵や魔導士たちを襲う。遠坂が飛び出し、海軍兵の間を縫って魔導士たちに切りかかる
阻止しようとした海軍兵をローラが瓶から放った水銀のワイヤーが襲った。
ポカホンタスは跳躍して天上の灯を足場に、上から海軍兵たちにウィンドアローを連射。
反乱側の防御は崩れた。
乱戦の中で水兵たちが陸軍兵に制圧される中、クロウリーを取り囲む時計塔の三人の教授と生徒たち。そしてホームズ。
「クローリー長官、投降しろ」
そう呼びかけるホームズにクロウリーは「君達は聖杯が何か知っているかね」
「願望器ですよね。それに世界の根源を教わりたいと?」とワトソン。
クロウリーは言った。
「見くびるな。私は研究者だ。自らの力で世界の根源を極める。そのために聖杯は究極の研究素材だ。あれの本体は世界の裏側の精霊界にある。その世界に直接触れる事が叶うんだ。既に多くの知識を得る事が出来た。そのために、多少の危険が何だと言うのだ」
「モリアーティは恐ろしい男だ」とホームズ。
「人類の進歩に犠牲はつきものだ」とクロウリー。
ホームズは言った。
「解ります。私は探偵だ。探偵とは真実を見定める存在。そしてそれは何のためか。自分を含めた人々を守るためだ。人は暗闇を恐れ光を求める。それは何故ですか? 光がある事で、人は周囲の様子を見て知る事が出来る。人にとって光は周囲を見て知る、情報のよすがなんだ。それがあるから、足元の石を避けて歩く事が出来る。けれども、それを知る事が出来ても、避けないなら何の意味も無い。違いますか?」
「・・・」
「あなたを倒します」と言ってホームズはステッキに仕込まれた剣を抜いた。
「来なさい」
そう言ってクロウリーは右手に剣、左手に魔法の杖を持って、身構えた。
エンリ王子たちは陸軍主力とともに、正面の門を破って構内に突入した。
広い資材工房に待ち構えていたのは、洗脳魔法を受けた海軍の精鋭たち。
隊列を組んで鉄砲を斉射する水兵たちの攻撃を、アーサーとマーリンが氷の楯で防ぐ。
その水兵の隊列に、タルタが鋼鉄砲弾で突入し、陣形が破れた所を鉄化を解いたタルタが大暴れ。そこにジロキチが飛び組んで切りまくる。
彼等が作った敵陣の綻びに陸軍兵たちが突入し、乱戦となる。
資材の陰から銃を構える海軍兵を、次々に仕留めるニケの短銃。
資材の山の上から海軍兵の背後に飛び降りたカルロがナイフを振るう。
魔剣を振るうエンリ王子を背後から水魔法で支援するレラ。
アーサーの氷の礫で薙ぎ倒される海軍兵たちの背後に居たバッキンガム公が、エンリ王子の前に立ちはだかる。
「勝負だ」
そう言って、四本の魔力を帯びたレイピアを腰に下げたバッキンガム公。
それを見てエンリは「あなたも四刀流ですか?」
「私は君の仲間みたいな曲芸は出来ないのでね」とバッキンガム公。
エンリ王子が炎の魔剣を抜く。
「炎には水だな」
そう言って、バッキンガム公は水のレイピアを抜いた。
刃がぶつかる度に激しい衝撃と水蒸気。
バッキンガム公は左手でもう一本の炎のレイピアを抜く。
エンリは水の魔剣に切り替える。
「君の魔剣は融通が利くが、異なる力を同時には使えまい」と言って、水と炎のレイピアで斬りかかるバッキンガム公。
「王子様」
そう叫んで人魚姫がアイスアローを打ち込み、バッキンガム公が炎のレイピアで防ぐ。
アイスアローの氷の魔力は衝撃とともにレイピアの炎を弱め、王子が炎の魔剣でそれを折った。そして一撃。
水のレイピアと炎の魔剣が激突し、双方が体勢を崩した所を、リラのアイスブレットがバッキンガム公を撃った。
その頃には周囲の海軍兵の制圧も完了。
倒れて捕縛されるバッキンガム公はエンリに言った。
「君は愛する人と背中を預け合って戦っているのだな。私にも居たよ。だが、私は彼を裏切り、今の地位を保った」
「後悔しているのですか?」とエンリ王子。
「このイギリスの破壊を望む程にね。私は洗脳されたのではない。望んで洗脳を受けたのだ」とバッキンガム公。
「あなたが背中を預け合った人って、誰なんですか?」
そう問うエンリにバッキンガム公は言った。
