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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第60話 天下の分け目

スパニア皇帝の座を巡る最後の決戦。

スパニアの首都を目前にする平原で睨み合う国教会同盟軍と教皇軍。

エンリ王子たちの弁舌に激怒した教皇軍側の第二皇子が、自軍の魔導士の呪文詠唱を待たずに開戦を宣言した時、同盟側の魔導士は呪文の詠唱を終えていた。



教皇軍陣地を覆うように上空に現れていた幾つもの魔法陣からファイヤーレインが炸裂。

討論に気を取られてそれに気付かなかった教皇側の陣地に、炎の雨が大きな被害を与えた。


同盟側の大砲も一斉に火を噴き、長弓隊が矢の雨を降らせる。

慌てて呪文の詠唱を始める教皇側の魔導士と無敵戦隊の隊員。



その時、タルタの鋼鉄砲弾が無敵戦隊の陣地に突入した。その衝撃波で五人は体制を崩したが、直撃した者は居ない。

無敵戦隊のレッドが「人員相手に大砲など」と敵を嗤ってみせるが・・・。

その時、「それはどうかな」の声が頭上から聞こえた。

それはタルタに掴まって一緒に陣地に飛び込んでいたジロキチとカルロだった。

鋼鉄の砲弾が着弾する直前にタルタは一瞬鉄化を解いて、その瞬発力で二人を宙に放り上げて突入速度を減殺したのだ。


着地と同時にジロキチがイエローに、カルロがグリーンに斬り付けてこれを倒す。

そこにエンリが魔剣で斬り込む。

水魔法を放つブルー。

(水には火だ)

そう判断したエンリの炎の巨人剣が伸びて水魔法ごとブルーを倒す。


レッドが炎魔法を放つが、鉄化したタルタのオリハルコンの体がこれを遮り、その背後から跳躍したジロキチがこれを倒す。

ピンクが光魔法を放つ。

(光には闇)

そう呟いてエンリは、闇の魔剣でその光魔法を切り伏せ、カルロが止めを刺した。


エンリ王子は自軍に向けて叫んだ。

「無敵戦隊は倒れた。勝ちに行くぞ」



戦場では熾烈な戦いが始まっていた。


ファフのドラゴンとアラジンが召喚したジンが敵の大型魔獣と格闘。

グリフォンに乗った飛行騎兵を魔法の絨毯で攪乱するアリババ。

シンドバットは大砲陣地に潜入しては弾薬に火をつけて爆破を繰り返し、教皇側の大砲陣を次々に沈黙させる。

敵のキメラ騎兵には三銃士を先頭にフランス騎士隊が切り込む。

オーク隊にはドレイク海賊隊が立ち向かった。


タルタ・ニケ・ジロキチ・カルロはアーサーが操る四足歩行ゴーレムに乗ってポルタ騎兵の先頭に立って敵を攪乱。

敵の銃弾を鉄化したタルタが防ぎ、その背後からニケが銃撃。ジロキチとカルロが敵陣に飛び込んで斬りまくる。

敵の陣形が崩れた所を魔剣を振るうエンリ率いるポルタ騎兵が押し込む。



そんな魔獣たちを操るため教皇軍の背後に布陣していたドイツ魔導隊の陣地に面した森から、一群の騎馬軍団が出現。

「ヒャッハー」と叫んで魔導士隊に突撃する彼等は、騎士とはかけ離れた風体の、まさに無法者集団。頭部の両側を剃った者、丸坊主の者、ボサボサの頭をバンダナで束ねた者、その先頭に立つのはあのフリードリッヒ王だ。


そんな様子を遠くから見て、タルタは「何だよ、あいつ等」

「プロイセンの囚人騎兵だ」とアーサー。

「ならず者を狩集めて訓練した猛者たちって訳か」とジロキチ。


彼等は魔導士たちの放つファイヤーアローを物ともせず、魔導士陣を守る護衛兵たちを蹴散らして、魔物軍団を操っていた祭壇陣地になだれ込み、ドイツ魔導軍団を一気に殲滅した。

