第86話 海軍の反乱
事の始りは、ドレイクがアラビアの海賊との小競り合いで奪った「秘蹟の杯」がきっかけだった。
特殊な魔力を持つそれを調べた魔導局長官のクロウリーは、それが聖杯のレプリカで、オリジナルの聖杯と共鳴するものである事を知った。
海軍局のローリーはドレイクからこれを借り受け、ある古代ブリタニアの遺跡に聖杯が眠っている事を突き止めた。
魔導局は海軍と共同で古代ブリタニアの遺跡を調査。
そして、聖杯を発見した直後、それはモリアーティによって奪われる。
だがモリアーティはその直後、秘密裡にローリーとクロウリーに、聖杯を使った魔導戦艦の建造を持ちかける。
ローリーとクロウリーは、その計画に強く惹かれたが、その建造でモリアーティと協力する危険性は理解していた。
そこで二人は取引の場に出て来たモリアーティを殺害し、聖杯と魔導戦艦の概念図を奪った。だが、モリアーティは生きていた。
ローリーとクロウリーは王に魔導戦艦の計画を持ちかけ、建設中の造船所の設計を変更して本格的な建造に乗り出すが、モリアーティは二人の長官を傀儡の呪文で手駒にし、建造計画の乗っ取りに着手。
この動きを察知したボンド男爵は王に警告を発する。
王は宰相バッキンガム公に調査を命じるが、バッキンガムもまたクロウリーの手駒と化して、"ボンド男爵はポルタに通じて軍艦建造を妨害する意図がある"と報告。ボンドはこの件に関わる事を禁じられ。監視をつけられた。
こうした中でエンリ王子たちがロンドンに来てリラの留学のために滞在。王はボンドとの関係を疑ってホームズに調査を依頼する。
彼はリラを探偵団に引き込み、盗聴の魔道具でエンリたちの身辺を探り、エンリの仲間たちの間抜けぶりから事件と無関係と確信。
王に報告してボンドの嫌疑は晴れた。
ボンドは監視を解かれるが、なお建造計画に手を出す事は禁じられていた。
そこで建造計画から排除されていたドレイク提督の暗殺計画をでっち上げ、それを口実に調査を再開。
バッキンガムの近辺に使い魔を放ち、ガールズたちを使ってモリアーティのアジトの幾つかを突き止める。
一方、ルパンが聖杯の話を嗅ぎ付け、そのレプリカで探索の手掛かりだった「秘蹟の杯」をドレイク邸から盗み出す。
ドレイクは侵入したルパンから、それが聖杯を探す手掛かりである事を知り、造船所でそれを使った秘密の計画がある事を察知する。
そしてボンドにこれを突き付けて、暗殺計画がガセであり、本当の狙いはこの計画が悪用される事を阻止する事だと指摘。
ボンドはこの秘蹟の盃を盗んだルパンに、配下の007を接触させ、手に入れたそれを時計塔のリガルディ教授に持ち込んで話を聞き、軍艦との関係を確信。
その時マーリンに遭って付きまとわれる破目になる。
マーリンをモリアーティの配下と疑ったボンドはアジトを転々とし、彼のアジトを探る本物のモリアーティが送り込んだ刺客は、常に空振りに終わった。
ルパンが持ち込んだ魔導戦艦の設計図から、その詳細を知ったドレイクは、ホームズと共にヘンリー国王に面会し、建造中止の説得に当たった。
話を聞いたヘンリー王は言った。
「なるほど、危険なものである事は解った。だがドレイク、それでは軍艦娘とは会えないのか?」
「あれは私の勘違いで」とドレイクはバツが悪そうに・・・。
「隠しているのではないのか?」とヘンリー王。
「いえ、そのような」と困り顔のドレイク。
するとホームズが言った。
「あの、陛下。その類の擬人化美少女をお望みなら、刀剣でも銃でも城郭でも、お好みのものを後ほど計画されてはいかがかと」
「そんなものがあるのか?」とヘンリー王は身を乗り出す。
ホームズは「ジパングの姫路城という城郭娘などは人気が高いと聞きます」
「なるほど」とヘンリー王。
ドレイクはホームズの耳元でそっと尋ねた。
「なぁホームズ、その城郭娘はロリ系か?」
ホームズはすまし顔で「そんなの居る訳無いじゃないですか」
ドレイクは気を取り直すと「それでは、直ちに建造中止と造船所の閉鎖を」
「だが、バッキンガム公やローリーが、我が国には絶対に必要だと」とヘンリー王。
「それはユーロに持ち込まれる航路を塞いで、銀船隊の積荷を我が国のものとするためですよね? ですが、銀は東洋で使われ、もうユーロには来ません」とホームズ。
ヘンリー王は「そうなのだが」と口ごもる。
