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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第08話 北方の海賊

ポルタは旧大陸の西、ユーロの地の西端にある。

イベリアと呼ばれるこの地方は、かつて南方大陸から上陸した異教徒によって征服された。

その異教徒を追い出そうと複数の国が起った中にポルタとスパニアはあった。

スパニアは他の国々を征服しつつ異教徒勢力の制圧を続けて大国となり、現在のイベリアの大部分を領有している。

だがポルタは途中で戦線から離脱し、海に活路を求めて航海通商国となった。


イベリアの東北にはフランス、その東にドイツ。フランスの西にある島国がイギリス。

そしてドイツの南にイタリア。ここは多くの貴族領に別れ、ポコペン公爵領もその一つだ。教皇庁もここにある。

かつてここにはユーロを支配したローマ帝国があった。その本体が滅びた後も教皇は宗教的に各地の教会を支配して絶大な権威を振るった。

その権威を背景にドイツ王は教皇の保護者としてドイツ皇帝を名乗っている。

自称でしかないスパニア皇帝とは違う本物の権威と目されてはいるが、その直臣であるドイツ諸侯は王と同格の意識を持ち、その多くが皇帝からの自立を遂げようとしていた。


そうした中に、ドイツ北方のかつてバイキングと呼ばれた人たちの居たノルマンの地があった。

ドイツからの布教によりユーロの一部となったノルマンは、ドイツ諸侯の一つのような扱いを受けていた。

そこが、迷宮島で魔剣を手に入れた王子たちの、次の目的地である。



海上で気勢を上げるエンリ王子たち。


「海賊といえばバイキング」とタルタ。

「バイキングといえばノルマン」とエンリ。

「ノルマンといえば北方交易で金持ち多勢」とニケ。

「精霊魔法の本場」とアーサー。

「鋼鉄と剣の生産地・・・って少々無理がある気がするんだが」とジロキチ。


「今日びのあのへんはドイツの一部みたいなものだからなぁ」とアーサー。

「単にドイツ人商人が多いってだけだろ」とタルタ。

「せっかく無理に気分盛り上げようとしてたのに」とニケ。


「父上の要請だからなぁ」とエンリ王子。

「別に言う事聞く必要無いじゃん」とタルタ。

「教皇庁の持ってきた案件なんだよ」とエンリ。

「もっという事聞く必要無いと思う」とジロキチ。

「そうはいかないんだよなぁ。目を付けられると異端の嫌疑とか言い出すから」とエンリ。

アーサーは「ドラゴンを飼ってる事なんてバレたら一大事ですからね。ドラゴンは教皇の教えでは悪魔の使いって事になってて・・・」



ファフが王子の膝に乗って甘える。

「王子様、頭撫でて」とファフ。

ファフの頭を撫でながら、王子は「守りたいだろ? この笑顔」

「この人やっぱりロリコンなんじゃ・・・」とアーサーが呟く。


負けずに人魚姫リラが来て甘える。

「王子様、頭撫でて」と人魚姫のリラが筆談の紙に・・・。

リラの頭を撫でるエンリ。


「こういうのってバカップルって言うんじゃないの?」とニケが呟く。



「で、結局要請って何なんですか?」とアーサー。

「ノルマン王グスタフがドイツ皇帝に逆らってるっていうんだ」とエンリ。

「ドイツ皇帝の背後に居るのは教皇ですからね」とアーサー。


するとニケが「つまりノルマン王を倒して領地をドイツ皇帝に献上すればいいのよね?」

「そんな物騒な」とアーサー。

「いいじゃない。それで報奨金ガッポリ。ノルマン城のお宝ガッポリ。ついでに褒美で領地に一つも貰えば税金ガッポリ」とニケが気勢を上げる。

王子は「あのなぁ。一国と戦争だぞ」

「ファフが居るでしょ」とニケ。

「それが一番危ないんだよ」とアーサー。


「とりあえず情報が集まりそうなハンザ都市に寄ろう」とエンリが言った。

「金持ちがたくさん居るのよね?」とニケ。



ロストの街の港に入るエンリ王子の船。

「ここはノルマン海の入口だから、情報は集まると思うぞ」とエンリは言った。


港に船を繋いで町に出て酒場に入り、話を聞く。

「このあたりの都市はみんな自由都市ですから、戦争に巻き込まれるのは御免ですよ」と酒場の主人。

「ここの領主は?」とエンリが訊ねる。

「侯爵様も独立国みたいなものですし」と主人。

