第07話 ドラゴンの魔剣
ポルタ王家に伝わる財宝が眠るという迷宮島。
その財宝を守るドラゴンに勝負を挑まれたエンリ王子は、リラの人魚の背に乗って海中を逃げ回りながら、アーサーから貰った魔法のカードでドラゴンを氷漬けにした。
ドラゴンと一緒にエンリ王子と人魚姫リラも氷の中に・・・。
アーサーの魔法によって氷から解放されたドラゴンは言った。
「完敗です。さすがは王様の血を引く勇者です。あなたを主と認めます」
「そ・・・そうか。解ってくれて良かった。ハ・・・ハクション」とエンリ。
自分たちも氷に閉じ込められて冷え切った体を、毛布と暖房で必死に温めるエンリとリラ。
そんな彼等を見て、タルタは言った。
「あれって勝ったのかなぁ」
ジロキチも「良くて相打ちじゃね?」
「ま、いいんじゃないの? ドラゴン納得してるんだから」とニケ。
そしてドラゴンは島の前へと彼等を導く。そして言った。
「それでは洞窟にご案内します」
エンリ王子たちはボートで島に上陸した。
洞窟の入口は小さいが、中はある程度の空間がある。
壁際に宝箱。開けると一本の剣があった。
エンリが握ると不思議な光を放つ。それを見てアーサーが言った。
「魔剣ですね。王族だけが使えるもののようです」
「これが秘宝なのかな?」とエンリは呟く。
エンリは洞窟から出てドラゴンに訊ねる。
「"ひとつながりの秘宝"って聞いた事は無いか? 海を支配するというんだが、もしかしたらこれがそうだとか・・・」
「それは違うと思います。その頃のポルタは海とは無縁の陸軍国でしたから」とドラゴンは言った。
「違うのか」とタルタはがっかりする。
「次、どこに行こうか?」とエンリは仲間たちに・・・。
その時、ドラゴンはエンリ王子に言った。
「それでは主さま、何なりとご命令を」
「そーいやドラゴン、王子の家来になったんだっけ」とタルタ。
「連れてく?」とジロキチ。
「行った先で大騒ぎになりますよ」とアーサー。
「ご迷惑でしょうか」とドラゴン。
エンリは「いや、ついて来てくれるのは心強いんだが・・・」
その時、リラは筆談の紙を示した。
「あの、人化の魔道具を使ったらどうでしょう」
「出来るのか?」とエンリはアーサーに訊ねる。
「これは自分を主と認めた魔物に対して使える魔法ですから」とアーサー。
エンリは「じゃ、早速・・・って、アレを入れるんだよな?」
「アレですよね」とアーサー。
「アレって何だ?」とタルタとジロキチ。
「王子様」と人魚姫リラは赤面しつつ筆談用紙に書く。
エンリは「姫、ちょっと来てくれるか」
「喜んで」とリラは嬉しそうに筆談の紙に・・・。
タルタとジロキチは「おい、アレって何だよ」
十数分後、すっきりした顔のエンリと、恥ずかしそうな顔のリラ。
「それでは始めます」とアーサーは儀式の準備を終えて、言った。
従者として契約するドラゴンを前に、人化の儀式を行うアーサー。隣に主として契約するエンリ王子。
アーサーが叙任の呪文を詠唱する。
「人ならざる者よ。この者を主と認め、その生涯を守るべく心臓を捧げると誓うか」
続いてエンリが契約者の言葉を詠唱。
「我を主と認め、この生涯を守るべく心臓を捧げると誓うか」
「誓います」とドラゴンが答える。
「ならばその対価として、人たる者の姿をもって褒賞とせん。これを受けるか」とアーサー。
「受けます」とドラゴンが答える。
「ではこれより、汝に主たる者より従者たる者への褒賞を与えん」とアーサー。
叙任の礼をもってエンリ王子がドラゴンの肩に魔剣を翳す。
そしてアーサーは人化の呪文を詠唱する。
「汝、獣の内なる形相、その個を個たらしむ姿成す実在。主より授かりし新たなる形相を第二の姿とてその身に宿せ。汝の名はリカントロープ」
アーサーは左手で人化の魔道具を捧げ持ち、古代語の呪文とともに、それは光に包まれる。その光の中にいくつもの古代文字が浮かぶ。
右手に持つ杖でその光をドラゴンへと導く。そして光は、アーサーが唱える古代語の呪文とともに、大きくなってドラゴンを包む。
その周囲にアーサーは杖を動かして球体の魔法陣を描く。いくつもの古代文字が浮かんでは消えた。
アーサーが結びの呪文を詠唱。
「従順なる魔物よ。褒賞として受け入れたる姿を表せ。人化あれ!」
そしてドラゴンは人化し、甲板へと降り立った。
その姿を前に、しばらく場は残念な空気に覆われた。
「君は雌のドラゴンなのかな?」とエンリはそれに問う。
「そうだよ」と人化したドラゴンは答えた。
「長命なドラゴンとしては、まだ若いんだよね?」とエンリ。
「そうでもないけど」と人化したドラゴン。
「じゃ、その姿は?」とエンリは、おそるおそる問う。
見るからに10才そこそこの幼女の姿となったドラゴンは言った。
「あのね、ドラゴンは人化するとき、主と認めた人の理想の姿になるの」
「って事は王子・・・」とエンリを残念な目で見る仲間たち。
エンリは慌てて「ちょっと待て。俺はロリコンじゃないぞ」
「本当かな?」とタルタ。
「俺、大人女子大好き」とエンリは冷や汗を流しつつ・・・。
「人には自覚は無くても無意識ってありますから」とアーサー。
「信じてくれよ」とエンリ。
「王子様にとっては私は既に年増なのでしょうか」とリラは筆談の紙に・・・。
「いや、そんな事無いから」と涙目のエンリ。
「お魚フェチの上にロリコン。変態の二重奏」とニケ。
「だから違うって」とエンリは必死な声で・・・。
「こんなのが次期国王でポルタ、大丈夫か?」とジロキチ。
エンリは「お前等なぁ!」
そんなエンリ王子に幼女ドラゴンは甘えた声で言った。
「私、ファフニール。ファフって呼んでね」
ファフは遥か昔に出会った初代国王を想った。
何人もの少女に囲まれた美青年。頭を撫でられて気持ち良さそうにしている女の子たち。
(やっと私、あの人の理想の姿になれたんだ。あの子たちみたいに思う存分、甘えるぞぉ)
ファフはエンリの左腕に抱き付く。
そして「よろしくね、主様」
周囲の痛々しい視線を浴びて、エンリは悲痛な叫びを上げた。
「俺はロリコンじゃないからーーーーーーーーーーー!」