第87話 暴走のドラゴン
王立造船所で建造中の魔導戦艦の実態が明らかとなり、これを背後で操るモリアーティの存在が露わとなる中、ヘンリー王は造船所の閉鎖を決断。
そして、これに抗う海軍の造船所立て籠もりを、反乱と認定した。
陸軍が造船所を包囲する。
造船所周辺の海軍陣地には、ゴーレムやオーガやサイクロプスの姿。
そんな様子を見てヘンリー王は「あのモンスターは何だ?」と陸軍の将軍に訊ねる。
将軍は「クロウリーが連れて来た魔導局の奴等が召喚したんでしょうね」
「こちらの魔導士は?」とヘンリー王。
「時計塔の教授たちが居ます」とドレイク提督が答えた。
時計塔魔法学校のエルメロイ教授とリガルディ教授の隣には、ホームズと彼の探偵団。
そしてレストレード警部と警官隊。
そこに時計塔のリラの同級生たちが駆け付ける。
「俺たちも加勢するぞ」と学生たち。
エルメロイ教授は困り顔で「お前ら、学生は家に帰れ」
「ローラや遠坂たちだって参戦するんだよね?」と、学生の一人が・・・。
別の学生も「こんな面白いイベント、指くわえて見てろとか言いませんよね?」
「どうなっても知らんぞ」と言って溜息をつくエルメロイ。
「ところで間桐とポカホンタスは?」と、学生の一人が遠坂たちを見て言った。
遠坂は「あの二人は秘密兵器をとってくるそうだ」
本陣には陸軍の将軍や参謀を指揮するヘンリー王とエリザベス王女。そしてドレイク提督と彼の海賊団。
そこにエンリ王子たち一行とマーリンが駆け付ける。
「ドラゴンの少女は見つかりましたか?」とヘンリー王。
エンリ王子は言った。
「警察が探してくれていますが、恐らくモリアーティの仕業でしょう。傀儡の魔法で操ってこちらにぶつけて来る可能性が大きい。出て来たら私たちが対処します」
その時、煙を吐きながら飛んでくる物体があった。
「ルパンの火矢だな」とホームズが呟く。
物体は陸軍と海軍が睨み合う上空で爆発し、何かがバラバラと落ちて来た。
落ちて来た物を拾って確認したホームズ。
「ルパンカードじゃないか」と言って、その内容を読み上げる。
「これより造船所にあるお宝、聖杯を頂きに参上する。怪盗ルパン」
「聖杯って?・・・」と訝しがる将軍たちに、ドレイクは言った。
「魔導戦艦の心臓部に使われる宝器だよ。イングランド古代王が部下に探索させたと言われている」
ヘンリー王は指揮下の全軍に号令。
「役者が揃った。これより造船所の制圧を開始する。ここに立て籠もっている海軍は反乱分子である。首謀者はローリー海軍長官・クローリー魔導長官・宰相バッキンガム公の三名、そしてその背後に居るモリアーティ教授だ。三人の首謀者とその他多くの者はモリアーティにより魔法で操られていると思われる。その他の者も騙されて参加している。なるべく殺さぬように。だが、施設は破壊してかまわん。建造中の軍艦ドッグの奥に巨大な魔導戦艦を建造しているエリアがある。これはきわめて危険なものと推定されるので、必ず破壊せよ。では作戦を開始。突入!」
その時、陸軍が布陣している右手奥の空地からドラゴンが出現した。
エンリは言った。
「ファフだ。あいつ、やっぱり操られていたのか」
そしてエンリはドラゴンに向かって叫ぶ。
「やめろファフ」
「聞こえてませんよ」とカルロはエンリに。
アーサーは望遠鏡でファフを見る。そして「見てください。額に黒い魔石が浮き出ています」
エンリは「あれは死ぬとああなるのではないのか?」
アーサーはそれに答えて言った。
「恐らく、変身の影響でしょう。あれを破壊すれば正気に戻せます。あの魔石は闇の魔力で人を操るので、光魔法が効く筈です」
「とりあえず何かで奴の動きを止めて、俺が光の巨人剣で」
その時・・・。
「動きを止めるなら、俺たちがやります」
その声とともに、市街地の方から現れた巨大なムカデ。それに乗った間桐とポカホンタス。
エンリはそれを見て「こいつは?」
「間桐さんが育てたんです」とポカホンタス。
タルタが「ペットにしちゃ趣味が悪いぞ」
「ジパングに伝わる秘儀ですよ」と間桐が言った。
少し時間を遡る。
間桐はポカホンタスと、彼のアパートの裏庭に居た。その一隅を掘る間桐。
そして「ここに埋めておいたんだ」
「埋めたって何を?」
そう問うポカホンタスに間桐は「蟲毒の秘法だよ」
大型の甕を掘り出す間桐。
そして「この中に百匹の虫を入れると、互いに殺し合う。最後に生き残った一匹を使う事で最強の式神になるんだ」と説明する。
「ちょっと残酷ですね」とポカホンタス。
間桐は「式神ってのは、元々は虫や小動物の魂を使うんだよ」
「生贄みたいな事をするのですか?」
そう問うポカホンタスに間桐は説明した。
「先祖から受け継いだ術さ。それに更に磨きをかける。その虫を改良する事で最強の呪蟲を造れるって、親父が言ってた。そういう家に生まれた者の宿命だよ」
壺の蓋を開けると、ムカデが出て来る。
「生き残ったのはこいつか」
そう言って間桐は呪符の上にムカデを乗せて長い針を刺す。呪文を唱えて、もがくムカデに呪薬を垂らすと、動きが止まる。
