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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
560/562

第560話 三帝が会戦

フランスと同盟を結んだ事でテレジア女帝の怒りに触れたバイエルンの救援を名目に、ナポレオンは大陸軍を動員してドイツに進軍した。

ドイツ帝国軍の本隊は、ナポレオンが自ら乗り込んで指揮する構えを見せたイタリアの駐留軍に備えるべく、南のアルプスに布陣。

だが、ナポレオンは単騎アルプスを越えて密かに北上し、西方から迫る大陸軍と合流して、ウルムに布陣したマック将軍率いる四万のドイツ軍を破った。

ワイロッテル将軍率いるドイツ軍本隊は、フランス軍が迫るウィーンを放棄し、ロシア軍と合流すべくボヘミアへ向かった。



フランス軍がウィーンに迫る中、皇帝一族と貴族たちの家族は大慌てで、疎開のため持ち出す品物を仕分けする。


当主が従軍している、とある伯爵家では・・・・・。

「とにかく必用なものを残さず持って行きますからね」

連絡を受けた当主の夫人に、そう言われた使用人たちは「必要な物って何ですか?」


当主の母親が「先祖代々が集めた骨董品」

当主の夫人が「ドレスと靴とバッグのコレクション」

当主の祖母が「子供たちがコンクールで入賞した工作の作品」

引退した当主の父親が「孫が誕生日にくれた肩叩き券」


「そんなものより大事なものがあると思うんですけど」

そう執事が言うと、家族たちは「そーだよ。お金は大事だよ」

「どこかに夫が隠したへそくり・・・」

そう夫人が言うと、執事は「探してる暇なんて無いと思うんですけど」


「フランス兵が略奪に来て、金目のものは全部持って行かれますよ」とメイドたち。

「だったら秘蔵の黄金のバスタブ・・・・・」と当主の夫人。

「初代の銅像・・・」と当主の父親。

執事は困り顔で「重いものは置いて行くしか無いと思うんですけど」

「そんなぁ」


すったもんだの騒ぎの中で荷物をまとめたウィーン脱出組は、街道を列を成して馬車で北上し、ボヘミアとの境界付近でドイツ皇帝軍本隊と合流。



入れ替わりにフランス軍はウィーンに入城。

先ず、食料と輸送手段の馬と武器弾薬を接収し、更に、宮殿に残されていた多額の金貨も・・・。

接収した金貨の山を前に、「戦争って儲かるんですね」と一人の兵。

「いいのかなぁ」と別の兵が呟く。


そんな彼等にナポレオンは「それともう一つ。戸籍その他の行政文書を確保するように」

「つまり、占領して税金をとると・・・」

そう参謀が言うと、ナポレオンは「それもあるが、国民学校を作って民主主義を広めるのに必要だ」



皇帝軍はボヘミアで、ピュートル帝自ら率いるロシア軍と合流した。

そして作戦会議。


ロシア軍の将軍クトゥーゾフは慎重論を唱えた。

「ウルムで戦ったフランス軍は八万と聞きますが・・・」

「大陸軍21万では?」

ワイロッテル将軍が、きょとんとした顔でそう言うと、クトゥーゾフ将軍は「フランスを空にする訳無いだろ」

「確かに・・・・・・」


「死傷者とかウィーンの占領に残すとかも考えれば、我々と戦う敵兵力は七万と少しかと」とクトゥーゾフ。

ワイロッテルは「我々は八万四千。優勢じゃん」

「けど、フランス兵は練度は高く、指揮するナポレオンは用兵の天才です。ドイツ各地や国外の飛び地に駐留している帝国軍も呼び集めてはいかがかと」とクトゥーゾフ。 


「そんな弱気でどうしますか!」とテレジア女帝が物言い。

「ウィーンはすぐにでも奪還しなくてはいけません」

そう彼女が主張すると、将軍ワイロッテルもロシアとの合流で強気になり、強硬論をぶった。

「我々は西の皇帝。そちらは東の皇帝たるピュートル陛下の軍です。つまり、全ユーロを率いる軍ですぞ。負ける筈がありません」

「それは単に名目上の話かと・・・」と、ドン引き顔のクトゥーゾフ将軍。


「無敵と名高いピュートル陛下はどうお考えでしょうか? 陛下はウラルを越えて旧大陸の大半を治める超大国を率いる。世界帝国の覇王」

そうワイロッテルにお世辞全開で話を振られたピュートル帝は「それほどでもあるけどね」

「よっ、ユーロ一、いや世界一」と、扇子を両手に掲げたワイロッテル。

ピュートル帝は「照れるなぁ。君、名前は?」

「ワイロッテルと申します」


そんな彼にピュートル帝は言った。

「よし、全体指揮は君に任せよう。クトゥーゾフ将軍、彼の補佐につくように」