「それに、バッキンガム公とローリー海軍長官、そしてクロウリー魔導長官は、モリアーティの傀儡の呪文で奴の手駒です」とホームズ。
「確証はあるのか? 生きている間の判別は困難と聞く」とヘンリー王。
ホームズは言った。
「死ねば額の魔石が浮き出るなら、方法はあります。不殺の呪文をかけた刃物で殺せば、魔石は浮き出る筈です。それを破壊してから生き返るなら、正気にも戻せるかと」
「なるほど。では造船所の廃止を決定。あの三人を直ちに拘束せよ」と、ヘンリー王は命令を下した。
その時、警察局長官が王の執務室に駆け込んだ。
「陛下、大変です。ドレイク提督が反乱を起こしたとの知らせが」
「はぁ?」とドレイク提督本人唖然。
「提督が息のかかった部隊を集めて造船所を襲うとの事で、海軍長官が部下含めて総力を挙げて迎撃態勢をとっているとの事で・・・」と警察局長官。
ヘンリー王は言った。
「提督、何と早まった事を。直ちに彼を拘束しろ」
王の目の前に居るドレイクは困り顔で「誰を拘束しろと?」
「何故ここにドレイク提督が?」とヘンリー王。
「いや、さっきから居ましたけど」とドレイク提督はあきれ顔で。
「はやる気持ちは解るが、造船所を潰すためにいきなり反乱とか」とヘンリー王。
ドレイクは頭痛顔で「してません」
「造船所破壊のために兵を集めたと」とヘンリー王。
ドレイクは頭を抱えて「してないから」
「ローリー邸を襲撃」とヘンリー王。
ドレイクは「してないから・・・ってかその情報はどこから」
「海軍局ですが」と警察局長官。
ヘンリー王は「とにかく造船所の廃止を海軍局に伝えろ」
役人が伝達に行くが、間もなく戻って来る。
そして「誰に伝達すればいいのでしょうか?」
「ローリーの次官が居るだろ」とヘンリー王。
役人は「不在です」
「部下の事務官とか」とヘンリー王。
役人は「不在です・・・っていうか、海軍局がもぬけの殻なんですけど」
その時、王宮の受付窓口から連絡員が次々と・・・。
「海軍局に出入りしてる仕立て屋が軍服の代金を請求に来ているのですが」
「兵営の食堂経営業者が糧食をどこに運べばいいのかと」
ヘンリー王は頭を抱えて「彼等はどこに行ったんだ」
「全員造船所でしょうね。提督の反乱軍を迎え撃つと称して立て籠もっていると思いますよ」とホームズが言った。
「だったら行って武装解除の命令を」とヘンリー王。
その時、「無駄だと思いますけどね」と言って執務室に入ってきたのはエリザベス王女だった。
宮廷警備兵を引き連れて造船所に向かうヘンリー王たち。
造船所周囲では、水兵たちが陣を敷いて鉄砲を構えていた。
王が大声で武装解除を命令するが、反応が無い。
家来たちが好き勝手言う。
「王様の言う事なんて聞く耳持たないって所ですかね」
「やっぱり人望の問題だよなぁ」
「若い愛人にうつつを抜かして妻に三行半とか」
「外国の内乱にちょっかい出して王自ら捕虜になり、挙句は兵を率いて内乱の下請け」
「教皇と喧嘩して自分のための教会まで作って愛人と結婚したら後妻は浪費三昧」
家来たちに散々言われたヘンリー王は落ち込み顔で言った。
「どーせ俺は人望無しの駄目国王だよ。いーもん、こうなったら全員道連れに玉砕してやる」
するとエリザベス王女が「父上、これは当然かと。恐らく全員、耳栓を装着し、命令は魔法道具による念話で行っているのでしょうね」
「耳栓だと?」とヘンリー王唖然。
エリザベスは言った。
「おじ様のお友達のエンリ殿下の所に居る人魚のセイレーンボイスを警戒するという口実が使えます。そもそも彼等がここに立て籠もったのは、造船所廃止の決定を兵たちに知らせないための情報遮断です。人を動かすのは情報です。都合の悪い情報を隠蔽するため、チクるという言葉のイメージで情報伝達を阻止し、嫌いな相手を排除するための情報を拡散するため、ガールズトールを陰口大会にする。こうした情報操作は女子会戦略の鉄則です」
「怖ぇーーーー」と家来たち。
ヘンリー王は「だが、私の姿が見えていないと?」
「幻覚魔法を使うとでも吹き込んでいるのでしょうね」とエリザベス。
「どうしよう」とヘンリー王は頭を抱える。
エリザベスは「陸軍を使って排除するしかありませんね」と王に進言した。
その時、王の部下から報告が来た。
「ボンド男爵から伝言です」
部下が連絡文を出す。
曰く「我等、これより造船所に潜入す。陸軍による排除開始とともに行動を開始する予定」




