第68話 茶番な内乱
エンリ王子たちが参加したリチャード王残党軍がイギリス王軍を撃退した。その勢いに乗ってユーロ各地へ「スカートの同盟」への参加を呼びかけた。
それに応じてヨークの館に集まった女性権力者たちによって開かれた会議。
題して「第一回インターナショナル」
議場のその横断幕を見てエンリ王子は首をかしげて、イザベラに言った。
「どういう意味だ? あの題目は」
イザベラは「世界中から集まったグローバリストの会議・・・という事よ」
「どういう人が集まったかが大事なんじゃないか?」とエンリ。
「いいのよ。グローバルって言葉の響きがかっこいいじゃない」とイザベラ。
エンリは「いいのか? それで」と首を傾げる。
開会が宣言され、メアリ王女が壇上に立った。
演説に曰く。
「父は若い愛人のために母を捨てました。こんな身勝手が許されるでしょうか。愛人にうつつを抜かした父は、私から王太子の座を剥奪し、彼女に産ませた妹にそれを与え、こんなにも若く美しくけなげな私を、あろうことか母とともにロンドン塔に幽閉したのです」
議場の女性たちは口々に言う。
「何で酷い」
「これだから男って」
エンリは首をかしげて「いや、若く美しくって自分で言うか?」と呟く。
隣に居たタルタも「けなげって・・・。エリザベス王女を幽閉したのは自分だろ」
そしてメアリは演説を続けた。
「ヘンリー王は、そんな事のために、至上なる神の代理人たる教皇猊下に背き、国教会なる偽物の教会を・・・」
エンリは首を竦めて「俺、その国教会の首長なんだが」
議場の女性たちは口々に言う。
「男なんて大嫌い」
「オスども死んじゃえ」
親衛隊長ヴァレリーが演壇に立った。
演説に曰く。
「男は神が作った失敗作であり、その欠陥を取り除く事で私たち女性が作られたのです。本来ならそこで排除されるべき男は、図々しくも暴力的に女性を支配しています。私たち女性は共に立ち上がって男による支配を覆し、全ての男を切り刻み抹殺すべきです。万国の女性よ団結せよ。女性万歳!」
さすがに議場に居た女性たちもドン引き。
だが、同調圧力全開な空気の中で、異を唱える者は居なかった。
そして口々に「そ・・・そうよね。女は美しい。美しいは正義よ。あは、あははははは」
そしてアン先王妃が「では皆さん。これよりロンドンに進軍を」
議場の女性たちは「ですが、イギリス軍は強大です」
「ご安心下さい。ここに三人の女帝が居ます。彼女たちが軍を出してくれます」とアン先王妃。
先ず、スパニアのイザベラ女帝が言った。
「我が夫エンリが率いる七人のサムラ・・・ではなく、八人の海賊。タルタ海賊団」
整列させられるエンリ王子たち。
親衛隊長ヴァレリーは「5人は男性ですが」
「しかも八人って・・・」と議場の女性たちも・・・。
イザベラは言った。
「それぞれ戦力は一騎当千。先日の王軍を撃退したのも彼等です」
雰囲気は一転し、議場の女性たちは口々に言う。
「素晴らしいですわ」
「王子様すてき」
何だかなぁ・・・といった表情のエンリ王子たちの中で、カルロだけがノリノリ状態だ。
次に、ロシアのエリザベータ女帝が言った。
「我が帝国からはマトリューシカ隊」
登場したのは六人の太ったオバサンだが、顔はそっくり。
「何と神が示した奇跡たる六つ子姉妹」とエリザベータ女帝。
議場の女性たちは口々に言う。
「それは凄いですわ」
「けど意味あるの?」
「女帝なら、ちゃんとした軍隊が出せるのでは」
エリザベータ女帝は言った。
「実は、これまで購入した大量のブランドのドレスや靴の請求書で、財政が厳しく戦費の調達がままならず。ですが彼女たちには、とっておきの技があるのです。皆さんにお見せなさい」
