表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
77/541

第77話 怪盗と提督

人魚姫リラは水魔法を学ぶため、ロンドンの時計塔に入学した。

そこで西方大陸のポカホンタスら四人の学生とともに少年少女探偵団として活動するリラは、そこでポルタがドレイク提督暗殺計画と関わっているのでは・・・という推測を耳にした。



宿でそれについてエンリ王子に話すリラ。

そして「どうなんですかね?」

エンリは「イザベラが糸を引いてると?」

「有り得るよな」とタルタ。

「あのイザベラさんだもんなぁ」とジロキチ。


リラはエンリに「イギリスが航海大国になるって、どうなんですか?」

「いろんな国が交易に参加するのはいい事だよ。ユーロ全体の経済が大きくなって、世界が前に進む」とエンリは答える。

「けど、ポルタの船がイギリスの私掠船に襲われるのは、問題よね?」とニケ。

「だよなぁ」とアーサーは頷く。


エンリは言った。

「あのさ、ポルタ・・・っていうよりスパニアとイギリスの海軍が対立するとしたら、要因は銀船隊じゃないのかな? 新大陸のポトシって所で大きな銀山の開発が始まっただろ」

「それニケさんに教えちゃっていいの?」とタルタ。

「まあ、金じゃないから」とアーサー。

ニケは「私を何だと思ってるのよ」と言って口を尖らせる。


「あそこの大量の銀がスパニアに持ち込まれて、スパニアの資金源になってる。これを襲って銀を横取りしようってのをイギリスは考えてる」とエンリ。

「それを阻止するつもりで動いてると?」とリラ。

アーサーは「それ、下手すりゃ戦争になりますよね」と言って顔を曇らせた。



エンリは暫し考え、そして言った。

「解った。俺たちは確認するため一旦本国に戻る。誰か姫についててくれ」

「王子様は?」とリラ。

「イザベラを追及しなきゃならんだろ。俺が行かなきゃ話にならん」とエンリ。

「カルロは?」とタルタ。

「スパニアが動いてるとすれば諜報局ですからね。あそこを調べます」とカルロ。

「ニケさんは?」とジロキチ。

「お金が動く話なら、私の出番よね」とニケ。

「アーサーは?」とファフ。

「本国の裏を調べるのに魔法は不可欠だ」とアーサー。


エンリは言った。

「なら、タルタ・ジロキチ・ファフのうち誰か・・・」

「任せろ。探偵は頭を使う仕事だ」とタルタ。

「お前が一番駄目な分野だろ」とジロキチ。

タルタは「お前ら、俺を馬鹿だと思ってるだろ」と言って口を尖らす。


「ってかお前、本国で裏を確認するのに役に立つのか?」とアーサーはタルタに・・・。

エンリは「いざとなったら護衛が必要だ。三人とも残ってくれ」



そしてリラが「それと、怪盗ルパンが提督の所の財宝を狙ってるそうですが」

「関係あるのかな?」とタルタ。

「彼ってフランス人ですよね? 背後にフランス海軍とか」とアーサー。

するとカルロが「それは無い。あいつは国家のために動く奴じゃないですよ」


「カルロさん、知ってるんですか?」とリラ。

「スパイとして戦ったりとか?」とニケ。

カルロは「パリに行くとキャバクラで一緒になる事がありまして・・・って、みんな、どうしたの?」

(聞くんじゃなかった)と全員脳内で呟いた。


そしてエンリが「ところでリラ」

リラは「はい?」

「お前、時計塔でホームズの助手の探偵団なんてやってたのかよ」とエンリ。

リラは「あ・・・。ホームズさんから口止めされていたのを忘れてた」



ポカホンタスはアパートでルパンの予告状の話を思い出す。

そして「提督の屋敷に盗みに入るのよね。提督は盗まれてもいいって言ってたけど、やっぱり泥棒は犯罪よね」

黄金像が、いかにも面白がっている口調で「魔法少女の出番って訳かい?」


ポカホンタスは言った。

「魔法少女って変身するのよね? それって普通、あなたみたいな妖精の力を借りるのよね?」

すると黄金像は「面白そうじゃん。任せろ」

