第76話 学生と探偵
ロンドンの時計塔魔法学校に入学したリラは、そこで再会した西方大陸出身のポカホンタスと一緒に、三人の同級生に誘われて探偵団の仲間になった。
翌日、講義を終えたリラたち少年少女探偵団の五人。
「これから団長の所に行くんだが」と遠坂がリラとポカホンタスに・・・。
「この学校の人ですか?」とリラ。
「治癒魔法科のワトソン教授よ」とローラ。
「あの人が探偵なんですか?」とポカホンタス。
「いや、彼も助手でね。僕たちの指導者が来るんだ」と間桐が言った。
ワトソン教授の研究室に入ると、教授の隣に、いかにも探偵・・・といった体の紳士が居た。
遠坂が「探偵のホームズさん。僕たちの指導者だ」と二人に紹介。
ホームズは「そちらの二人が新人だね?」
自己紹介する二人。
「リラです」
「ポカホンタスです」
ポカホンタスはワクワク顔で「それでホームズさん。事件なんですよね?」
「カラス使いの盗賊団ですか」とリラ。
ホームズは「あれは被害者は多いが、個々の被害額は大したものではない。今日は新しい団員が入ったというので、見ておきたくてね。君たちは留学生かい?」
ポカホンタスは「西方大陸から来ました」
リラは「ポルタから来ました」
ホームズはリラに言った。
「君か。確か同居人が居るのだよね?」
「自称王子さんたちの事ね?」と、脇からポカホンタスが口を挟む。
ホームズは笑った。
「自称王子か。どんな人たちなんだい? やっぱり魔法を使えたりするのかな?」
リラは「エンリ王子は魔力はありませんが、魔剣を使います。アーサーさんはプロの魔導士で、彼の勧めでここに来ました。タルタさんは全身が鉄みたいになる異能を使います。ニケさんは短銃使いで航海士ですが医術も使えます。ジロキチさんは剣術が凄い人で、カルロさんはスパイです。あとファフちゃんはドラゴンに変身します」
「なるほどね」とホームズ。
そして彼は思った。
(随分、簡単に話すものだ。だが、スパイが居るのか。要注意とすれば、彼という事になるな)
ホームズはワトソンに目配せ。するとワトソンは小さな鳥型の置物を出して、リラに渡した。
「これを、そのエンリという人に渡してくれ。大事な子弟を預かるのだから、挨拶代りという事でね」
そしてホームズは「それと、探偵団の事はしばらく秘密にしてくれないか。心配をかけるといけない」
リラは何も考えず「わかりました」
リラが宿にしているヨハン皇子の屋敷に戻って、エンリ王子に、その置物を渡す。
エンリは「それを教授が挨拶代り? 普通逆だろ」
「まあ、相手は一国の王太子だからなぁ」とタルタが能天気な声で言う。
ニケが眼に$マークを浮かべて「つまり賄賂って事よね? って事は売れば凄い価値のある代物なのよね?」
エンリは困り顔で「いや、売らないから」
アーサーとマーリンは研究と称して時計塔に通い、他の面々はロンドンを満喫する。
タルタは猫カフェに入り浸り、ジロキチは武器屋へ、カルロはキャバクラへ。
リラは休日にニケに連れられてデパートへ。エンリも同行させられる。
ニケは上着を手に取っては「この服、可愛くない?」
靴の並ぶ棚を見ては「この靴もいいわね」
リラは、ニケに勧められた服を手に取って「王子様、似合うでしょうか」
「いいと思うよ」とエンリ。
彼女たちの買い物に付き合いながら、エンリ王子は思った。
(仮にも一国の首都から来た人のやる事か? これじゃまるで、お上りさんだ)
「それじゃ王子、これ、お願いね」
そうニケに言われて、爆買いした品物を持たされて歩きながら、エンリ王子は思った。
(こういうのを荷物持ちって言うんじゃ・・・。一国の王子がやる事か?)
