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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第62話 近代の創成

ユーロ全土を巻き込んだスパニア内乱が終わり、戦後処理の話し合いは進んだ。


イザベラを正式にスパニア皇帝として承認し、またポルタの独立も承認された。

ドイツ皇帝の退位は要求せず、代わりにドイツ諸侯の完全独立が認められた。プロイセンは、皇帝直轄領のあちこちの割譲を要求して、大半を認めさせた。

三国の国教会を教皇が承認。スパニア国教会はスパニア皇帝とポルタ王が二人で首長を務める事になった。

ポコペン公爵は敗戦したイタリア貴族を庇い、彼らのリーダーとしてイタリアの主導権を握った。



内戦に加担していたほぼ全てのスパニア諸侯はダメージを負い、敵側の諸侯は領地を没収された。

味方をした所も諸侯の権限は縮小され、中央から派遣された役人が住民代表とともに地方実務を握る事になった。


スパニア女帝としてイザベラが任命した子飼いの宰相と司法官が、国内での後処理を相談する。

女帝の夫であり功労者でもあるとして、エンリ王子とその仲間も御前会議に加わった。

「それで敵方になった奴等ですが」と宰相。

「やっぱり後腐れ無いよう処刑すべきかと」と将軍。


「寝覚めが悪いよなぁ」とタルタ。

「けど、生かせば態勢整えて反撃してとか考えかねませんよ」とアーサー。

「諸侯はともかく皇子たちはどうするよ。あれでもイザベラの兄弟だぞ」とエンリ王子。

「それが一番危ないんですよ。何せ帝位を狙える人達ですから」と司法官。



するとイザベラが「そこらへんはちゃんと考えてあります」

「やっぱり殺すのか?」とエンリ。

「いいえ。新しい領地を与えます。新大陸で」とイザベラ。

「そこで独立でもされたら面倒だぞ」とエンリ。


イザベラは言った。

「大丈夫ですよ。彼等が現地人を人道的に扱うと思いますか? 酷い奴隷扱いをするに決まってます」

エンリは「おいおい」

「しかも教皇派の坊主を連れて行って、正しい神の道を示した恩人だから何をやってもいいと言い張って調子に乗って」とイザベラ。


「現地人が可哀想だろ」とエンリ。

「それで彼等の反発を買った所を不正を暴いて糾弾。後は現地人が煮るなり焼くなりしてくれます」とイザベラ。

その場に居た一同「怖ぇーーーーーー」


イザベラはドヤ顔で言った。

「旧体制派と古い教会の影響力を根こそぎ始末できる絶好の機会じゃないですか」

「この人を敵に回さなくて良かった」と、その場に居た一同が呟いた。



エンリは仲間たちとポルタに戻り、そこで戦争の後始末に追われる。

大臣たちにあれこれ指示を出すエンリ王子。


「戦費でまた累積債務が増えたんですよねぇ」と財務長官。

「親父が騙されて、高い利息呑まされてたからだろ」と王子。

「けど、ポルタは一回消滅して、また復活したからって、再契約して利息は刷新した訳ですよね」と宰相。

「それで利息を下げるとか言って、よく債権者が納得しましたね?」と内務長官。


「利息は"といち"でいいって言ったら、喜んで刷新したぞ。これが新しい契約書」と言ってエンリは書類を出した。

宰相は青くなって「とんでもないじゃないですか」

「もしかして十年で一割ですか?」と内務長官。

エンリは「じゃなくて十年で一分だ」


宰相が困り顔で「後で解釈の違いで問題になりますよ」

「左隅に但し書きがあるだろ」とエンリ。

「普通の唐草模様ですけど」と内務長官。

「虫眼鏡で見るんだよ」とエンリ。


