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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第66話 イギリスの先王

エンリ王子がジパングからポルタに帰還した。

宰相が王城で彼等を迎えた。


エンリは宰相に「何か変わった事は無かったか?」

「いえ、至って平和です」と宰相。

エンリは「本当か? お前以前、イザベラに相当懐柔されていたからなぁ。またあの人、何か企んでいるんじゃないのか?」

「妊娠中ですよ」と宰相。

「スパニアでおとなしくしてると?」とエンリ。

「いえ、こっちに来てますけどね」と宰相。

「全然おとなしくしてないじゃん」とエンリ。

宰相は「あの人が妊娠如きでおとなしくしてる訳無いじゃないですか」

「さっきと言ってる事が違うぞ」とエンリはあきれ顔で言った。



妃の部屋へ行くエンリ王子。

イザベラと、もう一人の女性が居た。

イザベラはエンリを見て「お待ちしておりました。我が夫」

「お腹の子は順調か?」とエンリ。

「大切な私とあなたの子ですもの」とイザベラ。


「それより、スパニアは留守にして大丈夫なのか?」とエンリ。

イザベラは「スパニアは盤石よ」

「家来たちを信頼しているんだな」とエンリ。

「私の地位を奪おうって人は、私の留守を狙って動きますから、そこで尻尾を出した所で一網打尽です」とイザベラ。

(怖ぇーーーー)とエンリは呟く。



エンリはイザベラと一緒に居る女性を見て「ところで、そちらの御婦人は?」

「私のお友達よ」とイザベラ

女性は名乗った。

「イギリス先王リチャード三世の妻、アンと申します」

「な・・・」とエンリ絶句。


かつてイギリスで薔薇戦争と呼ばれた内乱があった。二つの王家が王位を争って、何人もの王が立っては倒された。

その果てに、ヨーク家がランカスター家を倒して即位したのがリチャード三世だった。

だが、彼に反旗を翻す勢力が彼を倒し、現王朝を開いた。それが現ヘンリー王の治世となったのだ。



エンリは「お友達って、あの王様が居たのはかなり以前だが」

「以前イザベラ様はイギリスを牽制するため、我々ヨーク公の残党を援助して下さったのです」とアンは言った。

「なるほど、その援助の相手って訳か。けど、イギリスは今や国教会設立の同盟国なんだが、今更牽制って・・・」とエンリ。


アンは「お願いです。あの人を見殺しにしないで下さい」と訴える。

エンリは「あの人って?」

「生きているのよ。リチャード三世王」とイザベラ。


エンリ唖然。そして言った。

「だって戦死した筈じゃ・・・。もしかして不殺の呪い?」

「そうです。私が同志たちと一緒に彼を救出しました。今、シャーウッドの森で抵抗を続けています」とアン。



イザベラはエンリを指して言った。

「アン王妃。彼は私の夫で海賊団を率いているの。強力な戦力を持った味方よ」

「イザベラ様。お姉様と呼んでもいいですか」とアン。

「いい子ね」とイザベラは、百合の花咲き乱れる妄想の中でアンと手を執り合う。


そしてイザベラはエンリに「そういう訳で、イギリスに行って彼女を助けて欲しいの」

「けど、そいつら助けてスパニアに何か得があるのか?」とエンリ。

イザベラは「女の友情は全てに優先するのよ」

「君はそんなキャラじゃないだろ」とエンリは疑問顔でイザベラに言った。



「という訳なんだが、どう思う?」

自室でテーブルを囲む仲間たちに、エンリ王子はイザベラが持ち込んだ話を説明して、意見を問うた。

「あのイザベラさんが友情なんぞで動くかなぁ」とジロキチ。

「だよなぁ」とタルタ。


「けど、イギリスは海上貿易に進出して、ポルタ商人のライバルになろうとしているって話ですよ」とカルロ。

「それで、占ってみたんですけど、将来的に世界の交易を支配するって出ました。けど、そうなるのは百年以上先だと」とアーサー。

「けど、そうなろうと試みてはいるんだよね?」とエンリ。


「それと、もし、奴等の元に現イギリス王家の反対勢力が集まって、教皇派がバックについてフランスとか各国の教皇派に呼びかけたら、どうなる?」とニケ。

「イザベラにとっちゃ敵方だよね?」とエンリ。

ニケは「だから、そうやって敵対しそうな奴等を誘い出して一網打尽にすると」

「怖ぇーーーーー」と一同呟く。



イギリス行きにはマーリンも、イザベラの依頼で同行した。

港で船に乗り込む時、マーリンはエンリに「私は戦力になるわよ」

「それはいいんだが、イザベラから何か、図り事託されてるんじゃないの?」とエンリ。

「さぁ、何の事かしら」とマーリンはしらを切る。

アーサーは「まあ、久しぶりにイギリスに帰るんだし」

エンリはアーサーとマーリンを見て「そーいやお前らの故郷だっけ」



イギリスに渡り、シャーウッドの森に向かう。旧ヨーク領の少し南に行ったあたりだ。


森の入口に彼等の前衛拠点があった。そこの責任者がエンリ王子たちを迎える。

「ロビンだ。ここの傭兵隊長をやっている」

「傭兵って事は本隊が居るのか?」とエンリはロビンに・・・。

ロビンは「居るが、あまり頼りにはならない」


