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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第559話 戦場のドイツ

ドイツ皇帝軍のバイエルン侵攻をきっかけに、ついに始まったフランスとドイツ帝国との全面戦争。

フランスは、動員をかけたイタリア駐留軍に、ナポレオンが自ら出向いて指揮を執る構えを見せつつ、東からは大陸軍がライン川を越えて進軍開始。

だが、ドイツ軍を指揮するワイロッテル将軍は、大陸軍を陽動と捉え、主力はあくまでナポレオンが指揮するイタリア駐留軍と受け取った。

アルプスを越えて奇襲するナポレオンを迎え撃とうと、ドイツ軍主力は南を動かず、東から向かう構えのフランス大陸軍への備えとして、マック将軍が四万の兵を預けられた。

だがその時、ナポレオンは密かに単騎でイタリアを抜け出し、北上して、東から迫る大陸軍と合流し、その指揮を執っていた。

怒涛の如く迫る大陸軍に、焦りまくるマック将軍。



四万の帝国軍を率いてウルム城に入城したマック将軍。


早速、司令部を設置して作戦会議。

「ここは城壁も高い。救援が来るまで城壁内に籠って敵を釘付けにするぞ」

そうマックが言うと、参謀は「けど、シュヴァルツヴァルトの丘をどうしますか? 町を見下ろせるあの場所に砲兵陣をしかれたら、街は容易に破壊されますよ」


地図を広げる参謀の説明に、顔を曇らすマック。

彼は思った。

(ここを死守できなければ俺は失脚だろう。それは嫌だ)


そして彼は言った。

「ウルムは町の三方を高地に囲まれている。そして南をドナウ川が流れる。周囲の高地を制する位置にあるのが、北西にあるシュヴァルツヴァルトの丘だ。ここに本営を置き、町の周囲の高地に布陣しよう」