書類を虫眼鏡で調べる大臣たち。

内務長官が「あ、こんな小さな字で・・・といちとは十年で一分の事である・・・って」

「これ、詐欺じゃないですか。貸し手の奴等が怒りますよ」と宰相。

「支払いがあるのは十年後だ」とエンリ王子。

「けど奴等は十日後だと思ってますよね?」と財務長官。

エンリ王子は「あ・・・」



その時、役人が報告に来て「王子、債権者の方々が見えてますけど」

どやどやと部屋に押しかけてエンリに抗議する債権者たち。彼等は口々に言った。

「何ですかこの但し書きは」

「詐欺じゃないですか」


そんな彼等をエンリは一喝した。

「利息があるだけ有難いと思え。教会の教えでは金を貸して利息をとるのは神の意に反するという事になっているぞ」

すごすごと帰って行く債権者たち


「宗教は偉大だ」とドヤ顔するエンリ王子。

大臣たちはあきれ顔で「こんな時だけ」

「なんせ俺はスパニア国教会の首長だからな」とエンリ。

「この男は・・・」と大臣一同、あきれ顔。

エンリは「取引は自己責任だ」と涼しい顔で言った。


その時、財務長官が言った。

「けど、これだったら十年で一厘でも良かったんじゃ・・・」

「いや、さすがにそれは」と他の大臣たち。


だがエンリ王子は天を仰いで悔しそうに叫んだ。

「しまったー、そうすりゃ良かった。俺のばかぁ」

「この男は・・・」と大臣一同、あきれ顔。

「けど、元本が大きいからなぁ」とエンリは溜息。


そんなエンリに航海長官が「あの秘宝があるじゃないですか」

するとエンリは「世界地図か? あれはニケさんが持ち逃げした」



エンリ王子は自室で窓の外を眺める。傍らに寄り添う人魚姫リラ。

(ポルタ、どーしよーかなぁ)とエンリは呟く。


冒険の旅を思い出すエンリ王子。

心の中で(ジパング。いい国だったな。また行きたいなぁ)と呟くエンリ。


若狭の宿を思い出す。主の命のため人魚姫を浚った秀吉の事。彼が好きだった人が居る越前。その北にあるという、百姓が持ちたる国。

ポルタは小国だが、交易商人たちが活躍して、豊かな国になった。

なら、商人が持ちたる国が相応しいのではないか。彼等が集まり、話し合って政治を・・・。

そこまで思考を巡らせた所で、エンリ王子は立ち上がって叫んだ。

「そうだ。議会を作ろう」



大臣たちを集めて会議を開くエンリ王子。彼の仲間たちも同席した。

エンリの発案に大臣たちは面食らった。

「議会ですか?」と内務長官。

「貴族議会なら、ありますけど」と貴族議会議長。


エンリは言った。

「それは各国にあるが、イギリスでは都市市民が参加して意見を言っている。教会独立を支持したのも彼等だ。ポルタは小国だが、国を盛り立ててきたのは商人だ。議会で話し合いに参加する権利はある筈だ。それによって、ここは自分の国だという自覚を持てる。議会を都市市民主体にしよう。この国を商人の持ちたる国にするんだ」

宰相が「王様はどうなります?」

「王様って?」とエンリ。

タルタがあきれ顔で「いや、あんたの事だろ、次期国王」


エンリは「俺は・・・」と口ごもる。

「また冒険の旅に、とか言わないよね?」とアーサー。

そんなアーサーにエンリは「行きたくないの?」

「いや、行きたいけどさ」とアーサーは口ごもる。



「王様なんて飾り物だって、イザベラが言ってた」とエンリ。

アーサーは「あれはあんたを手玉に取る建前だよ。これからは王がリーダーシップをとって国をまとめて強くする時代ですよ」

「けどさ、国を強くしたいのは、それで商売を有利にしたい商人なんだよね。だから彼等には飾り物としての王が必要なんだよ。俺は彼等を信じていいと思う。それにさ」とエンリ。

