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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第70話 父親と母親

内乱の表向きの首謀者、リチャード先王。

男性として育てられ、自分が両性具有の体で生まれた呪われた子であると信じていた彼は、実は女性だった。



エンリはリチャードを伴って、その部屋を出た。

「どこに行くのですか?」とリチャードが訊ねる。

エンリは「確認するのですよ。何故あなたにそんな事を言ったのかを、あなたの両親にね」

「両親は二人ともこの世に居ません」とリチャード。


エンリはアーサーが待機する部屋に来て、言った。

「アーサー、降霊術は出来るか? 彼の両親、ヨーク公とセシリー妃を呼び出して問い質したい」

「どちらから行きますか?」とアーサー。

「同時にやった方がいいだろう」とエンリ。

「だったらマーリンにも手伝って貰いましょう」とアーサー。



一室を用意して降霊術の準備をする。

二つの魔法陣の中心にそれぞれアーサーとマーリン。それぞれの魔法陣の脇には魔術仕様の証言台。



アーサーとマーリンは同時に呪文を詠唱。

「汝死せる者の魂。汝に呼びかけたる我が名はネクロマンサー。死者の国より召喚されたる汝の名は」

アーサーは「ヨーク公リチャード・プランタジネット」

マーリンは「ヨーク公妃セシリー・ネヴィル」


二人は古代語の呪文を唱えながらそれぞれの召喚台を杖で指して球体魔法陣を描き古代文字を配置する。


そしてアーサーは「ヨーク公リチャード・プランタジネット」

マーリンは「ヨーク公妃セシリー・ネヴィル」

二人、声を揃えて「死者の国より来りて我が前に姿を示せ。降霊あれ!」



二つの証言台に現れたリチャードの両親の霊。

リチャードはふらふらとヨーク公の証言台に歩んだ。

そして「父上、会いたかった」

そんなリチャードにヨーク公の霊は「リチャード。大きくなったな」


すると、マーリン側の証言台に居るセシリー妃の霊がリチャードに向けて叫んだ。

「離れなさい。リチャード。あなたはゴーストになり果てた我が夫までも奪おうというの? 何て憎らしい悪魔の子!」

「何を言うかセシリー。親が娘を愛して何が悪い」とヨーク公。

「あなたはその子にかまけて、私をほったらかしにしたじゃない」とセシリー妃。



エンリが「あの・・・セシリー妃に聞きたいんですけど」と切り出す。

「何よ」とセシリー妃。

「リチャードは女性ですよね?」とエンリは確認。


セシリー妃は「リチャードは肉体に悪魔を宿した子よ。生まれるべきではなかった」

「悪魔を宿したって、両性具有のことですか?」とエンリ。

「何の話よ」とセシリー妃。

「違うんですか?」とエンリ。


セシリー妃は「いや、見かけは普通の女の子よ」

リチャード唖然。


エンリは「じゃ、肉体に悪魔を宿したって?」

セシリー妃は言った。

「自分の父親を誘惑して、私から夫を奪ったのよ。悪魔以外の何だって言うのよ」

エンリ唖然。そして「じゃ、単なる嫉妬?」


そんなセシリー妃にヨーク公は言った。

「何と浅ましい女だ。腹を痛めて産んだ我が子を悪魔呼ばわり。それでもお前は人の親か」

「誰のせいよ。私をこんなにしたのは、あなたですからね。キーッ」

そう叫ぶと、セシリーの霊は泡を吹いて意識を失い、消滅。


その様子は見て「これって・・・」とエンリ。

ジロキチが「祖国の隣の国の火病という風土病と同じ症状だな」

ヨーク公は「何と哀れな」

「いや、あんたが言うな」と頭痛顔でヨーク公に言うエンリ。



気を取り直してエンリは「それでヨーク公に聞きたいんですけど」

「何かな?」とヨーク公。

「リチャードは女性ですよね?」とエンリは確認。

ヨーク公は「見かけは普通の女の子だが」

「それを男性として育てたんですよね? 何故ですか?」とエンリ。


ヨーク公は言った。

「決まってるじゃないか。浜茶屋・・・じゃなくて王位を継がせるためだ。そのためには男である方がいい」

「けど、既に男の子は二人も居ましたよね?」とエンリ。

「この子を見た時に感じたんだ。私の子として王冠を与えるべく生まれたのだと」とヨーク公。


「溺愛し過ぎじゃないですか?」とエンリ。

ヨーク公は「何を言うか。私は女の子が欲しかった。三人目でやっと生まれたんだ。王冠の輪の中には楽園がある。それをこの子に」

それを聞いてリチャードはヨーク公に「父上、あなたはそんなにも私を」

「リチャード」とヨーク公。

「父上」とリチャード。



「で、本音は?」とエンリがヨーク公に。

するとヨーク公は「私の娘は誰にも渡さん。男として育てれば嫁にやらずに済む」

「へ?・・・」とリチャード唖然。

ヨーク公は「ずっと傍に居て貰うんだ。そう願うのが父親だろう」

「いや、そんなのあんただけだ」とエンリはヨーク公に・・・。


リチャードは目を点にして「父上、あなたは、そんな事のために」

ヨーク公は叫んだ。

