第79話 犯罪者の影
ルパンがドレイク邸から持ち去った「お宝」の正体が明かされて数日が経った。
その日の時計塔で授業が終わる。リラたち探偵団の五人でラウンジで寛ぐ中、遠坂が言った。
「明日、敵のアジトに潜入する事になった」
「敵って?」とポカホンタスが訊ねる。
遠坂は「モリアーティさ」
リラは心配そうな声で「大丈夫なの?」
「М機関の人と一緒だからな」と遠坂。
「それってボンド男爵の・・・」とローラ。
遠坂は「004と一緒に動く事になった」
「良かったな。綺麗なお姉さんと共同作戦だぞ」と間桐の軽口。
「いや、要らないから」と遠坂は困り顔。
リラは「あの、遠坂さん。綺麗なお姉さんって」
間桐がそれに答えて言った。
「ボンドガールズだよ。男爵の部下の七人の女アサシンで、00で始まるコードネーム番号がついてるそうだ」
そして遠坂は潜入の準備。
他のメンバーは、ワトソンの研究室で、造船所の見取り図の作成。
造船所に関して、ワトソンが学生たちに状況を説明した。
「ホームズが掛け合ったんだが、軍事機密の一点張り。提督に口を聞いて貰ったが、工場の見取り図は機密保持のため処分したって言うんだ」
「むしろ海軍とか政府内部の問題なのかも知れませんね」と間桐。
「工場内部には入れないんですか?」とリラ。
「許可が無いと提督でも入れないそうだ」とワトソン。
「式神を使って内部を探るしか無さそうですね」とローラ。
間桐は「それが魔法対策の監視による警備が厳重で、式神がいくつか潰されたよ。ネズミ程度の大きさでも、すぐ見つかる。もっと小さな蟻くらいのサイズの式神じゃないと無理だろーな」
その夜、遠坂が間桐の部屋に行くと、戸口の中で遠坂と三人との女子のひそひそ話しの声。
「これ、太すぎじゃないかしら」とローラの声。
「入らないですよ」とリラの声。
「私の、変じゃありませんか?」とポカホンタスの声。
「いや、きれいだと思うよ」と間桐の声。
「お前ら何やってるんだ!」
そう叫んで遠坂がドアを開けると、間桐が三人の女子と式神札を書いている。
間桐は遠坂に「蟻みたいな小さな式神には小さい呪符が必要なんだが、女子の方が小さい札に細かい字で書けると思って、手伝って貰ってるんだが」
「けどこの札、さすがに小さすぎますよ。これに入るような小さい字は無理かと」とリラ。
「もっと細い筆は無いんですか?」とポカホンタス。
遠坂は顔を赤くして「そういう事かよ」
「何だと思ったの?」と怪訝な顔のローラ。
「な・・・何でもない」と困り顔の遠坂。
そして遠坂はローラに言った。
「あのさ、札が小さいなら、小人に書かせたらどうだよ。ローラ、小人の使い魔が居たよね?」
ローラは「その手があったかかぁ」
小人の使い魔を召喚して札を描かせるローラ。
そしてリラは不思議そうな顔で「それで遠坂さん、何だと思ったんですか?」
「追及するのは止めて」と遠坂は困り顔で言った。
翌日、ホームズから探偵団のメンバーに連絡が来た。
遠坂が潜入先で見つかって戦闘になり、怪我をしたという。
ホームズの事務所に集まる。
ワトソンの治癒魔法で手当てを受ける遠坂。
治療が終わると潜入時の様子について話す。
「女アサシンの004と一緒に、彼等のアジトらしい倉庫に潜入しました。彼女は20代後半で、バスト90ウェスト60ヒップ90・・・」
ワトソンは困り顔で「そういうのは要らないから」
時間は半日遡る。
指定されたコーヒー店で遠坂は004と落ち合った。
「あなたがホームズさんの所の・・・」
そう言われて「遠坂です」と名乗る。
「ジパングの忍者なのよね?」と004。
遠坂は「一応。それで奴等のアジトって?」
「他のナンバーズが最近見つけた場所よ」と004は答える。
「そこに行って具体的に何を?」と遠坂。
「とりあえず書類探しよ」と004。
「ドレイク提督の暗殺ですよね?」と確認する遠坂。
「そうよ」と004は表向きの目的で答える。
「どんな文書を?」と遠坂。
「図面みたいなものを探すの」と004。
「殺しの現場の見取り図とか?」と遠坂。
004は「まあ、そんな所ね。殺し屋が居るでしょうけど、戦闘経験とかは?」
「俺、忍者ですから」と遠坂は答えた。