「つまり、お前らが戦力って訳か。それにしては数が少なくないか?」とエンリ。

「以前はスパニアから援助があって大勢雇えたんだが、援助が細ったんでリストラされたんだ」とロビンは答えた。



建物の奥から二人の女性兵士が出て来る。

ロビンは女性兵士を指して「ここからは彼女たちが案内する」


女性兵士に案内されて森の奥へ。

森の中に防柵が巡らされ、いくつかの警備小屋が見えるが、兵士はみんな女性だ。


奥の拠点の建物に入る。

アンは部屋の奥に居る人物に「陛下、今、帰りました」

「御苦労だった。彼等がスパニアから来た助っ人か」と彼はアンに言った。


その人物を見てエンリは「こちらは?」

「リチャード三世陛下です」とアンは答える。

線の細い女性的な面立ちの美形だ。隣に居るマーリンが微妙な表情を見せて言った。

「イケメンだけど、何かピンと来ないのよね」


とりあえずエンリたちはリチャードに自己紹介。



「助っ人って男性ですか?」

そう言ったのは、リチャードの隣に居る、戦闘服姿の目つきの危なそうな女性だ。

その女性を見てエンリは「こちらは?」

「親衛隊長のヴァレリーです」とアンは答える。


ヴァレリーと名乗る女性は言った。

「男は間違った性であり、その不完全さを隠蔽するべく暴力的に女性を支配しています。故に私たち女性は男による支配を覆し、全ての男を抹殺すべきです」

エンリ王子たち唖然。

タルタがアンに「この人、頭は大丈夫なの?」

「王家に抵抗するには、こういう人が必要なんです」とアン。


エンリは「抵抗って何を?」

「ヨーク館に送り込まれた役人を攻撃します」とアン。

「テロ的な事でもやるの?」とエンリ。

「屋敷の前に生ごみを」とアン。

エンリ王子たち唖然。

「ただの嫌がらせじゃん」とエンリは呟いた。


アーサーはエンリに「あの、王子。彼等がやってこれたのって、相手にされなかっただけなんじゃ・・・」

アン王妃は困り顔で「スパニアから援助があった時は、もっと傭兵も居て、いろいろ出来たんですけど」



その時、奥から十代後半の女の子が出て来て、言った。

「戦力が来てくれたそうね」

アンは彼女に「紹介します。イザベラ女帝が派遣してくれたタルタ海賊団です」

女の子を見てエンリは「こちらは?」

「イギリス王女のメアリ殿下よ」とアンは答える。


エンリは女の子に「エリザベス王女の姉君ですか。ロンドン塔に幽閉されてたんじゃ・・・」

「先日、脱出して、こちらと合流したの」とメアリ王女。

エンリは不安顔でアンに「彼女がここに居るって事をヘンリー王は知って・・・」

「おそらく」とアンは答える。


タルタは不安顔で「大丈夫かよ。放置できなくなるぞ」

メアリは「いろんな貴族が味方してくれています」

「兵を出してくれるとか?」とエンリ。

「その分資金援助を」とメアリ。



ヴァレリー親衛隊長が言った。

「所詮、貴族たちは男です。血を流す事を厭い、金で済まそうという卑怯者です。それでは感謝されません。ショーザフラッグです。デーブという方が言っていました。奴等はフニャチンだと」

「本当にこの人、頭大丈夫かよ」とエンリ王子は呟き、そして思った。

(どこかで聞いたような話だな。アラビアのクゥェートという町で、似たような話があったような・・・)


「けど、これでリストラした傭兵を呼び戻せるわ。あなた達も戦ってくれるのよね? 褒賞ははずむわよ」

そうメアリが言うと、ニケはいきなり元気になって、メアリの手を執って、言った。

「命に代えて忠誠を尽くすわ」

メアリは「期待してるわよ。一緒に男どもを蹴散らしましょう」

ニケは、明かに自分より年下のメアリに「お姉さまと呼んでいいですか?」

メアリは、明かに自分より年上のニケに「いい子ね」


そんなニケを見てエンリとその仲間たちは「この女は・・・」



会見が終わり、リチャード王が自室に戻る。


宿として部屋を用意したからと案内を受けた時、エンリはアンに問うた。

「あの、アン先王妃」

「何でしょうか」とアン。

「あなたは男性が嫌いなんですか?」とエンリ。


アンはバツの悪そうな表情で言った。

「あの親衛隊長は、私が夫を救って戦場を逃れた時に助けてくれたんです」

「他の人たちは?」とエンリ。

「ヨーク家やネヴィル家の縁者から募りました。バラ戦争でランカスター派を指揮したマーガレット王妃を見た事で、その気になったみたいで」とアン。

「ランカスター派って敵方でしたよね?」とエンリ。


アンは「彼女自身を支持している訳じゃないんです。彼女が味方に引き入れたスコットランド兵による略奪の事もあるし。けど、女性だって戦えるって思ったみたいで」

「いや、女性だって戦えると思います。ただ、そういう人ばかりじゃない。何か無理をしているように思えます」とエンリ。

「そうですよね」とアン。


そしてエンリは「それと、リチャード王は男性ですよね?」

「彼は常に先頭に立って戦ってきました。そして彼は高潔です。実は私はまだ彼に抱かれた事がありません」とアン。

エンリは溜息をついて言った。

「こういうのって人それぞれとは思いますが、私はそういうのを高潔とは思わないです」

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