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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第557話 革命の祖国

クーデターでフランスの革命政権を掌握したナポレオンは、彼に期待する教皇派教会の誘いに乗り、イタリアに遠征してドイツ皇帝軍を破った。

彼が教皇派と政教協約を結び、正式な皇帝となった事は、フランス革命政府が古い伝統と和解したものと受け取られた。

これはユーロ各地で、伝統に固執する人たちの革命に対する警戒心を和らげる効果を生んだ。


「革命政府が貴族制や王政を潰そうとかいうのは、実はデマだったらしい」

そんな噂を聞き、フランスに帰国する亡命貴族も増加した。



戦争に怯えていたパリの庶民たちの間にも、そんな雰囲気が伝わる。


とあるコーヒー店で備え付けの新聞の記事を読んで、あれこれ語る常連客たちも・・・。

「どうやら雰囲気も改善されたみたいだね」

そう一人の客が言うと、もう一人の客が「これだと対仏同盟の解消も近いんじゃ無いのか?」

「きっと革命の理想を理解して貰えたんだよ」と、更にもう一人の客。


だが各自、脳内では別の言葉を呟いていた。

(そーなのかなぁ)と・・・・・・。



庶民たちそれぞれが、そうした変化を都合よく解釈する中、ナポレオンはbaka-noteの「民主主義」の項目に新たな一文を書き加える。

「民主主義は王政の機能を補完するものであり、国民の権利を理解する事は王の偉大さの基準」



イタリアではナポレオンの養子ボアルネ国王が即位した。

そしてボアルネについて来た役人たちが各地に派遣されて行政に介入し、民主主義の普及事業に乗り出し、これを目的に学校制度が作られた。

そして各国への宣伝の拠点となった。


それは貴族の横暴に苦しむ民衆に支持される一方で、フランスの支配への警戒心も強まった。



酒場で盛り上がるイタリア駐留のフランス軍の兵たちが、店の女の子にちょっかいを出す。

「お姉さん、店が閉まったら俺たちと付き合わない?」

そんな彼らに店の女の子は「あんた達、感じ悪いわよ」

「つれない事言うなよ。みんな、俺たちのお蔭で貴族の支配から解放されたんだろ?」

そう一人のフランス兵が言うと、女の子は「私の親は貴族の家の料理人やって給料貰ってたんだけどね」

「そうなの?」


そんなフランス兵に、地元の男性客が「お前ら、ナンパの作法がなってないぞ」

「革命の元祖だか教師様だが知らんが、だったら俺たちイタリア男はナンパの元祖だ」と、別の地元男性客も・・・。

「何だよそれ」


店内に険悪な空気が漂う中、一人の地元男性が「女の子を口説くんなら、もっといい方法を教えてやるよ」

思わず身を乗り出すフランス兵たち。

彼は言った。

「その方法ってのはな、上位の国を気取って上から目線で女の子にしつこく迫って来る外国男をやっつけてヒーローになる事さ」


周囲のイタリア人男性、爆笑。

むっとするフランス兵たち。

そんな仲間たちを他所に、一人のフランス兵が能天気顔で「つまりドイツ人をやっつければいいんだよね?」

「違うだろ!」



そんな話が部下のフランス兵たちからナポレオンに伝わる。


彼が部下たちを連れて酒場でわいわいやる中、そんな話題が出た。

「俺たちって嫌われているんですかね?」

そう部下の一人が言うと、ナポレオンは「そりゃ、フランスは攻め込まれる側から攻め込む側になった、って事だからなぁ」

「民主主義ってのは、外国に対抗する国の主権者として国民が自覚する、って話だし」と、副官のルクレールも・・・。


「けど、フランスって革命を教える教師であり民主主義発祥の地なんですよね?」と、別の部下の一人が・・・。

「それ、古代ギリシャな」

そうルクレールが言うと、先ほどの部下は「あそこは半万年前に全ユーロを支配したフランスの一部」

「いや、どこぞの半島国の歴史教科書じゃないんだから」とナポレオンもあきれ顔。


「アテネの民主制の指導者は実はフランス人だって聞いたけど」

そう、その部下が言うと、ルクレールは「そんな記録でもあるの?」

「だってフランスは革命の祖国だもの」と、くだんの部下。

「つまり証拠も何も無いわけな」とルクレールあきれ顔。

ナポレオンも「お前、やたら元祖を名乗りたがる、どこぞの半島国みたいになってるぞ」


そんな会話の中、ナポレオンは思った。

(革命の祖国・・・ねぇ。語感が滅茶苦茶残念なんだが。けど・・・・・・・)