「南はどうしますか?」

そう参謀が問うと、マックは「ドナウ川があるから大丈夫だ」



ウルムの目前に迫ったナポレオンの軍でも、地図を広げて作戦会議が行われていた。


「城壁は高いですが、周囲の丘を占領すれば、砲撃によって制圧は容易です」

そう参謀が言うと、ナポレオンは地図の一画を指して「最重要はこのシュヴァルツヴァルトの丘だな」

「敵もここを死守するでしょうね。けど、比高差があるから力攻めは手間ですよ」と副官のルクレール。


「南は?」

そうナポレオンが問うと、参謀は「ライン川を渡って・・・というのも困難を伴うかと」

「けど橋があるよね?」とナポレオン。

「落とされたら終わりですよ」

そう参謀が言うと、ナポレオンは「こちらには騎馬軍団があーるじゃないか」


騎馬軍団は、支援部隊を含む軍が丸ごと騎馬の兵で編成され、機動力を発揮しつつ独立して戦えるよう設立された部隊だ。

ナポレオンは号令を下した。

「彼らは馬車より更に高速で移動できる。補給とか砲とかも外して、奴らが気付く前に奇襲で橋を確保するんだ」



フランス軍、作戦開始。


そして、シュヴァルツヴァルトの丘に布陣しているマック将軍に急報。

「ドナウ橋が奪われました」

マック唖然。

「敵はどこから湧いて出た?」

そう問うマックに参謀は「どうやら戦域を迂回してドナウ川を渡り、川向うに廻ったらしく・・・」


「それにしても急すぎだろ」と、マックはおろおろ顔。

「騎兵だけの単独部隊のようで・・・」

そう答える参謀に、マックは「何で前もって落としておかなかった?!」

参謀は「何時でも落とせると思って・・・」


マック将軍は号令を下した。

「相手は砲兵も補給も居ない騎兵だけの部隊だ。つまり足の速い部隊を先行させて、後から追い付いた本隊が確保した橋を渡るつもりだろう。今すぐ全軍で奪還しろ」



マック将軍、シュヴァルツヴァルトの丘に最小限の守備隊を残し、ほぼ全軍で街の南へ向かう。

そしてドナウ橋奪還の戦闘が始まった。


フランス騎兵たちは馬から降り、橋の北側周囲に銃兵陣を展開。

砲撃に対して魔法防御と長距離攻撃魔法で対抗する。


攻めあぐねるドイツ軍司令部に、焦りの空気が重くのしかかる。

「何で騎兵だけであんなに防御が固いんでしょうか」

そう参謀が言うと、マックは「機動力を生かすために必要な機能を全て騎兵化した奴らなんだろうな。とにかく敵の本隊が来るまでに排除しろ」



その時、彼の元に最悪の急報が届いた。

「将軍、大変です。敵の本隊がシュヴァルツヴァルトの丘に現れました」

マック将軍、唖然。

「何ですとーーーーーーーーーー!」


引き返すと、既に丘は占拠されていた。

「どーすんだ、これ・・・」

そう呟いて呆然と立ち竦むドイツ軍司令部の部下たちに、マックは「どーするもこーするも、城壁に籠るしか無いだろ」



マック将軍は兵を率いてウルムの街に立て籠もった。


市庁舎に設置した司令部で、頭を抱えるマック。

「何でこうなった」

「結局、アルプス方面が牽制だったんじゃ無いでしょうか?」

そう参謀が言うと、マックは「とにかく、わが軍の主力は向うに居る。援軍を要請しよう」



だが・・・・・・・・・。

魔導通信が妨害され、援軍の要請が出来ない。



シュヴァルツヴァルトの丘に司令部を置いたナポレオンは、街周囲の高地を占領し、完全にウルムを包囲した。

そして、街の城壁に立て籠った皇帝軍に降伏勧告。

曰く「抵抗したらその時は・・・解ってるよね?」

そんな脅し文句にビビりまくりのマック将軍。

「解ってるよね? って、いったい何をされるんだ?」


「どうしますか?」

そう参謀に問われ、言葉の出ないマック将軍。

沈黙の中、彼は思った。

(守り切れなかったら失脚。それは嫌だ)



その時、街に派手な地響きが立て続けに・・・・・。


「丘からの砲撃です」

そう部下たちに言われ、窓の外に目を向けるマックは見た。

市街各地で爆煙が立ち上り、破壊されていくウルム。

そして着弾は司令部に迫る。



マック将軍は城門を開き、降伏した。



ドイツ兵を武装解除し捕虜とすると、ナポレオンは軍を率いてミュンヘンへ向かった。


ミュンヘンの侯王城で出迎えたバイエルン候に、ナポレオンは言った。

「遠路はるばる救援に駆け付けたフランス皇帝のナポレオンです」

「それ、迎える側が言う台詞だと思うんですが」と、思わず突っ込むバイエルン侯。

「・・・・・」


「と、とにかく、よくぞおいで下さいました」

残念な空気を察し、慌ててそう言い直すバイエルン侯に、ナポレオンは「早速敵を殲滅に向かいたい」

(・・・まあ、居座られても迷惑だし)と脳内で呟くバイエルン公。


そんな彼にナポレオンは「とりあえず四万の捕虜を管理して欲しい」と要求。

「承知しました」

ナポレオンは更に「それと、兵を出してくれるよね?」と要求。

「・・・・・・・・」

困り顔のバイエルン侯に、ナポレオンは「あなたを助けに来たんですけど」

バイエルン侯、慌てて「喜んで」


ナポレオンは更に「あと、食料と馬と武器弾薬を・・・」と要求。

「食料とかは城下の商人から購入は可能ですが、予算は・・・」

そのバイエルン公の言葉を遮るように、ナポレオンの部下の一人が言った。

「助けに来た我々に、まさか金を要求とかしませんよね?」

「・・・・・」

バイエルン候は焦った。

(21万人分の食料をただで差し出せと? いったい、どうやって調達したら・・・)


彼等はまだ知らなかった。

フランス大陸軍のうち、実際に国境を越えてウルムで戦ったのは、21万の半分以下の八万人だという事を。

そして「あの、まとまった量が必要なら、ウィーンに行けば調達できるかと。何せ首都ですから」とバイエルン侯。


そんなやり取りの中、ナポレオンは思った。

(戦争で食料とか、代金必要無くない?)



ウルム陥落の報を聞き、アルプス方面に居た主力軍のワイロッテル将軍唖然。

そして本営に居たテレジア女帝に報告。


「ただちに反撃なさい」

そう命じる女帝に、ワイロッテルは「敵は21万ですよ」

随行してきた参謀も「それと、敵はウィーンに向っています。彼らの進軍速度は速く、首都を占領されたら我々は孤立します」と補足。

「ロシア軍は何をしているの?」

そう女帝に問われ、参謀は「ボヘミアに到達したとの報告が入りました」


ワイロッテルは進言。

「ここは首都を放棄してロシア軍と合流するしか無いかと・・・」

「ウィーンの占領を許すというのですか?! あそこには代々の皇帝一族の集めた骨董品・・・」

そんなテレジア女帝に、ワイロッテルは「連絡して退避させる他は無いかと・・・」



テレジアは宮殿に連絡し、迫るフランス軍からの退避を命じた。

通話魔道具の向こうに居る家来への命令の中、彼女は念を押した。

「私のドレスと靴を最優先でお願いしますね」


そしてドイツ皇帝軍主力は北のボヘミアに向かい、フランス軍はウィーンに迫る。



その頃、イタリアの駐留部隊では・・・・・。


オスカルが呑気に部下たちとお茶を飲んでいた。

「ドイツとの戦いは何時始まるのかなぁ」

そうオスカルが言うと、副官のジェローデルが「ナポレオン総司令に聞いてみたらどうですかね?」

「そういえば最近、見かけてないね」とアンドレ。

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