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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第65話 夫婦で人魚

エンリ王子たちが再びジパングを訪れた時、織田信長は殺され、羽柴秀吉は織田家の主導権を争って柴田勝家が籠る北ノ庄の城を包囲していた。

城内に居る秀吉の想い人、お市の方の命を助けようと、秀吉に協力するエンリ王子は、秀吉とともに忍び凧で勝家・お市の元に向かう。



勝家とお市が城の最上階から麓に居る敵軍を見下ろす。そして眼下で城を守る疲弊した兵たち。


「そろそろ限界かな」と勝家は言って、お市の肩に右手を置く。

お市は勝家に寄り添って「いつでもお供をする覚悟は出来ています」

勝家は哀しそうな目でお市を見て「いや、其方には生き延びて欲しい」

「その話は終わった筈です」とお市は毅然と答えた。


勝家は言った。

「秀吉なら、きっと良くしてくれる。何度も使いを送ってきたではないか。この間なんか、凧に乗って奴自ら・・・」

お市は空に浮かぶ凧を見て「あんな凧でしたね」

勝家は「そうだな・・・って、あいつ、また性懲りも無く!」



急接近する忍び凧に、思わず窓際から飛びのく夫婦。

凧は城の屋根に激突した。

「風が強いとコントロールが大変なんですよ」と忍者が小言を言いながら、屋根から城の窓にロープを固定。

これを伝って秀吉ら四人が勝家の居る最上階へ。


乗り込んで来る秀吉を見て、勝家は「秀吉、貴様また性懲りも無く」

秀吉は「お市様・・・と、ついでに勝家」

「俺はついでかよ・・・ってまあ、懲りずに武人として正々堂々の一騎打ちに来たのは誉めてやる。覚悟!」

そう叫んで秀吉に切りかかる勝家。

ジロキチがかるく勝家の刀を叩き落とす。



秀吉は勝家に言った。

「まあ待て。この前もそうだったが、お市様を助けるために来たんだ。お前とてこの人を助けたいだろう」

だが、お市は勝家に縋って秀吉に「私はこの人とともに行きます。あの時もそう言った筈です」

秀吉は「だから勝家、お前も含めて逃がしてやると言ってるんだ」


勝家唖然。そして秀吉に言った。

「焼きが回ったな、秀吉。再起して今度こそお前を倒す」

「お前が天下を諦めればいいだけの話だ」と秀吉。

勝家は「お前にも敵は多いだろうが。俺にその気が無くても、奴等が再起を迫る」

秀吉は「だから死んだふりをするんだよ」



アーサーが説明する。

「不殺の呪文というのがあるんです。これを刀にかけて自害すれば、死なずに死んだふりが出来て、すぐに生き返ります」

勝家は「伴天連の魔法という訳か。だがな、お前まさか、俺が後々お前を狙わないと信じるとでも言うのか」と秀吉に・・・。

アーサーは「契約の魔法をかけます。これで契約すると、けして破る事ができません」


勝家はしばらく考え、そして言った。

「解った。では三人の娘を呼んでくれ」



お市が幼い三人の娘を連れて来る。


秀吉はお市と勝家に「私が責任をもってこの子たちを守ります」

お市は三人に「お前達、母様は遠い所に行きます。秀吉様の言う事をよく聞くのですよ」

長女の茶々は「解った。秀吉おじ様大好き」と言って、秀吉の着物の裾を握った。


茶々の頭を撫でる秀吉。



お市は短刀で喉を突き、勝家は腹を切って果てた。

エンリとアーサーは「これがジパング名物ハラキリショー」

ジロキチはむっとした顔で「この国の人の前でそれ言ったらぶっ飛ばされるよ」



畳の上に倒れる二人を見て茶々は言った。

「母様、死んじゃったの?」

秀吉は「死なないよ。この短刀は刺しても死なない魔法がかかっているんだよ。すぐに父様と母様は生き返って、どこかで幸せに暮らすのさ」

「でも、もう母様には会えないんだよね?」と茶々。

「そうだね」と秀吉。


茶々は、母親が喉を突いた短刀を手にして、言った。

「じゃ、これ、茶々が貰っていい? 母様だと思って大事にしたいの」

秀吉は「いいよ」


短刀を握って茶々は思った。

(きっと秀吉おじ様も、父様達みたいに、いつか敵に攻められて、殺されてしまうんだろうね。そうなった時、茶々がきっとこの刀で、おじ様を守ってあげるね)



主を失った城はその日のうちに落ちた。

そしてお市と勝家はただちに埋葬され、その夜のうちに掘り返されて、生き返った夫婦は何処へともなく落ち延びた。



秀吉と別れてエンリたちは若狭の海へ向かった。

そして人魚姫が歌い、海の底から人魚の男性、コタローがそれに答える。


リラは海に入り、コタローと再会した。

「迎えに来ました。一緒に姉の所に行って貰えますか」とリラ。

「もちろんです」とコタロー。



二人は海面に上がり、エンリ王子の船に乗り込む。


コタローはエンリに「あなたがリラさんの恋人ですね?」

「エンリだ」と彼は名乗る。

「この船はあなたの船ですね?」とコタロー。

エンリは「そうだが」


コタローは言った。

「随分前に、こんな異人の船を見た事があります。しばらくあちこちに行った後、洞窟に変な箱を置いて行ったのを憶えています」

それを聞いたタルタは「それって、バスコの地図じゃないのか?」



手元の世界地図を確認するエンリたち。

「確かに記号が書かれているのは、このあたりね」とニケは言った。

エンリはコタローに「案内してくれるか」

「いいですよ」とコタロー。


ボートに乗って、コタローの案内で洞窟を目指す。海に向けて口を開けた洞窟の中に、宝箱はあった。

そして箱を開けると一枚の地図。

地図を見てジロキチが「ジパングってこんな形の島だったんだね」と感慨深そうに言った。

「こんなのが世界中に眠ってるのか」とタルタ。

エンリは言った。

「とにかくポルタに戻ろう」


男性人魚は船内の風呂場の浴槽に居場所を得た。

風呂が使えないと小言を言うニケ。恐縮するコタロー。



ポルタの海でリラは、彼を引き合わせるため、念話で姉人魚を呼んだ。

ボートの上から仲間たちが見守る中、二人の人魚が出会う。


「あなたがコタローさんですか?」と姉人魚レラ。

「会えて良かった」とコタロー。

レラは「私の家族になってくれますか?」

「もちろんです」とコタロー。


そしてコタローは言った。

「リラさん、ありがとう。これから家族を増やして、ここを人魚がたくさん居る海にします」

「頑張れよ」とタルタ。

「元気でな」とエンリ。


海の中に消えていく夫婦の人魚。



彼等を見送ると、タルタが言った。

「俺たちもポルタの港に戻ろう」

「俺の子、産まれたかな?」とエンリ。

「あれからまだ一か月も経ってませんよ」とアーサー。


ジロキチが「イザベラさん、ろくでもない事やってなきゃいいが」

「それを言うな。胃が痛くなる」とエンリ。

リラが飲み薬の包みを出して「胃薬、ありますよ」

エンリは「済まないね・・・ってそれ、イザベラが父上に飲ませた、胃が痛くなる薬だよ」

「そうでしたっけ」とリラは慌てる。


エンリは言った。

「とりあえず港に行って一息つこう。準備が出来たらまた出発だ」

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