そして、青い光とともにムカデは巨大化した。
「行こう。そろそろ鎮圧が始まる頃だ」と間桐。
ポカホンタスは魔法少女に変身し、間桐とともに大ムカデに乗って造船所に向かった。
そして、戦場に着いた間桐は乗っている大ムカデを示して「こいつならドラゴンの動きも止められます」
「そりゃ、助かる」とエンリ。
だがタルタは「けどファフ、ムカデは嫌いだぞ」
その時、リラは言った。
「間桐さんはみんなと合流して、あの大型モンスターの相手をして下さい。ファフは私が止めます」
エンリが「リラ、大丈夫か?」
「強力な水魔法を憶えたんで、試してみたいんです。王子様のお役に立ちたい」
そう言うリラにエンリは「解った。リラ、ここは任せた」
リラは呪文を唱える。
「汝、水の精霊。水底に棲みし海神の眷属の長たる、汝の名はウォータードラゴン」
古代語の呪文を唱え、目の前に魔法陣を描き、古代文字を配置する。
「ウォータードラゴンよ、水のイデアを纏いてその身を成し、我が命の元に顕現せよ。召喚あれ!」
魔法陣から膨大な水が沸き上がって巨大な蛇の形となって暴走したファフに巻き付いた。
「人魚姫凄げー」とタルタ唖然。
リラは「皆さん、こっちは大丈夫です」
「じゃ、王子とリラさん、後は任せた」
そう言って、二人を除く仲間たちは造船所の攻防に参加した。
リラは人魚に変身した。
そして「王子様、乗って下さい」
ファフのドラゴンの体に巻き付いた水のドラゴンの背を、エンリを乗せたリラの人魚が泳いでファフの額へ迫る。
近付くドラゴンの額に浮かぶ黒い物体を見て、エンリは「あれが闇の魔石か」
ドラゴンが吐く炎をエンリの氷の魔剣が切り裂き、リラが水の縛めの呪文でドラゴンの口を塞ぐ。
そしてエンリは光の魔剣でドラゴンの額の魔石を破壊した。
ドラゴンは倒れ、人間のファフの姿に戻る。
エンリがファフを抱きかかえて「ファフ、しっかりしろ」
「大丈夫、眠っているだけです」とリラ。
エンリは「よし、俺たちも向こうに参加するぞ」と言ってファフを本陣の救護隊に預けた。
アーサーは仲間たちとともに造船所攻略に参加していた。
何体ものゴーレムが陸軍兵を相手に暴れている。そのゴーレムをタルタの鋼鉄砲弾が次々に仕留める。
整列して鉄砲を構える水兵たちに、改造した短銃を連射するニケ。
そして「リガルディさんが作ったこの転移装填銃、いくらでも撃てちゃうわね」
「調子に乗って弾切れにならないようにしろよ」とアーサー。
ニケは「解ってるわよ・・・って、弾が無くなっちゃった」
「けど、殺すなったって、相手は鉄砲をバンバン撃ってきてるんだが」とジロキチ。
アーサーは「陸軍に支給した銃弾に不殺の呪文がかけてあるそうだ。制圧した頃生き返るんだとさ」
「ジロキチの刀も・・・だよね?」とカルロ。
水兵の陣地に突入して敵をなぎ倒すジロキチ。
銃弾をかいくぐって接近しナイフを投げるカルロ。
銃を構える水兵隊と向き合う陸軍兵。彼等の背後で防御魔法で支援する時計塔の生徒たち。
水兵の背後から何体ものオーガが現れ、向かって来る。
その時、間桐の巨大ムカデが到着した。
そして間桐は「遅れてすまん」
クラスメートたちは巨大ムカデを見て「何だよそれ」
「俺のとっておきの式神」と間桐。
「それとポカホンタス、その恰好」とクラスメートたちは彼女の魔法少女服を見て・・・。
「あ・・・。皆さん、何でここに」
クラスメート達に魔法少女姿を見られて慌てるポカホンタス。
「もしかして魔法少女って奴?」
そうクラスメートに言われてポカホンタス、真っ赤になって「痛いですよね? 恥ずかしいですよね? これって中二病ですよね?」
そんな彼女にクラスメートたちは口々に言った。
「いや、可愛いと思う」
「かっこいい」
「萌えだよね」
「オタク文化最強」
「正義のためだもんね」
「悪者退治はお任せなんだよね」
ポカホンタスは嬉しそうに「はい、皆さん」
間桐の大ムカデが敵陣に突入し、オーガやサイクロプスを蹴散らす。
生徒たちがファイヤーアローを打ち込む。
銃弾をかい潜って敵陣に飛び込んで忍刀で切りかかる遠坂。
陣形の崩れた所にポカホンタスが飛び込んで攻撃魔法を乱射。
ローラが瓶の蓋を開け、何本もの水銀のワイヤーが敵を拘束する。
その時、戦場上空に魔法陣。
「ファイヤーレインが来るぞ」
ホームズとワトソンがイージスの魔法防御。だが、敵側が妨害魔法を仕掛け、何か所か破れて双方に被害。
「敵味方お構いなしかよ」と叫ぶ生徒たち。
造船所の窓から立て続けにファイヤーボール。魔法攻撃の応酬だ。
「敵側に魔導庁の魔導士が何人も居る。クローリー長官が連れて来たんだな」とリガルディ教授は言って防御魔法を展開。
エルメロイ教授がウォーターランスを打ち込んで反撃する。
長い柄のついた斧を振るって敵をなぎ倒すドレイク提督。
その部下の屈強な海賊たちとともに海軍兵を蹴散らす。
ドレイクは叫んだ。
「魔法なんぞの相手をしてたら、埒があかん。とにかく突入だ!」