「どうなっても知りませんよ」と、あきれ顔のクトゥーゾフ。

煽てに弱いピュートルであった。



連合軍が南に向けて発進した。

対するナポレオンは軍を率いてウィーンを出て、北に向かって進軍。

戦場はボヘミア南部のアウステルリッツ。その西にブルノの街があり、その東側の高地にフランス軍は布陣した。

連合軍は川を挟んでその東側の高地に布陣。



ワイロッテル将軍は独露双方の将兵を集めて方針を伝達。

「このプラッツェン高地に双方の本隊を置き、南の左翼側をドイツ帝国軍の先鋒隊が担当し、フランス軍右翼側と向き合います。そして本隊の背後にドイツの近衛隊」

「我がロシアの近衛隊は?」

そうクトゥーゾフ将軍が問うと、ワイロッテルは「後方で予備隊って事でよろしく」

「手柄を独り占めに・・・なーんて思ってないよね?」とクトゥーゾフ。

「そそそそそそんな事は・・・・・」


「で、作戦は?」

そうクトゥーゾフに問われ、ワイロッテルは語った、

「斥候を放ったところ、どうやら奴らの右翼側が手薄のようです」

「右翼側って事は南か・・・・」とクトゥーゾフ。


「ここを破ればウィーンとの連絡路を遮断できます。そこから北の高地に居る敵本隊の背後を衝く」

そう語るワイロッテルに、クトゥーゾフが疑問を呈する。

「そううまくいくのか? このあたりは湿地が多いが・・・」

「そこは努力と根性で」とワイロッテル。



そして戦闘開始。


連合軍左翼部隊が川を渡って攻勢に出る。

これを迎え撃つフランス軍右翼。


ナポレオンの本営では・・・。

「どうやら餌に喰い付いたようですね」

そう参謀が言うと、ナポレオンは「右翼軍を指揮するダヴ―将軍がうまくやってくれるさ」


ダヴ―将軍の元に前線の指揮官から報告が来る。

「指示された様に、部隊の一部しか前線に配置していませんが、押されています。全部隊を投入すれば一気に押し返せますが」

「後方の兵は破られそうになった所に補充しろ。それも、少しづつだ」とダヴ―。

「それでは押し返す事は出来ませんよ」

そう前線指揮官が言うと、ダヴ―は「それでいいのさ」


そんな状況が本営のナポレオンに報告される。

「魔導兵、そろそろ出番だな」

そうナポレオンは呟き、指令を下した。


魔導兵たちが霧の魔法の呪文を唱えた。

戦場を霧が覆い、見通しが悪化。これに乗じてダヴーは右翼部隊に兵を補充。



連合軍の指揮官たちの焦りは嵩じていた。

彼等の本営では・・・・・。


「この霧、大丈夫なのか?」と不安顔で言うクトゥーゾフ将軍。

「左翼部隊とは魔導通信で連絡を密にしています」

そう答えるワイロッテル将軍も、表情は険しい。


「それにしてもしぶとい」

そうワイロッテルが呟くと、参謀が「湿地が多く足場が悪いので・・・」

そんな彼等にクトゥーゾフは「それだけで無いような気もするんだが、ってか、湿地は根性で何とかするって言ってたよね?」

「そんな精神主義は時代遅れですよ」とワイロッテル。

「・・・・・・・・」



更に時間は経過し、なかなか突破できない事にワイロッテル将軍は苛立った。


「これでは埒が明かない。戦力の逐次投入は効率が悪いんだ。多くの戦力を投入して一気に戦局を決めよう。本隊を移動して左翼軍に加勢するぞ」

これにクトゥーゾフ将軍が反対した。

「それではこの高地が手薄になる。霧で見通しが効かない中でそれをやるのは危険だ」

「霧で見通しが効かないのは敵も同じです。我々の移動に気付く前に一気に片を付ける」とワイロッテル。


そんな会話に耳を立てる一匹の兎が、連合軍本営テントの外に・・・・・・。



ナポレオンの本営では・・・・・。


「兎の使い魔が情報をもたらしました」

そんな魔導士官の報告で、ナポレオンは会心の笑みを見せた。

「奴ら、とうとう痺れを切らしたか。移動する敵を我が本隊で一気に衝くぞ」



移動を開始したフランス軍本隊は、高地を降りて川の徒渉を開始。

そしてフランス魔導士官の兎の使い魔は、連合軍が移動する足音を捉えた。

「今だ。風魔法で霧を吹き散らせ」


フランス魔導士隊、風魔法の呪文を唱える。

魔法による風で、戦場の視界を覆っていた霧が一気に晴れた時、背中を向けつつある連合軍は、目前に迫ったフランス軍を見て唖然。



ナポレオンは号令を下した。

「殲滅せよ!」

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