その後、彼女について郊外に向かう遠坂。丈の高い草の生えた草原に、倉庫が何軒か建っている。
004は一番端の建物を指して「あの倉庫ね」
2階建ての大型倉庫で、物資を搬入する大きな扉と、人員用の小さなドアがある。
警戒されている様子は無いか、周囲を見回す。
周囲の様子を把握すると、004は遠坂に「あなたなら、どうやって侵入する?」
「二階の窓からですね」と遠坂は答える。
004が使い魔を放ち、魔法トラップの無い事を確認。
遠坂は「あそこまで行く時、見つかっちゃいますかね。何なら隠身の術を」
「魔力は感づかれる恐れがあるわ」と004。
「いや、魔法じゃないんだ」と遠坂。
草と同じ色の布を被り、草原の中を進む。
風筋を読み、風に靡く草に紛れて倉庫の屋根の下へ。
004は二階の窓を指して「あそこまで飛び上がれる?」
「了解」
そう答えると、遠坂は二階の窓の所まで跳躍し、下の004にワイヤーを投げた。
人気の無い倉庫。細長い木箱が積まれている。まるで棺桶だ。
遠坂はその木箱を見て004に「あれって・・・」
「戦闘用自律機械人形ね。モリアーティの得意技の一つよ」と004。
管理室に入る。誰も居ない。
引き出しや棚を探る。
やがて戸棚の箱から一枚の図面を見つけた遠坂。
「これかな?」と呟く。
縦長な船の形の外郭線。その中に11の小さな円を線で結んだ図形。
その横に船を横から見たような細長い図形。こまかい字であちこちに書き込みがある。
それを004に見せて「これでしょうか?」
004はそれを懐に入れると「撤収するわよ」
その時、入口に人影。
「危ない」と004が叫ぶと同時に二発の銃弾。
それをかわすと、男が剣を抜いて斬りかかってきた。
遠坂はくないを投げ、男はそれを剣で弾く。
忍刀を抜いて男と激しく切り結ぶ遠坂。
「こっちよ」
窓から飛び降りる体制でそう叫ぶ004は、男に向けて短銃を発射。
男がそれをかわした隙に遠坂は窓へ飛んだ。
004は遠坂を抱えて、少し離れた壁に取り付けたワイヤーの一端を握り、するすると地面に降りた。
「走って!」と叫ぶ004。
二人が倉庫から離れると、男は馬に乗って追って来る。
004はユニコーンを召喚し、後ろに遠坂を乗せて逃げた。
追跡してくる男の馬に向けて、遠坂が煙玉を投げる。煙に含まれた毒で男が乗る馬が暴れ、男を振り落とそうとする。
男は呪文を唱え、馬と融合してケンタウロスに変身し、追跡を続けた。
その時、向こうに立っている大木から一発の銃声。銃弾がケンタウロスに命中するが、なお追跡を止めない。
大木の上からケンタウロスを撃った男が呪文を唱えると、その体内にめり込んだ銃弾が爆発し、ケンタウロスは倒れ、男と馬の姿に戻った。
大木から銃を担いで降りた男に駆け寄る004。男に抱き付いてキス。
男は004に「手に入れたか?」
「これです」と004は言って、懐から先ほどの図面を出して、男に渡す。
男はその図面を確認して「よくやった」
遠坂は「あなたがボンド男爵ですか?」と男に・・・。
男は「そうだ。君がホームズの所の忍者だね? 御苦労だった」
「あの図面って生命の樹ですよね?」と遠坂は男に確認する。
男・・・ボンド男爵は「そうだ」と一言。
馬と一緒に倒れている男を確認。
遠坂はその男を見て「こいつって・・・」とボンドに。
ボンドは「指名手配犯の強盗タービンだな」
「暗殺者として雇われたんでしょうか」と遠坂。
「そんな所だろうね」とボンド。
男の額に黒い魔石が浮き出ていた。
遠坂が潜入の顛末の報告を終えると、ホームズは難しい顔で言った。
「魔法でかなり大掛かりな何かを計画していると」
「あれは船の設計の概略図のように見えました」と遠坂。
「魔法で動く軍艦とか?」とローラ。
ホームズは「生命の樹は宇宙の構造を魔術的に表現したもので、人体は宇宙のひな型として同じ構造を持つと考えられている。つまり人体の構造を取り入れた船という事になるな」
「レオナルドさんっていう亡命賢者の人が言ってました。人体は様々な部位が繋がり、無限の可能性を持つと」とリラが言った。
「自らの意思で動く究極の軍艦という訳か」とホームズ。
ワトソンは「そんなものを・・・」と難しい顔で溜息をついた。