間もなくエンリの元に請求書の山が届く。
エンリは仲間たちに言った。
「お前ら、いい加減にしろ。今後、こういうお上りさん行為は禁止だ」
タルタは「いや、たまに都会に来たんだし」
「ボルタだって都会だろ。一国の首都だぞ」とエンリは口を尖らせる。
ファフは「それより主様、ファフお腹空いた。またレストラン行こうよ」
エンリはあきれ顔で「あのなぁ」
その頃、ホームズは自宅で水晶玉を見ていた。エンリ王子の所に渡った鳥の置物の目を通した映像が映る。
エンリ王子が仲間たちに小言を言っている。
「お前ら、いい加減にしろ。今後、こういうお上りさん行為は禁止だ」
そんな映像を見て、ホームズは呟いた。
(こんな間抜けな奴等が我が国に何かを企む? 無いわぁ。しかも、盗聴の魔道具に対する警戒心ゼロとか・・・)
カルロが入り浸っているキャバクラ。
脇に来た店の女の子にちょっかいを出しているカルロのテーブルの対面の席に、いかにも・・・といった体の紳士。ホームズだ。
「こんにちは。相席してもいいですか?」
「どうぞ」とカルロ。
ホームズはカルロに「ロンドンの店はどうですか?」
「捨てたものじゃないですね。女の子が可愛い」とカルロ。
店の女の子がカルロに反応して「あら、お客さんったら」
そんなカルロにホームズは「どちらから?」
「ポルタですよ」とカルロ。
ホームズは思った。
(随分あっさり本当の事を言うものだ)
「船乗りですか?」とホームズ。
「似たようなものですが、あなたは?」とカルロ。
「しがないサービス業ですよ」とホームズ。
「私もそれに近いなぁ」とカルロ。
「モテる種類のサービス業ってありますよね?」とホームズ。
「ホストとか?」とカルロ。
「それともスパイとか」とホームズ。
カルロは「実は私、スパイなんです」
店の女の子は「えーっ、ウッソー」とはしゃいでみせる。
ホームズは思った。
(駄目だこいつ。自分でスパイとバラしやがった)
ホームズは王宮に向かい、依頼主であるヘンリー王の元へ。
「ヘンリー陛下、ホームズです」
「どうだったね?」とヘンリー王。
「あれは無いです。我が国に何か企む気があるとは思えません。誰なんですか? そんな事を言ったのは」とホームズ。
「バッキンガム公なんだが」とヘンリー王。
ホームズは言った。
「ただの思い過ごしか、或いは、何か裏があるのかも知れません。ボンド男爵の監視も解いた方がよろしいかと」
そして間もなく情勢は動いた。
その件に対応すべく、各方面が動く。
ドレイク邸で、その屋敷の主と向き合うレストレード警部。
思いっきり不機嫌そうにドレイクは言った。
「この不死身と言われた俺を暗殺? しかも戦場じゃなくてベットの上でか? 笑わせてくれる」
レストレードは「別に寝込みを襲うとは限りませんが」
「それ以外にどうやって俺を殺すと言うんだ。とにかく警備なんぞ不要だ」とドレイク。
「そうはいきません」
そう言って部屋に乗り込んで来たのは、10才そこそこのお姫様然とした女の子。
ドレイクは慌てて「エリザベス殿下」と・・・。
「私のドレイクおじ様にもしもの事があったら・・・」とエリザベス。
「姫も私の不死身ぶりはご存じでしょう」とドレイク。
「けど、背後に何が居るか解りません。という訳で、あなた達、お願いしますね」
そうエリザベス王女に言われて部屋に入ったのは、ホームズとワトソン。探偵団の五人はホームズの事務所に待機しながら、通話の魔道具で中での会話を聞く。
「ドレイク提督ですね」
そう挨拶するホームズにドレイクは「ホームズか。頭でっかちな探偵なんぞに用は無い」
「自分の身は自分で守ると?」とホームズ。
「俺を誰だと思ってる」とドレイク。
するとホームズは「そいつらの狙いが本当にあなたの命だけならね。けど狙いが別にあるとしたら」
「何だと?」と怪訝顔のドレイク。
ホームズは言った。
「これから航海立国としてイギリスが大きくなろうという時、それを邪魔しようとしている勢力がバックに居るとしたら」
「邪魔しようとするとは、例えば今、航海を握っているポルタとその同盟国のスパニアか、或いは利害関係のあるドリアン商会とか・・・かね?」とドレイク。