アーサーは「何ですか?」


エンリは言った。

「スパニアだって、地方に今、皇帝が役人を派遣して支配する体制作ってるよね? それがうまくいくとは思わないんだ。だってスパニアって、地方の特色が強いだろ。一律の役人支配なんて、うまくいく筈が無いよ。で、その地域の立場を主張するのは住人自身さ。だから、そいつらにも、自身に地方議会でいろいろ決めさせるのが一番うまくいくんじゃないのか?」

宰相が「それを仮にスパニアに勧めたとしても、あのイザベラ女帝が納得するとは思えませんよ」

「そうだなぁ」とエンリ。



すると会議室の入口で「面白そうな話ね」と・・・。

いつの間にかイザベラ女帝がそこに立っていた。

「イザベラ、来てたのかよ」とエンリ。

「地方議会に決めさせて自立させるんでしょ? いいじゃない」とイザベラ。

「皇帝支配の邪魔になるんじゃ・・・」と国務長官。


イザベラは言った。

「議会で大勢が話し合うと、絶対二派に別れて対立するわよね。その間に立って対立煽って漁夫の利を狙えば、いくらでも手玉に取れるわ」

「本当にえげつない女だな」と一同呟く。


そしてイザベラは「それと王子、ニケさんが戻って来てるわよ」

エンリ唖然。そして言った。

「あの泥棒女、どこに行った。隠れてるんなら草の根分けて探し出せ」



カルロを呼んでニケの捜索を命じると・・・。

「知らなかったんですか? あちこちの地方領主や地主や農民集めて大っぴらに商談会やってますよ」



仲間を連れて商談会の現場に出向くエンリ王子。

そこでは、西方大陸の作物の鉢植えを前に、売り込みをやっているニケが居た。



客たちを前に説明するニケ。

「この作物はジャガイモと言って、寒くて痩せた土地でも育つの。しかも年に何回も収穫できる。ドイツやアイルランドに主食としてぴったりよ。それで、こっちの赤い実はトマトと言って、美味しいのよ。調味料としても使えるのよ。イタリア向きね」

「同じ種類の植物みたいだが」と一人の客が・・・。

ニケは「地下では根が芋になり、地上では実がなる。お得でしょ?」

「それは凄い」と客は目を丸くする。


ニケは続けて説明。

「で、それでこっちの苗が実専用でこっちの苗が芋専用よ」

さっき質問した客が「一緒に採れるんじゃないのかよ」

「そんな美味い話がある訳無いじゃない」とニケはヌケヌケと・・・。

客はあきれ顔で「お得でしょ? はどうした」



次の作物を説明するニケ。

「この芋はキャッサバと言って、どんな痩せた土地でも育つの」

「つまり、養分はいらないって事か。休耕が要らなくなる。土地が有効に使える」と一人の客が目を丸くする。

「というより、養分吸収力が凄いの。三年も育てたら畑はカラカラね」とニケは説明。


客は「その後はどーするのだ?」

ニケは「別な所を開墾すればいいのよ」

客はあきれ顔で「意味無いじゃん」

「そんな美味い話がある訳無いじゃない」とニケはヌケヌケと・・・。



次の作物を説明するニケ。

「この穀物はトウモロコシよ」

「デカいな。食べ応えありそう」と一人の客が・・・。

「食糧事情改善間違いなしね」とドヤ顔のニケ。

客は「味とかはどうなんだ?」

ニケは「美味しいわよ。この表面の粒々を食べるの」

客はあきれ顔で「中の芯は食べられないのかよ」

「そんな美味い話がある訳無いじゃない」とニケはヌケヌケと・・・。



残念そうな表情の客たちにニケは言った。

「とにかく食べ物の乏しい土地の農民にとって確実に救いとなるのよ。その栽培権の見返りとして収穫の八割を上納すれば・・・」

客はみんな帰った。


「すごい利益になるのに」と、膨れっ面のニケ。

見ていたタルタがあきれ顔で「ふっかけ過ぎだろ」


そんなニケにエンリ王子は言った。

「ところでニケさん、あの秘宝の世界地図はどうしたの?」

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