「え?」


いきなりの展開にポカホンタスが慌てる間も無く、黄金像は宙に浮き、ポカホンタスの前で光を放つ。

そして黄金像は呪句を発する。

「五つの太陽の眷属たる我が身を焼きし暗黒神の炎。そより蘇りて羽ばたく力をこの者の心臓に授けん。この者の名はポカホンタス」

黄金像を中心に球形魔法陣が展開。謎の古代文字がその周囲を取り巻き、その中から翼を持つ蛇の形の光が現れて、ポカホンタスの体に巻き付く。

やがてその光は形を失って、ポカホンタスが着ていた服と一体化し、ヒラヒラな魔法少女服へと形を変えた。

「ポカホンタスよ。我が天より盗みし炎の加護を身に纏え。誕生あれ!」


ポカホンタスは何かに動かされるかのように、謎の変身ポーズで叫んだ。

「魔法少女ポカホンタス。悪者退治はお任せよ」


いつの間にか彼女は魔法のスティックを握り、黄金像はスティックの頭部になっていた。

魔力の光は静まり、魔法少女の恰好のポカホンタスは冷静さを取り戻す。


そして自分の先ほどの台詞と決めポーズを思い出し、真っ赤になって言った。

「痛いですよね? 恥ずかしいですよね? これって中二病ですよね?」

黄金像はそんな彼女の反応を楽しむかのように「まあ、いいんじゃない? 誰も見てないし。それに、それで同年代男子にちやほやされるんだろ?」


「悪者を退治するんです・・・って、そうだ。ルパンの予告」

そう言って、アパートの窓から外に飛び出そうとするポカホンタス。

そんな彼女に黄金像は言った。

「それはいいが、ルパンが何時盗みに来るって予告状に書いたか、知ってるのか?」

「あ・・・・・・」



翌日、ポカホンタスはワトソンに訊ねて、ルパンの予告日が三日後である事を知ると、その夜、変身して屋敷に張り込んでルパンを待った。


屋敷の塀を越える人影が見える。

塀を飛び越えて人影を追う魔法少女姿のポカホンタス。屋敷に警戒の様子は無い。

人影が開けた窓から屋敷に入り、跡を追うと人影は廊下の角を曲がる。

角の向こうをそっと覗くと誰も居ない。


その時、後ろからポンと肩を叩かれ、思わず振り向くと、彼は笑って立っていた。

そして「こんばんわ。君みたいな可愛い子ちゃんが天下の大海賊に夜這いかい? ちょーっと趣味悪くないかなぁ。どうせなら俺みたいなイケメンなお兄さんにしなよ」


思わず飛びのいて距離をとると、ポカホンタスは言った。

「ルパンですね?」

ルパンはいかにも軽そうな口調で「はーい、俺、怪盗ルパン。君は?」

「魔法少女よ」とポカホンタス。


「悪者退治はお任せよ、って奴ね。初めて見たよ。で、ファイヤーボールでもぶっ放す? 放火は罪が重いぞぉ」とルパンは笑いながら言う。

「あなた泥棒でしょ? 泥棒は犯罪よ。義賊だなんてのは言い訳にならないって探偵さんが言ってた」とポカホンタス。

ルパンは「そーねぇ。けど俺、自分で義賊とか名乗ってないし、正義の味方じゃないから」



風の矢の魔法を放とうと構えるポカホンタスの前で、ルパンは一瞬で姿を消した。

彼はポカホンタスの背後に現れると「肩にこんなゴミが」

彼の手にはカラスの羽。

そして「そーいや最近、烏を使った金貨ドロボーが流行ってるそーだねぇ」


ポカホンタスは慌て口調で「わわわ私がやってるって言うの?」

「実は俺もやられてね。その時、取られた金貨に追跡魔法をかけたのさ。そしたら、それ」

そう言ってルパンはポカホンタスの財布が入ったポケットの所を指した。


慌てて財布を出して中を確認するが、金貨は無い。部屋代として大家に渡した事を思い出す。

ルパンは笑って言った。

「泥棒相手にこんな鎌かけに引っかかっちゃ駄目だよ」



お宝部屋に向かうルパン。膨れっ面でついて来るポカホンタス。

歩きながらルパンの軽口は続く。

「けど、折角予告状出したのに、警備がこれだもんなぁ。こんなので盗んでも怪盗としての沽券に関わっちゃうよね」

「だったら盗むの止めたら?」とポカホンタス。

ルパンは「そりゃ、もっと沽券に関わる」


  