「娘は全てだ。小さな女の子は世界の宝、可愛いは正義だ。萌えーーーーーー!」


「この馬鹿親父!」

そう叫んでリチャードはヨーク公の顔面に右ストレートをお見舞いした。

「海が好きー」と意味不明な台詞を叫んで証言台から吹っ飛ばされ、消滅するヨーク公の霊。


茫然と立ち尽くすリチャード。そして彼・・・いや、彼女は言った。

「父上、あなたは、そんな事のために、王の座を望んで反乱を起こし、処刑されたのですか。婿を迎えて一緒に居る事だって出来たのに」



あまりに馬鹿馬鹿しい真実を目の当りにしたエンリ王子とその仲間たち。

「どーする?」とエンリが仲間たちに・・・。

「処罰とか不要だよね」とタルタ。

アーサーは「さっさと釈放しようよ。男性のリチャード先王はもう居ないんだからさ」


「で、どうする? 女性のリチャードさん」

そうエンリが訊ねると、リチャードは言った。

「ヨークで縁者たちと余生を送りたいです。ヨーク朝の再興などと言い出す者が出ないように」

「誰か頼れる人って居るの?」とエンリ。

リチャードは「傭兵隊のロビンが・・・。彼とは実は幼馴染なんです。海岸に公爵家の別荘があって、彼はそこの管理人の子供でした」


エンリは思った。

(そういえば、ひとつながりの秘宝の海図で、このあたりにもその片割れがあったっけ)


リチャードは続けて言った。

「父上の霊が最後に言った言葉がありましたよね。あの"海が好き"・・・って。幼い頃、あそこで泳いだ時に行った浜茶屋が、そんな名前だったような気がします。父上はそこの主人と親しくなって、私もそこの男の子と遊びました。あの主人が海賊と縁があったと聞いた気がします」

アーサーが「王子、その海賊って、もしかして」

「けど、それが店の名か?」とジロキチは首を傾げる。



ロビンとリチャードを伴って、エンリ王子たちはヨークの海岸へ向かった。

ロビンが言うには、その主人はもう亡くなって、その娘が浜茶屋を守っていると。

「彼女は俺の婚約者なんだ」と彼は言った。


浜茶屋「海が好き」は砂浜の少し奥に建っていた。

「本当にこれが店の名前なのか」とあきれ顔のジロキチ。

リラは「ところで浜茶屋って?」とジロキチに・・・。

「ジパングにはよくあるんだよ。海で遊ぶ人が休んだり食事したりする場所でね」とジロキチが説明する。


出て来た浜茶屋の女性を見てジロキチが言った。

「あんたジパングの人か?」

女性は「父が向こうから来たんです」

「曲芸団に入って?」とジロキチ。

エンリはジロキチに「それはお前だけだ」


女性は言った。

「父は海賊の子供だったそうです。乗っている船が難破して、イタリア人の海賊に助けられて、一緒にイギリスに来て、ここに住み着いたと聞きます」



浜茶屋のテーブルを囲み、お茶と茶菓子を出される。

お茶を飲みながら話を聞く。


「ヨーク公とはどんな関係だったか解りますか?」とエンリが訊ねる。

「公爵様には別荘に居る時に来て頂いて、父と意気投合していたそうです。私も三人の幼い王子様とよく遊びました。特に末っ子のリチャード様が仲良くして下さって。私もはせ参じたかったんですけど、危ないからとロビンに止められて、代わりに自分が行くからと」と女性は答える。

タルタはロビンに「お前、いい奴だな」

「今頃気付いたのかよ」とロビン。


そして女性は言った。

「実は私、男の子として育てられたんですよ。父が浜茶屋を継ぐのは男でなければ・・・とか言って。変な人ですよね?」

それを聞くとリチャードは思わず「本当に変な人ですね」と哀しそうな笑顔で言った。


女性はその、女性姿のリチャードを見て「あなたは?・・・」

「リチャード先王の女官です」とリチャードは名乗った。

女性姿のリチャードに感じる懐かしさの理由を、浜茶屋の女性は知らなかった。

そして彼女はリチャードに「何だかチャード様にそっくり」

「そう見えますか?」と言ってリチャードは笑った。



エンリは浜茶屋の女性に訊ねた。

「ところで、そのお父さんを助けた海賊って・・・」

「バスコって人だそうです」と浜茶屋の女性。

エンリの仲間たちは「えーっ?」と声を上げる。


「もしかして、彼が根城にしてた所とか?」とタルタ。

女性は「近くに洞窟があります」

「まさか宝箱とか」とアーサー。

女性は「海賊の財宝ですか? 宝箱はありましたけど、開けたら空っぽでした」

「そうですか」と、がっかりする仲間たち。


「変な模様の紙切れが一枚入っていただけ」と女性は付け加えた。

仲間たち全員、身を乗り出して「案内して下さい」

思わずたじろぐ浜茶屋の女性。



浜茶屋の女性の案内で、エンリ王子たちは洞窟へ行き、そこにあった宝箱から、イギリスとユーロ西岸を記した「秘宝の片割れ」を入手した。


リチャード先王の生存は秘匿され、内乱の参加者はほぼ全員赦免された。

ただ、一人だけ首謀者として、アン先王妃はロンドンに送られ、形式のみの裁判で、遠島送りとなった。

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