ナポレオンは帰宅するとbaka-noteを取り出し、「革命の祖国」という項目を書き込んだ。  



そしてイタリアでは・・・・・・。


広場の露店で買い物客たちがあれこれ雑談。

「民主主義って、俺たち庶民がイタリアの主役なんだよね?」

そう買い物客の一人が言うと、別の買い物客が「そうだぞ。もう貴族の奴らにヘコヘコしなくていいんだ」

「けど、王様はフランス人で、役人引き連れて乗り込んできて、ドイツの代わりにフランスがデカい顔してるだけ、みたいな気が気がするんだが」と、先ほどの買い物客。

そんな彼に「革命の祖国だぞ」と主張する、別の買い物客。

それを聞いていた人たちは「いいのか?それで」と呟く。


そんな会話があちこちで繰り返されるようになった。



ウィーンでは・・・。


宮殿では、テレジア女帝が役人たちを相手に怒声を上げている。

「私から皇帝の地位を奪った憎きフランス、絶対に許しません。今すぐリベンジの準備をなさい!」


「けど、相手は革命の祖国ですよ」

そう一人の役人が言うと、テレジアは「だからどうしたというのですか?」

「・・・・・・・どうしたんだっけ?」

役人たち、互いに顔を見合わせる。

そして彼等は思った。

(もしかして、スローガン先行って奴?)


そんな彼らに追い打ちをかけるテレジア女帝。

「そもそも彼等は、その革命の祖国なる言葉を無意味に振りかざしていますが、民主主義とはその国の国民を主とするものの筈。革命の祖国などと称する外国に従うなど、民主主義に反するのではないのですか? それでは主権在民ではなく主権在外です」

「確かに・・・・・・」


役人たちは感心顔で頷く。

「女帝陛下も民主主義をよく理解しておられる。さすがはドイツの王です。あなたこそ啓蒙君主の名に相応しい」

「・・・・・・・・・」

テレジア女帝、思いっきりの赤面と後悔声で「忘れて下さい」


テレジアは二度、深呼吸して気持ちを落ち着け、そして言った。

「とにかくフランスに尻尾を振る不埒者はビシビシ捕えて処罰なさい」

そんな彼女に、一人の役人が「それより、バイエルン候はどうなさいますか? フリードリヒとのズブズブ関係がまた露見しましたけど・・・」



そしてバイエルンで・・・・・。

ミュンヘンのバイエルン城では、頭を抱えるバイエルン侯が居た。


「またテレジア女帝からの書簡が来ちゃいましたけど」

そう言って家来が差し出す書簡を見て、バイエルン侯は「読まなきゃ駄目?」

「無視する訳にもいかないでしょ」

そう家来に現実を突き付けられると、バイエルン侯は「どーせプロイセンと縁を切って兵でも出せって言うんだろ? うちは啓蒙君主で国王の横暴に反対する立場なんだが・・・」


するとその家来は「その国王の横暴に反対する立場で共に戦おうと、プロイセン王からも書簡が来てますけど」と言って、別の書簡を差し出す。

バイエルン侯溜息。

「あのフリードリヒは単にドイツ王の地位を女帝と取り合っているだけだ」

「このままじゃ板挟みですよ」

そう家来に言われ、彼は頭痛顔で「どーすんだ、これ」


「あと侯王陛下。フランスからの使者が来てますけど」と、更に家来は報告。

バイエルン侯はため息をつくと「通せ」



フランスからの使者が入室すると、バイエルン侯はまくし立てた。

「言っときますけどバイエルンはフランスの領土にも植民地にも属国にも61番目の州にもなりません。あくまで諸外国と対等の主権国家ですんで、そこんとこ夜露死苦」

そんな彼に使者は言った。

「その対等の主権国家として同盟を結びたいと、ナポレオン皇帝陛下が申しているのですが」

「・・・・・・・・・・」

更に使者は「聞くところに拠ると、皇帝家とプロイセンの板挟みとなって、深刻な圧力に苦しんでおられるとか。この際、フランスの同盟国として独立しちゃいません?」


バイエルン侯の態度が一転。

使者の手を執って「是非お願いしたい」

「つきましては、民主主義の拡散に協力して頂けると有難い」

そう使者が言うと、バイエルン侯は目をキラキラさせて「私は啓蒙君主として、このバイエルン民主主義人民共和国の主役です」


周囲の家来たちはため息をつき、そして脳内で呟いた。

「いいのか?これ。民主主義の主役って領主じゃなくて庶民なんだが」



そしてプロイセンでは・・・・・・。


ベルリンの宮殿で宰相がフリードリヒ王に報告。

「バイエルン、フランスと同盟しちゃいましたけど」

「ついに締め上げに耐えられなくなったか」と、にんまり顔のフリードリヒ。

「女帝に対抗する手駒だったのにぃ」

そう宰相が未練顔で言うと、フリードリヒは「いいんだ。これで女帝はバイエルンを放置できなくなる。軍を送ればフランスは動かざるを得ない。女帝はフランスと再戦し、今度負ければドイツ王は降りざるを得ない。いよいよこの私が新たなドイツ王となる日が来るぞ」