「リチャード王さ。私は策謀を巡らして敵を排除し、彼の望みを叶えた。だが、王となった彼は私だけのものではなかった。彼を独占したくて、私は反乱を起こし、今の王朝を起こす事に加担した」
「あなたは・・・」
そのエンリの言葉に応えて語るバッキンガム公。
「私はノーマルだ。そして彼は男性だ。けれども私はそれでも良かった。だが彼は私を拒んだ。自分の体に悪魔が宿っているとか言って・・・。私は男でも女でもなくリチャードが欲しかった。けれども、あの反乱で彼は戦死した。私は、彼を殺した自分を呪いながら生きてきた。なのに、彼の妻は亡き彼のために反乱を起こした。彼女は彼に愛されていなかった筈なのに・・・」
エンリは言った。
「リチャードさん、生きてますよ」
バッキンガム公唖然。そして「何ですとー」
「それと、彼自身知らなかったようですが、あの人は女性です」とエンリ。
バッキンガム公また唖然。そして「何ですとー」
混乱を隠せない体のバッキンガム公は「何で彼は男として生きてきたんだ?」
「彼の父親がそうさせたんですよ。嫁にやらず独占するために」とエンリ。
「何と愚かな」と言って溜息をつくバッキンガム公に、エンリは言った。
「けど、あなたもあの人を独占したかったんですよね?」
バッキンガム公は「そうだな。私も愚かだ」
「彼女に会いたいですか?」とエンリは問う。
「会いたい」と涙目で呟くバッキンガム公。
その時、造船所に激しい揺れが起きた。
「何だこれは」
そう言って騒ぐエンリたちにバッキンガム公は「魔導戦艦が起動したのです」
「急がなきゃ」と焦るエンリにバッキンガム公は言った。
「モリアーティの体は戦艦の司令室に居ます。ですが、それは抜け殻です」
エンリは「どういう意味ですか?」
「彼は自分の体に傀儡の魔法をかけて動かしています。彼自身の魂を別の体に移して」とバッキンガム公。
「誰かの体を奪ったのですか?」とエンリ。
バッキンガム公は「自律機械人形に・・・ですよ。それは船首像になっています」
「船首像って木像じゃないのかよ」とタルタは唖然とした顔で・・・。
「魔導戦艦の最終破壊攻撃システム、波動砲は、あの像が使う攻撃呪文、破滅の光です」とバッキンガム公。
エンリは「奴はそのためにそれを自分自身の体にしたと」
バッキンガム公は隠し扉を開け、魔導戦艦の隠しデッキへの道を開いた。
広大な隠しデッキは既に導水が完了し、その水面には巨大な戦艦が動き出していた。
それを見てタルタが「このデカいのが船かよ」
「安宅船どころじゃないわね」とニケ。
「防護鉄板どころか船体丸ごと鉄だぞ」とアーサー。
「マストも帆も無いのかよ」とジロキチ。
「魔法で動くんですね」とリラ。
「やたら塔みたいなのがいくつも立ってるんだが」とカルロ。
「艦橋ってやつだ。あの一つ一つが魔導戦艦の霊的中枢なのさ」とエンリ。
ドッグの建物が崩壊を始め、屋根が崩れて部材が落ちて来るのを防御魔法で防ぐ。
戦艦の甲板からは無数の自律機械人形が攻撃魔法を撃って来る。
船首側の壁を破壊してドレイクたちの一隊が突入して来た。
動き出した船を見てドレイクが「遅かったか」
彼等と合流したエンリは「どうしよう。これじゃ乗り込むのは無理だぞ」とドレイクに・・・。
するとニケが「いや、あれを見て」と言って船の船尾方向を指す。
船の後部で宙を舞う何かが居た。
「ホームズさんたちだ」とレラが叫ぶ。
ローラが背負った背嚢から水銀のワイヤーが最後部の艦橋に取り付き、これに引かれて空中を船にまっしぐら。
五人がローラに掴まって一緒に船に向かっている。ローラは空中で次のワイヤーを射出し、後ろから二番目の艦橋にワイヤーが取り付く。
リラが念話の魔道具の波長を合わせた。
「ホームズさん」
そう問いかける彼女に「リラ君だね」とホームズの声が届く。
バッキンガム公から得た情報を話すリラ。
ホームズは言った。
「なるほど、では我々は真っ直ぐ船首像を目指す。だがこれを実質動かしているのは聖杯だ。止めるのは難しいかも知れない。市民の避難を頼む」 リラは「了解しました。けど、どうやって船に飛び移ったんですか?」
「ローラ君が水銀魔法の応用で作った立体機動魔道具だよ」とホームズは答えた。