六人のリーダーらしきオバサンが「では、いきますよ」と声をかける。
そして六人一斉に右手を上に左手を下に、どちらも肘を90°に曲げて顔の上下位置で水平に。そして片足を上げて膝を曲げて脛を水平に。
そして叫んだ。
「シェ―――――」
会場の一同唖然。
エンリは呟いた。
「それって、ポンパドール夫人の国の人の芸なんじゃ。確か"おフランスおじさん"だっけ?」
次に、フランスのポンパドール夫人。
「我がフランスが誇る魔法少女軍団、チアリーダー隊。男性兵士たちを癒し強化する奇跡の儀式を行うヒーラーガールズたち」
「で、その男性兵士って・・・」と、議場の女性の一人が困り顔で・・・。
ポンパドール夫人は言った。
「最強の騎士様たちに来て頂きました。ボエモン侯爵様率いるシチリア騎士団の皆さん」
シチリア騎士団の屈強な騎士たち入場。
「男性ですよね?」
そう言ってしかめっ面をする親衛隊長ヴァレリーを他所に、議場の女性たちはテンションMAXで口々に言う。
「素敵。すごいイケメン」
「何て逞しい」
隊長のボエモンが困り顔で演壇に立つ。
「我々は三つの理由でこれに参加しました。その第一は騎士道大原則。騎士たる者、貴婦人を守って戦うは最高の栄誉」
黄色い歓声が上がり、ボエモン、タジタジに・・・。
気を取り直してボエモンは「第二は、イギリス王ヘンリーの盟友たる、憎き仇敵ポルタ王太子エンリに一矢報いるため・・・ってお前、エンリじゃないか。何でここに」と、途中でエンリ王子たちを見つけて唖然としつつ・・・。
エンリ王子は困り顔で「嫁に連れて来られたんだが」
ボエモン、涙目で「そうだよな。お前、妻帯者なんだよな。純潔を重んじる聖騎士の気持ちなんか解らんのだよな」
「いや、お前、モテモテだろ」とエンリ、頭痛顔。
ボエモン、気を取り直して「まあいい。第三は、依頼を受けたのだ」
「誰から?」とエンリ。
ボエモンは「依頼者については言う訳にはいかない。さる高貴なお方とだけ言っておこう」
「猿の高貴な?」とエンリ。
「貴様! 前教皇イノケント33世猊下を愚弄するか!」とボエモン、顔真っ赤。
「はいはい前教皇ね」とエンリは溜息。
ボエモンは「し・・・しまった」
残念な空気の中、アン先王妃が慌ててフォローを試みて、言った。
「ま・・・まあ、同じ目的を持つ同志なのですから、ここは過去の確執は水に流して。呉越同舟と申します」
「その諺、フォローになってないと思うけど」とアーサー、困り顔。
「とにかく皆さん、こんなイケメンな方々を味方として私たちの基へ導き給うた、神に感謝を」
そう言ってアン先王妃、"神に感謝を"のポーズ。
それを見てエンリはアーサーに「あれは何のポーズだ?」
アーサーは「あれは突っ込んだら負けの代物だと思います」
そんな二人にカルロはウキウキ顔で「それより聞いたか? 俺たちイケメンだってさ」
「いえ、あれはボエモンさん達の事だと思います」とリラがカルロに物言い。
落ち込むカルロ。
そんな残念な空気をどうにかしようと、ポンパドール夫人が言った。
「ではチア隊の皆さん、彼等の癒しと身体強化の儀式をお願いします」
ボンボンを持ったミニスカ姿のチアリーダー隊員たちが整列する。
ボエモンは唖然顔で「何だ? あの女たちは」
「行きますよ」とチア隊隊長の掛け声。
隊員たちが「はい、リーダー」
そして、ボンボンを振って足を上げ、「ゴーゴーレッツゴーボエモンファイト」
それを見てボエモン唖然。
「付き合いきれん。帰る」
そう言ってボエモンは部下たちを連れて議場を出ようとした時、その前に立ち塞がる者が居た。