宰相は「そうだといいんですが」と・・・・・。



ドイツ皇帝家では・・・・・。


ウィーンの宮殿で、報告を受けたテレジア女帝は「バイエルンがフランスと同盟?! あの売国奴ガーーーーーー!」

彼女は憤懣やる方無いといった風で、家来たち相手に愚痴をまくし立てる。

「今まで散々フリードリヒの子分として、この私に嫌がらせをしてきたのに」

「バイエルン公は別に嫌がらせなんて・・・・・」

そう外務局の役人たちが言うと、テレジアは「プロイセンに従う時点で嫌がらせです。それに飽き足りず今度はフランスと・・・・。直ちに軍を派遣して制圧なさい」


「またフランスと戦争になりますよ。一回負けているんですけど」

そうメッテルニヒ宰相が冷や汗顔で言うと、テレジアは「ドイツは大国です。総力を挙げればフランスなど恐れるに足りません」

「諸侯は事実上の独立国ですが・・・」とメッテルニヒ。

「敵は外国ですよ。内輪で分裂している場合じゃ無いですわ。国境の外からの敵を迎え撃つドイツ王としての大義名分があります」とテレジア。


「ではプロイセンに出兵の要請を・・・」

そうメッテルニヒが言うと、テレジアは目を吊り上げて「あのフリードリヒに協力を求めろと?」

「ドイツ諸侯で強いのって、あそこだけですから。他はみんな弱小ですよ」とメッテルニヒ困り顔。

テレジアは「では、対仏大同盟参加国に援軍を・・・・・」と言って、通信魔道具を出す。



通話魔道具でイギリスのエリザベス女王に連絡。

テレジア女帝の援軍要請に対して、彼女は言った。

「大軍で海を渡るのはコスパが良くないですから、うちは海外の植民地を奪う担当という事でよろしかったですわよね?」


オランダのオレンジ公に連絡。

テレジア女帝の援軍要請に対して、彼は言った。

「勘弁して下さい。うちは小国で、しかも本国がフランスと接していて侵入を防ぐのに手一杯ですよ」


ノルマンのカール王太子に連絡。

テレジア女帝の援軍要請に対して、彼は言った。

「ロシアがフィンランドに侵攻しようとしていまして、そっちに兵を裂く余裕はありません。この非常時なんだから、あなたからロシアに何とか言ってやって下さいよ」

「これはユーロ全体の問題ですよ」

そうテレジアが原則論を盾に取ると、カールは「北方戦争の傷もまだ癒えてないですし、あの時、皇帝軍は敵方でしたよね?」

「・・・・・・・・・」


スパニアのイザベラ女帝に連絡。

テレジア女帝の援軍要請に対して、彼女は言った。

「当国は同盟に加入しておりません。フランスから来た総督も居る事ですし・・・」

「これはユーロ全体の問題ですよ」

そうテレジアが原則論を盾に取ると、イザベラは

「あなたの末娘を庇うのに手一杯でして。それとも、放り出せというなら」

「・・・・・・・・・」

言葉に詰まるテレジアに、イザベラは「我が夫の居るポルタなら・・・」


ポルタのエンリ王子に連絡。

テレジア女帝の援軍要請に対して、彼は言った。

「当面放っておいたらどうですか? 先ず、軍の近代化が先でしょう」

「軍の近代化なら、やっておりますわ」

そうドヤ声で言うテレジアに、エンリは「負けましたよね?」

「・・・・・・・・・・・」

「国民が国家の主体としての自覚を持つのは、これからの強国の条件です。そもそもドイツって・・・・・」

エンリに小一時間説教されるテレジア女帝。



ようやく通信魔道具を介した説教から解放され、ぐったり状態のテレジア。

「何でどこも兵を出してくれないのよ。ユーロ全王家にとっての危機なのよ」

そんな女帝の愚痴を延々と聞かされると、メッテルニヒ宰相は「あと、ロシアが残ってますけど」


テレジア女帝。通話魔道具でロシアに連絡。

そして彼女はピュートル帝から派兵の約束を取り付けた。

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