「ドイツ皇帝の家来じゃないの?」とアーサー。


「むしろノルマン王に同情的ですよ。あの王様っていい人だから」と主人。

「お人好しで、裁判でもちょっと言い訳すればすぐ同情して無罪にしてくれて、偽物でも高値で買ってくれて」と客の一人が言った。

エンリは「それってただの馬鹿なんじゃ・・・ってニケさん何やってるの?」


木彫りの像を彫って金色の塗料を塗るニケ。

「ちょっと献上品をね、いくらで買ってくれるかなぁ」とニケはウキウキ顔。

「偽物売りつけようとしてるよね?」とエンリ。

「だから献上品だってば」とニケはしれっと言う。


エンリは溜息をつくと、隣に居るアーサーに言った。

「アーサー、こいつに詐欺行為が出来なくなる呪いでもかけておいてくれ」

「そんな呪文はありませんよ」とアーサーはエンリの耳元で・・・。

エンリはアーサーの耳元で「いいんだよ。そういう呪いかけたって事にして、適当なこけおどし魔法でも見せれば抑止力になる」



だが翌日、状況が一変した。

慌ただしさと殺気に満ちる街。


酒場の二階の宿に泊まっていたエンリ王子たちは、騒ぎに気付いて酒場に降りてきて、主人に訊ねた。

「何だこの騒ぎは」

主人は「皇帝軍が首都を出立したんです。各ハンザ都市がドイツ側に参加して市民兵を出すんですよ」


「自由都市で戦争に巻き込まれるのは御免じゃなかったのか?」とタルタは酒場の主人に・・・。

主人は「ノルマン王がドイツ人を追放しました。交易で仲良くやってた奴等を、着の身着のままで追い出すとか。あいつら俺たちの仲間だぞ」

「お人好しじゃなかったのか?」とジロキチ。

「こっちが聞きたいですよ」と主人。


心配そうな顔でアーサーがエンリに訊ねた。

「王子、どうしますか?」

「訳を聞く必要があるよな」とエンリは言った。

「戦争が始まるんですよね?」とリラは心配そうな顔で筆談の紙に・・・。



急いで港を出立してノルマンに向かうエンリ王子たちの船。

ノルマンの首都の港に入る。そして港の役人と停泊許可の交渉。


「お前等ドイツ人か?」と役人。

「別の国の方から来た旅行者だが」とエンリ。

「どこから来た?」と役人。

「ポルタだが」と王子。

すると役人は「もっと駄目だ。あそこは教皇庁の犬だ」


その時、ニケが役人に「お願い、お兄さん、故郷の母が病気なの」

そう言って銀貨を三枚握らせるニケ。

役人は「しょうがないな。上陸していいぞ」



街に出るエンリ王子たち。

街の様子を見てアーサーはエンリに「活気がある・・・というより殺気立ってますね」

「戦争が近いからな」とタルタ。

「とにかく王城に行こう」とエンリ。


高台にある城に向かう途中、大きな石造りの建物に多くの人が集まっているのを見かけた。

「教会だね。慌ただしそう」とタルタ。

「こういう非常時はみんな教会を頼るからね」とニケ。


するとアーサーが「いや、変だ。教会の坊主はここでは大抵ドイツ人で、追放された筈じゃ・・・」

「さすがに坊主は追放しないんじゃ・・・」とジロキチ。

「けど、さっき教皇庁の犬って・・・」とエンリ。



教会に入ると、大勢の苦しんでいる人達が手当を受けていた。上半身に巻かれた包帯が痛々しい。

エンリは怪我人の世話をしている町の人に訊ねた。

「こいつ等、どうしたんだ?」


世話をしている人は「怪我をして苦しんでいるんだ。あんた達も手伝ってくれ」

「何の怪我だ?」とエンリ。

すると隣にいる人が「火傷だよ。薬が足りなくて、化膿してる人が大勢居る」


「火傷の薬ならあるわよ」とニケが言った。

「助かる。お願いするよ」と、その隣に居る中年女性。


ニケはタルタとジロキチに言った。

「船から蒸留酒と薬箱取って来て」

「酒盛りか?」とタルタ。

ニケはタルタをハリセンで叩いて「消毒に使うのよ。アーサーは回復魔法をお願い」

そしてファフとリラに「包帯が足りないわ。二人は使用済みを洗ってお湯を沸騰させて熱湯消毒よ」



ニケが怪我人の汚れた包帯をとって火傷跡を見ると、何かの紋章の形がくっきり。

ニケの表情が曇った。


「これ、焼き印よ」とニケ。

「何だと!」とエンリ。

「この人たち、奴隷狩りに遭ったのよ」

ニケはそう言って、唇を噛んだ。

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