カルロだった。彼は言った。
「ちょっと待て。あんな美味しい応援受けて喜ばないとか、お前らそれでもイタリア男かよ」
ボエモンは「俺たちはイタリア人じゃなくて移住したノルマン騎士の子孫だ」
「ノルマン騎士だって男だろうが。それを、あんな綺麗なレディーたちが、元気付けてくれるって、サービスしてるんだぞ。それを何だその態度は」とカルロは捲し立てる。
ボエモンも負けずに「あんなのレディーじゃない。何だあの、はしたない恰好は」
「はしたない上等だ。男は女の肌を見て喜ぶものじゃないのか。それとも何か? 異教徒の女みたいに全身ベールで勿体付けろってか」とカルロ。
「つつましくあれと言ってるんだ。それが神の意思だ」とボエモン。
カルロは「そんなのが神様の意思だってんなら、神様なんぞ糞くらえだ!」
「まあ待て、カルロ」とエンリはカルトの肩をポン、と叩く。
「王子・・・・・・」とカルロは口ごもる。
「奴は堅物なのさ」とエンリ。
カルロは言った。
「ああいう、モテを無駄にする奴が、一番ムカつくんだよ」
ノルマン騎士団は去り、さらに残念な空気が漂う。
そんな中でテレジア女帝が言った。
「皆さん、大丈夫です。私、ドイツ新皇帝テレジアが率いるドイツ正規軍が今、ヨークの港に上陸中です」
議場の女性たちは口々に言う。
「素晴らしいわ」
「イギリス軍なんて怖くない」
「女性万歳!」
その時テレジアの部下の一人が議場に駆け込んだ。
「テレジア女帝陛下、一大事です」
「何事ですか」とテレジア女帝。
テレジアの部下が報告した。
「プロイセンのフリードリヒが我が領土に侵攻し、シレジアを占領しました」
テレジア唖然。そして「あの男は・・・」
「どうしますか?」とテレジアの部下。
テレジアは「直ちに軍を戻して奴等を撃退なさい。この私が指揮をとります」
情勢の急転に戸惑うアン先王妃は「あの、テレジア陛下・・・」
テレジアは言った。
「あのフリードリヒは、私が女性だというだけで即位に反対した、その挙句の仕打ちです。つまりこれは皆さんと同じ女性としての戦いです。二つの戦場でともに勝利を」
テレジア女帝とその家来は去り、ドイツ軍も去った。
とてつもなく残念な空気が漂う。
アン先王妃はメアリ王女に言った。
「進軍、中止しますか?」
だがメアリは「私たちは全ユーロの女性が味方しています。必ず勝ちます」
「味方・・・ねぇ」とエンリは呟き、溜息をついた。
スカート同盟軍はヨークの館を出て南へ進軍した。広い平原に出ると、イギリス軍の戦陣が待ち構えている。
敵軍を前にアンはメアリ王女に「なるべく犠牲を出したくないですわね」
メアリは「大丈夫。こちらにはドラゴンが居ます」
そんな彼女たちを見てエンリはマーリンに言う。
「なあマーリン、どうせ色々と裏があるんだよね?」
マーリンは笑って「深く考えなくていい・・・ってイザベラ様が・・・」
「イザベラは何を考えてるんだよ。まあ予想はつくけどね」とエンリ。
そんなエンリにイザベラは「私が何も考えて無かった事なんてあったかしら?」
前方のイギリス軍に対して、半分近くが女性のこちら側は、やる気の無い様子が明らかに見えた。
メアリ王女が言った。
「イザベラ様、ドラゴンで蹴散らして頂けますか」
イザベラは「そうね。ではエンリ王子。マーメイドボイスを」
「いや、ドラゴンでは?」とエンリ、疑問顔で聞き返す。
イザベラは再度「マーメイドボイスを」
エンリはイザベラの意図を察して溜息をつき、そして言った。
「そういう事かよ。リラ、やってくれ」
人魚姫は人魚の歌を歌い、耳栓の用意をしていなかったスカート同盟側はバタバタと倒れて眠りについた。