「単に動機の問題ですけどね。ですが、最近稼働を始めた、王立造船所で、不審な動きがあると聞きます」とホームズ。
「そういう訳だ」
ドレイク邸での話を終えて事務所に戻ったホームズは、探偵団のメンバーたちに事件の概要を話した。
「提督の身辺と暗殺計画の出所・・・ですか?」と遠坂。
「そうだ。暗殺計画の情報の伝わり方がどうも不自然だ。誰かがわざと漏らした可能性がある」とホームズ。
「俺は屋敷に式神を・・・ですね?」と間桐。
「それでは、私は屋敷に呪殺の霊的経路が無いか探ってみます」とローラ。
「ところで怪盗ルパンが予告状を出してるって話もありますよね?」と遠坂。
「義賊ですよね?」とポカホンタス。
ホームズは言った。
「義賊なんてのはただの犯罪正当化だ。盗んだ金の一部をばら撒くだけで、大部分は自分の利益だ。本当に貧乏人を救おうってんなら、荒れ地を開墾して土地を与えるとか・・・って、どうしたんだね? ポカホンタス君」
ポカホンタスはバツの悪そうな顔で「な・・・何でもないです。義賊なんてまやかしですよね。あは、あはははははは」
「それで予告状って?・・・」とリラ。
「提督がアラビアの海賊から奪った秘蹟の盃というものを盗むと予告したそうだ」とワトソンが説明する。
ポカホンタスは「放っておいていいんですか?」
「提督は欲しけりゃくれてやると言ってる」とホームズ。
「今回の件と関係は?」と遠坂。
ホームズは「今の所は可能性の問題だな。ただ、この件にモリアーティという犯罪者が絡んでいる可能性がある。犯罪の天才と言われる奴で、出くわしたらかなり危険だ。十分注意してくれ」
ドレイク邸からホームズが去った後、ドレイクは隣室に入った。
そこに居る30代の男性。そうとうなイケメンだ。
ドレイクは彼に言った。
「ボンド男爵、えらい騒ぎになってるんだが、俺を暗殺などというのは、どうせガセなのだろう」
「どうしてそうお思いに?」と、ボンド男爵と呼ばれた男性は言った。
「君が軍事機密の造船所を嗅ぎまわって上から止められた・・・ってのは知っている。で、そっちに手を出せなくなった上、監視までつけられたって事もな」とドレイク。
ボンド男爵は「監視は解除されましたけどね」
「けど、相変わらず造船所に手を出す事は禁じられている訳だ。それで、代わりになるような調査の口実が欲しかった、って事だろ?」とドレイク。
「あなたはあの計画から外されているんですよね?」とボンド。
ドレイクは「俺は軍艦の改造なんぞに興味は無い。海賊団の力は人、つまり海賊自身の力だ。そうでなくては面白くない」
「それだけではないかも知れない。あなたはアラビアで秘蹟の盃を手に入れた」とボンドは言う。
「古代ブリタニアの遺跡の調査に必要だというのでローリーの奴に貸したが、用事が終わったというので戻って来ているが」とドレイク。
「ローリー長官は何に使ったのでしょうか。あれには何か特別な力がある。その後、建設中だった造船所の設計は大幅に変更されました」とボンド。
ドレイクは「そもそもあれは何なのだ?」
「それを私も知りたいのですが、貸して頂く訳にはいきませんか?」とボンド。
「怪盗ルパンがあれを盗みに来るっていうんだろ? なら、折角の珍客だ。期待を裏切っては面白く無い。それより何故、この件にそこまで拘る?」
そうドレイクが訊ねたのに対して、ボンドは「この背後にモリアーティが居る可能性があります」
ドレイクは「あの、犯罪の天才と呼ばれた男が、何を企んでいるというのか。イギリスの覇権を阻止しようとする外国の下請けか?」
「いえ、もっと闇の深いものかと思います。社会そのものに対する悪意とか」とボンドは言った。
探偵団の会合が解散し、各自が帰宅する時、ポカホンタスがリラに訊ねた。
「ところでリラってポルタの人だよね?」
「そうだよ」とリラ。
ポカホンタスは「あの自称王子ってリラの恋人だよね。ポルタが事件に関わってるかも・・・って言ってたけど、気にならないの?」
「エンリ様は悪い事はしません」とリラは答えた。