そこに隣接する右方向では砲兵隊が砲陣を敷いている。囚人騎兵の獰猛な戦いぶりに皇帝軍砲兵たちは真っ青になり、死を覚悟した。


フリードリッヒ王は叫んだ。

「魔導士どもを倒したら、次は右方向の砲兵隊を潰すぞ。突撃・・・っておいこらお前等、どこに行く」

囚人騎兵はそちらに向わず、左方向にある皇帝軍の兵站陣へと突入して略奪を始めた。

慌てたフリードリヒ王は「お前等、戦闘中に何やってるんだ」


囚人騎兵は口々に言った。

「変な薬の入った酒飲まされたせいで、手近な村を略奪できなくて欲求不満なんですよ。敵軍なんだからいいじゃないですか」

フリードリヒは「軍規違反は厳罰だぞ」と必死に彼等を制しようとするが・・・。

「どうせ俺たち囚人だし」と居直りを決め込むヒャッハーたち。

統制を失った兵たちに、王はあきれ顔で「勝手にしろ。どうなっても知らんぞ」



略奪に夢中になっている囚人騎兵たちは、まもなく駆け付けたドイツ重装騎士団に包囲された。

重装騎兵の背後には長槍密集歩兵隊がひしめく。


囚人騎兵のヒャッハーたちも事態に気付いて青くなり、口々に言った。

「おい、まずいぞ」

「王様、どうしますか?・・・って王様は?」


フリードリヒ王の姿は既に消えていた。指揮官に見捨てられた彼等は、なお強気を保って口々に言った。

「大丈夫だ。あんな分厚くて重い鎧を着て、そうそう動けるもんか」

「鉄砲が怖くてあんなもん着込んだ貴族のお坊ちゃんなんぞ、返り討ちにしてやる」


包囲陣の一画へ突破を試みる囚人騎兵だが・・・。

「何でこいつら、こんなに動けるんだよ」と敵の強さに悲鳴を上げる。



殲滅されていく自分の部隊を遠くから眺めるフリードリッヒ王。周囲には少数の手勢。

「敵を甘く見やがって。あの鎧は軽量化の魔法で軽くなってるんだよ」

横に居る家来が「いいんですか?」

フリードリヒは溜息をついて「また囚人を集めて部隊を作るさ。魔導士隊は潰して義理は果たした。奴等の魔物軍団はもう使い物にならん」



ドイツ皇帝軍の召喚術師と広域魔法の使い手が壊滅したため統制の乱れた皇帝側魔獣の掃討が始まる。

消滅するアンデット兵。動かなくなるゴーレムやガーゴイル。コントロールを失って戦場を去る魔獣兵。

暴走して味方を襲うミノタウロスやゴブリンたち。


ファフのドラゴンがエンリ王子の所に戻る。

そして「主様、敵の大きいのが居なくなっちゃった」

エンリはファフに「適当に敵を見繕って蹴散らして来い」

「わかった、けど、さっきから大砲の弾が痛い」とファフ。

「だったら先ず砲兵陣だな」とエンリ。

「了解」


そうファフが答えた時、一人の重装備を身に着けた老いた騎士がファフの前に進み出た。

そして「ドラゴンよ、我はキホーテ男爵。オランダでドラゴン退治を続けた勇者である」

タルタが怪訝顔で「ドラゴンってそんな所に居たっけ?」

「各地で四枚羽のドラゴンを相手に磨いたこの技を受けてみよ」とキホーテ男爵。

「それ、ドラゴンじゃなくて風車だろ」とカルロ。


キホーテ男爵は「見るがよい、我が奥義、風の縛め」と叫んで、魔法石を埋め込んだ槍をかざし、風の呪文を唱えた。

激しい風圧がファフを拘束しようと絡みつく。

「ファフ、大丈夫か」とエンリ。

ファフは「ちょっと動きにくい」


その時、ジンが現れてキホーテの風魔法を軽く払いのける。