お宝部屋に侵入するルパン。周囲に棚には宝石や金銀細工、刀や槍や銃。

海賊としてあちこちから奪ったものと思われる様々な財宝だ。

そして部屋の中央に魔術文様が施された台。その上に不思議な形をした黄金の盃があった。

それを見てルパンは「あれが秘蹟の盃か」


「盗むんですか?」とポカホンタス。

「だって俺、泥棒だよ。にしても、趣味の悪い置き場所作りやがって」

そうルパンが言うと、どこからか男性の声で「趣味が悪くて済まんな」

思わずルパンは「誰だ!」


「いや、ここ、俺の家だし」

そう言って、隠し戸からドレイクが現れた。

そして彼は「これには特殊な魔力があるんでな。それを抑える必要がある」と・・・。 

「おやぁ、御当主自らお出迎えですか」と言って身構えるルパン。

そして「こういう争奪バトルは大好物」



だが、ドレイクは言った。

「それが欲しいんなら、勝手に持って行けばいいさ」

ルパンは「俺、恵んで貰いに来たんじゃないんだけどなぁ」

「情報料だ。お前、それが何だか知っているんだよな?」とドレイク。


ルパンは言った。

「まあね。こいつはある意味贋作でね、アラビアで魔術文献を頼りに最近作られたものさ」

「って事は、本当に欲しいのは、そのオリジナルか?」とドレイク。

「そういう事。お宝としての値打ちは無いけど、オリジナルが近くにあると、共鳴するんだよ。提督、最近こいつを誰かに貸したよな?」とルパン。

「そういう事か。それで、そのオリジナルって何だ」とドレイク。


ルパンは一言「聖杯だよ」

ドレイクは「まさか。するとそれがどこにあるか、目星はついているのか?」

「あんただって想像ついてるんだろ?」とルパン。

「造船所か?」とドレイク。

「それを確かめようって訳さ」とルパン。


「それを手に入れて、どうする」とドレイク。

ルパンは「さぁね。お宝は泥棒のロマンだぜ。そいつを巡って、面白おかしく警備の奴等と追っかけっこ。で、せしめたお宝欲しがるナイスバディな彼女とよろしくやるだけ。人生楽しまなくっちゃ」


ドレイクは笑って「そのナイスバディな彼女って、そこの意味不明な服装の小娘の事かね?」

「まさかぁ。よく解んないうちについて来ただけ。多分、俺様のファンなんじゃね? ほら、俺って有名人だから」

そう言ったルパンに対してポカホンタスは「違います。私は正義の魔法少女です」

「そう言ってるが?」とドレイク。

ルパンは笑って「まあ、照れ屋さんなんじゃね?」


「それと、この件にモリアーティーが絡んでいるか?」とドレイク。

「そうらしいね。あんたも気を付けなよ」とルパン。

「奴の背後に外国が居るんじゃないのか?」とドレイク。

ルパンは「スパニアとかフランス海軍とかドリアン商会から金でも貰ってるってか? そんな現実的な奴じゃないと思うよ」

ドレイクは「お前自身の背後はどうなんだ」

「嫌だなぁ。俺、泥棒だよ。お国に御奉仕とか勘弁してよ。それより、逃走シーンくらいは楽しませてくれるんだよな?」とルパンは挑発口調。



ドレイクはニヤリと笑い、合図すると十数人のマッチョな男たちが周囲の幾つもの隠し扉から。

ドレイクは彼等に「捕まえろ」

「そう来なくっちゃ」と余裕顔のルパン。

そして隠し扉の一つから「ルパン、御用だ」と叫んで飛び出す中年男性。

ルパンは彼を見て「あらまぁ、ガニマールのとっつぁんまで」

「神妙にお縄に付け」とガニマール警部は叫ぶ。

「やなこった」


そう言ってルパンは小さな玉を床に投げる。それは弾けて一瞬で煙が立ち込める。

「こっちだ」

そう言ってルパンは右手で秘蹟の盃を掴むと、左手でポカホンタスの手を引いて部屋の入口へ走り、立ちはだかる男の後頭部を一撃して気絶させ、部屋を飛び出した。


ドレイクは部下たちに「捕まえた奴には秘蔵のワインを飲ませてやる」と檄を飛ばす。

ドレイクの部下たちは「ヤッホー」と叫んでルパンの跡を追った。


階段を駆け上がるルパンとポカホンタス。

走りながらポカホンタスは「出口は逆じゃないんですか?」

「泥棒がそんな常識守ってどーすんの」とルパンは走りながら答える。

「どうするんですか?」とポカホンタス。



最上階から屋上に出たルパンは、大きな筒のようなものを出し、その後ろの導火線に火をつけると、背負ってベルトで装着。

ドレイクの部下の海賊と警官たちが彼を追って屋上に出た。

そして「来たな。しっかり掴ってろよ」

筒の後ろから炎と煙を吹き、物凄い勢いで空に飛び出した。


空を飛ぶルパンにしがみ付くポカホンタス。眼下にロンドンの夜景が広がる。

「何ですか?これは」と悲鳴に近い声でポカホンタスは叫ぶ。

ルパンは「火矢っていうんだ。東洋に伝わる火薬を使った武器だそうだ」


「ところで、仲間にガンマンとサムライが居るって聞いたんですけど」とポカホンタス。

ルパンは「俺は可愛い子ちゃん以外と組む気は無いぞ。まあ俺の子孫がこの仕事引き継いで孫の代くらいには、そんなのも出て来るかもなぁ。君、俺の相棒になる気は無い?」

「遠慮します」とポカホンタス。


二人はそのままテームズ河に突っ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