キホーテは叫んだ。

「一騎打ちに助太刀とは卑怯だぞ」

「いや、一騎打ちなんて誰も言ってないが」とエンリは困り顔。


ジンはひょいとキホーテをつまみ上げる。

キホーテ男爵は青くなって「こら、やめろ、儂はまずいぞ、やめて、ごめんなさい、もうしません」

魔法のランプでジンを操るアラジンは困り顔で「いや、ジンは人を食べないから」

ジンはキホーテを遠くに放り投げた。


エンリはアラジンを見て「そーいやお前のジンも居たんだっけな」

「こいつの魔法耐性は無敵だからな」とドヤ顔のアラジン。



その時、何者かが放った投げ槍がジンの胸に突き刺さり、ジンは叫びとともに消滅した。

一人の騎士が乗る馬がポルタ騎士たちの間を駆け抜け、ジンを倒した槍の元に突進する。


エンリは叫んだ。

「いかん、その槍を奴に渡すな」

騎士は立ち塞がるボルタ兵を巨大な剣で切り伏せ、ジンを倒した槍を拾うと、風のように戦場を駈けて自軍陣地に戻る。

そこにはいかにも屈強そうな騎士の一軍が居た。


騎士が持つ槍を見て、アラジンは彼に向けて叫んだ。

「それはロンギヌスの聖槍か。あらゆる魔法を跳ね除けて敵を貫くという。お前等、シチリア騎士団か」

「イタリア人かよ。あそこに居るのは弱兵ばっかじゃ無かったのかよ」とジロキチ。

「シチリア騎士団は、あそこに移住したノルマン人の子孫さ。ハンガリー騎士と並ぶ教皇庁の番犬だよ」とエンリ。


槍を掲げ持つ騎士が叫んだ。

「我はシチリア騎士団隊長のボエモン侯爵。エンリ王子、先ほどのお前の言い分は聞いた。だが、こうして教皇猊下に仇名すお前のドラゴンは我等にとっては神の敵。この聖槍で仕留めさせて貰う」

「させるか」とエンリは身構える。

ファフに向って槍を構えるボエモン。

エンリは「あれを喰らえば、さすがのドラゴンも危ない。けどあれは魔剣の力では防げまい。どうすれば・・・」と呟いた。



その時、エンリは魔剣が語りかける何かを感じた。

エンリは魔剣を一旦鞘に戻すと、抜きざまに叫んだ。

「大地あれ」

地の魔剣をかざして馬から飛び降りるエンリ王子。

そして地の魔剣を地面に突き刺し、叫んだ。

「我が大地の剣よ。ミクロなる汝、母にしてマクロなる大地と繋がりて、ひとつながりの我が剣たれ。烈震あれ」


地面は激しく揺れて、槍を投げようとしていたボエモンは体勢を崩す。

剣の所からボエモンの居る場所まで真っ直ぐに地割れが走り、槍とともにボエモンを呑み込む。

地震が収まるとファフは「主様、怖かったよぉ」

「もう大丈夫だ。ファフ、あいつらはやれるな」とエンリ。

ファフは「まかせて」と言うと、タルタやジロキチたちとともに、団長を失ったシチリア騎士団に襲いかかった。



シチリア騎士団をファフたちが蹴散らす間に、エンリは地面に刺さった魔剣を抜こうとするが、地面は巨大な岩盤と化し、魔剣は完全に岩盤に融合していた。

「アーサー、魔剣が抜けないんだが」と焦り顔のエンリ。

アーサーはそれを見て想った。

(こんな図、どこかで)


アーサーは魔剣の束を握り、その沈黙の声に耳を傾ける。

そしてエンリに「儀式が必要ですね」

「やれるか?」とエンリ。

アーサーは言った。

「やれます。私はこの役目を祖先から受け継いだんです」

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